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Auteur: 仲原

introduction:午前零時 01

Auteur: 仲原
last update Date de publication: 2026-08-06 07:44:12

 時刻は午前零時。

 回転する秒針とそれを緩やかに追う長針が綺麗に重なり逢瀬を果たした瞬間、強烈な目眩に襲われた。

「……っ」

 それと同時に遅い来るのは突き刺すような鋭い痛み。余りの痛さに表情を歪め、呻き声を上げながら頭を抱え込み机に突っ伏す。

「……うぅ……」

 自然に溢れ出す涙が視界を歪め、まともに目を開けていられる状態ではない事に感じたのは危機感で、目眩を振り払うように乱暴に頭を動かすと、手を動かし鎮静効果のある頭痛薬を探す。指に触れた箱の感触を確かめてから取り出した白い錠剤。躊躇うこと無くそれを口に含み無理に飲み込んで暫し耐えれば、徐々に症状が和らぎ、漸く瞼を開くことができた。

「一体……何だったん、だ……?」

 額に浮いた脂汗を乱暴に拭うと、こめかみを押さえながら吐いた溜息。机の上に置かれているのは温くなってしまったエナジードリンクで、三本目の残りがそろそろ無くなりそうなところまで減ってしまっている。

「寝不足、かなぁ」

 考えてみればここ数日、新規でリリースされたゲームをやりこんでいた自覚はある。元々夜中にしか自由に遊べる時間を確保出来ないのだから、必然的に削られていくのは睡眠時間だ。

「あ。空じゃん」

 無意識に手を伸ばし缶を傾けたところで気が付く違和感。それもそのはずで、未だ中身の残っている缶は手にしたものの隣に置いてあったもの。中身がなくなった時点で片付ければ良かったのだが、その手間すら掛けたくないほど熱中していたゲームを切り上げるタイミングが掴めず、こうやってゴミの山が生成されていくのを止められない。

「ってか、今日ってまだ木曜日かよ」

 正確には先ほど木曜日に変わったばかり。

「休みまであと二日もあるし」

 明日が休みなら、このままオールである程度片付けてしまいたかった。

 しかし、悲しいことに、普段からカレンダーに定められた曜日という概念に縛られる生活を繰り返しているため、休む理由も作れない社畜がゲームをやりたいからと休みを取るなんて、後が怖くて考えたくもない。

「もう少し進めたかったんだけどなぁ」

 そうは言っても体が休息を求めているのも事実だ。今現在の欲望と、明日に残る疲労と。それを天秤に掛けた結果、今進めているシナリオのムービーが終わったらゲームを終えるという選択を選ぶことにする。

「ここまでが限界か」

 中途半端な所で止めると先が気になる気持ち悪さが残ってしまうが、この際仕方が無い。ガイドに沿ってステージを移動し、オートセーブのポイントまでキャラクターを移動させてから落とすゲームアプリ。続きは明日、帰宅してから。そう自分に言い聞かせながら、机に溜まった空き缶だけ片付け、就寝の準備を手早く済ませてから、ベッドに潜り込む。毎日蓄積していく疲労が多いのだろうか。枕に頭を埋めた瞬間、気を失うようにして意識が微睡みへと引きずり込まれてしまった。

「おい!」

「…………」

「大丈夫か?」

「え?」

 突然肩に伝わる軽い衝撃。それに驚き顔を上げると、心配そうにこちらを覗き込む先輩の顔が傍にあった。

「お前、ぼんやりしていたぞ」

「あ……」

 何が起こったのか分からず、一瞬思考が止まる。

「本当に大丈夫なのか?」

 すると、今度は目の前で上下に動く大きな手が視界を遮った。

「だ、大丈夫、です」

 まずはここがどこなのかを把握しよう。

 手に取った社員証をICタイムレコーダーに翳しながら、目の前の手をやんわりと遠ざけ巡らせる視線。この空間は記憶にある。ここは自分が働く職場だ。

「お前、また夜更かししてゲームでもしていたんだろう」

 荷物を持ち自分の席へと移動すると、それを追いかけるようにして先輩が後に続く。

「で、昨日は何時に寝たんだ?」

「日付が変わって直ぐに寝ましたよ」

「本当かぁ?」

 先輩に行う入眠時間の自己申告。しかし、その言葉が信じられないとでも言いたげに、彼は表情を歪めてみせる。

「そう言って、また夜中の三時頃までゲームしてたんだろ?」

「そんなこと無いんですってば!」

 素直に報告をしたというのに、こんな風に疑われるのは心外だ、と。不機嫌を隠すこと無くそっぽを向くと、先輩から返ってきたのは呆れたという意味を込めた一言だった。

「日頃の行いが悪いから疑われるんだよ」

「うぐっ……」

 実際の所、先輩の指摘は正しかった。

 日頃から懇意にして貰っている関係で、彼に懐いているのは周知のことだ。流石に踏み込んだ内容までは相談したことは無いが、それでも社内に居る誰よりも自分の事を把握しているのはこの先輩に他ならない。つい最近も、新しくリリースされたゲームに嵌まってしまったと報告をしたばかり。行動パターンを把握されているのだから、相手がこちらを信用出来ないと言ったところで反論が出来なかった。

「その正論やめて」

 せめてもの反撃だと愚痴を零せば、分かってるなら生活を正せとこれまた正論で返されてしまう。

「先輩の鬼! 悪魔!」

「はいはい。何とでも言え」

 どれだけ挑んでも軽くあしらわれる。いつの間にか出来てしまっているパワーバランスは簡単に崩すことなどできるはずも無く、今日もまた、面倒見の良い彼に一本取られて終わり。

「そんなことより、先輩」

「ん?」

「何か今日、人、少ないんじゃないですか?」

 これ以上の反論は意味をなさないと判断した事で切り替わる思考。改めて職場を見渡すと、ふと、あることに気が付き違和感を感じた。

「夏風邪が流行ってるみたいだぞ」

「へぇ」

 普段なら着席し既に業務を始めているだろう同僚や後輩の姿が足りず、いくつかの席が空席のままになっている。真っ黒になったディスプレイに光が灯ることは無いため、その席の主が出社出来ないことは明らかだ。

「遅刻ってパターンも考えられるんじゃ」

「お前じゃ無いんだからそれは無いだろ」

 この人は、自分に対して一体どんなイメージを持っているのだろうか。筒状に丸めた資料。それでこちらの軽く頭を叩きながら、意地悪そうな笑みを浮かべる相手に対し、拗ねるように頬を膨らませてそっぽを向くことで主張するのは不愉快に感じたということ。

「信用して欲しいなら日頃の生活を改めな」

「厳しいぃぃ」

「当たり前だ」

 それじゃあ、頑張れ。その言葉を残し、先輩はさっさと自分のデスクへと戻ってしまった。

「今日も社畜は頑張りますよーっだ」

 沈黙していた電子機器が動き出したら本日の業務がスタート。いつもと異なる部分があったとしても、毎日続く平凡な一日が大きく変わることはあまりない。

 この人は、自分に対して一体どんなイメージを持っているのだろうか。筒状に丸めた資料。それでこちらの軽く頭を叩きながら、意地悪そうな笑みを浮かべる相手に対し、拗ねるように頬を膨らませてそっぽを向くことで主張するのは不愉快に感じたということ。

「信用して欲しいなら日頃の生活を改めな」

「厳しいぃぃ」

「当たり前だ」

 それじゃあ、頑張れ。その言葉を残し、先輩はさっさと自分のデスクへと戻ってしまった。

「今日も社畜は頑張りますよーっだ」

 席に着き電源を点けると、沈黙していた電子機器が緩やかに動き始める。真っ黒だった画面に流れるアニメーション。それは直ぐに切り替わり見慣れたデスクトップの画面が姿を現したところで、漸く本日の業務がスタートする。

 先ほど感じた違和感は、手を動かしているうちに忘れてしまうのだろう。何故なら、例えいつもと異なる部分があったとしても、毎日続いていく平凡な一日が大きく変わることはあまりないからだ。

 時間を気にしながら一つずつ。仕様書を確認しつつ進めていくタスク。

 小さな音を立てて指示を入力すると、プログラムがそれを処理していく。結果は今のところ良好。黙々と続ける作業は会話が殆ど無く機械的に鳴り続けるタイプ音だけが響いている。

「…………」

 邪魔にならないようにと重ねた資料はいつの間にか高さを増し、不安定なバランスでオブジェを形成していくし、その成長を止めることは未だ難しそうな状況で。これが完全に無くなり、机の上が綺麗になるまではまだまだ時間がかかりそうだった。

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  • PLAYER   09

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  • PLAYER   08

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  • PLAYER   07

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