居酒屋のアルバイトを掛け持ちしている庵は生活をするのにやっとだった。疲れきった時にふとある配信に目が止まり、輝きを放ちながら自分の道を歩いているタミキにハマってしまう。泥沼に自ら入り込んでいく庵の姿を書いたシリアスBL──
ดูเพิ่มเติม11話はじまり ゆったりとした彩りで装飾されている個室の居酒屋で僕とタミキは対面で座っている。この居酒屋は、いい隠れ蓑になるとタミキが予約を取ってくれた。タミキによると、ここに来る客は密会目的が多いらしい。「連絡くれてありがとう。相談したい事って何かな?」 タミキは黒のセーターで落ち着いたクールな大人を演出している。そんな彼を見ると、配信とは違う雰囲気にドキまぎしてしまう。「大丈夫だよ、誰にも言わないから」「ありがとうございます、タミキさん」 首を傾げるとサラッと髪の毛が揺れる。その全ての仕草が僕の本能を刺激していく。勿論、タミキにはその気はないだろう。今日は杉田の事で相談に来ているのだから、流石にそういう雰囲気は期待していなかった。どう話を切り出していいのか迷っていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえる。ビクリと反応してしまうと、そんな僕を見ながら、微笑む彼の姿が眩しく感じた。 ドアの方に足を向けるタミキは、スッと僕の横に向かい、屈んだ。「呼び捨てがいいな。俺と君の仲でしょ」 囁いてくる声、息づかいがよりダイレクトに感じてしまう。僕の弱点を知っているかのように、ねっとりとゆっくりと魔術をかけていく。「んっ」 小さく抵抗すると、変な声が出てしまった。みるみるうちに真っ赤になっていくのが分かる。顔が熱い。 一瞬、怪しく笑うと、何事もなかったかのように、ドアを開けた。 ◻︎◻︎◻︎◻︎ 獣は美味しい食事を前に よだれを垂らしながら その時を待っている 誰も知らない 彼の魂胆を知っているのは 神様だけかもしれない 僕はBARでの出来事をタミキに全て伝えると、少しずつ緊張が解けていく感覚が全身を巡り始めた。意地悪をするタミキはいつの間にか消えていて、その代わり、真剣に僕の話に耳を傾けてくれている。一度しか会っていない人に、相談なんて持ちかける事は、普通しない。だけど杉田とタミキの関係を考えたら、知らな
第10話予感 どこにいても、周りの人達がいても、満たされる事はなかった。そんな事を思いながら、昨日の事を思い出していたタミキは、ゆっくりとタバコの煙を味わいながら、余韻に浸っている。「可愛かったな」 杉田から彼の事を聞いていた。最初はただのファンだろうと思っていたが、髪色を自分と同じ色にしていた事、そして庵と言う名前を聞いて、まさかと思い、彼の事を調べていた。 まだ自分が今の立場になる前に、複数の男に絡まれている一人の男の子を見つけた。いつもなら、見て見ぬ振りするのに、その時はどうしてだか、彼に惹きつけられるように、守っていた自分を今でも覚えている。当時は髪色も落ち着いていたし、服も今みたいに気を使う事もなかった。彼からしたら、その時の自分と同一人物だとは重ねもしないだろう。「庵と会ってみるか?」「……ああ」 彼の名前が出てくるとは思わなかった。どうやって接触するかを考えていた時に、杉田から話が流れてきた。凄いタイミングだなと思いながら、心は躍っている。そんな自分を杉田に悟られないように、いつものように、仮面を被りながら、その時を過ごしていた。 タミキは右手で唇を隠し、心の奥底で蠢いている黒い感情を見抜かれないように、口角を上げた。「やっと君と……」 画面の前で映される自分とは正反対な本当のタミキが顔を出した瞬間だった。 ◻︎◻︎◻︎◻︎ 妄想と記憶を混ぜ合わせながら、漂っている自分に酔いしれている。窓から溢れる月も今日はいつもと違う幻想的な存在に見えていく。全ては庵の体温で息づかいで、声で髪で、指で爪で、肉で、血で狂っていく。 ピロン—— 遠くから通知の音が部屋中に響く。コンクリートが反射しながら、より音を膨張させていく。時計を見ると、もう少しで十時だ。「時間か」 そうやって今日もタミキは別人の仮面を被りながら、舌なめずりをする。これから始まる本当の快楽と愉悦を待ち遠しそうに、何度も何度も、舐めた。
第8話 初対面 どんな会話をしたらいいのか分からない。話についていけそうにもないし、自分が浮いて見える。今日は僕達以外の客はいない。少しでもいてくれたら、そちらに話が流れるだろうけど、どうしてだかマスターは僕に熱い視線を送り続けている。「本当に可愛すぎる、あいつの唾付きなんて勿体無いなぁ。よかったら僕が色々教えてあげようか?」「へ?」 マスターは舌なめずりしながら、僕の腕に手を置くと、ゆっくりと堪能するように沿わせていく。「それセクハラだから、俺のに触らないでくれないか?」「杉ちゃんが怒った顔、久しぶりに見たよ」 ニヤリと何かを確かめるように頷くと、そっと手を離した。マスターって興味ある人には意地悪を仕掛ける癖があるのかもしれないと思いながら、ビールを流し込んだ。 バタンとドアが閉まる音が店内に響き渡ると、来訪者の合図を送る。「お。来たね。久しぶりじゃん」「今日休みだからね」「売れっ子さんは大変だねー」 他の人の顔をジロジロ見るのは失礼と考えている。あえて振り向かず、耳だけ澄ますと、懐かしいような、聞いた事のある声が僕を刺激していく。「すぎ、遅くなったな」「遅刻だぞ、俺はいいけど庵にはちゃんと謝れよな」「そうだね。君が庵くんだね。初めまして」 急に名前を出された僕はゴホゴホとむせてしまった。こう言う時、少しでも失礼のないように、落ち着いた対応をしようとしていたんだけど、現実は真逆。声の主に挨拶しようと慌てて立ち上がった。「大丈夫かな?」 つまづきそうになった僕を抱きしめる逞しい胸板と心臓の音がダイレクトに振動している。こんなに人と、それも初対面の人と、近づく事なんて、そうそう無いから、テンパってしまう自分がいる。そんな僕に見かねたのか、ゆっくりと背中をさすりながら、耳元で「深呼吸しようか」と囁かれた。今まで感じた事のない甘い香りに誘われながら、彼の言う通りにすると、固まっていた体から力が抜けていく感覚がした。「ありがとうござます」 この場所に慣れてきたのもあるけど、一番は彼の声が安定剤のように心に落ち着きを与えてくれたおかげで、自分らしさを取り戻せた。下げた頭をゆっくりと上げていく。どんな反応をさせるのか不安はあったけど、勇気を振り絞りながら、笑顔を見せた。「え」「ん?どうしたの?」「どうして貴方が……」
第7話 一見さんお断り 「お前に会わせたい人がいるんだ、出て来れるか?」「今、履歴書書いてるんだけど」 カリカリとボールペンを走らせながら、伝えると杉田のトーンが下がった気がした。楽しそうにケラケラしたかと思うと急に真剣になって、挙げ句の果てには不機嫌になる。ここまで波が激しいのは初めてのことだったから、少し戸惑うのが本音。「俺と履歴書、どっちが大事なんだ?」 その言葉を聞くとうまく言っていない恋人に言うセリフなんじゃないかとツッコミを入れたくなったが、この雰囲気で口走ってしまうと後々怖い。言いたい衝動を抑えると、切り替える為に一呼吸置いた。「……分かったよ、行くから」 こうでも言わないと彼は納得しないと判断した僕は、書くのを止めて、身支度を始める。指定された場所は大通りから離れているようだった。あまり通らない道だ。少し不安はあるが、気分転換には良いだろうと、納得しきれてない自分を無理矢理押さえ込む。「なるべくおしゃれしてこいよ。じゃないと後悔するから」 その言葉の意味を確認しようとすると、強制的に電話が切れた。 ーーーーーーーーー おしゃれと言われても、見様見真似でしか出来ない。派手な服を着る勇気は持ち合わせていない。少し悩んで、諦めた。雑誌を読んで研究するしかないと、頭を抱え行き着いた先はいつもの無難な服装。「おいおい。いつもと同じじゃん」「急に言われても分かんないだろ。仕方ないじゃんか」 一ヶ月ぶりに会った杉田はダメージ加工している黒のロングティシャツと黒のパンツを履いている。ブーツは所々、おしゃれな模様が散りばめられていて、高級そうに見えた。横に並んで歩いていると、自分だけが取り残されている感覚を感じながら、バーの入っているビルへ潜り込んだ。 一見さんお断りと張り紙が貼られている。どうやら紹介でしか入れないようで、一人だったら追い返されているだろう。その張り紙をモノともしない態度で、勢いよくドアを開け「よっ」とマスターらしき人に挨拶をした。「すぎちゃん久しぶり。最近顔見せに来ないから連絡しようと考えてたとこ」「本業が忙しくてね。なかなか」「あー」 うんうんと納得したように頷くと、ドアに張り付いている僕と目が合った。そもそもバーなんて行かないし、こういうキラキラした人達との交流がない僕からしたら、全てが初めて
第5話 悪ふざけ 杉田に言われるがまま、流されるように辿り着いたのは美容院だ。杉田は下積みを経て、独立をしていたようで、小さいながらも自分の店を持つまでになっていた。 学生だったあの時の僕達は夢を語りながら、希望に満ちていた。大きい事も沢山言ったっけ、と思い出に酔いしれながら、別空間に飛ばされている感覚を楽しんでいる。「——おい。聞いてる?」 我に返ったのは杉田の声と言うより吐息に呼び覚まされた。話を聞いていなかった僕を不思議に思ったのか、眉をピクリとさせ、こちらの反応を伺っている。「あ。悪い」 内心ドギマギしている事を悟られなうように素っ気なく、シンプルに躱わすが、長い付き合いの僕達は、すぐに空気感が変化している事に、体を通して感じてしまう。「緊張しなくていいよ。さ、座って」「……ありがとう」 僕にはタミキがいるはずなのに、杉田の事を意識している自分に驚きを隠せなかった。強気な口調の時は、そんなふうに感じないが、接客モードになると、全く知らない人のように感じてしまう。金髪が靡くと、ゆらりとメッシュが顔を出した。 調子狂う—— 「お前さ、何でタミキと同じ色にしたんだ?」「何でって……タミキを感じたかったって言うか、何と言うか」 自分でも何を言っているのか説明出来ない。ただ感情を口にした結果が今になる。どんな反応をされるのかなんて考える事もなく、ただ純粋に。「エロい」「は?」「なんかエロい」 真剣に髪質を確認している杉田の口から想像もしない言葉が出てきた。まぁ、そういう事言うタイプではあるが、それ今じゃないだろ。 何だか悔しくなった僕は悪ふざけも相まって、茶化す事にする。「お客さんにもそんな事言ってるんじゃないか?」「は?」 そこは笑って流すところだろうと言いたくなるが、どうも機嫌を害したらしく、戸惑ってしまう。逆に自分が掌で転がされている。 流石に仕事のことになると、ムッとしたらと言って、そんな事言われたら、機嫌も悪くなる。自分がされる側だと、すぐに分かるのに、そうじゃないと気づけない。「外見も大事だが、お前の場合性格もよくした方がいいな」 一番言われたくない事を突かれる。図星だ。なんか言いたいのに、言葉が出てこない。急に無言になった僕を見つめながら、大きなため息を吐いた。「言い過ぎだな、お互い。
嫌な事があると癒しを求めるように配信を見るのが日課になっていた。僕とタミキが唯一、繋がって入れるのがこの世界だけだった。スマホだけが繋ぐ、運命の出会いなんじゃないかと錯覚してしまうほど。 自分の中で都合のいいように解釈し、関連付けると、孤独に苛まれた日常から脱出出来るんじゃないかと希望を抱いていたのだと思う。 黒髪だったのを赤く染める、服装もなるべくモノトーンで揃えて、メガネもコンタクトに変えると、いつもの自分とは少し違った印象になるが、タミキのようにはならなかった。一瞬でもいい、傍にいることが出来ないのなら、自分が彼になってしまえばいい。そんな歪んだ思考へと変化していく。「服と髪はこんな感じだけど、顔が違いすぎる」 セクシーな流れ目をしているタミキとは対照的で僕はどちらかと言えば幼なさが出てしまっている。だからこそ、今まで見下されたり、舐められたりしたんだろう。「僕も彼のようになりたい。でも……」 財布の中は勿論、銀行にも金はない。二千円くらいは残っているが、それで何かが変わるとは、到底思なかった。 雰囲気だけでも近づけたかった自分を見て、恥ずかしい気持ちが顔を出す。結局、見た目を幾ら買えたところで、中身はそのままの僕。何も変わっちゃいない。 ピロンピロン—— 邪魔するように、これ以上考え込まないようにと警鐘を鳴らしながら、スマホがチカチカしている。生まれて初めてコンタクトに挑戦した僕は、目の痛みに耐えながら手を伸ばす。 んーと目を瞑ったり、上方向を見たりしていると、次第に慣れてきたのか、少し馴染んできた。メガネがなくても、コンタクトをするだけで視界が広くなった気がする。今まで見てきた景色も、空気も、鏡に映る自分自身も、知らない人、知らない世界、それとプラスされて微かな新鮮さが合わさっていく。 まだ画面を見ると、見えすぎて目がチカチカするけれど、それも慣れてしまえば、今感じている感覚と同じになる。そうやって非日常が形をかえ、新しい日常へと上書きされていくのだろう。 スマホをスクロールしていくと、メッセージボックスに「杉田」と書かれている。ああ、もうそんな時間かと呼吸を整えると、返信した。 杉田は数少ない友人の一人でもあり、タミキのファンだ。タミキの配信を見るようになってから、僕のミキシングにコメントを残していた。配信アプリミラクル
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