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第三章:一歩踏み出す夜

Author: 相沢蒼依
last update publish date: 2026-07-29 07:24:37

なんだかイヤな予感がした夜、俺は指先に小さな震えを抱えながら、再び九条邸の門をくぐった。

最後にここを訪れた日から、ほんの数日しか経っていないはずなのに、ずいぶん遠い場所に来てしまったような気がした。

あの日、司の言葉に何度も胸を打たれて、部屋を出る頃には足元がふわふわしていた。それは温かいものに触れたあとの、名残のような浮遊感。だからこそこの扉を、また自分から叩いていいのか。それを決めるまでには、少しだけ時間が必要だった。

呼び鈴を鳴らすと、穏やかな笑顔の管理人・吉岡さんが応対してくれた。彼女はカーディガンを羽織っていて、手には掃除道具を持っている。きっと日課の途中だったのだろう。

「おや芹沢さん。いらっしゃい」

「あの、突然すみません……司さんは、ご在宅ですか?」

吉岡さんは一瞬だけ目を細め、それから小さく頷いた。

「ええ、いますよ。コンサート前なのに、今日はいつになく落ち着いていらっしゃるように見えました。朝から、ピアノの部屋にいらしてました」

その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。

「よかった……」

「お通ししましょうか?」

「はい、お願いします」

重厚
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