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17.椿希の自宅へ

last update Last Updated: 2025-08-15 17:00:00

「なぁ。俺、本当に嫌なんだけど」

 椿希は重明に挨拶を済ませると、蛍と二人、歩きで駅へ向かう振りをしながら再び車に乗り込んだ。

 嫌がる蛍を連れて来た行先は、自分の家──つまり元 梅乃の自宅である。

「気味が悪い。あと、別に見たくない」

 そう拒否し続けるが、結局蛍は好奇心に負けてしまった。

 月が昇った頃、梅乃の屋敷の前に立つ。

「意外。もっとヤクザ丸出しって感じの家かと思った」

 蛍が車庫から出て、家を見上げた。

 確かに周囲の家に比べても不釣合いなほどの豪邸ではあるが、真理の家ほど空気が読めていない雰囲気では無い。

 一般的な塀に一般的な広い庭、広めのウッドデッキ、洗濯物にも困らないテラス。

 敷地面積もあるし、窓を見る限り三階建てでクリーム色の外壁に黒い瓦屋根。

 材質も工務店が建売で販売するレベルの『近所で少し豪勢な家』である。

 一つ違いがあるとすれば、防犯カメラの多さだが、そこは仕方ないだろう。

「近所にボスの家ってバレてんの ? 」

「古参の爺婆は知ってるらしいけど、別に普通。ここでなにか犯罪起きてるわけじゃないしね。梅乃様は学校でも優等生だったろ ? 」

「確かに。俺も梅乃が反社とは知らなかったし」

「山王寺グループ自体はまともにやってる表向きの会社もあるしさ。契約した会社のホームページが出てこないとか、住所が別な名義の会社だとか、他の詐欺グループはザラにあんじゃん ? 俺らはそんな事しないし。ボロも出さないよ」

 椿希は門番の部下に玄関を開けさせると、帰宅を命じる。

「まじで夜一人 ? 護衛とかは ? 」

 家の中に人の気配は無かった。

 時刻は既に19時。

 コンビニで買った弁当を片手に、蛍は家の中を見渡す。

 高そうな花瓶に造花の生け花。

 畳の大広間はいかにもな造りだが、それ以外はちょっと広い大家族の家と言う雰囲気だ。

「護衛は外だけウロウロするかもね。

 俺、家の中に人いるの嫌だもん」

「山王寺グループのドンが高校生で一人

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