登入ゲームに没頭している間は良い。現実で起こる嫌なことを簡単に忘れてしまえるからだ。
出来る事なら目の前の、仮想現実が現実になれば良いのに。
最近流行りの異世界転生なんて都合の良い話、起こるはずが無いと分かっていても無意識に願ってしまうのは、そんな突拍子も無いことである。
実際は、そんな世界に放り込まれたらきっと、直ぐにゲームオーバーになりブラックアウトをしてしまうだろう。何度失敗してもやり直せる状況というものは、その世界が意図的に作り出された幻のだからこそ成立する条件でもある。たった一度しかない現実という場において、そのような都合が良いことは起こるはずも無い。仮に仮想現実が現実になった場合、それがリアルに変わった瞬間に、設定されていたご都合主義が一気に消えて無くなる可能性は高い。ただ、それを分かっていたとしても、一度はそこへ逃げ込んでみたい。そう考えてしまうほど、追い詰められているのが今の状態で。それに気が付きどうしようも無くなった瞬間、思わず笑いが込み上げてしまった。
「っっ!」
目の前に迫る脅威。反射的に取った行動により大きく振った右手が、勢いよく机の角へとぶつかり思わず声が出てしまう。
「くっそ!」
当てた場所が悪かったのだろうか。
手の甲についた小さな擦り傷。皮膚が破れた場所から逃げ出すようにして、ゆっくりと赤い染みが広がっていく。視覚的にそれが【傷】だと認識すれば、患部に広がる鈍い痛み。傷自体は決して大きくも、深くも無い。それなのに、確かにそれは【痛い】んだと言う事を思い知らされる。
「あっ!」
聞きたくない音。別のことに気を取られている間に表示された文字は、操作キャラクターが行動不能になった事を知らせるものだ。
「マジかよ……」
怪我のせいで移った意識。直前まで行っていた作業は完全に止まり、視線が画面に戻るまで時間がかかる。その間に続いているのは戦闘状態を知らせる音楽で、攻撃が当たる度に操作キャラクターが呻き声を上げダメージが蓄積していく。
「あっ!」
最終的に耳に届いたのは、一番聞きたくないと思っていた効果音。別のことに気を取られている間に表示されている文字は、操作キャラクターが行動不能となった事を知らせるものである。
「マジかよ!?」
ここまでのプレイ時間は決して短いものではない。リリースされたばかりで改善点が多いアプリのため、シナリオのスキップ機能はまだ未実装の状態。もう少しで新規のキャラクターを入手するためのチュートリアルに進めそうだったのに、それを手前にして要求されたのはやり直しの宣告で、再び同じ作業を行わないといけないことに一気に疲労が押し寄せてくる。
「……はぁ、しんど」
こうなってしまったらどうしようもない。どう頑張っても修復不能なミスを取り戻すためには、再び同じことを繰り返すことを避けられない状況。
気持ちを切り換えるためにと席を立ち、一端向かうはキッチンで。ストックしたばかりの二本目のアルコールを取り出すと、プルトップを起こして栓を開け、一気に中身を煽っていく。普段飲み慣れない独特の苦みが広がり顔を顰めるが、直ぐに火照る身体のせいで段々と気分が良くなっていくのは不思議だと感じてしまう。頭が程よく飽和状態へと変われば、先程の怒りなんてどこへやら。酒と一緒に手に入れたスナック菓子の袋を摑むと、それらを持って再びPCの前へ。
気を取り直してもう一度。キャラクターを操作し向かうは、このシナリオの最終ステージで、チュートリアルを終わらせるために配置されているボスの居る部屋だ。二度目の攻略だからか、初見の時よりも操作は実にスムーズに進む。そうやってサクサクと先へ進んでいけば、先程かかった半分ほどの時間で目的地に到達してしまった。
「まぁ、そんなもんよな」
このままの勢いで戦闘に突入したが、酔いのせいか上手く回避することが出来ずに攻撃が当たる。それでもなんとかゴリ押しで無理矢理倒し、漸く念願のキャラ選択画面に辿りつくことができた。
「さぁ、引くぞー!」
元々、このゲームはキャラビジュアルが気になったからインストールを決めた物だ。
ストーリーをそのものを楽しむのことは勿論だが、ソーシャルゲームの醍醐味と言えばやはり、ガチャシステムを楽しむことだろう。まぁ、実際はというと、来るか来ないかで一喜一憂。運良く少ない手数で目当ての高レアリティが来たら救われるが、運が悪ければ天井という救済措置まで目的のキャラクターを入手することはできない。そこで迫れる課金の有無に、理性と欲望が鬩ぎ合い、毎度苦しみを味わってしまう。それでも結局はこうやって、貴重な時間を費やしてまでゲームの世界に没頭してしまうだから、もうどうしようも無いのかも知れない。
「うっ……」
それでもって、結果がどうなったかというと、配布された無料チケット分では高レアリティと呼ばれる強いキャラクターを獲得することができなかった。
「やっぱ、そうなりますかー」
現実なんて、本当に甘く無いものだな、と。諦めたような笑いが零れそっと瞼を閉じる。深く息を吐いてから取り戻す平常心は、改めて突きつけられた現実に直ぐに揺らぎそうになるから危うくて仕方が無い。
初心者限定で回せる救済ガチャは、この後シナリオを薦めていけば専用のチケットが手に入るだろう。
そのため深追いする必要は無いと、即座に思考を切り換える。
次に開いたのはメニュー画面で、赤い印の付いたメールのアイコンにカーソルを移動し、その項目を開放させる。事前登録者数の累計数と、目標を達成した事を祝うおめでとうのメッセージ。報酬として、配布を予定されていた高レアリティのキャラクターが一体と、限定キャラのピックアップでも使用できる無償のガチャアイテムが十連分。その他にも、キャラクターの育成に必要な素材やゲーム内で使用するお金のようなアイテム、様々なステータスを回復させる薬や食事などと言ったアイテムと、プロフィール画面で使用出来るアイコン用のフレームがプレゼントされている。
その他に届いているお知らせは、リリースの際に発覚したバグを修正した旨を詫びるものや、提携しているサービスに登録したときの報酬などがいくつか。 それらを全てかき集めて、再び挑むのは限定キャラクターのピックアップ画面。
「……ふぅ」
元々は、初心者のスタートダッシュ用で獲得出来るキャラクターより、こちらの限定ピックアップのキャラクターを入手することを目的としていたため、この瞬間は何よりも緊張してしまう。
「では、いざ!」
キャラを獲得するために設置されている二つのボタン。数字の大きな項目をアクティブにすると、十連で来ますようにと繰り返しながら操作を確定させる。
「…………」
アイテムを消費しても良いかの確認で一度躊躇い、改めて覚悟を決めてもう一度。処理が終わりアイテムの在庫がの残数が変化すると、直ぐにキャラクターが選別されるアニメーションへと切り替わる。 色の違いによって分かるキャラクターの強さの等級。殆どが比較的手に入りやすい低レアリティの色へと変化するが、その中でいくつか色の違う演出が含まれている。
「…………」
十体分の色が確定すると、あとはキャラクターが開放されていくだけ。その開放画面に切り替わるまでに色の変化が起こらなければ、そこに表示されたレアリティは確定となり、入手キャラクターは色で表示されたものからランダムで表示されるということになる。
「そんな……」 信じられない。そう思いはしても、手に入れた情報は男の言葉が真実であると言う事を指し示している。「死者からの依頼だなんて、そう簡単に信じられる訳がないじゃ無いか!!」 常識が邪魔をする。信じたくないと本能が警鐘を鳴らす。明らかな異常から目を背けるのはきっと、危険を回避したいと強く願う防衛本能が働くからだろう。「信じたくないと言っても、これが今起こって居る現実だろう? 自分の目で見ても信じられないって言いたいのか?」 突きつけられる事実が現実だと言われた途端、酷く頭が混乱した。「でも……確かに聞いたんだ。電話で、住んでる人達の声を……」「電話の向こう側に本当に【生きている人間】が存在していたと思うのか?」「え?」「電話から聞こえてくる音ってのはな、人の耳に聞こえるように【調整された作られた音】なんだ。その音が本物かどうかなんて、どうやって確かめるんだよ?」「それは……」 モニターの中で四つの顔がこちらを見ている。その眼窩は酷く落ち込み、本来瞳がある場所には真っ黒な空洞があるのみ。「この黒電話ですら周波数を調整して通話の相手に音が伝わっているんだ。顔を見たことの無い相手の声が、俺達と同じ場所から発信されているものかどうかなんて、誰にも分かりはしないんだよ」「っっ……」 頭では分かっている。それを認めてしまった方が楽になるのだと言う事は。「でも、俺は生きているし、今までそんな事に遭遇した事なんて無いんだよ。そうだよななんて、そう簡単に信じられる訳無いだろう……ん」 それでも常識がそれに歯止めをかける。認めてしまうと後戻りが出来なくなる事を感じて居るのだから。「いずれにせよ、毎正時の電話は対応しないといけない」 相変わらず監視モニターの中で此方を見る住人はそこに居続けている。「そうしないとこの場所に捕らわれ、最終的には俺達もこうなる可能性が高いからな」 目の前のガラスの向こうには存在していない彼等の姿が。「悪いが俺はこうはなりたくない」 彼らを睨む男の目には強い決意が宿っていた。「何としてでも、この建物から出る方法を探してやる」 その姿は初めて会ったときの不気味で情けないものではなく、どうしようもな状況を打破するために戦う事を選んだ戦士のような頼もしさを漂わせているもので。「残り時間はあと一日と数時間……」
「逃げるぞ」 緊迫した空気の中、震える彼の声が廊下に響く。「逃げるぞ!!」 言い終わった瞬間、彼は一目散に階段を目指し走り出した。「お、おい! 待てよっっっっ!!」 慌てて彼の後を追い、自らも階段へと急ぐ。背後からはエレベーターの扉が開く気配。それを確かめたいと思いながらも、彼の見せる異様な焦りに引っ張られるようにして、振り返ることなく急いで階段を駆け下りる。 三階、二階、一階……と階を移動し辿りついた管理人事務室。捲し立てられるようにして鍵を開けさせられると、彼に肩を掴まれ無理矢理部屋の中へと押し込まれる。 続けて彼自身が部屋の中に飛び込み扉を閉め鍵をかけた瞬間、管理人事務室の窓が激しく動き、大量の手形がガラス一面を覆い尽くした。「ひぃっ!?」 何かが居る。姿は見えないが確かにそれがガラスの向こう側に居る事ははっきりと分かる。「……はぁ……はぁ……」 男は以前にも同じ事を経験しているのだろうか。遭遇している現象に怯えている自分とは異なり、比較的落ち着いた様子で目の前のガラスを睨み付けているところを見ると、その可能性は高そうである。「思ったよりも早い」 窓ガラスを叩く音は激しさを増し、いつか枠から外れて割れるのでは無いかとすら思えて、ますます震えが止まらない。いつ終わるかも分からない恐怖体験は、朝が来るまで続くのだろうか。 壁に掛けられた時計の数字を確認すると、時刻は一時四十六分。朝が来るまであと五時間以上も残っている状態。「この状況って、一体何なんだよ!?」 耐えられずそう叫ぶと、その声に反応するかのように窓ガラスを叩く音がピタリと止んだ。「…………え?」 先程までは耳を塞いでも音が止む気配は無かったのに、今は耳が痛い程の静寂がガラスの向こうに広がっている。「……何……が……」 ガラスに残された無数の手形。ただ、それらは時間の経過と共に一つずつ視界から消えていく。「消え、た」 最後の手形が消えた瞬間、一気に疲れが押し寄せその場に崩れ落ちる。漸く不可解な現象から解放されたという安心感のせいか、膝が笑って力が入らない。情けなく笑い終わったんだよなと男に声をかけると、男は一瞬だけ此方を見た後でモニターをのぞき込み渋い表情を見せた。「集まってきた」「…………え?」 集まってきたとはどういうことなのだろう。「何を言ってる
異様に静かな廊下には、生暖かく湿った空気が漂っている。 玄関の硝子の向こう側で激しく降り続ける雨が止む気配は無く、耳障りな雨音が途切れること無く続いている。雨脚が強いため外の様子は分からない。ただ、ぼんやりとした灯りが見えることから、今日は正常に電気が来ているらしいことだけは分かった。「あれ?」 エレベーターの前でシンジゲーターを確認すると、そこに表示されている数字は【一】となっており、昇降機自体もそこに存在している事に驚いてしまう。「なぁ。エレベーターが動く音って聞こえたか?」 エレベーターが始め、何階で止まっていたのかは分からない。ただ、シンジゲーターの数字を信じるのであれば、この機械は本来、四階に止まっていないとおかしいことになる。現在のフロアに機械を下ろすのであれば必ず、何かしらの音が聞こえるはずなのに、今までそのような音は一度も聞いていない。そのことを隣に立つ男に尋ねるのだが、男自身も不思議に思っているらしく、小さく首を振って「いや」とだけ言葉を返してくる。「動いている音は聞こえなかったし、モニターを見ている限りでは動く気配すら無かったぞ」「それじゃあ、何故……」 考えられる可能性は、始めからエレベーターは動いていなかったというもの。だとしたら、あの映像は一体なんだったのだろうか。 改めてシンジゲーターに表示されている数字を確認するのだが、その数は一のままで変化する気配は全く感じられない。方向ボタンを押して中に入り操作盤を確認してみても、ボタンの数は三階までのものしかないため、四階のフロアが存在しているという事実はなさそうである。試しに一番上のボタンを押しフロアを移動してみるが、到着したのは三階で、これ以上、上のフロアに移動することは無かった。「よく……分からないな」 それでも、確かに表示されていた四と言う数字を見たのは事実だ。今確認したことと、先程画面越しに見た情報。大きな矛盾が目の前に突きつけられ、頭が混乱してしまう。無意識に階段へと視線を向けるが、上がった先にあるのは朝に見たのと同じ金属の扉で、そこを開けると屋上に繋がっていて住居スペースは存在しない。 三以上の住居スペースが無い以上、モニター側の不具合である可能性が高くなってきた。「映像が差し替えられている可能性とかあったりするんかなぁ?」 一番
その口ぶりから受ける印象は、完全なる消失を意味しているだろうということだ。「俺の目の前で消えたんだ。まるで、始めからその人が存在していなかったかのようにぱっとな」 この言葉を聞いて感じる怖気。本来ならば訳の分からない場所から解放されたことを喜ぶべきなのだろうが、この話はそんなに単純な事では無い気がして落ち着かない。「まぁ、元の場所に戻ったから、もうここには居る必要がなくなったって感じなんだろうけど、なんて言うかなぁ……もう二度と会えなくなるのかと思うと、なんとも言えない気持ちにはなるよなぁ」 男の言う元の場所とは、どこを指しているのだろう。現実なのか、夢なのか。それともこことは別の雨月マンションの中なのか。残念ながら、その答えを知る前任者は、もう既にこの建物の中から居なくなってしまっている。「まるで、ゲームみたいだ」 現実味の無い生活。思った通りに進むことが無い時間。自由の無い空間の中で、決められたタスクを淡々とこなす。日によって行う任務の内容は変わるが、その行動自体はいつもと同じ。 確かに現実世界でも、日々の生活において繰り返しの行動が無い訳では無い。そでもこんな風に、やらなければ取り返しがつかない妙な義務感というものは、そう頻繁に起こる事では無いだろう。「なぁ……聞いても良いか?」 いつの間にか監視モニターを覗き込んでいる男に向かって声をかける。「もしさ。この世界がゲームの世界だとしたら、無事に生きて出られると思うか?」 自分でも馬鹿な事を聞いているという自覚はある。しかし、どうしてもその言葉を口に出さずには居られない。「俺には良く分からないけど、生きて出る事は可能なんじゃないかな?」 相変わらず男は此方に目を向けることも無く、目の前のモニターをコツ、コツと叩いているだけ。「依頼を達成出来なくても死ぬことは無かったから、怪我をすることはあっても、条件を設定している奴らに殺されるってことは無いと思う」 まるで何かを探すように、映し出される空間を行き来する視線。「まぁ、…………………………。って感じではあるけどな」「……………………」 どうしてこうなったのだろう。改めて、今まで自分の身に起こったことを振り返りながらそんなことを考える。「…………ダメだ。わかんねぇ……」
「このエレベーターってさぁ、今、一体、どこにあるんだろうな?」 画面に映る数字は相変わらず、存在するはずの無い四つ目のフロアを示したまま動く気配が無かった。「…………ひょうじ……エラーじゃ……ねぇの……?」 きっと、機械の不具合でインジケーターに不具合が出ているだけだろう。何も不思議なことなんて無いと強く否定するのに、男は意味深に笑いながらこちらの言葉を否定してくるのは何故だろう。「どうなんだろうなぁ?」 男の指が画面をゆっくりと撫でる。「本当かどうかを確かめるなら、エレベーターを呼び出してみれば良いんじゃないか?」 さも当たり前のようにそう言われて思わず言葉に詰まってしまう。「そう……だけど……」 頭では分かっている。男の言った通り、異常を見せるエレベーターを直接見て確認することが、何よりも簡単で確実な方法だという事は。 ただ、それを躊躇っているのは単純に、何が起こるのか分からないという怖さを感じて居るせいである。 幾ら人が増えたとは言え、この男のことを心から信用出来るほど付き合いが長い訳では無い。余りにも気楽に話せていたせいで忘れて居たが、彼との出会いは最悪な状態からのスタートなのだ。身元どころか、未だに分からない事が多すぎるのに、男の言葉を信じて行動が出来るほど強い精神力は持ち合わせて居ない。「何なら、一緒に確認しに行ってやろうか?」 いつまでも行動を起こさない此方に痺れを切らしたのだろうか。机の上に置いてあった懐中電灯を手に取ると、男はそれを差し出しながらどうするのかと尋ねてきた。「一人で行く訳じゃないし、距離だってそんなに遠くない。ほんの数メートル移動するだけじゃ無いか。何をそんなにビビってんだよ?」「……それは……」 エレベーターと管理人事務室までの距離はそれほど離れている訳では無い。だから、何かあっても直ぐに管理人事務室に引き返すことは可能である。ただ、それでも向かうのを躊躇ってしまうのは、未だに窓ガラスに残されたままの手形が気になって仕方ないからだ。「でも、この部屋の外には何かが居るんじゃ…………」 大きな音が聞こえたとき、手形を付けたものの正体までは見えなかった。ガラス越しに廊下の様子ははっき見えていたはずなのに、姿無き者が残した奇妙な痕跡。もしかしたらその正体が分からない何かは、未だ
「じゃあさ、フレンドにならねぇか?」 思った以上にゲームの話題で盛り上がれたことで気分が大分良くなっていたからだろう。せっかく出しフレンド登録をしないかと誘ってみると、相手は直ぐにその提案に乗ってきた。「やったぜ!」 互いにユーザーIDを調べるため携帯端末の電源を入れて画面を操作し始める。自分の端末は直ぐにアプリのロードが終わりホーム画面が表示されたのに、相手の端末はアップデートをこれから行うため、中々アプリが起動出来ない。「あ」 極めつけに表示されたのは【アップデートに失敗しました。データ容量を確保してください】というアラートで、端末の中を整理しない限りはアップデートを終わらせるのは難しい状況になってしまった。「うわぁ……マジかよぉ……」 差し出された画面を見て、思った以上に落胆している自分に気が付き自分でも驚く。「せっかく一緒にプレイ出来ると思ったのに」 そう言うと、相手は申し訳なさそうに「ごめん」と謝り、画面を見て悩み始めてしまった。「どうしたんだよ?」「いやぁ……何か、消せるアプリが無いかなぁと思ってさぁ」 こちらの落胆に申し訳なさを感じてくれたのかも知れない。男は真剣に端末の中のアプリと睨めっこを始め、次々に不要と判断したアプリを削除していく。それでも中々確保出来ない空き容量に、次第に諦めの気配が漂い始め、遂にはお手上げだとギブアップを宣言してしまった。「スマン。なんとか空き容量を確保しようと頑張ったんだけど、今すぐには無理そうだ」 聞いてみるとクラウドにバックアップ出来ていないデータも端末に入れっぱなしにしているとのことで、それらのアップロードが終わらないと、ゲームのアップデートが進められないようだ。こればかりはどうしよう無いことなので、アップデートが終わった時に改めてフレンド登録をしようということにし、一端は諦めることになった。「それにしても……未だ二時にもなっていない、のかぁ……」 あれから随分と話し込んだと思っていたが、時計を見ると針は未だに一時台を指したままだ。「時計が止まった後は、時間の進み方が異様に遅くなるんだよ」 相変わらず携帯と睨めっこを続けながら、男はさも当たり前だと言うように答える。「正確には時計の進でいる速度は昼と大して変わらないんだろうけど、体感的には昼間よりも何倍も遅く時間が進んでいる感覚に