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16.心を開いて

last update Last Updated: 2025-08-14 17:00:31

先輩の部屋に着くまで、俺たちはひと言も言葉を交わさなかった。

部屋に入って、ローテーブルを囲んで座ったところまではよかったけれど……今日の試合の反省会なんて、ちっとも始まる気配がない。

(……いや、始めるつもりがないのかもしれないな)

俺たちの問題はそこじゃないと、お互いが何となくわかっているから。

「……先輩、怒ってます?」

そう切り出した俺に、先輩は不機嫌そうに聞いた。

「なんで」

「あの日の夜……俺が先輩を無理に、その……抱くみたいになったから」

先輩はぴくりと肩を震わせ、そっけなく答えた。

「……べつに。合意だったし」

「じゃあ……今、何を考えてるんですか? 俺、先輩の考えてること、少しもわからないです」

そう伝えてみたものの、先輩は下を向いて何か考えるばかりで……。

俺は深く息を吐いて、先を続けた。

「どうして、俺を部屋から追い出したんですか。……怒ってないなら、なんで」

「……それは……これ以上、距離詰めんのは違う気がして」

「は?」

「だからっ、距離が近くなり過ぎるのはダメだと思ったんだよ」

「なんで」

そもそも、『意思疎通を図れるようになろう!』という目的で共同生活をしたんじゃなかったんだろうか?

(本当に、何を考えてるのかよくわからん……)

俺はいよいよ頭を抱えつつ、自分の気持ちを吐き出した。

「……俺はわりと嬉しかったですけどね。先輩と一緒に過ごせて。前よりは先輩のことをよく知れたような気がしますし、一緒にご飯作ったり、終わった後でゲームしたりするのも楽しかった」

「俺だって、あの生活は嫌いじゃなかったよ。練習もできたし、ご飯は美味いし……ベッドはちょっと狭かったけど」

「それなのに、追い出したんですね。俺のこと」

「……仕方ないだろっ。それとこれとは話が別だし。そもそも、お前がキス……とか、したのが悪いんだよ。自分は特別なのかとか、そんなこと聞いてきたから」

「先輩の気持ちを確かめて、何がいけないんです?」

「……っ! 自分の気持ちも、ちゃんと話さないくせに」

そう言われて、はっとした。

言って……なかっただろうか?

(伝えて……なかった?)

俺は先輩との生活について思い返す。

ある晩、先輩に「俺が好き?」と聞かれて、首を横に振って否定した。それなのに、「先輩を俺のものにしたい」とか、「先輩なら抱ける」とか……。

思い出せば思い出すほど、頭が痛くなってくる。

(そんなの、ただのクズじゃん……)

ため息すら出なかった。そんな奴から迫られたら、先輩だって嫌な気持ちになるに違いない。

恋愛感情じゃないかもと思ったのは、先輩を競争する相手として――ライバルとして見ていたからだ。

でも、この心の中にある複雑な気持ちを、言葉にしないまま曖昧にした……。

「……言ってくれなきゃ、わかんないよ。流された俺も悪いけど……お前が俺とどうなりたいのか、どうしたいのか……言葉にしなきゃ伝わんないし……不安になる」

俺だって、自分の気持ちをすべてきれいに言語化できるわけじゃない。

だけど……きっと、出来る範囲で言葉にして、伝えるべきなんだろうと思った。

「じゃあ……話してみます。上手く伝わるかは、わかりませんけど」

そう前置きして、俺はゆっくりと話し始めた。

「……俺の先輩への気持ちは、たぶん……すごく強い競争心……なんだと思います。先輩にだけは負けたくなくて……。俺にはない、その才能を『羨ましい』って思ってる」

「でも……それは、恋愛感情じゃないんだろ」

「俺は『わかりやすい恋愛感情じゃない』って、言いました。それは、なんていうか……恋みたいな甘酸っぱい感情じゃないって意味で。俺のはもっと重くて、ドロドロしてて……先輩の才能ごと、ぜんぶ自分のものにしたいって、そういう類の気持ちです」

「……才能、ね……」

「才能です。先輩には俺のことを唯一のライバルだと思ってほしいし、できれば先輩を俺のものにして、ずっとそばに置いておきたい」

「お前、それ本気で言ってる……?」

「本気です。……冗談で言うと思います?」

首をかしげると、先輩は戸惑ったように視線をさまよわせて、ばりばりと頭をかいた。

「……わがまま」

「どうも。……俺はちゃんと自分の気持ちを言ったので、次は先輩の番ですよ」

俺はそう言って先輩をうながしたけれど、自分から話すように仕向けたくせに、いつまで経っても話し始める様子がなくて――。

手を伸ばし、先輩の頬に触れる。

顔が赤かった。先輩は言葉にしないだけで、意外とわかりやすい気がする。本当に嫌いな奴から告白されたら、こうはならない。

……なかなか自分から心を開かない、めんどくさい人だと思った。最初は嫌味な性格で歯に衣着せず物を言うんだと思っていたけれど……肝心なことほど、あまり話したがらない。

先輩は「俺の気持ちって言われても……」と語尾をフェードアウトさせながら、ぽつぽつと言葉を選んで話し始めた。

「オンラインで会ったときのことは……もう話したろ。1年後、部室で初めて会ったときは、その……顔がいいなって思った」

「はぁ」

「……だから、その……顔が好きで、タイプだった」

顔かよ。

まぁ、顔でもいいけどさ。

「その後は、すげー生意気な奴だなって思ったよ。強引だし、ムカつくし。でも、一緒にゲームするのは悪くなかった。神谷が作ってくれたご飯、一緒に食べんのも、好きだった」

ぽつり、ぽつりと話すその様子に、慣れてない感じがにじみ出ている。先輩はどう言葉にしていいかわからない、といった風に「……だから……俺は、その……」と口ごもっていた。

しばらく視線をさまよわせた後で――上目遣いに俺の方を見る。

「……神谷のこと…………けっこう、好き………かもしれない……」

(何、この人。かわいい……)

俺は先輩を衝動的にぎゅっと抱きしめてしまい、はっとする。

「ちょっ……神谷っ!!?」

「……その顔、もう一回見せてくださいよ。先輩」

「やだ」

しきりに隠れようとする先輩の顔を、無理やりのぞきこんで見る。彼は今までに見たことがないくらいに、照れていた。

かわいい。普段とのギャップもあるんだろうが、そんなにかわいいなら、もっと早くに見せてくれればよかったのに。

俺は今までの話をまとめるようにして言った。

「じゃあ、何ですか……俺たちのあいだには何の問題もなかったってことですか……? 俺と先輩の気持ちは、それぞれ違っていたかもしれないけど……キスしたことも、嫌じゃなかったなら、どうして俺を追い出したりしたんです?」

「だからっ、それはあのとき言っただろっ! つき合って別れたりしたら気まずいし、変な噂が広まって……お前に迷惑かけたりするのも嫌だったし」

「何ですか? 変な噂って」

「……男同士だろ、俺たち」

「べつに、男同士でもいいじゃないですか。いまどき気にします? そんなの」

「……っ! それに、俺はっ……」

急に声を荒らげたと思ったら、言葉尻が消えてなくなる。

「俺は……何です?」

「神谷が……遊びだったら、嫌だなって思って」

そう、拗ねたように口をとがらせる。

「……本気が、よかったから」

先輩は容姿こそ派手だけど、中身は意外と純情らしかった。

「先輩って、もしかしてロマンチスト?」

「うるさ」

怒られるかなと思ったけれど、先輩はそう言って顔を赤くするだけで。

「……本気ですよ、俺」

「うん。……言葉で聞いて、わかった」

「俺も、ようやくわかりました。先輩の気持ち」

「……玲が言ってたのって案外、こういうところなのかもな」

「何がです?」

「俺たちの連携に足りてない『色々』」

先輩にそう言われて……はっとした。

「もしかして……本音で話すとか、そういう……?」

「そう。隠しごとや懐の探り合いが多くて、心を開いてなかったような気がするから」

ライバルや敵として戦うだけなら、それでもよかったような気がする。

でも、今は背中を預ける仲間なわけで……。

「信頼関係、かぁ……」

「時間は共有してたけど、お互いの考えや気持ちについてはあまり話してこなかったからな」

「……まぁ、自分の気持ちを隠してたのは、主に先輩なんですけどね」

「お前は自分の考え伝えんの下手くそ過ぎだろ」

お互いにどっちが悪いかで言い合いにはなったけど……胸につかえてたものは、取れた気がする。

連携における課題も見えてきて、思わぬ収穫があったみたいだ。

「ねぇ、先輩。……お互いの気持ちがずれてるのって、気になりますか?」

俺は話を戻して、先輩に聞いた。

今までのことを聞く限り、先輩のは恋みたいな淡い感情で、俺のはそれよりもずっとドロドロしていて重いものだ。

先輩は目を閉じ、首を静かに横に振る。

「違いは……べつに、あってもいいと思う。お互いにそれを理解して、認め合っているならそれでも」

「先輩のものより……俺の気持ちの方がずっと重いって言っても?」

「それは……聞き捨てならないな。絶対、俺の気持ちの方が重いし」

こういう瞬間が俺は好きだった。

相手が思惑通り、自分の罠にかかった瞬間。

「……じゃあ、勝負しません? どっちの方がお互いを好きかって」

あごでくい、とベッドの方を指す。両想いだってわかったんだから、誘ったっていいはずだった。

意味を理解した瞬間、先輩の顔が一気に赤らむ。

「……っ! 勝負はやめて、共闘するんじゃなかったのかよ」

「ああ、そっか……。先輩、逃げるんですね?」

勝った。このセリフを言われて、先輩が絶対に引けるはずがない。

ため息交じりの嫌味が飛んできたけど、それも想定の範囲内だ。

「……お前ってさぁ……。本当に、逃げ道ふさぐの上手いよね」

俺は笑って、まだ慣れないんだろう小さく震える先輩の手を取った。

安心してもらえるよう、そっと撫でる。

「それ、何の話です?」

「ゲームの話と……リアルの話」

「優しくします」

「……優しくしなかったら、殴るから」

嫌ならやめようと思って、顔を近づけて様子をうかがった。お互いの鼻先が触れて、先輩の方からキスされる。

「……俺が勝ったら、1つだけ言うこと聞くっていうのは?」

「いいですね。じゃあ、俺が勝ったら先輩も1つだけ言うこと聞いてください」

俺にベッドに組み敷かれながら、余裕のある笑みで「わかった」と言う先輩。

この勝負には自信があった。

(絶対に、俺の方が先輩を好きなはずだ)

なぜなら……最初にメッセージを送ったのも、惹かれたのも、キスしたのも――すべて俺の方からだから。

先輩の服に手をかける。

俺はベッドのスプリングが軋む音を聞きながら、口の端で笑った。

「俺がどれくらい先輩のことを好きなのか……ちゃんと、わからせてあげますよ」

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