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18話 嫌味な兄

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-08-03 13:10:06

「そちらの女性は……父さんに無断で女を連れ込むとは……見ない内に成長したものですね」

「いえ彼女はそういうのではなくて……」

 ロンドさんの兄なので弟に似て優しく誠実な人だと思っていたが、言葉の節々に棘を感じ似ているとは到底思えない。

「あのっ……す、少しの間ですけどお世話になります……」

 嫌に感じても相手は圧倒的に目上の立場の人間だ。怒らせないためにも下手に出て礼儀正しくする以外ない。

「……貴方どこの家の出ですか?」

「えっ……?」

 彼は頭を下げるわたしに偉ぶるでも認めるでもなく、怪訝そうに何かを探るよう一歩引く。

「実は彼女は記憶喪失でして……この前兄さんにも行った探偵事務所の人に拾われてたんです。そこで助手をしていて……」

「いえ、もういいです。大体分かりましたから。それと……貴方のお名前は?」

「えっ……? シュ、シュリンです!」

「そうですか……私はリントと申します。まぁ短いでしょうがよろしくお願いしますね」

(い、嫌味ったらしい〜!!)

 "短い"という部分をわざと強調するように言い、最後にこちらに不敵な笑みを浮かべると背を向けて部屋から立ち去っていく。

 こんな短時間でかなり彼への印象が悪くなり、皮肉の一つでも言ってやりたかったがロンドさんこ立場もあるのでグッと堪える。

「あの人本当にロンドさんと血が繋がってるんですか……?」

「まぁ……僕とはあまり似てませんよね……でも根は良い人なんです」

「うーん……」

 ロンドさんは兄を庇うような言動を見せるが、わたしにはどうしても彼が良い性格の人だとは思えない。

 まぁ彼の言った通りそう長い付き合いにはならないだろう。ここに住まわせてもらうのは辻斬りを見つけるまで。それに少しすれば事務所だってまた使えるようになるはずだ。

(師匠……)

 しかし帰ったその場所に師匠は居ない。これからずっと一人で孤独に暮らしていかなければならない。

 そう考えてしまうとたまらなく恐ろしくなり、みるみる顔色を悪くしていってしまう。

「シュリンさん……あ、お水でも持ってきましょうか?」

「いや……そんなに喉渇いてないので大丈夫です。それよりちょっと一人に……」

「はい……何か用があればメイドに話しかけて僕を呼んでください。今日はもう外出する予定はないですから」

「ありがとう……ございます」

 彼の優しさが胸に沁みるが、それ
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