【エブリスタ新星ファンタジーコンテスト ハッピーエンドBL 佳作受賞】 【Amazonkindle電子書籍販売中】 『俺は最強だよ。だから嫌なんだ』 ネットの求人広告からバイトの面接に行った大学四年生の瀬田直桜は後悔した。これは怪異に関わる仕事だ。バディを捜しているという化野護には告白まがいの発言をされる。鬼の末裔のくせに邪魅に憑かれている化野が気になって三カ月だけバディを組むことに。化野という男が気になり始める。 ※リバ・TS・NTR・フリー・凌辱・レイプなど物語の展開に合わせて雑多に出てくるBLです。ご注意ください※
ดูเพิ่มเติม岩槻駅からの道を歩きながら、瀬田直桜はスマホの地図を開いた。バイトの面接場所が、いまいちよくわからない。
アプリには真面に表示されないし、近隣を知る大学のゼミ仲間に聞いても、「そんな場所にマンションはない」と言われるばかりだ。
仕方なく行けるところまで、と来てみた訳だが、案の定、道に迷った。
「やっぱり、やめとくべきだったよな」
普段の直桜なら、こんな如何にも怪しいバイトには絶対に手を出さない。だが、今回ばかりは何故か、ずるずるとここまで来てしまった。
(条件が良かったってのもあるけど)
国委託の非常勤勤務だが、三カ月続けは準公務員、半年続けば国家公務員扱いになるらしい。
今時、国家公務員というのも、正直良い職業とも言えないが、故郷の親類は喜ぶことだろう。集落を説得できれば、大学卒業後も関東に残れる。
(あんな地獄みたいな場所、二度と戻りたくない。説得できる強い材料、何でもいいから探さないと)
地元に戻らずに済む口実が得られるのなら、仕事の内容など何でもよかった。
(上手くいきそうだったら今の内定蹴って、こっちに鞍替えしてもいいよな)
今、内定を貰っている企業も悪くはないが、説得のためには些か弱い。国家公務員くらいわかり易ければ、きっと納得してくれるだろう。確証はないのだが。
正直、何だったら納得してくれるのかもわからない。考えれば考えるほど面倒だ。
面倒くさすぎて、頭痛がしてくる。
思い出したら苛立たしくなり、ガリガリと頭を掻きむしった。
「ん? あれ……?」
全体的に黒い建物が視界に入り込んだ。
さっきまで、こんな建物は無かったはずだ。
直桜は小さく息を吐いた。
「やっぱ、《《そっち系》》の仕事かな。だとしたら、一発採用だろうなぁ」
躊躇うことなく、直桜は突然現れたマンションに足を踏み入れた。
自動ドアを潜り、面接に指定された部屋の部屋番号を押そうとパネルの前に立つ。
押す前に、エントランスの自動ドアが開いた。
奥に進み、エレベーターに乗ってみる。やはりボタンを押す前に3階のボタンが点滅した。
エレベーターを降り、303号室の前に立つ。
インターホンを鳴らす前に、扉が開いた。
「本日、面接予定の瀬田直桜さんですね。怪異には慣れたご様子ですね。時間通りの到着も好ましいです」
眼鏡にスーツ姿の、如何にも公務員といった格好の若い男が顔を出した。
「マンションを見付けるとこからこの部屋に着くまで全部、テストなのかと思ったので、流れに身を任せました」
「なるほど」
男が直桜に目を向ける。足元から頭のてっぺんまでを、さらりと観察する。
「貴方は採用です。立ち話も何ですから、中にどうぞ」
「もう採用……。さすがに早い」
促されるまま、直桜は部屋の中に入った。
結局、マンションに帰ってきたのは0時過ぎだった。 失恋記念と称して飲みに付き合った結果だが、その割には早く帰ってこれたと思う。楓の強メンタルに驚くばかりだ。(きっと俺に気を遣ってくれたんだ。これからも友達でいたい、なんて言ったから) とても傷付いたはずなのに、直桜に気を遣える楓は強いと思うし、これからも良い友達でいたいと思う。 なんとなく沈んだ気持ちを引き摺ったまま、直桜はキッチンに向かった。お土産に買ってきたプリンを冷蔵庫に入れておきたかった。(化野がプリン好きか知らないけど。そういえば、化野の好みって知らないな) 夕飯も別の時が多いし、何が好きかなんて知らない。 私服も見たことがない。いつもスーツで髪を綺麗に後ろに流して、眼鏡をしている。そんな姿しか、見たことがない。(一緒に住んでるはずなのに、化野のこと、何も知らないんだな) 部屋からキッチンへ続く廊下に出る。 キッチンと向かいの風呂の扉が開いて、誰かが出てきた。 濡れた髪を拭きながら上半身裸の男が目を細めて、こちらを見ている。 細い割に引き締まった体と高い身長、整った顔立ちは、まるで有名人のようだ。(誰⁉ このモデルみたいな男、誰だ⁉ ここには俺と化野しか住んでいないはず) あまりに驚いて、声が出ない。 凝視していると、男が声を発した。「瀬田くん、おかえりなさい」 その声は、まぎれもなく化野だった。「……え? 化野、なの?」 思わず呆けた声が出てしまった。 化野らしきイケメンが目を擦って、再度直桜を凝視
帰ってきてからも、直桜は部屋に籠ったきり、出なかった。 ここ何日かは、顔も合わせていない。 トイレと風呂とキッチンが共同スペースになっているのは、こういう時は厄介だ。(しばらくは外の仕事がなかったな。終日一緒は、今はしんどいから、良かった) ベッドに転がって枕を抱き締める。 自分の中のモヤモヤを、どうにも消化できない。「あぁ! くっそ!」 枕を投げようとして、スマホが光っているのが目に入った。 楓からのメッセージだった。『夏休み中は、ずっとバイト? 暇があったら、会わない?』 なんてタイミングが良いのだろうと思った。 ここのところ、化野とばかり顔を合わせていたから、良い気晴らしになる。 明日会う約束をして、直桜は何とか眠りに就いた。〇●〇●〇 楓と会うのは久しぶりだ。 駅前で約束をして落ち合うと、楓がパンケーキが美味しい店に連れて行ってくれた。「直桜って甘いもの好きだから。バイト頑張っているご褒美にね。美味しい?」「うまーい。マジ幸せ。生きてて良かった」 一口頬張ると、口の中に幸せが広がる。「俺が好きなものとか、よく覚えてるよなぁ。楓ってマメだな。だからモテるんだよな、きっと」「直桜だから、覚えてるんだよ」 不意に顔を上げると、楓ににこりと微笑まれた。「ねぇ、直桜。前にさ、大学に直桜を捜しに来た人がいたって陽介に聞いたんだけど。今のバイト先って、その人の所?」 急な話題に、ドキリとする
大学は夏休みに入った。 四年生になり、ただでさえ講義のコマ数も少なかったが、全く行く必要がなくなると、やっぱり楽だ。 直桜が本格的に霊・怨霊担当部署、通称・清祓屋稼業を始めてから二週間が経過していた。 最近は仕事が増えてきたので、余計に大学がなくて良かったと思う。「昨日は病院で、今日は特別養護老人ホーム。何か、意外だ。墓とか廃墟とか、そういう場所に行くんだと思ってた」 化野が運転する車の助手席で、仕事用の資料を確認する。「墓や廃墟は邪魅や怨霊が溜まりやすい場所ではあります。時々には、そういう場所での仕事もありますが、基本的には他部署の担当になりますね」 車はマンションがあるさいたま市を抜けて、都心に向かって走っている。「死が身近で頻繁にある場所は霊が冥府に逝けずに留まるケースが多い。霊が溜まれば怨霊に変化する可能性が高い。我々の仕事は、霊を無事に冥府へ送ること。怨霊と化したなら霊に戻して冥府へ送る、戻せないなら消滅させることです」「なるほどねぇ」 存外、安全な仕事だな、と思う。 怨霊も強くなると人型になり、人の振りをして社会に紛れる者もある。そういう存在を相手にするとなると、命懸けが冗談ではなくなる。「都内に拠点を持たないのは、何で? 関東ブロックの、もう一か所は横浜って言ってたよね?」 霊・怨霊担当部署の他の地域は県庁所在地や中心部に拠点を設けている場所が多い。「都内には既に警察庁があります。13課の本部もその中にあり、班長と副班長が常に待機していますので、必要がないんです」「言われてみれば、そっか」 13課は細かく部署が別れているが、班長と副班長は何でもできる人たちらしい。不測の事態が起きでも対処できてしまうのだろう。
清人との約束通り、次の日には早速、仕事に取り掛かった。 最初の仕事は、引っ越しだ。 事務所兼住居である例のマンションに直桜が入ったのは、あれから五日後だった。「なぁ、化野。段ボールってどこ捨てたらいい?」 事務所で作業する化野に声を掛ける。 「荷解き、もう終わったんですか? 早いですね。事務所の隅にでも置いておいてください。出しておきます」 言われたっとおり、ゴミ箱の辺りにまとめて立てかける。「引っ越しっても、三か月だけだしさ。住んでるアパートも契約そのままだし。最低限の荷物しか持ってきてないよ」 面接に来たマンションの、事務所の隣には化野の部屋がある。その隣に空き部屋があるので、契約期間である三か月間はそこで暮らすよう、清人から言付けられていた。『バディを組んだら一緒に生活すんのが基本な。暮らしてれば、化野の魂魄も祓いやすくなると思うぞ』 清人の言葉は、何となく理解できる。 直桜が入った部屋は恐らく、化野の前のバディが住んでいた部屋だ。 席を立ち、コーヒーを淹れる化野の腹を遠目に眺める。(あの腹ン中にある魂魄は、多分ソイツなんだろう。聞くまでもないし、聞きたくもないけど) 清人に追い回されたあの日以降、化野の中の魂魄が邪魅を帯びることはなくなった。だが、目を凝らせば魂魄の拍動を視認できる。化野の中で生きているような存在感だ。(……気に入らない。死んだヤツが生きた人間を翻弄している事実も、それを甘んじて受け入れている化野自身も) 立ち上がり、化野の後ろに立つと、その腹に手を回した。「えっ! 瀬田くん⁉」 びくりと肩を震わせてカップを落としそうになる化野に、体を寄せる。「じっとしててよ。邪魅が憑きにくくなるように神力送り込んでるだけだから。嫌なら口から流し込むけど?」 囁いた耳が熱を帯びていく。「……お願いします」 このままが良いのか、口からが良いのか、いまいち曖昧だ。 化野の顎を持って引き寄せる。
「瀬田くん! ダメです!」 化野が後ろから直桜の体に抱き付いた。 吐息も手の温度も、やけに熱い。「それ以上は、清人さんを殺してしまいます!」 直桜の耳元で、化野が必死に叫んでいる。 化野の腹が背中に触れた瞬間、直桜の体から神力が吸い取られた。 神力と一緒に溢れていた怒りが沈んでいく。 直桜は化野を振り返った。「化野、そこ、座って」 声は冷静だったと思う。 化野は直桜の言葉に従い、素直に椅子に腰かけた。 邪魅を纏った腕と腹に手を添える。「瀬田くん! 待って……」「魂魄は祓わない。無駄に増えてる邪魅だけ祓う。このままにしてたら、化野が鬼化するだろ」 あてた手のひらから邪魅を吸い取る。 体の中に取り込んで聞食すと、清浄な気だけが体外に流れた。 化野の手を取って、自分の頬に添える。まだ、熱い。「ありがとうございます。……あの、瀬田くん?」 困惑した声が頭の上から聞こえる。「化野の手って、いつもこんなに熱いの?」「……前は、冷たいくらいでした」 気まずい声だが、黙り込まずにちゃんと答えてくれた。「そっか。やっぱ、そうだよな」 腕を伸ばして化野の腰に巻き付けると、腹に顔を寄せた。「え⁉ 瀬田くん⁉」 更に困惑した声が降ってくるが、気にしない。 手を伸ばして、化野の手を握り締めた。(何で俺が一昨日、あのマンショ
「瀬田くん、もう目を開けていいですよ」 化野の声に促されて、目を開く。 ゆっくりと頭を上げると、目の前にログハウスがあった。 化野の手が、直桜の腕から離れる。「これでしばらくは、時間が稼げます」 車から降りた化野に続く。 周囲の木々は静かだ。さっきまでの殺伐とした気配は、どこかに消えていた。 ログハウスの中は、綺麗に整理されていた。「掛けて待っていてください。飲み物でも淹れます」 キッチンに立つ化野は、勝手知ったる様子だ。「ここって、化野の別荘なの?」「別荘、ですかね。一人になりたい時に使っている場所です。ここは現世から隔離された空間ですから」 化野が言う「一人になりたい」とは13課の人間の干渉を離れたい、という意味なんだろうと、すぐに理解できた。 普段からほぼ一人で仕事をしている化野が、わざわざあの事務所を離れる理由はなさそうに思ったからだ。(前のバディとは、上手くいってなかったのかな。……別に、どうでもいいけど) 13課は救いになったと話していても、離れたい時もあるんだろうか。「早速ですが、本題に入ります。あまり時間がありませんので」「時間、ないんだ」 化野が真面目な面持ちで頷く。 現世から隔離した空間に逃げても、すぐに見つかるということなんだろう。 そもそも、ずっとここにいる訳にはいかない。化野にも直桜にも、生活があるのだから。「その前にさ、こっち何とかしとこうよ」 直桜は立ち上がり、化野の腕に手を掛けた。 車に乗っていた時より、邪魅が膨れ上がっている。(この辺りに怨霊や霊の気配はないのに、なんで邪魅が増えるんだ) 直桜は無意識で化野の腹に手をあてた。 何かが拍動する気配がする。(なんだ、これ。腹ン中に、まだこんなにデカい邪魅、……いや、違う。これは、魂魄?)「待ってください、瀬田くん!」 大袈裟に体を捻ると、化野が直桜の体を突き放した。「なん、だよ」 驚く直桜に気が付いて、化野が気まずそうに顔を背けた。「いえ、今は、瀬田くんの話をしないと。ここもすぐに嗅ぎつけられてしまうでしょうし」 明らかに何かを誤魔化している態度が、気に入らない。 直桜は再び化野の手を取った。「憑いてる邪魅を祓うだけだよ。すぐに終わる。それとも、祓われたら困る理由でもあるの?」 目を逸らしたまま、化野が俯いた。「
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