異世界リロード:転生者達の武器録

異世界リロード:転生者達の武器録

last updateLast Updated : 2025-07-02
By:  fuuUpdated just now
Language: Japanese
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通学中の事故で昏睡状態となった少年は、神を名乗る男に「魔界を滅ぼせば身体を戻す」と告げられ、異世界で“神の銃”として目覚める。 使い手となった少女と共に、他の神の武器=同じバス事故の転生者たちを探して旅を始める。 魔物との戦いや仲間との絆を通じて、少年は自らの意志で戦う意味を見出していく――

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Chapter 1

プロローグ:神の銃とガラスの靴

目覚めたとき、そこには“何も”なかった。

白い――いや、“白いように感じる”だけの空間。

上下も左右も曖昧で、足元もなければ重力すらない。

ただ漂うように、俺はそこにいた。

「やあ、初めまして。……ああ、君にとっては、最期の相手かもしれないな。」

聞き慣れない声が背後から降ってきた。

振り返るという感覚すら不明瞭なまま、視界に映ったのは一人の男だった。

黒いスーツ、銀縁の眼鏡。無表情で、手には分厚いファイルを抱えている。

葬儀屋か? いや、死神? それとも――

「僕は“神”と呼ばれることもあるよ。ただし、崇める必要はない。仕事だからね。」

神様はさらりと言った。まるで保険の勧誘みたいな口調だった。

「君、バスの事故でね……うん、ぐしゃっと潰れて。よく魂が残ってたものだ。今は現実世界の病院で昏睡中。家族が泣いてるよ。可哀想に。」

淡々とした説明に、怒りも悲しみも湧かない。

この空間が、感情というものすら吸い取っていくようだった。

「だけど――チャンスをあげよう。」

指を鳴らす音が響いた。

周囲の白が、黒へと染まる。

映し出されたのは、どこか異様な光景だった。

燃え落ちる都市。空を覆う禍々しい影。

牙と爪の化け物が、建物を喰い、人を引き裂いている。

その中に、“人間の形をした武器”が現れ、応戦していた。

「これは“魔界”と呼ばれてる。人の理が届かない場所。……そこを滅ぼしてくれれば、君の身体と魂を元に戻してあげるよ。」

あまりに唐突すぎる。だが、拒否する術も、黙る勇気もなかった。

「もちろん、君一人じゃ無理だ。仲間を集めなさい。“君と同じように死にかけた者たち”が、武器としてこの世界に転生している。彼らを見つけ、使い手と巡り合えば、君にも“撃てる理由”が生まれる。」

撃てる理由――?

「また会おう。次は“銃”として、だ。」

言葉と同時に、意識が深く沈んだ。

次に目覚めたとき、俺は、引き金の存在を感じていた。

感覚のすべてが変わっていた。

血も肉もなく、誰かの手に握られることでしか存在できない――

そう、俺は“神の銃”として生まれ変わっていた。

それが、すべての始まりだった。

神殿の祭壇に置かれ、静寂の中にただ置かれていた。

そして、彼女が現れた――

透き通るほど白い肌、スラム街で煤けたドレス、片足だけの靴。

「これ……私に、使えるの?」

その手が触れた瞬間、銃は震えた。

馴染んだ。確かに、彼女の手の中に。

「……ガラスの靴、みたいだね。」

小さな使い手。戦う術も知らない、ただの幼い少女。

けれど、この世界を救う鍵は、彼女と、そして他の「神の武器」たちに委ねられている。

かつての同乗者たち――事故を起こした運転手、うたた寝していた学生、お菓子を食べていた老女、年端もいかぬ少年、誰もが「武器」となって、この異世界に散らばった。

そして少年は、少女の手の中で誓う。

「魔界を滅ぼす。俺たちみんなを、終わらせるために。」

旅の始まりは、神殿の石畳の上。

その銃口が、未来を撃ち抜くことを、まだ誰も知らなかった。

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プロローグ:神の銃とガラスの靴
目覚めたとき、そこには“何も”なかった。 白い――いや、“白いように感じる”だけの空間。 上下も左右も曖昧で、足元もなければ重力すらない。 ただ漂うように、俺はそこにいた。 「やあ、初めまして。……ああ、君にとっては、最期の相手かもしれないな。」 聞き慣れない声が背後から降ってきた。 振り返るという感覚すら不明瞭なまま、視界に映ったのは一人の男だった。 黒いスーツ、銀縁の眼鏡。無表情で、手には分厚いファイルを抱えている。 葬儀屋か? いや、死神? それとも―― 「僕は“神”と呼ばれることもあるよ。ただし、崇める必要はない。仕事だからね。」 神様はさらりと言った。まるで保険の勧誘みたいな口調だった。 「君、バスの事故でね……うん、ぐしゃっと潰れて。よく魂が残ってたものだ。今は現実世界の病院で昏睡中。家族が泣いてるよ。可哀想に。」 淡々とした説明に、怒りも悲しみも湧かない。 この空間が、感情というものすら吸い取っていくようだった。 「だけど――チャンスをあげよう。」 指を鳴らす音が響いた。 周囲の白が、黒へと染まる。 映し出されたのは、どこか異様な光景だった。 燃え落ちる都市。空を覆う禍々しい影。 牙と爪の化け物が、建物を喰い、人を引き裂いている。 その中に、“人間の形をした武器”が現れ、応戦していた。 「これは“魔界”と呼ばれてる。人の理が届かない場所。……そこを滅ぼしてくれれば、君の身体と魂を元に戻してあげるよ。」 あまりに唐突すぎる。だが、拒否する術も、黙る勇気もなかった。 「もちろん、君一人じゃ無理だ。仲間を集めなさい。“君と同じように死にかけた者たち”が、武器としてこの世界に転生している。彼らを見つけ、使い手と巡り合えば、君にも“撃てる理由”が生まれる。」 撃てる理由――? 「また会おう。次は“銃”として、だ。」 言葉と同時に、意識が深く沈んだ。 次に目覚めたとき、俺は、引き金の存在を感じていた。 感覚のすべてが変わっていた。 血も肉もなく、誰かの手に握られることでしか存在できない―― そう、俺は“神の銃”として生まれ変わっていた。 それが、すべての始まりだった。 神殿の祭壇に置かれ、静寂の中にただ置かれていた。 そして、彼女が現れた―― 透き通るほど白い肌、スラム街で煤けたドレス、片
last updateLast Updated : 2025-06-25
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第一章:旅立ちの銃声
神殿は、静寂の中に沈んでいた。壁一面に描かれた古の紋章は色あせ、天井のステンドグラスから差し込む光が、祭壇に置かれた一本の銃を照らしていた。黒鉄の機構は無傷。長い眠りにも関わらず、まるで昨日作られたばかりのような完璧な状態だった。だがその銃の内側には、一つの魂が封じ込められている。かつての名も、記憶も、ほとんどが霧の中。ただ一つ、目覚めの瞬間に聞いた少女の声だけが、胸の奥に鮮やかに残っている。――「これ、私に、使えるの?」その手は、細くて、震えていて、それでも確かだった。彼女だけが、この銃を扱えた。 神の武器と呼ばれる存在に、誰よりも素直に触れたのだ。「……準備できた?」神殿の階段を降りながら、少女――名をリィナと言った――がぽつりと尋ねた。彼女の背中には大きすぎるリュック。衣服はほころび、靴は片方だけ底が抜けていた。だが、その手にはしっかりと、黒い銃が握られている。「こっちは問題ない。……君こそ、大丈夫か?」銃の中から響く声に、リィナは少しだけ驚いたように瞳を見開いた。「うん……喋ってくれるんだね。良かった。なんか、無言で撃たせるの、怖いなって思ってたから。」「こっちもだよ。自分のトリガーを誰が引くのか、気になって仕方なかった。」二人は初めて、互いを意識して笑った。リィナは、スラム街の出身だった。 身寄りもなく、名前すら誰かに付けてもらったものだという。だが彼女には、銃を「引き受ける」資格があった。神の武器は、選ばれた者にしか馴染まない。 それは運命であり、偶然であり、魂の形が呼び合うもの。「……これから、他の都市を巡って、仲間を集めるんだよね?」「そうなる。君の手で、俺たちを拾ってくれ。魔界を滅ぼすために、失われた銃声を取り戻すんだ。」リィナはうなずいた。 神の銃を、肩に担ぎ直す。「じゃあ、行こう。行き先は……どこ?」「最初の都市は〈オルト・クラフ〉。鉄と煙の街だ。あそこには――俺たちの仲間がいる。」風が吹いた。 神殿の扉が、軋んだ音を立てて開く。二人の影が、光の中に滲んで消えていった。旅立ちの銃声は、まだ鳴らない。 けれど、それは確かに――この世界を変える音だった。
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第三章:魔物の足音と、再起動する記憶
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第七章:幼き群れと、孤高の大剣
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last updateLast Updated : 2025-06-25
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第八章:未熟の痛みと、片腕の誓い
夜。焚き火の炎が、静かに揺れていた。そのそばで、アマネの杖の先が淡く光を放つ。「ほれ、あんたたち。しばらく動けないなら、せめて身体だけでも温めな。」その光が鍋の底を照らすと、湯が静かに沸き始めた。魔法というより、まるで母の知恵のような自然さで。「火傷しないようにね。こう見えて、あたしゃ薬湯の温度にはうるさいんだよ。」 リィナは銃を抱えたまま、動かない。ルークは木に背を預け、目を閉じていた。「……あたしたち、戦えてなかった」リィナの呟きに、誰も否定しなかった。銃声は響いた。剣も振るった。だが結局、自分たちは守られただけだった。「“神の武器”を集めたって、使い手が力不足じゃ、話にならねぇ。」アベルが煙草に火を点ける。「それでも、命を拾ったんだ。……負けを認めた上で、次にどうするかだよ。」アマネの言葉が、穏やかに全員を包んだ。そんな夜明け前。道の先から、金属を叩く乾いた音が聞こえた。カン、カン、カン……「鍛錬……?」ルークが先に気づいた。林の奥に、小さな空き地。そこで、片腕の青年が、己の義手に“神の小手”をはめて、ひたすら拳を突き出していた。「……九百七十二、九百七十三……!」額から汗を流し、呼吸を乱しながらも止まらない。その表情は、明るく、どこか楽しそうだった。「おーい、お客さん?」声に気づいた青年がこちらを向く。「おっと、見られてたか。はじめまして。俺、カイル。こいつは、相棒の“ショウ”」彼の義手にはめられた金属の小手が、控えめに光る。「ぼ、ぼく、しょーです……。」声が聞こえた。だが幼く、頼りない。「喋った……この子、神の武器……。」「そう。元は小学生の子だったらしい。事故で……身体を失って、気づいたらこの小手になってたんだってさ。」カイルが軽く笑う。「けど、この子、強くなりたいって泣いてたんだ。だったら一緒に強くなろうって、そう決めたんだよ。俺も、片腕しかねぇしさ。」彼の拳は、確かに力強かった。「強くなりたい。」その言葉は、今のリィナたちにこそ、必要だった。「……君たちも、“神の武器”を集めてるんだよね?」カイルは穏やかに尋ねた。「だったら、俺たちも加えちゃくれないか?もっと強くなりたいんだ、こいつと一緒に。」リィナはうなずいた。「ううん、こちらこそ……教えてもらいたい。“強く
last updateLast Updated : 2025-06-25
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第九章:拳が教える、生き残るための距離
朝。霧の残る草原。リィナたちは、カイルとショウの指導のもとで“初めての実戦訓練”に臨んでいた。「よーし、リィナ、ルーク。まずは“連携”を意識して動こうな。」カイルは義手の小手をくいと持ち上げながら、にこりと笑う。「個々の技術も大事だけど、“味方を信用して動く”ってのは、それよりずっと難しい。……でも、それが一番強い。」「はいっ!」リィナが頷き、銃を構える。隣ではルークが剣を下段に構えた。対するカイルは、構えない。ただ一歩踏み出すだけ。 「いくぞー、ショウ、お願い!」「う、うん……!」ショウの小さな声と共に、小手がうっすらと光を帯びる。カイルの義手に宿る魔力が拳に収束し、重く、鋭く変化していく。ドン!一撃。その一発が、空気を揺らす。ルークの剣で受け止めるも、弾かれる。「うわっ……!」「無理に受けようとするな!“捌く”んだよ、“正面から斬り合う”のは鍛錬じゃなくて決闘だ!」カイルの声が飛ぶ。その隙に、リィナが銃を構える――だが、「距離が甘い。引いてから狙いな!」「っ……!」直後、彼の拳がリィナの足元に土煙を跳ね上げた。衝撃だけで吹き飛ばされる。「くっ……悔しい……。」リィナが膝をつく。「けど……すごいよ、あなた。片腕なのに……なんでそんなに動けるの?」その問いに、カイルは汗をぬぐって笑った。「理由はひとつさ。“死にたくない”。……そして、ショウをちゃんと使ってやりたい。」「ぼ、ぼく、ひとりじゃなにもできないけど……。」ショウの声が、義手からそっと漏れる。「でも、カイルは一緒にいてくれる。だから、ぼくもがんばる。」その言葉に、ルークも少しだけ目を細めた。「……わかった。もう一回、やろう。次は捌いてみせる。」「お、いい返事!」その日、夕暮れまで訓練は続いた。足は棒のように、腕は重く、意識はぼんやりしていたが――その中に確かにあった。「今の俺たちはまだ弱い。でも、“諦めない力”だけは持ってる。」そう呟いたカイルの背中を、誰もが静かに見つめていた。繭の子と再び対峙するとき、今日得た“距離感”と“信頼”が、命をつなぐだろう。
last updateLast Updated : 2025-06-25
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