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作者: 仲原
last update publish date: 2026-08-13 19:06:39

「……げっ」

 確率の変動は無し。確定したレアリティの排出は見た目通りのもので、無意識に零れたのは落胆を表す一言。

 始めの十回では残念ながら、最高レアリティのキャラクターを獲得する事は出来なかった。

 気を取り直してもう一度。チュートリアルを進めて手に入れたアイテムと、メールアイコンに来ていたアイテムの残りを足して同じように十連を回すが、二回目も一つ下のレアリティまでが確定され最高キャラが来る気配はない。

「くそっ!」

 キャラ獲得が可能な期間はまだ二週間と余裕があるが、その二週間の間中、ゲームを普通にプレイして手に入れることが出来るアイテムで、確実にキャラが手に入るという保障がないのは悩み所。

「うぅ……」

 そこで頭を過ぎる嫌な文字。やってしまえという悪魔の囁きと、それは駄目だという理性の引き留めが膠着状態で時間だけが過ぎていく。

「……ふぅ」

 リセットマラソンをする事も考えたが、メールアカウントがユーザー情報と紐付けされているため、それも現実的には感じられない。無駄な労力を費やすくらいなら、社会人の都合を使って確実性を得た方が堅実的だ。

「よし!」

 色々悩んだ末に下した決断はというと、残っているアイテムでキャラを獲得できるのかを試すということだった。これでも駄目だったら諦めて、素直にアイテムを購入しよう。そう覚悟を決め三回分だけボタンを押していく。

 一回目は最低レアリティの色演出。

 二回目も同じ色で顔に浮かんだ渋い表情。

 もう後が無い三回目。

「……え?」

 ここに来て初めて見る色が現れ、昂ぶる気持ち。祈るように両手を握ると、神頼みの言葉を繰り返しながら結果が出るのを待つ。完全に高レアリティ排出の色だと確定すれば、後はキャラのビジュアルを確認するだけ。もう少しでお目当てのキャラとのご対面が訪れるかもしれない。そのことに喜びを感じる心の準備をし始めた瞬間だった。

「いっ……」

 突然襲われる激しい頭痛。

 目も開けられないような鋭い痛みに、頭を庇うようにして蹲り呻き声を上げる。それでも結果が気になり無理に瞼をこじ開け見た画面。涙に滲む視界の先には、虹色に輝くシルエットが楽しそうに手を振ってはしゃいでいる。

「なんっ……で、こんなっ……」

 そこで鳴ったのは携帯端末に設定していたアラーム音だった。

 午前、零時。

 また、この時間がやってきた。

 昨日よりも激しい痛みが断続的に続いているため、椅子に座っていることが出来ず床の上へと倒れ込む。

 全然引かない強い刺激。芋虫のようにのたうち回りながら必死に痛みが緩和するまで耐え続ける。それでもまったく改善する気配のない症状に、ついに大きな声で叫び声をあげてしまった。

「もう、やめてくれぇぇっっ!!」

 自らの声により耳の中でハウリングが起こったと同時に、乾いた破裂音のような音が辺りに響いた。

「……はぁ……はぁ……」

 少しずつ痛みが引き始めたことに気が付き、ゆっくりと目を開いていく。

「……え?」

 目の前に広がる光景。一瞬、それが何なのか分からず、間抜けな声を上げ固まってしまった。

「どこ……だ……? ここは」

 全く知らない見知らぬ場所。

 さっきまでは、確かに自室に居たはずだ。しかし、今目の前にある光景は、かなり大きな施設のホール。

「何よ! これ!!」

 背後から上がる声に反射的に振り返ると、気が付いたばかりの女性が怯えるように泣きながら文句を垂れている。

「何? 何なん? これ」

 また、別の場所で起き上がった男性は、落ち着いた様子で何が起こったのかを考え込んでいるようだ。

 周囲を見渡すと、自分以外にも何人もの人間が居ることに気が付く。未だ目覚めない者、目覚めて慌てふためく者、状況を楽しげに眺める者、怒り出す者など様々で年齢も性別にも一貫性がない。服装にしたってスーツを着ている者、パジャマを着ている者、仕事着の者やラフな格好をしている者、ドレスを纏った者とバリエーションに富み法則性は全く無さそうだ。

 ある程度の人間が目を覚ましたところで、突然ホール全体に鳴り響くファンファーレ。

『おっめでとうございまーす!』

 どこから現れたのか分からない巨大なスクリーンに映し出されたのは、CGで作られた男女のキャラクター。男キャラはいわゆるイケメンで、女キャラは可愛らしい見た目をしており、挨拶をするようにしてその場に居る人達に手を振っている。

『本日も、午前零時を無事に迎えました! ハッピーウェルカムリアルワールド! ナビゲーターのミラちゃんだよ〜!』

『同じく、ナビゲーターを務めるライだ。よろしくな!』

 突然の自己紹介をされても、このキャラクターが何のイベントのために作成されているのかが分からず戸惑ってしまう。

『ところでみなさーん。今、ものすごくビックリしてる人も多いと思いまーす』

 そんな心の内を見透かしたかのように、ミラと名乗った女性のアバターがタイムリーにそのような質問を投げかけてくることが少し怖いと感じてしまう。

『家でゆっくりしてたのに、予告なしに場所を移動させらてるんだから当然だよな』

 ミラの言葉に同意するように隣でライも頷いてみせるのだが、これは、この場所に始めて訪れた人に向けての反応で、始めから計算されているものなのだろう。

『その疑問に関して、これからちょーっと説明していくね〜。よそ見しないでちゅうもーく!』

 これから始まるのは、ゲームで言うならチュートリアルみたいなもののようだ。スクリーンに写るミラとライがそれぞれ左右の端に移動した科と思うと、二人の背後には真っ黒なモニターのようなものが現れた。

『ではまず。改めてみなさんにこの言葉を贈りたいと思いまーす』

 Congratulations!

 唐突にに贈られたものは、滑らかな英語の発音で祝う祝福の言葉。

「おめでとうって、どういうこと?」

 ただ、この言葉を贈られてもその意味が全く分からないのも事実で。自分が感じた疑問はどうやら、周りも同じように思ったらしい。誰もが首を傾げたり頭を振ったりしながら、理解が出来ないという意思表示を行っている。

『ミラちゃん』

『なぁに? ライくん』

 そんな人達の反応を楽しむかのように、画面上のキャラクターは笑いながら会話を続けていく。

『どうしておめでとうって言われてるのかちゃんと説明してあげないと、みんな困ってるみたいだけど?』

『あっ! ごめんなさーい!』

 うっかりやっちゃった。そんな風にウインクをしながら舌を出し、取ったジェスチャはごめんなさいのポーズだ。作られたあざとさに言葉を失うが、意図的にプログラムされているものに文句を言っても仕方が無いことも分かっている。

『これからちゃんと説明するね!』

 空中に浮かぶスクリーンの中で、ミラというキャラクターが両手を合わせる。重なり合った掌から響くのは乾いた音。一拍だけそれを行うと、人の視線が十分に集まったことを確認してから、後ろのモニターを指さし状況の説明を再開させる。

『皆さんは本日の抽選に当選した、とってもラッキーな人たちなんです』

『抽選に当選?』

『そうなの!』

 コントを見せられているかのように明るい雰囲気が、とてもこの場に似つかわしくないのも仕様だろうか。二人の背後にあった真っ黒なモニターにはいつの間にか、子どもの落書きのようなイラストが表示され、ぎこちないアニメーションで動きながら表示された文字を見てとアピールしている。

『抽選ってのはね。毎日午前零時に結果が出るように行われてるものだよー。で、当選した人は零時になったと同時に、ここに招待される。と、いう感じでーす!』

 ぱっと切り替わる明るい表情。彼女の背後では星が飛ぶエフェクトが現れ、画面は一気に賑やかなものへと変わる。

『でね。この場所に来ることができた人は、とーってもラッキーなのね』

『それは何故?』

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  • PLAYER   1st stage:33

    「そんな……」 信じられない。そう思いはしても、手に入れた情報は男の言葉が真実であると言う事を指し示している。「死者からの依頼だなんて、そう簡単に信じられる訳がないじゃ無いか!!」 常識が邪魔をする。信じたくないと本能が警鐘を鳴らす。明らかな異常から目を背けるのはきっと、危険を回避したいと強く願う防衛本能が働くからだろう。「信じたくないと言っても、これが今起こって居る現実だろう? 自分の目で見ても信じられないって言いたいのか?」 突きつけられる事実が現実だと言われた途端、酷く頭が混乱した。「でも……確かに聞いたんだ。電話で、住んでる人達の声を……」「電話の向こう側に本当に【生きている人間】が存在していたと思うのか?」「え?」「電話から聞こえてくる音ってのはな、人の耳に聞こえるように【調整された作られた音】なんだ。その音が本物かどうかなんて、どうやって確かめるんだよ?」「それは……」 モニターの中で四つの顔がこちらを見ている。その眼窩は酷く落ち込み、本来瞳がある場所には真っ黒な空洞があるのみ。「この黒電話ですら周波数を調整して通話の相手に音が伝わっているんだ。顔を見たことの無い相手の声が、俺達と同じ場所から発信されているものかどうかなんて、誰にも分かりはしないんだよ」「っっ……」 頭では分かっている。それを認めてしまった方が楽になるのだと言う事は。「でも、俺は生きているし、今までそんな事に遭遇した事なんて無いんだよ。そうだよななんて、そう簡単に信じられる訳無いだろう……ん」 それでも常識がそれに歯止めをかける。認めてしまうと後戻りが出来なくなる事を感じて居るのだから。「いずれにせよ、毎正時の電話は対応しないといけない」 相変わらず監視モニターの中で此方を見る住人はそこに居続けている。「そうしないとこの場所に捕らわれ、最終的には俺達もこうなる可能性が高いからな」 目の前のガラスの向こうには存在していない彼等の姿が。「悪いが俺はこうはなりたくない」 彼らを睨む男の目には強い決意が宿っていた。「何としてでも、この建物から出る方法を探してやる」 その姿は初めて会ったときの不気味で情けないものではなく、どうしようもな状況を打破するために戦う事を選んだ戦士のような頼もしさを漂わせているもので。「残り時間はあと一日と数時間……」

  • PLAYER   1st stage:32

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  • PLAYER   1st stage:31

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  • PLAYER   1st stage:30

     その口ぶりから受ける印象は、完全なる消失を意味しているだろうということだ。「俺の目の前で消えたんだ。まるで、始めからその人が存在していなかったかのようにぱっとな」 この言葉を聞いて感じる怖気。本来ならば訳の分からない場所から解放されたことを喜ぶべきなのだろうが、この話はそんなに単純な事では無い気がして落ち着かない。「まぁ、元の場所に戻ったから、もうここには居る必要がなくなったって感じなんだろうけど、なんて言うかなぁ……もう二度と会えなくなるのかと思うと、なんとも言えない気持ちにはなるよなぁ」 男の言う元の場所とは、どこを指しているのだろう。現実なのか、夢なのか。それともこことは別の雨月マンションの中なのか。残念ながら、その答えを知る前任者は、もう既にこの建物の中から居なくなってしまっている。「まるで、ゲームみたいだ」 現実味の無い生活。思った通りに進むことが無い時間。自由の無い空間の中で、決められたタスクを淡々とこなす。日によって行う任務の内容は変わるが、その行動自体はいつもと同じ。 確かに現実世界でも、日々の生活において繰り返しの行動が無い訳では無い。そでもこんな風に、やらなければ取り返しがつかない妙な義務感というものは、そう頻繁に起こる事では無いだろう。「なぁ……聞いても良いか?」 いつの間にか監視モニターを覗き込んでいる男に向かって声をかける。「もしさ。この世界がゲームの世界だとしたら、無事に生きて出られると思うか?」 自分でも馬鹿な事を聞いているという自覚はある。しかし、どうしてもその言葉を口に出さずには居られない。「俺には良く分からないけど、生きて出る事は可能なんじゃないかな?」 相変わらず男は此方に目を向けることも無く、目の前のモニターをコツ、コツと叩いているだけ。「依頼を達成出来なくても死ぬことは無かったから、怪我をすることはあっても、条件を設定している奴らに殺されるってことは無いと思う」 まるで何かを探すように、映し出される空間を行き来する視線。「まぁ、…………………………。って感じではあるけどな」「……………………」 どうしてこうなったのだろう。改めて、今まで自分の身に起こったことを振り返りながらそんなことを考える。「…………ダメだ。わかんねぇ……」

  • PLAYER   1st stage:29

    「このエレベーターってさぁ、今、一体、どこにあるんだろうな?」 画面に映る数字は相変わらず、存在するはずの無い四つ目のフロアを示したまま動く気配が無かった。「…………ひょうじ……エラーじゃ……ねぇの……?」 きっと、機械の不具合でインジケーターに不具合が出ているだけだろう。何も不思議なことなんて無いと強く否定するのに、男は意味深に笑いながらこちらの言葉を否定してくるのは何故だろう。「どうなんだろうなぁ?」 男の指が画面をゆっくりと撫でる。「本当かどうかを確かめるなら、エレベーターを呼び出してみれば良いんじゃないか?」 さも当たり前のようにそう言われて思わず言葉に詰まってしまう。「そう……だけど……」 頭では分かっている。男の言った通り、異常を見せるエレベーターを直接見て確認することが、何よりも簡単で確実な方法だという事は。 ただ、それを躊躇っているのは単純に、何が起こるのか分からないという怖さを感じて居るせいである。 幾ら人が増えたとは言え、この男のことを心から信用出来るほど付き合いが長い訳では無い。余りにも気楽に話せていたせいで忘れて居たが、彼との出会いは最悪な状態からのスタートなのだ。身元どころか、未だに分からない事が多すぎるのに、男の言葉を信じて行動が出来るほど強い精神力は持ち合わせて居ない。「何なら、一緒に確認しに行ってやろうか?」 いつまでも行動を起こさない此方に痺れを切らしたのだろうか。机の上に置いてあった懐中電灯を手に取ると、男はそれを差し出しながらどうするのかと尋ねてきた。「一人で行く訳じゃないし、距離だってそんなに遠くない。ほんの数メートル移動するだけじゃ無いか。何をそんなにビビってんだよ?」「……それは……」 エレベーターと管理人事務室までの距離はそれほど離れている訳では無い。だから、何かあっても直ぐに管理人事務室に引き返すことは可能である。ただ、それでも向かうのを躊躇ってしまうのは、未だに窓ガラスに残されたままの手形が気になって仕方ないからだ。「でも、この部屋の外には何かが居るんじゃ…………」 大きな音が聞こえたとき、手形を付けたものの正体までは見えなかった。ガラス越しに廊下の様子ははっき見えていたはずなのに、姿無き者が残した奇妙な痕跡。もしかしたらその正体が分からない何かは、未だ

  • PLAYER   1st stage:28

    「じゃあさ、フレンドにならねぇか?」 思った以上にゲームの話題で盛り上がれたことで気分が大分良くなっていたからだろう。せっかく出しフレンド登録をしないかと誘ってみると、相手は直ぐにその提案に乗ってきた。「やったぜ!」 互いにユーザーIDを調べるため携帯端末の電源を入れて画面を操作し始める。自分の端末は直ぐにアプリのロードが終わりホーム画面が表示されたのに、相手の端末はアップデートをこれから行うため、中々アプリが起動出来ない。「あ」 極めつけに表示されたのは【アップデートに失敗しました。データ容量を確保してください】というアラートで、端末の中を整理しない限りはアップデートを終わらせるのは難しい状況になってしまった。「うわぁ……マジかよぉ……」 差し出された画面を見て、思った以上に落胆している自分に気が付き自分でも驚く。「せっかく一緒にプレイ出来ると思ったのに」 そう言うと、相手は申し訳なさそうに「ごめん」と謝り、画面を見て悩み始めてしまった。「どうしたんだよ?」「いやぁ……何か、消せるアプリが無いかなぁと思ってさぁ」 こちらの落胆に申し訳なさを感じてくれたのかも知れない。男は真剣に端末の中のアプリと睨めっこを始め、次々に不要と判断したアプリを削除していく。それでも中々確保出来ない空き容量に、次第に諦めの気配が漂い始め、遂にはお手上げだとギブアップを宣言してしまった。「スマン。なんとか空き容量を確保しようと頑張ったんだけど、今すぐには無理そうだ」 聞いてみるとクラウドにバックアップ出来ていないデータも端末に入れっぱなしにしているとのことで、それらのアップロードが終わらないと、ゲームのアップデートが進められないようだ。こればかりはどうしよう無いことなので、アップデートが終わった時に改めてフレンド登録をしようということにし、一端は諦めることになった。「それにしても……未だ二時にもなっていない、のかぁ……」 あれから随分と話し込んだと思っていたが、時計を見ると針は未だに一時台を指したままだ。「時計が止まった後は、時間の進み方が異様に遅くなるんだよ」 相変わらず携帯と睨めっこを続けながら、男はさも当たり前だと言うように答える。「正確には時計の進でいる速度は昼と大して変わらないんだろうけど、体感的には昼間よりも何倍も遅く時間が進んでいる感覚に

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