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24.スケッチブック

last update Last Updated: 2025-05-24 17:00:00

「一度、負けてるから、どうしても勝ちたいの」

「美果ちゃん……貴方は生きて帰れたのよ ? 」

「わたし、今度こそ勝つ。その為に行くの」

 何を言っても聞かない意思表示。

 人助けではなく、勝つために行くと言う。

 こういう人間は止められない。今までルキのゲームに関わった者の中にも、多く存在したのだ。

「どうしてこうなっちゃうの……いつもいつも…… ! 」

 あの狂気の世界に依存してしまう。平凡な生活を送っていた者ほど、ルキと言う男を求めてしまうのだ。

「一体、ルキの何がそうさせるの ? 」

 山本  美果は変わってしまった。しかし結々花は一つ間違っている。美果を変えたのは蛍である。蛍のスケッチブック。それだけ美果にとって劇薬だったのだ。

「……無駄死にだけはやめて……」

「しませんよ」

「……どうしてこんな事に……。貴女を巻き込もうなんて、考えてなかったのよ !?」

「結々花さんも言ったじゃない……。グレーなこともするって」

 結々花は心底参った表情のまま、早退のタイムカードを切った。

「勝算があるのよね ? 」

「負ける気は無いですけど」

 □□□□□□

 蛍と梅乃のコンテナゲームが終了してから三日。

 早朝、蛍の医療コンテナに美果とルキが訪れ密かな戯れがあった後に戻る。

 時刻はゲーム開催、四時間前。

 シャワールームから出た美果が真新しいバスローブを羽織り、ウェーブした黒髪をドライする。

 鏡に写った背後には椎名とスミスが、ルキと共に古い映画を観ながら談笑していた。

 ここは船上にあるルキのプライベートルームだ。コンテナ船の全体が見渡せる、広い窓ガラスの高級ルームとなっていた。

 暫く唸っていた美果のドライヤーが止まる
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  • PSYCHO-w   25.探る

     ルキがやや押され気味の会話。 美果には取り付く島がない。 村長が大酒飲みうわばみと会話をしているようだ。「ねぇ。あんたさ、ケイくんが斎場で……シテるところ……本当に観たの ? 」 グラスを口元へ寄せるルキの手が止まる。「気になるかい ? ケイが普段やってる事に」 ルキは意外だとばかりに美果に笑いかける。 だが美果はルキのザラついた気配を見逃さなかった。「……。 再会してからずっと思ってたけど。あんた、嘘が下手よね」「んー ? 初めて言われたかな」「そう ? わたし、昔から人の感情とか嘘に敏感でね。分かっちゃうの。うまく説明出来ないけど、第六感みたいな感じなのかな。 ケイくんがしてる事に興味は無いけど……あんたがそれを観たとは思えないのよね」「どうしてそう言い切れるの ? ケイは俺の質問の全てに否定しなかったでしょ ? 」「あんた、ただ自分の想像の範囲だけで言ったんじゃないの ? それにわたし、朝は途中で退室したから最後まで聞いてないわ」 これは図星だった。 ルキは蛍ならご遺体をどうするかだけを想像して、カマをかけただけだった。カメラを仕込んだなどと言うのは大嘘。 蛍の反応で悟ったつもりのルキだったが、美果は全く別の情報を持っていた。 蛍がスケッチブックに描く、ある部分の共通点だ。 それは、ご遺体に刻まれたシンボル。 蛍は行為の後、気に入った死者には星座マークを体の見えない部分に損壊を与える。その死者の誕生月の星座のシンボルだ。 恐らく型があり、その通りに皮膚を焼き焦がす。 そしてその写真を撮り、後から部屋でスケッチブックに描く。完成した絵の隅には、ご遺体の名前、生年月日が書き込まれ、更には試食部位や味の違いが記されている。 美果はそれを絵で見ていた。 蛍から美果への&he

  • PSYCHO-w   24.スケッチブック

    「一度、負けてるから、どうしても勝ちたいの」「美果ちゃん……貴方は生きて帰れたのよ ? 」「わたし、今度こそ勝つ。その為に行くの」 何を言っても聞かない意思表示。 人助けではなく、勝つために行くと言う。 こういう人間は止められない。今までルキのゲームに関わった者の中にも、多く存在したのだ。「どうしてこうなっちゃうの……いつもいつも…… ! 」 あの狂気の世界に依存してしまう。平凡な生活を送っていた者ほど、ルキと言う男を求めてしまうのだ。「一体、ルキの何がそうさせるの ? 」 山本 美果は変わってしまった。しかし結々花は一つ間違っている。美果を変えたのは蛍である。蛍のスケッチブック。それだけ美果にとって劇薬だったのだ。「……無駄死にだけはやめて……」「しませんよ」「……どうしてこんな事に……。貴女を巻き込もうなんて、考えてなかったのよ !?」「結々花さんも言ったじゃない……。グレーなこともするって」 結々花は心底参った表情のまま、早退のタイムカードを切った。「勝算があるのよね ? 」「負ける気は無いですけど」 □□□□□□ 蛍と梅乃のコンテナゲームが終了してから三日。 早朝、蛍の医療コンテナに美果とルキが訪れ密かな戯れがあった後に戻る。 時刻はゲーム開催、四時間前。 シャワールームから出た美果が真新しいバスローブを羽織り、ウェーブした黒髪をドライする。 鏡に写った背後には椎名とスミスが、ルキと共に古い映画を観ながら談笑していた。 ここは船上にあるルキのプライベートルームだ。コンテナ船の全体が見渡せる、広い窓ガラスの高級ルームとなっていた。 暫く唸っていた美果のドライヤーが止まる

  • PSYCHO-w   23.復讐の経緯

     時は蛍がコンテナ船へ乗った日まで遡る。 結々花は図書館へ戻り、その日も来館した美果を多目的ルームに案内した。 しかしそれから一時間もしないうちに美果がカウンターへ現れた。通常、この図書館施設は出入口の受付で監修室や小体育館を借りるのだが、多目的ホールをメインに使用している美果が図書館内の結々花のカウンターに来るのはなにか事情があるはずなのだ。「美果ちゃん、帰るの ? 」 浮かない美果の表情に結々花も躊躇ってしまう。全てに勘付いている。接触をしてくると言うのは関わりたいからだ。 この子は真実を知りたいのだろうと思う。「落ち着かない……。 わたし、まだ連絡先交換してなくて……なんでこんな便利な物を忘れてたんだろ。言ってくれれば良かったのに」 スマホを手にカウンターのポトスを見つめる。「あー……。あまり自分の内情を話す子じゃないもんね」 蛍と美果の間柄がまだそんなものなのか……と、結々花は意外だった。美果の方が蛍に絆されているように見える。美果も面倒見が良く、上手く蛍を飼い慣らしていると推測していたが、それも違う。 蛍と美果は図書館を一歩出れば、それぞれプライベートを共にすることは無かった。せいぜい帰宅途中に画材を買う時くらい共に歩く程度。「あ、ごめんね。ちょっと……」 結々花の胸元でヴーヴー音を立てる物体。 時刻とタイミング。 結々花の組織の者だった。人的接触型SPY ヒューミント。これはターゲットと接触し、近しい間柄になり潜り込むスパイである。 結々花はその場から走ると、廊下でそのコールを取った。「ねぇ ! どうなったのよ !!? 」『ルキは船上 ! これでも俺、情報早ぇから ! 』 流暢な日本語。そして若い男性の印象。 結々花はこの相手の顔を知らない。しかし長年に渡ってMの周辺を洗う中で、

  • PSYCHO-w   22.蝶と囁き

    「少し遊ぼうと思ったんだけど、流石にぶち込んじゃ可哀想だしね。玩具で代用してたんだけど、俺が暇だしさ本末転倒だよね」 ルキがしょうもなさそうにくすくすと笑いながら、手元の安っぽいプラスチックのスイッチをカチカチと動かす。「ああっ !! 」 更に響く振動音と共に美果の身体が蛍に倒れ込む。「はぁ、はぁっ ! また ! だ、駄目 !! 」 恐らく始まったばかりの状況じゃない。  美果の中には既に玩具がひしめき合って仕込まれていた。蛍の寝巻きにまで流れる愛液。  背後からルキが手を伸ばし美果を強引に起こし、足と足を絡ませ固定する。美果の締め付ける部分を見せびらかすように、そのまま広げて蝶を開く。  独特なフェロモンの香りが蛍の鼻をつく。  もう玩具では物足りな気な美果の秘部が誘い込むかのように蜜を垂らしていた。「……止めろよ、美果は関係無いだろ」「しょうがないじゃん。美果ちゃんが勝手にこの船に押しかけて来たんだから。  ……まぁ、なんで場所を知ってたかは敢えて聞かないけどさ。  ほら、美果ちゃん。俺、疑われちゃうからなんか言ってよ」 美果は既に堕ちている。  今にも飛びそうな快楽の中、トロんとした瞳で蛍を見つめる。「ケイくん、わたしは大丈夫だから……あっ ! んあぁん !!  ルキ、もうこんな弱い振動じゃ……早く終わらせてっ ! 」「ちょっとちょっと。俺に命令しないでくれる ? 」 一気に中の異物を引き抜くと、今度はルキの長い指が侵入し、限界まで口を拡げる。「や、あっ……んん ! 」「ほら、見てよケイ。美果ちゃんの内側、すっごい綺麗な色してるだろ ?  中はぁ……ん〜まぁまぁかな」 蛍の目の前、淫らに動くルキの指。  美果は耐えることなく快楽に身を任せるだけだった。蛍は尋常では無い美果の肉欲と脱力感に、何らかの薬物投与の疑いをすぐに察した。「あ〜あ、指だけで腰

  • PSYCHO-w   21.代償

    結局、何度果てようがルキが美果を犯している間、自分が性的快楽を暴発することは無かった。「もう ! 死ぬ……死ぬっ !! 」 半分飽きが来ていたルキは全てを自動化に任せ、美果を放置していたが、これ程の生き地獄は無いだろう。身体をくねらせながら、快楽を何とか抑えるように藻掻く。拘束されていない尻だけが自由だが、動けば動くほど刺激が強くなるだけ。 ルキは本を片手にぼんやりと椅子に座り、鏡に写った自分の眉を撫でていた。「……〜〜〜 !! いやぁぁぁ !! 〜〜〜……………………」 悲鳴を上げ続けていた美果が遂に気を失ったところで我に返った。「あらら、またか。 美果ちゃ〜ん、起きて」「……うぅ……ん、うぅぅ、ふあぁぁあ !! 止めて !! 止めてってば !! 」「そうだ。いい事思いついた」「止めてーーー !! もういやぁぁぁ !! 」「ねぇ、美果ちゃん」「これ抜いてっ !! 早く早く早く〜〜〜っ !! 」「いい事思いついたんだ ! 聞いてくれる ? 」「聞く !! 聞くから早く !! やだ !! またイっちゃう ! 」「ん ? ああ。じゃあ最後に一度イったら話聞いてよ」 考えられない程大きな、美果に突き立った物体をルキは最後にグリグリと押し当てる。「聞く ! 聞くってば……あぁっ !! あぁぁぁぁっ !! ………………」「……しまった。美果ちゃん ? 起きてー。ほら、まだ話してないんだけど。 駄目だな。準備を先にするか。ん〜、結構広がってるから入るかな」 詰まっていた物を引き抜くと、今度は小さな振動物を丁寧に目一杯詰め込んでいく。「この俺が刃物一本使ってないんだから感謝して欲しいくらいだよ……」 切創性愛のルキにとって、流血のない相手になんの感情もなかった。サディズムの本能でやってみたはいいものの、女性のカン高い悲鳴はどうにも心地良いものでは無かった。□□□□□□□□ ゲーム開催日から三日目の早朝。 蛍はようやく目を覚ました。 場所は恐らくコンテナ船の中だ。部屋の作りが病室では無い。広さを考えると、ここもコンテナの中だろう。 壁は凸凹した金属板。 いつもテレビやトラックの荷台等で見知った、一般的なコンテナの作りだ。 白いベッドにサイドテーブル。その上には冷水と日

  • PSYCHO-w   20.変態

    「美果ちゃん ! 美果ちゃん美果ちゃん !!  あっははは ! 同じだよ !! 美果ちゃんもケイに拘ってるじゃない ! 」「こ、拘りじゃない ! わたしはケイくんを心配して……」「違うね」 ルキは美果を見据えると、キッパリと言い放つ。そして悪意のある笑みで語り始めた。「俺は思う。君、ケイの事なんか気にしてないだろ ?  君が住むのは自己肯定感の世界だ。  ここに来た本当の目的は復讐さ。前回、君を評価しなかった俺への恨みが動力源。ケイを助けるなんて口実だろ。  美果ちゃんも、俺たちの仲間に変態したんだよ。だから、自分を俺に認めさせないと気が済まない。 自分の興味のない相手なら二度と会わなくていいのに、どうしても俺が許せなかったんだね ? 」「……っ」 何も言い返せなかった。  美果は蛍と関わり、蛍を知れば知るほど深みにハマってしまったのだ。  歪んだ世界は一度触れると、時に、飲み込まれてしまうほど魅力的に溺れることがある。「あぁ、そだそだ。絵をおしえて一ヶ月くらい経つんだっけ ? 知ってるよ ?  美果ちゃん、ケイの絵ってどうなの ? よくシリアルキラーの描いた絵の展覧会やってるじゃん ? あんな感じ ?  それとも……その様子だと、もっとイイの ? 」「…………」 蛍が描く絵はどれも個性的だが、芸術的センスが飛び抜けて目立つ訳では無かった。  だが、独特な狂気が存在した。 アートセラピーと言うカウンセリングがある。上手く自分を表現出来ない、または説明が上手く出来ない感情をケアする目的で絵を描くのだ。 美果の専攻では無いが、その絵を見た時。自分に関しての話をあまりしない、蛍の中にいる獣が、ようやく美果に可視化出来た瞬間でもあった。  そしてその奇妙なドス黒い感情をぶつけたスケッチブックに、とてつもない魅力を感じてしまったのだ。「ねぇ、美果ちゃん。教えてよ」「貴方になんか教えたくも見せたくも無い。触れさせないわよっ !! 」「くすくす。そんなにムキにならなくても !! 美果ちゃん、君は蝶だったんだね ! さぁ、その羽の色を見せてご覧よ。  この俺にお願い事をするんだ。君が俺に差し出せるものはあるの ? 」「え ? ……えと、お金は……」「まずオークションを一旦、止める事。  ケイを家に帰す事

  • PSYCHO-w   19.乱入

     事が起きたのは次の瞬間だ。 椎名が福田側のコンテナを解放した時、何かとてつもない気配が横をすり抜けた。 大きな猫か蛇か……足音も立てない猛獣が、春樹側のコンテナに滑り込んで来た。「てめぇ〜っ !! このやろぉ !!!! 」 梅乃は福田に使っていた支柱をそのまま手に、ルキの止める隙もなく手を振り上げる。「っらぁぁぁぁっ !! 」 犯行時間、僅か4秒。 蛍に突き刺さる鋭利なパイプの残骸。 床に伸びていた蛍が抵抗できるはずもなく、そのまま腹を三箇所刺される。「ぐぷっ ! ガッハッ !! 」 一度は目を見開き反射的に呻くが、蛍は起き上がれないまま。「アチャ〜……まだ話の途中だったんだけど……」 致命傷だ。 ここから病院へ運んでも、助かる見込みは無いだろう。「まぁ仕方ない。 梅乃ちゃん、これでルール通りだね ? 」「ああ。いいぜ。確認した。 せぇせぇしたぜ。もうテメェのビジネスには付き合わねぇ。部下も巻き込ませねぇ」「分かったよ。 さぁ、梅乃ちゃんは目的達成。春樹さんも受け取り部屋に言って話を聞いて下さい。 椎名、観覧者の所まで戻るよ」「……ええ……」 ルキは梅乃がコンテナから出たのを確認し、蛍を抱き抱える。「医務室から先生呼んで」「治療ですか ? 」「ああ。ケイを観覧者へ競売にかけるから」「え !? 助ける……のではなく ? 」 これは椎名には意外だったようだ。「だってその方がケイの酷い顔が拝めそうじゃん ? 写真とか年に一回送ってくれないかなぁ〜」「……そういう事ですか。福田はどうされますか ? 」「誰か別の部下に任せて。病院の前にでも捨てて来なよ」「はい」 途切れ途切れの意識の中の会話。 蛍はもう終わりの時を迎えようとしていた。全身の痙攣を止められない。 観覧者達の歓声の裏、暗幕で仕切られた舞台裏で、蛍の元に白衣を来た老人が現れた。「なんだこのボロ雑巾は。こんなの治して意味あんのかえぇ〜 ??? 」「よっと。何でもいいから生かしてよ。 えっと、あとは……」 ルキはスマホを取り出し、ゲーム終了の司会の前に、やらなければいけないことを整理する。「椎名。春樹が船から出たら部下を連れて尾行して。あいつ多分、すぐに誰かに言うよ。そうなったら賞金取り上げて始末していいから」「た、確かに…

  • PSYCHO-w   18.勝敗

    結果を見れば同じ事なのかもしれない。 それでも明確な違い。 蛍は暴力を受けた。 梅乃は暴力を振るった。 それはどちらも通常の生活ではしてはならないことだ。 しかし蛍も梅乃もここがソレをしてもいい場所だと知っている。そのルールを知った上で行われたゲーム。 殺るか殺られるかなら、勝つには殺るしか無いのかもしれない。 観覧者達は、床に沈んだ蛍をスクリーンで観ると、曲がりくねった価値観でそれを再確認していた。「脆ぇなぁっ ! 使えねぇ…… ! 」 一番太い支柱を福田の背に叩きつけた時、遂にスタンドはグニャりと曲がった。 中は空洞のパイプだ。軽量で使い易いが、そもそも人を殴る物では無い。 曲がったパイプを無理矢理折り、捻じ切る。その断面は丁度スコップのように鋭く変形した。 それを腹の贅肉にズブズブと沈めて行く。「んぎゃぁぁぁぁっっぁ !! 」 形こそ鋭利でも、刃がついている訳では無い。ノコのようにギザついた部分が、皮膚を摩擦しているだけに過ぎない。 これには堪らず、福田は梅乃の三つ編みを掴みかかった。しかし梅乃も躊躇わない。鋭いパイプを腹から離すと、思い切り眼球目掛けて横一線に凪いだ。「ひぎゃぁぁっぁあぁぁっ !!!!!! 」 再び腹へ向かうパイプ。 脂肪を思い切り摘み上げ、盛り上がった贅肉の根元をギコギコと千切り切る。「イギギーーーッ !! 」 剥ぎ取った皮膚の一部を、梅乃はくだらなそうに広げる。「ちっ。これしか斬れねぇのかよ……。ああ、そうだった、すぐ死んじゃ困るもんな。  ならこっちか…… 」 福田の足をズルりと伸ばす。何とか縮こまり防御しようとする福田だが、カメラのコードで両足をぎっちり締め上げられている。「ッイギャーーーーー !! 」 躊躇いなく足の指を潰していく。斬れようが、骨が砕けようが、梅乃にとってはただ痛みを与えるだけの作業。梅乃は既に全身血塗れで、眼鏡に付着した赤い肉片がペトりと大きな胸元に落ちる。鬱陶しそうにその伊達眼鏡を投げ捨て、ローファーで足首を全体重を乗せ固定しパイプを振り下ろし続ける。 自分を見下ろしている梅乃を見た福田は全てを悟った。「も、もう許してくださいーーーー ! すみませんでしたぁ。 もう、殺してください ! 一思いに殺してぇ〜………うぅぅ ! おねがい

  • PSYCHO-w   17.人選

    「春樹さんは ? 死にたいって、思った事ない ? 」「そりゃあ、もちろんあるよ。 でももう言わない」 蛍は焦っていた。 春樹は頑なに自殺願望を否定するばかり。なにかの強迫観念か、それともカウンセリングによる思考制御によるものか。とにかく春樹は『死の願望』を口にするとは思えない様子である。「俺ね。ずっと引きこもりでさ。その時は自分はこのまま生きていくんだ……って、親に甘えてた。ほんとにね、甘えだったんだよ」 驚く事に春樹は、本来隠したいはずの過去の自分の話を、高校生の蛍に告白するほどの余裕があった。「確かに鬱気味で病院にも通ってた。でも、本当の自分を分かってるのは自分だけだし」 だがこれは高校生に対しての、見栄であった。自分は大人であり、悟った人間なのだというマウント。 しかし蛍には春樹が余裕にしているように見えるのだ。「精神病院に行ったからって、仕事貰えるわけじゃないし。いつまでもグズグズしてられないなってさ。 そもそも本当は、誰だって仕事なんかしたくないものさ」「えぇ〜 !? 大人なのに ? 」 変える。 作戦を『煽り』へ。「大人なのに働かないって……僕ですらアルバイトはしてるのに。 じゃあ春樹さん、クズ人間じゃん ? 」 春樹を指差し、ケラケラと笑って見せる。「そうだよね。君の言う通り。って言うか、もうバイトしてるんだ、偉いよ。 俺、馬鹿でさぁ。その馬鹿に気付いたのは、いよいよ親が亡くなった時だったよ。急だったから、俺……どうしていいか分からないし、金も無いし……。 情けないことにそれまで気付けなかったんだ」「親が亡くなったら、余計頑張らないといけないんじゃないの ? お金無いのに今までなんで無職だったの ? 」「頑張り方なんて分から

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