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第16話 おもかげ

작가: 文月 澪
last update 최신 업데이트: 2025-06-24 16:09:04

 座り込んだまま動かない眞鍋さんを放置して、私はその横を素通りした。周囲が騒がしいけど、たいして気にならない。

(私、何を怖がってたんだろう)

 初めて、言いたい事が言えた。今は清々しい思いだ。いつもの景色がきらめいて見えて、ふわふわと雲の上を歩いているような、そんな高揚感に満たされている。周りの雑音も遠のいていき、まるで夢を見ているような……。

「……ちゃん! 凜ちゃん!」

 あれ、先輩の声がする。名前を呼ばれるのと同時に掴まれた手は、火傷するかと思うくらいに熱を持っていて、私はそれをぼんやりと感じていた。

 振り返ると先輩が息を切らせて、私を見上げている。その表情はどこか焦っていて、何かを叫んでいるけど上手く聞き取れない。徐々に視界がかすんでいき、体が冷えていく。

「せん……ぱ……い……」

 その言葉を残して、私は意識を手放した。

 沈んでいく意識の中で、お母さんの声が響く。

『スカートなんか履いちゃダメ!』

『リボンなんて似合わないよ』

『あなたは王子様なの』

 そこに真鍋さんの声が重なった。

『凜くんていうの? 今日は助けてくれてありがとう! まるで王子様みたいだったよ?』

『凜くんは私の王子様だわ』

 声は増え続ける。

 それは女子も男子も、先輩も後輩も、近所のおじさん、おばさんでさえ例外ではなかった。

 凜くん、凜くん……何度も繰り返される言葉に、私の感覚は麻痺していく。

 暗い淵へと落ちていく感覚に包まれ、もう眠りたいと思った――その時。

『りんちゃん』

 ふと、懐かしい声がした。

 幼く小さな手が、私に差し伸べられている。記憶をたどれば、その姿が浮かんできた。水色のスモックを着ているから男の子だと思うけど、女の私よりよっぽど可愛らしい。

 幼稚園時代、一緒に遊んでいた子だ。急にいなくなって、しばらく泣いていたっけ。お母さんはそれも気に入らなくて『王子様は泣かないの!』って、ヒステリックに騒いでた。小さい子供には逆効果なのに、気づきもしなかったのかな。

 あの子は、どんな子だったっけ。ふわふわとした柔らかい髪の手触りが好きで、よく触らせてもらってたっけ。意地悪な男子にも立ち向かって、私より小さいのにって思ってたな。

 あの子の、名前は――。

「ゆう……ちゃん……」

 なんで、忘れていたんだろう。

 それは、私の淡い初恋だったのに。
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