溺愛メイドは予知能力あり

溺愛メイドは予知能力あり

last updateПоследнее обновление : 2025-07-12
От :  桜 こころ🌸Полный текст
Язык: Japanese
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身分差×予知能力――溺愛と秘密が交差する、胸キュンラブストーリー 幼い頃に家族に捨てられ、すべてをあきらめていた少女・さくら。 予知能力を持ち、その力で自分を守りながら必死に生き抜いてきた彼女の前に、 まるで天使のように優しい少年・黒崎聖が現れる。 使用人として聖の家で暮らすようになったさくら。 純粋な彼女に、聖は次第に惹かれ、「守りたい」と願うようになる。 けれど――聖は“主”、さくらは“使用人”。 立場の違いはもちろん、彼の父や兄がふたりの関係を脅かしていく。 予知能力のことを知られたら嫌われてしまう。 そう思い悩むさくらは、聖に真実を打ち明けられずにいた。 涙ときらめきのピュア・ラブストーリー

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第1話 メイドって結構大変
 その日は雪が降っていた。 雪はしんしんと降り続き、少女の小さな体に降り積もる。  少女は冷たい手を暖めたくて、はあっと息を吐いた。 全身氷のように冷たくてもう動く気にもなれず、少女はその場にしゃがみ込んだ。 なんだか眠くなってきて、そのまま寝てしまおうかとゆっくりと瞼を閉じていく。「大丈夫?」 ふと声がする。とても穏やかで優しい声。  そっと瞼を開くと、少年がこちらを見ていた。「こんなとこで寝ちゃ駄目だよ、お家はどこ?」 少年の澄んだ瞳とその可愛らしい容姿から、天使が舞い降りてきたのかと思ってしまった。「私に家はないの、帰るところなんてない」 少女の瞳は虚ろだった。  生気はなく、すべてを諦めてしまったかのような瞳をしている。 少年は少女に優しく微笑みかける。「だったら、僕の家においで」 「え?」 突然の提案に少女は驚いて瞳を大きく開くと少年を見つめた。「僕の家、広いから。君一人くらい来ても大丈夫。ね、いいでしょ?」 少年は少女にそっと手を差し出した。 その眼差し、声、仕草、すべてが温かく優しかった。 少女は生まれてはじめて、すがりたいと思った。  孤独に一人で闘い続け、疲れ切った少女の心に、その瞬間温かい何かが芽生えた。 少女がたどたどしく手を取ると、少年はその手を優しく握り返した。 °˖✧✧˖°°˖✧✧˖°°˖✧✧˖°°˖✧✧˖°°˖✧✧˖°  月日は流れ――  あの日の少女、さくらはメイドとして忙しい日々を送っていた。 忙しなくメイドたちが行き交う中、さくらに次々と指令が飛んでくる。「それ、取って」 「はい」 「次、これね」 「はい」 「それが終わったら、こっち手伝って」 次々、先輩メイドたちから与えられる命令を従順にこなしていく。 ここは、黒崎(くろさき)家の厨房。  さくらは黒崎家のメイドとして働いていた。 さくらを拾ったあの少年は、有名な財閥家の息子だった。  黒崎家は資産家で有名な財閥一族だ。あらゆる経済に精通しており、いくつもの産業は彼らの業績なしには回らない。多くの企業や会社が黒崎家と繋がりをもっている。  長い歴史を持つ由緒ある一族だ。 さくらはそんなすごい一族の屋敷で、メイドとして働かせてもらっていた。 今は朝食の準備にメイドたちが駆り出され、さくらもそれに従事して
last updateПоследнее обновление : 2025-05-16
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第2話 予知能力
 さくらは食事を載せたカートを押していく。 長い廊下をゆっくりと進んでいき、食堂へと辿り着く。そこにはもう既に黒崎家一同が顔を揃えていた。  三人ともいつもの席へ座り、会話を楽しんでいるところだった。 さくらは会話の邪魔にならないように静かに食事を配っていく。 この屋敷の主である智彦(ともひこ)、世界に名を轟かすほどの財力と権力を持っている。世界の経済を支える財閥のトップ。  少しふくよかで丸い体とチョビ髭が、強面とはギャップを感じさせ可愛さを演出している。 智彦の向いに座っているのが長男の誠一(せいいち)。  彼は、頭脳明晰で戦略家。冷徹非道なところがあるが会社の業績を上げることに成功し、実力が認められ今は社長を任されている。  ルックスがいいこともあり、どこか冷たいその性格もクールだと好評で、雑誌などにイケメン社長などと取り上げられ女子人気は高かった。本人も会社のイメージアップに繋がると、ほくそ笑んでいるようだ。 そして、智彦の隣に座っているのが、次男の聖。  富や名声、権力などにはまったく興味のない、温和で優しい人。お人好し過ぎるのが少し心配ではあるが、そこもまた彼の魅力だ。  彼もまた可愛らしい風貌で幅広い層から人気があった。さらに、その性格の良さから、男女問わず人気は高かった。 聖はさくらの恩人であり、命より大切な人。「おい、使用人!」 誠一の一喝でさくらは我に返り、急いで振り返った。「はい!」 誠一が冷めた目つきでさくらを睨んでいる。「落ちた、拾え」 誠一が顎で指し示した先には、ナプキンが落ちている。  さくらは下に落ちたナプキンを急いで拾うと、新しいナプキンを誠一に渡す。 乱暴にさくらからナプキンを奪った誠一が、手で下がれと合図する。 しかしなかなかさくらが動かないので、不審に思った誠一がさくらを訝しげに見た。「おい、おまえ、何をしている。下がれと言ったんだ」 普段なら大人しいさくらが、こんな不機嫌そうな誠一に意見するなどありえないのだが、その日は違った。「あの……グラスをお取替えいたします」 「なぜだ?」 「グラスに汚れが」 そう言われた誠一がグラスをよく見ると、薄く指紋の跡が見えた。「ほう……おまえよく気が付いたな。  こんな薄い指紋、よほど近くなければ見えないぞ」 さくらを怪しむような目
last updateПоследнее обновление : 2025-05-16
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第3話 あなたの隣で
 毎朝、黒崎家の面々が出勤していく時間。  玄関の前に黒塗りの高級車が二台待機していた。 まず最初に誠一が車に乗り込み出ていくのを、執事の旭とメイドたち数人がお見送りする。  次に智彦が出ていくのを同じように見送る。 その後、聖が徒歩で出かけていくので、その姿が見えなくなるまで皆で見送った。 聖が学校へ徒歩で行くことを、智彦は気に食わないようで、いい顔をしなかった。  始めは注意したが、聖は歩いていくことに彼なりの考えがあるようで譲らない。  そのうち智彦も聖の頑固さに折れ、容認するようになった。「いってらっしゃいませ」 いつものように三人を送り出したさくらは、急いで制服に着替え、屋敷を出た。 さくらはメイドの仕事をしながら、学校へは普通に通っていた。  それは聖のはからいのおかげだった。 住み込みでメイドの仕事を与えてもらっただけでもありがたいことなのに、聖はさくらが学校へ通うことができるように智彦に頼み込んだ。  智彦もメイドにそこまですることをよく思わなかったが、聖の熱心さに打たれ了承した。 晴れてさくらは学校へ通えることになったのだった。 さくらは現在十六歳、高校一年生だ。  聖は同じ高校で、一学年上の先輩だった。 彼は頭もよく、都内で有名な進学校へ通っていた。 さくらは聖と同じ高校へ行きたくて、勉強を必死で頑張った。  なんとか同じ高校に受かったさくらを自分のことのように喜んだ聖は、智彦にさくらを同じ高校に行かせてほしいと頼み込む。 智彦にとって聖は目に入れても痛くないほど愛しい存在だった。  そんな聖からの頼みを無下には出来ず、さくらは無事、聖と同じ高校へ行くことを許された。  聖は先に家を出ているので、追いつくにはそうとう急がなければならない。  さくらは出来る限り急ぎつつ走った。 遠くに聖の姿が見えると、さくらはスピードを緩めていった。  五、六メートル程の距離を保ち、聖の後についていく。 遠くから聖のことを見守る、これがさくらの日課だった。 本当は一緒に並んで歩きたい。  それは途方もない夢であり、憧れだった。 しかし、そんなこと現実には到底叶わない、一使用人が主の横に並ぶなんて……。  こうして見守ることができている、それだけで幸せなことなのだ。 そのとき、さくらの脳裏に映像が浮かんだ
last updateПоследнее обновление : 2025-05-16
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第4話 疑いの目①
 さくらは屋敷へ戻るといつも通り、掃除を始める。 学校から帰ってくる時間は大抵掃除の時間とかぶっていたので、他のメイドたちと一緒に掃除に勤しむことが多かった。 各々の持ち場で掃除に精を出していると、メイドたちの視線が一斉にある場所へと注がれた。 彼女たちの視線の先にいたのは聖だ。もちろんさくらも彼のことを視線で追っていた。 長い廊下の向こうから歩いてくる彼の手には、分厚い本がある。  たまにページをめくり、何かつぶやきながら歩くさまは知的な感じが漂い、彼の魅力をさらに引き立てているようだった。 メイドたちがうっとりと聖に見惚れていると、突然さくらの脳裏に映像が入ってきた。 本を読んでいた聖が廊下で足を滑らし転んでしまう。  さらにその振動により、側にあった柱時計が倒れてきて腕を怪我してしまうという映像だった。 まさにこれから起こることではないのか。  そう思ったさくらは急いでその映像にあった廊下の場所を探しに向かった。 先ほど映像で見た場所を発見したさくらは辺りを見渡す。  足元の床が少しだけ濡れている個所がある、きっとここで足を滑らせるのだ。 さくらは急いで水を吹くと、側にある柱時計を見上げた。  滑らなければ倒れてこないはずだから、とりあえずこれでいい。 さくらは物陰に身を潜め、聖を待った。  しばらくすると、向こうの角から聖が姿を現した。 本に夢中で前を見ていない、あのまま濡れた場所を踏んだら転んでしまうだろう。 さくらが息を呑み見守る中、聖が無事に問題の個所を通り抜けた。  ほっと胸を撫で下ろした、そのとき――「おまえ、こんなところで何してるんだ?」 後ろから声をかけられ振り返ると、そこには誠一が腕組みをしてこちらをじっと睨んでいる。「せ、誠一様! えーと……ちょっとここら辺が汚れているなあ、と」 なんでもない床を指差し、だんだん尻すぼみになっていくさくらを、いかにも怪しんだ目で誠一は見つめてくる。「なんか怪しいんだよな……おまえの言動って」 「そ、そうですか?」 とぼけて顔を背けるが、誠一にはまったく効果はなさそうだ。  ここをどう切り抜けるか、さくらが頭をフル回転させていると、「まだここにいたんですか?」 さくらと誠一の前に旭が姿を現した。「さくらさん、ここを掃除しろとはいいましたが、いつまでか
last updateПоследнее обновление : 2025-05-22
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第4話 疑いの目②
 夕食のあとのティータイムで、またさくらの能力が発動した。 今度は誠一が紅茶を飲もうとして、怒っている姿が脳裏に浮かぶ。 それしか情報はない、いったい彼は何に怒っていたのだろう。 さくらはこれから誠一に出すために用意されていた紅茶の葉を確認した。 すると、いつも誠一に出している葉ではないことに気がつく。 さくらは急いでキッチンに戻り、誠一用の紅茶の葉の缶を手に取ると食堂へと走った。 食堂へ戻ると、ちょうどメイドが紅茶をカップに注いでいるところだった。「まって、これに変えて」 さくらがそのメイドに耳打ちすると、彼女はあからさまに嫌な顔をした。 新しく入ったばかりのメイドで、まだ一人一人の好みを把握できていないようだ。 自分が間違っていることもわかっていないのだろう。仕事に横やりを入れてくるさくらを不機嫌そうな表情で見つめてくる。 さくらが困っていると、旭がポットを持つ彼女の手にそっと触れた。「君は下がっていいよ、あとは僕がやります」 旭に見つめられたメイドは頬をほんのり染め、素直に頷いた。 さくらから缶を取ると、旭は紅茶を入れ直す。 その手際の良さに思わず見とれているさくらだったが、我に返りお礼を言う。「ありがとうございます」「いいえ」 紅茶を三人へ配っていく旭。 その身のこなしは洗練されていて無駄な動きがない。 本当に、旭はすごい。 彼の言動すべてが執事として完璧だった。 主人を立て影となり、決して目立たず、しかし確実に忠実に物事を成し遂げていく。 もちろん、黒崎家を支える以外に使用人たちのサポートも忘れず、屋敷全体のことも考えている。 彼から学ぶべきことはたくさんある、メイドとして旭はさくらの目標だった。 さくらが旭を目で追っていると、フォークが地面に落ちる音がした。「すみません、フォークを落としました……。さくら、新しい物持ってきてくれる?」
last updateПоследнее обновление : 2025-05-24
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第5話 複雑な想い
 ある日、その映像はさくらの頭の中に突如として現れた。 聖が黒ずくめの男たちに誘拐され、縛られ、どこかに閉じ込められている場面だった。  映像は断片的にしか入ってこず、誘拐される場所や時間はわからない。 誘拐されるのがいつなのかわからない、それは今かもしれない。  そう思ったさくらは、いてもたってもいられなくて、聖を探すため走り出した。  今日は休日で学校は休み、外出の予定はないはずだから、聖は屋敷のどこかにいるはずだ。 午後三時、いつもならティータイムを自室で楽しんでいる頃だ。  さくらは聖の部屋へ向かった。 ドアの前に立ち、逸る心を落ち着けてから静かにノックする。「はい」 中から聖の声が聞こえた。  ひとまずさくらはほっと胸をなでおろす。 さくらが部屋に入ると、聖は窓辺で紅茶を飲みながら本を読んでいるところだった。「さくら、どうしたの?」 いつも通りの優しい笑顔がさくらを出迎える。「紅茶のお替りはいかがですか?」 「そうだな……うん、もらおうか」 さくらが紅茶を用意していると、なぜか聖の視線を感じ、さくらは緊張した。「あの……何か?」 ふと気づくと、さくらの近くまで聖が迫ってきていた。「いや、さくらはいつも可愛いなと思って」 「なっ」 突然の発言に、さくらの顔が真っ赤に染まった。 聖の手がさくらの頬に添えられる。  慌てて一歩下がろうとするさくらの腰に手を回し、聖はさくらを引き寄せた。 聖の顔がドアップになり、さくらの息が止まった。  ドキドキと心臓が脈打つのを体全身で感じ、時が止まったような錯覚を覚えた。「さくらって、旭と仲いいよね。――彼のこと好きなの?」 耳元でささやかれ、さくらは腰を抜かしそうになる。  膝に力が入らなくなり、体制が崩れたさくらを聖が支える形となった。「あ、旭さんのことは、仕事仲間として尊敬しています。
last updateПоследнее обновление : 2025-05-27
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第6話 すれ違い①
 あれから聖を監視する日々がはじまった。 いつなんどき、誘拐されるかわからない。絶対に阻止しなければ。 二十四時間監視するのは難しかったが、さくらの出来る限りの時間を聖の監視に費やしていた。 仕事もなるべく早く終わらせ、聖を監視する。  自分のことはおざなりに、聖を常に遠くから見守ることに生活のすべての時間を費やしていた。 だから、さくらを見つめる他の目に気づけなかった。  異常なまでに聖に張り付いているさくらを怪しむ人物、誠一に。「あいつ、絶対怪しい……」 聖を追うさくらを誠一は監視していた。 そんな誠一の動向に気づいた旭は、誠一のことを監視する。 このように監視の連鎖が起きていることなど、つゆほども知らないさくらは、聖のことだけに集中する毎日を送っていた。   すでに日常化している監視のため、さくらは聖のあとをつけていく。  いつもの学校からの帰り道、今日も何も変わったことはない。 あの映像を見てから、三日経つが何も起こらない。  いつもなら映像は直前に見ることが多かったが、今回は違ったようだ。 いったいあと何日後のことなのだろう。 いや、油断は禁物だ。いつそれが起こるかはわからないのだから。 そのとき、後ろの方から車の音が近づいてきた。  勢いよく走って来た一台の黒いワゴン車が、聖の横に停車する。 その車から降りてきた黒ずくめの男が、聖に近付いていき、彼の腕を掴んだ。「聖様!」 さくらは叫ぶと同時に聖に向かって走り出していた。 声に驚いた男が聖を無理やり車に押し込もうとするが、聖の抵抗により男は苦戦している様子だった。  その隙に、さくらは男に掴みかかる。「放しなさい! ――誰かっ!」 さくらが騒ぎだすと、車の反対側から新たな男が現れる。そしてさくらの動きを止めると口を塞いだ。「おい、どうする?」 「しかたない、そいつも連れていく」
last updateПоследнее обновление : 2025-05-29
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第6話 すれ違い②
「さくらが無事でよかった。  俺のせいでさくらに何かあったらって、生きた心地がしなかった」 聖はさくらに熱い視線を向けると、何かを決意したように口を開いた。「さくら……僕は君が好きだ。ずっと前から君を愛している」 突然の告白にさくらの頭は真っ白になる。 え、今なんて?  え、え? えーーーーー! さくらの頭の中はパニック状態だ。 いったい何が、どうなってるの!  まさかこんな日が来るなんて……。 その言葉は、さくらが一番望んでいて、望んではいけないものだった。 喉から手が出るほど欲しいもの、しかし、決して掴んではいけないもの。 さくらは口にギュッと力を入れる。 感情を殺し、涙が出るのを必死で押さえ、震える手でゆっくりと聖を押し返した。「聖様……それは勘違いです。  非日常の中で起きた、吊り橋効果ですよ。  ……さあ、旭さんもついていますし、もう心配いりません。屋敷へ帰りましょう」 さくらは作り笑顔で微笑み、聖から目を逸らす。 聖はさくらの肩を掴んで必死に訴える。「吊り橋効果なんかじゃない! 僕は前から君が好きだったんだ。  なんで信じてくれないんだ? 僕のことは主としてしか見れない? それならそう言ってくれ!」 懸命に叫ぶ聖。  その表情は真剣そのものだった。 さくらだって本当は好きだと言いたい、心から愛していると言えたらどんなに楽だろう。  でも、聖とさくらは主と使用人、それは許されない。 それに……さくらの能力のことを知ったら、聖はなんと思うのだろう。  拒絶されたらと思うと、恐かった。 さくらが苦しげに下を向き押し黙っていると、見かねた旭が声をかける。「さあ、聖様、先ほどのこともありますし、ここにいるのは危険です。  いったん、屋敷へ戻られた方がいいでしょう」 旭がそっと聖の肩を抱き歩き出すと、聖はしぶしぶそれに従った。
last updateПоследнее обновление : 2025-05-31
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第7話 苛立ち①
 誠一に呼び出されたさくらは、彼の部屋へ向かっていた。 なぜ誠一に呼び出されたのか、見当がつかない。さくらの心の中は不安が渦巻いていた。 さくらは誠一が苦手だ。 どこか近寄りがたくいつも不機嫌そうな彼は、人を寄せつけないオーラを放っている。  さくらのことも嫌っているように感じられた。「さくらです、失礼いたします」 部屋に入ると、誠一が椅子に腰かけ足を組み、鋭い眼差しでこちらを睨んでいた。 さくらはなんだか蛇に睨まれているような感覚に陥り、逃げ出したくなった。が、引き返すことはできない。「誠一様、何か御用でしょうか」 誠一はさくらを舐めるように見つめ、静かに口を開いた。「おまえ――未来が見えるのか?」 いきなりの核心をついたその言葉に、さくらは動揺する。 凝視して固まってしまったさくらを見て、誠一は嬉しそうに笑った。「ははっ、当たったか。  まさかそんなことがあるとはな……驚いたよ」 さくらはどうするべきか悩んだ。 ……まだ誤魔化せるか?  頭のいい誠一に、嘘を貫き通すことなんてできるのだろうか。「なぜ、そう思うのですか?」 さくらの声は震えて、か細かくなっていた。  そんな彼女をあざ笑う様に、誠一は余裕の笑みを見せた。「以前からおかしいと思っていた。  おまえはときどき不可思議な言動を取っていたからな。まるで未来が見えているかのような。  特に最近気になったのは、食事のときグラスに指紋がついているのをいち早くおまえが気づいたこと。  よく見ないとわからない、わずかな指紋を事前に気づくなんて……しかも、旭ではなくおまえが。  そしてもう一つ、紅茶の件。  間違って用意されていた紅茶の缶を、おまえが気づいて取り換えた。よほど注意していないと、違う葉だなんて気づかないだろ。  あの時もおまえの行動に違和感を抱いた。  そして、俺が確信に至ったのは、聖の誘拐事件だった。  最近のお
last updateПоследнее обновление : 2025-06-03
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第7話 苛立ち②
 次の日から、さくらは誠一専属のメイドになった。 誠一は、智彦にさくらを自分の専属にしたいと頼み込んだ。  聖のお気に入りであるさくら。誠一専属にすることを智彦はなかなか承諾しなかった。 しかし、誠一の熱意に負けた智彦は、しぶしぶ承諾してしまう。 誠一からさくらに強要されたのは一つ。  仕事に付き添い、そこで会う人たちの未来が見えたとき、誠一に報告すること。 ライバル企業や取引先、誠一にとっての重要人物たち。  誠一は毎日さくらを連れまわし、その人物たちに会わせていく。 さくらは見えた未来の内容を、逐一報告していった。 その後、誠一がその情報をどう使用したかはわからない。 しかし、現実に誠一の仕事は好調で、彼の地位はみるみる上がっていった。「誠一、最近よく頑張っているらしいな」 「ありがとうございます」 智彦に褒められた誠一は爽やかに微笑む。 そして、横にいるさくらに目をやり、ニヤリと不敵に笑うのだった。   夕食のあとのティータイム、さくらは聖に呼び止められた。「さくら、ちょっといいかな」 聖はさくらを自室へと招いた。 なんだか聖の表情が暗いことが気になったが、さくらは素直に聖の後ろをついていく。 誘拐事件以来、聖とは気まずい空気になってしまい、お互いすれ違っていたので、聖から誘ってくれたことがさくらは嬉しかった。 部屋に入ると、急にさくらは聖の手により壁に追いやられる。  さくらの肩を壁に押しつけ、聖が迫ってくる。 すぐ目の前に聖の顔があり、さくらの頭は混乱し目が回ってしまう。「ど、どうしたんですか?」 「どうした……はこっちの台詞だよ。なんで兄さんの専属になったの?」 聖は悲しみと怒りを込めた目で、さくらを見つめた。 今まで見たことも無い表情をした聖に驚き、さくらはまともに目を見ることができず、視線を逸らしてしまった。 どう答えれ
last updateПоследнее обновление : 2025-06-05
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