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第345話
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秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第380話
傷口を消毒し、絆創膏を貼ると、ほむらは顔を上げて彼女を見た。「どうして手を怪我したの？」「ちょっと……不注意で……」ほむらはテーブルの上のアルコールを片付けながら言った。「この数日、傷口を水に濡らさないように気をつけてね」「ええ」「昼食は食べた？」結衣は首を横に振った。「まだよ」そう言いながら、先ほど満がほむらにお菓子を持ってきたことを思い出し、彼女は眉を上げた。「ほむらみたいにモテないから、食べ物を持ってきてくれる女性もいないし」「やきもちなら、そう素直に言えばいいよ。そんなに遠回しに言う必要はない」結衣は口を尖らせた。「……誰がやきもちなんて」「君だよ」「焼いてないわよ！」ほむらの口元の笑みが深まった。彼が何かを言おうとした、その時、結衣のスマホが突然鳴った。電話に出ると、相手が何を言ったのか、結衣の顔色が一瞬にして険しくなった。「はい、分かりました。すぐにそちらへ向かいます！」「どうした？」結衣は深く息を吸った。「今から警察署へ行かないと」そう言うと、結衣は立ち上がって慌ただしく出ていった。警察署に駆けつけた時、明輝と静江は二人ともそこにおり、廊下の椅子に腰掛け、どちらも険しい顔つきをしていた。結衣の姿を見ると、静江は途端に激昂し、立ち上がって彼女を叩こうとした。結衣は数歩後ずさって静江の手をかわし、冷ややかに彼女を見つめて言った。「静江さん、ここは警察署です。もし私に手を出そうものなら、数日間、こちらでお泊まりいただくことになりますよ」明輝は慌てて静江を引き止めた。「もうやめろ！こんなに人がいるんだぞ、防犯カメラだってある。みっともない！」静江は明輝の手を振り払い、冷たく結衣を見据えた。「結衣、あなたが本家の使用人と結託して満を陥れたに違いないわ！あの子が、お義母様の降圧剤をすり替えさせるなんてこと、するはずがない！」静江の怒りに満ちた目と合わせ、結衣はふっと笑った。「静江さん、おばあちゃんは汐見グループの株も和光苑も、すべて私にくださいました。私が、おばあちゃんに手を出す理由などありませんわ。むしろ満の方こそ、汐見家の血を引いておらず、先日おばあちゃんに汐見グループを追い出されたばかり。どう考えても、彼女の方におばあちゃんを害する動機があるのではありませんか？」「で
秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第379話
満の口元に笑みが浮かんだ。振り返ろうとした、その時。ほむらの声が、無情にも彼女の幻想を打ち砕いた。「持ってきたゴミも一緒に持って帰れ」満の顔から笑みが消え、固まった。心に怒りが込み上げてきた。しかし……ほむらは、彼女が手を出せる相手ではない。彼女は深呼吸を一つすると、向き直って持参した菓子を手に取り、そのまま立ち去った。オフィスのドアを開けた途端、戸口に立つ結衣の姿が目に入った。彼女は腕を組み、嘲るような笑みを浮かべて満を見ていた。「満さん、お姉さんの彼氏を誘惑するなんて、大した度胸ね」満の顔色が変わった。「結衣、何を馬鹿なことを言っているの！」「馬鹿なこと？さっき、あなたが私の彼氏にお菓子を渡そうとしていたところ、録音させてもらったわ。聞いてみる？もしお父様とお母様が、自分たちが手塩にかけて育てた娘が、人の彼氏を誘惑するような女だと知ったら、さぞがっかりなさるでしょうね？」「あんた！」満が怒りで顔を白くするのを見て、結衣は軽やかに笑って言った。「これからは私の彼氏に近づかないで。さもないと、この録音をネットにばら撒いて、あなたがどんな性悪女か、みんなに知ってもらうことになるわよ」満は慌てて逃げ出した。結衣はオフィスに入ると、不機嫌そうにほむらを見た。「ほむら先生、女性がオフィスにいる時は、ドアを開けておくべきだって、ご存知ないの？」ほむらは結衣を見て、優しい声で言った。「結衣、やきもちか？」「やきもちなんて焼いてないわ。ただ、誰かに陥れられても気づかないなんてことにならないように、忠告しているだけよ」もしあの時、ドアの外に立っていたのが自分じゃなくて他の誰かで、満がわざと誤解を招くようなことを言っていたら、ほむらは百口あっても弁解できなかったでしょうね。「分かった、分かった。これからは、恋人の言葉を胸に刻んで、絶対に他の異性と二人きりで部屋にこもったりしないと誓うよ」「なら、いいわ」結衣のツンとした顔を見て、ほむらは思わず口元を綻ばせた。「今日はどうして会いに来たんだい？」ここ数日、結衣は昼間は法律事務所で働き、夜は病室で時子の面倒を見て、目が回るほど忙しかった。彼への返信でさえ、数時間おきだった。ちょうど彼も最近少し忙しく、手の骨折で手術はできないものの、院長から他の仕事をたくさん割
秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第378話
明輝はそれを見て、一瞬視線を止めたが、すぐに逸らした。「今、お前に聞いている！株を返すのか、返さないのか！返さないというなら、親子の情など顧みないと思え！」結衣は俯いて手元の傷口を見ると、無造作にティッシュを一枚取って押さえた。「明輝さん、あなたはいつ、親子の情など顧みたことがありますか？あなたの娘は満さんであって、私ではありません。その言葉は、どうぞ彼女におっしゃってください」明輝は理性を失いかけ、手を上げて結衣を叩こうとした。結衣の後ろに立っていた二人の黒服のボディーガードがすぐに前に出て彼女の前に立ちはだかり、冷たく明輝を見据えた。その威圧感は相当なものだ。明輝はばつの悪そうに手を下ろし、怒鳴った。「結衣、覚えていろ！」そう言うと、彼は立ち上がってまっすぐ病室のドアへ向かった。静江はそれを見て、結衣をきつく睨みつけると、同じく立ち上がって後を追った。二人が去ると、和枝は慌てて結衣のそばへ歩み寄り、心配そうな表情を浮かべた。「お嬢様、これからどうしましょう。次男様が、大奥様が株をすべてお嬢様に譲られたと知ったら、きっとまた騒ぎに来られますわ」結衣の表情は落ち着いていた。「その時になったら考えばいい。今、心配しても仕方ない」彼女は黒服のボディーガードたちを見た。「今日から、あなたたち四人は病室の入口で待機して。もう誰も、おばあちゃんの静養の邪魔をさせないで」「はい、汐見様」ボディーガードが去った後、和枝は床に散らばった陶器の破片と茶を掃除し始めた。結衣のそばまで来た時、彼女の顔色が突然変わった。「お嬢様、怪我をしています！」結衣は俯いて自分の手の甲を見た。先ほどの傷口から滲み出た血はすでに固まっている。「大丈夫よ。後で絆創膏でも貼っておくから」「とんでもございません！ほむら先生に診てもらってください。化膿しては一大事ですよ！」和枝に強く言われ、結衣はほむらのところへ行くしかなかった。ほむらのオフィスのドアの前に着いた途端、中から甘ったるい声が聞こえてきた。「ほむら先生、これは私が手作りしたお菓子ですの。どうぞ、召し上がってください」続いて、ほむらの氷のように冷たい声が聞こえた。「お腹は空いていません。お帰りください」「ほむら先生、私に冷たすぎやしませんこと……」「ブサイクアレルギーなのかもしれませんな
秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第377話
「お嬢様、旦那様が病院で騒いでおります、早くお越しください……」和枝が言い終わらないうちに、電話の向こうから明輝の怒りに満ちた声が響いてきた。「結衣、まさかお前はこれほど腹黒い娘だ。母さんを騙して、自分の名義の汐見グループの株も和光苑も、すべてお前の名義にするとは！」その言葉を聞いて、結衣は瞬時に明輝がなぜ病院で騒いでいるのかを理解した。おそらく、時子が動けないのをいいことに署名させたあの遺言書を弁護士のところに持って行った結果、株がすでに自分の名義になっていることを知ったのだろう。どうりで、これほどまでに激昂しているわけだ。「腹黒さでは、あなたには敵いませんわ。おばあちゃんが動けないのをいいことに、ご自分で用意した遺言書に拇印を押させたあなたには」明輝は一瞬言葉を失い、結衣がそのことを知っているとは思ってもみなかったようだ。「何を馬鹿なことを言っているんだ？！」「私が馬鹿なことを言っているかどうか、ご自身が一番よく分かっているはずです」心にやましいところがあるため、明輝はその話題を続ける勇気もなく、怒鳴った。「今すぐ病院に来い！母さんがお前に譲った株は、我々に返してもらうからな！」電話を切り、結衣は本家の運転手に病院まで送るよう頼んだ。向かう途中、警備会社にも連絡を入れ、病院の入口で待機するように手配した。結衣が七、八人もの黒スーツのボディーガードを連れて病室に入ってくると、ソファに座っていた明輝と静江の顔が、見るも無残に歪んだ。明輝は怒りで顔を真っ赤にし、結衣を怒鳴りつけた。「何のためにこんな連中を連れてきたんだ？！」結衣は彼らの向かいに腰を下ろし、淡々とした表情で口を開いた。「別に。ただ、身を守るためです。いざという時に、手を出されて損をするのはごめんですから」以前、明輝と静江が彼女に手を上げたことは一度や二度ではない。今はただ、未然に防いでいるだけだ。明輝は彼女を指さし、その指は怒りで震えていた。「この親不孝者め、私を怒り殺す気か！」結衣はその言葉を無視した。「株の話をしたいのでしょう？どうぞ、始めてください」その言葉に、明輝はようやく本題を思い出し、冷たい目で彼女をじっと見据えた。「汐見グループの株は、本来なら私とお前の叔父とで半分ずつ持つべきものだ。母さんがすべてお前の名義にしたが、私もお前の叔父も
秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第376話
結衣は彼女を振り返った。「和枝さん、今日、裁判の開廷があって、もう間に合わないの。おばあちゃんのことはお願いね」そう言うと、身を翻して急いで出ていった。和枝は朝食を持たせようとするが、それを持って結衣を追いかけようとした時には、もう彼女の背中は角に消えていた。「はあ……」和枝はため息をつき、朝食を置いた。大急ぎで、結衣はなんとか開廷五分前に法廷に到着した。拓海はとっくに資料を準備して入口で彼女を待っており、結衣の姿を見てほっと息をついた。「結衣先生、やっと来ましたね。早く中へ！」「ええ」結衣は案件資料を受け取り、ドアを開けて中に入った。幸い、裁判は順調に進み、二時間もかからずに終わった。資料を片付け、結衣と拓海は一緒に裁判所を出た。「そうだ、拓海くん。これからしばらく忙しくなるかもしれないから、手持ちの案件をできるだけ早く整理するわ。明日から新しい案件は受けないことにして、事務所の案件はあなたに担当してもらって、私は補助に回るから」拓海の目に驚きが浮かんだ。「結衣先生、どうしてですか？」「おばあちゃんが脳出血で倒れたことはあなたも知っているでしょう。後遺症で片麻痺と失語症になって、汐見グループの経営ができなくなったの。他の人には任せられないから、私が行くしかないわ。だから、法律事務所の仕事は一旦、休止しないといけないの」一ヶ月の間、法律事務所と汐見グループを行き来していては、時間の配分がうまくいくはずがない。どちらか一方に集中するしかない。拓海の顔は少し曇ったが、受け入れるしかなかった。「はい、分かりました。頑張ります」「ええ、あなたならきっとできるわ」法律事務所へ戻る途中、結衣は警察署から電話を受けた。佳代が、誰にもそそのかされていないと一点張りで、時子様が息子の賭博の借金を返すためのお金を貸してくれなかったことを恨んで、わざと降圧剤をすり替えたのだと聞かされ、結衣は目を伏せ、その瞳に冷たい色が浮かんだ。「はい、分かりました。お巡りさん、ありがとうございます」電話を切り、結衣は拓海に車を路肩に停めるよう言った。「私は事務所には戻らないわ、あなたは先に戻って」拓海の車を見送ると、結衣はタクシーを拾って本家へ直行した。執事が彼女を見て、慌てて駆け寄った。「お嬢様、どうしてお戻りに？」「
秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第375話
彼の声は低く、どこか甘く誘うような響きがある。その声は結衣の鼓膜を震わせ、そのまま胸の奥まで染み渡るかのようで、心臓までもが騒がしく鼓動を始めた。彼女は手を伸ばしてほむらを抱きしめ返し、低い声で言った。「ええ。でも、明日からにしましょう。今夜は、私がおばあちゃんのそばにいたいから」ほむらは軽くため息をついた。「分かったよ」彼が立ち去った後、結衣はベッドのそばへ歩み寄り、時子の手を握った。「おばあちゃん、誰があなたの降圧剤をすり替えたのか、もう突き止めた。その裏にいる黒幕も、きっとすぐに見つけ出す。だから、今は何も考えずに、ゆっくり休んでくれ。何があっても、私がずっとそばにいる。もう二度と、誰にもあなたを傷つけさせたりしないから」時子の目尻から涙が滑り落ち、感情が高ぶったように「うー……うー……」と声を発した。時子が何かを言いたげにしているのに気づき、結衣は彼女に顔を近づけた。「おばあちゃん、何を言いたいのか？」「うー……会……うー……社へ……」結衣は目を伏せ、時子の双眸を見つめて言った。「おばあちゃん……私に、汐見グループを継いでほしいのか？」「うん……」時子は苦しそうに頷いた。結衣は時子の手を握る力をゆっくりと強め、しばらくして、ようやく決心を固めた。「分かった。引き受ける。私が、汐見グループを継ぐ。でもその前に、おばあちゃんは必ず元気になってくれ。でないと、私、安心して会社で働けないから」「うー……うう……分かった……」時子が眠りに落ちた後、結衣はソファに戻って腰を下ろした。今回、時子が何者かに陥れられたことで、結衣は悟った。自分が汐見家の争いに巻き込まれたくないと願っても、相手は自分を見逃してはくれないのだと。守りたい人を守るために汐見グループを継ぐしかないのなら、それを受け入れるしかない。しかし、会社を継ぐ前に、裏でこそこそと動いている人間を一人残らず見つけ出さなければならない！翌朝、和枝が結衣と交代するためにやって来た。病室のドアを開けると、ソファの上で薄い毛布だけをかけて丸まって眠る結衣の姿が目に入り、和枝の目に心配そうな色が浮かんだ。時子が脳出血で入院してからというもの、静江と満は一度も世話をしに来ようとせず、結衣だけが昼間は仕事をし、夜は病室で時子に付き添っている。そ
