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8.生と死

last update Last Updated: 2025-04-21 06:36:18

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「蛍って……高校生の男の子 ? 」

「ああ、そうなんだ。

ケイならきっと ! きっと、答えを持ってるって思えるんだよね」

「葬儀屋さんって言ってたんだっけ ? 元々知り合いなの ? 」

「ううん。今日初めて会ったんだよ。部下に軽く調査させたけど、目立つような学校生活を送ってないし、成績も普通。帰宅部で放課後は家の手伝いをしてる、どこにでもいる高校生さ。

でも、今朝の駅前の自殺現場。彼はそこにいた。まさに俺の一目惚れさ」

「え ? はぁ ? 一目惚れ ? 」

「気に入ったって事だよ。

美果ちゃん、俺はねぇ。結構、人を見る目があるんだよ ?

ケイはきっとイイよ」

階段を降りるルキに続き、美果はエスニック柄のチュニックを羽織った。葬儀屋と言っていた蛍の顔をぼんやりと思い出しながら、自分もルキと同じく興味が湧く事に何故か罪悪感は無かった。

階段を降りる二人の後ろに椎名が気配を消すように付いてくる。ルキと美果が並んで話す姿は親しげであった。

不思議な事ではなく、ルキはゲームマスターではあるが、ゲームの参加者には対等な人間として接している。少なくとも、彼女が処分されるまではそれを続けるのだ。中には媚びる者も、命乞いをする者もいる。その最後を含めて全てが観覧者への見世物なのだ。

「自殺現場を見てた人は他にもいたんでしょ ? どうしてあの子が特別って言い切れるの ?

それに、わたしがここに連れてこられた理由は ? 」

問われたルキが振り返って椎名を見る。

「あ……今回は人体アートでしたので、本来は芸大の貴女が一番人気でした」

「あれ ? 皆んな、美果ちゃんに賭けてたの ? 」

「はい」

「芸大生だからって単純だね」

「……まぁ、そんなに評価が高い生活してないわ。貴方見る目無いのね」

「……」

「ねぇ。わたしのデスマスクは、完成さえしてれば生き残れたの ? 」

美果の最後の抵抗か、突っかかりながらの会話だ。

「ん〜。あれは素晴らしい出来栄えだった。それも初めてやったんでしょ ? そうだね。作品だけなら完璧だ。けれど、制限時間を考慮しないのは論外だよ。そんなのフードファイターだってサッカー選手だって同じでしょ ? 」

「限度があんでしょうよ。このルールじゃ、組立加工するだけじゃな
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  • PSYCHO-w   27.美果 スタート

     冷たい扉がガシャリと閉まる。 美果は一度深呼吸をし部屋を観察すると、梅乃と同じくカメラスタンドを手にした。 構造の理解力が早いのか、手早く分解していく。「この女性は確か……涼川 蛍と同期で参加した者でしたな」「芸大生よね ? 」 これに観覧者達は期待にざわめいた。 美果はまずカメラの一番長い支柱を選び、早苗を床に転がしてスカートを捲りあげる。下着を脱がせ、自分の身に付けていたシャツを裂き脚を開いて固定する。 次に、分解したスタンドのバリを見つけると、それを使いマットレスの布を綺麗に剥いで行く。 一枚の白い布。 これを器用に折りたたみ穴を開け、外したカメラのコードで縫うように成型し、何とか白衣を作り出す。襟まである精密なものでは無いが、小学生の給食着のような簡素なスタイル程度にまで寄せていった。ブラジャーのストラップを外し左右繋げ、ウエストにベルトとして巻き付けることで縫い目になった布部分を重ねて隠す。スレンダーな体型が幸いしたようで、布は足りた。 更に余り素材の中から細い支柱二本を見つけると、それを交差させる。マットレスの針金で中心部を捻り、ハサミのような物を作り出す。 スパイラルパーマのかかった髪を綺麗に纏め直し、残りの素材を折り畳んだマットレスの上に神経質なほど真っ直ぐ並べて行く。 やがて早苗が目を覚ました──美果の「研究員だ」と言う嘘を信じてしまった。 常連の観覧者は皆分かっていた。 パニックになった者はすぐに目の前にあるものを信じてしまう。そして会話の出来る存在だと分かると、必ず生き残る手段を交渉してくるのだ。 □「う……ん……。あなた…… ? !!? な、何これ ! ここは…… ? どこなの !? 」 目を覚ました水沢 早苗は予想通り取り乱し、命乞い混じりに泣き喚いた。

  • PSYCHO-w   26.美果の人選

     予定通りの観覧者とルキの挨拶。『今宵、新女王誕生となるのか ! 挑戦者 山本 美果の登場です !! 』 ルキの紹介と共に、美果の観ていた目の前のモニターがOFFになる。 進行は蛍の際と寸分違わぬ体制で行われた。 ここからは観覧者達がスクリーンを見上げる時間だ。 美果は蛍と同じ条件コンテナの並んだ船室まで案内されていた。 ただ一つの違いは、スミスが美果に公開したホワイトボードの獲物。その中に、大きな赤で『‪✕‬』が付いている者が一人。 美果はスミスから蛍と同じ説明を受ける。「この中から一人……選べるのね ? 質問してもいい ? 」「お答え出来る範囲であれば問題ありません」「ケイくんは誰か……別の子と対戦してたけど、続行不可能で負けたのよね ? 」「はい。山本 美果さんの勝利条件は、現地点で勝利している山王寺 梅乃の42分32秒を下回る事です。 涼川 蛍は獲物を逆上させ、気絶するまで殴られてしまったのでタイムはカウントされません」「42分……。それより早く『死ぬ』って言わせるのか……。 この、‪✕‬が付いてるのはケイくんの獲物 ? その梅乃さんの獲物なの ? 」「この‪✕‬は涼川 蛍の獲物です。江川 春樹と言う獲物は賞金を手にした後、帰宅途中のタクシー運転手に情報を漏らしましたのでルール違反となりました。 山王寺 梅乃の獲物はこちらです。ご覧になりますか ? 」「いいの ? 」 スミスがファイルから、山王寺グループの闇金で首の回らなくなった福田のプロフィールを美果に差し出す。「山王寺さんは昏睡状態からのスタートでしたので、獲物をご自身で選べないのを考慮し、悪い意味での顔見知りを御用意させて頂きました」「そうなんだ……」 美果は福田のプロフィールを流し見ると、再び

  • PSYCHO-w   25.探る

     ルキがやや押され気味の会話。 美果には取り付く島がない。 村長が大酒飲みうわばみと会話をしているようだ。「ねぇ。あんたさ、ケイくんが斎場で……シテるところ……本当に観たの ? 」 グラスを口元へ寄せるルキの手が止まる。「気になるかい ? ケイが普段やってる事に」 ルキは意外だとばかりに美果に笑いかける。 だが美果はルキのザラついた気配を見逃さなかった。「……。 再会してからずっと思ってたけど。あんた、嘘が下手よね」「んー ? 初めて言われたかな」「そう ? わたし、昔から人の感情とか嘘に敏感でね。分かっちゃうの。うまく説明出来ないけど、第六感みたいな感じなのかな。 ケイくんがしてる事に興味は無いけど……あんたがそれを観たとは思えないのよね」「どうしてそう言い切れるの ? ケイは俺の質問の全てに否定しなかったでしょ ? 」「あんた、ただ自分の想像の範囲だけで言ったんじゃないの ? それにわたし、朝は途中で退室したから最後まで聞いてないわ」 これは図星だった。 ルキは蛍ならご遺体をどうするかだけを想像して、カマをかけただけだった。カメラを仕込んだなどと言うのは大嘘。 蛍の反応で悟ったつもりのルキだったが、美果は全く別の情報を持っていた。 蛍がスケッチブックに描く、ある部分の共通点だ。 それは、ご遺体に刻まれたシンボル。 蛍は行為の後、気に入った死者には星座マークを体の見えない部分に損壊を与える。その死者の誕生月の星座のシンボルだ。 恐らく型があり、その通りに皮膚を焼き焦がす。 そしてその写真を撮り、後から部屋でスケッチブックに描く。完成した絵の隅には、ご遺体の名前、生年月日が書き込まれ、更には試食部位や味の違いが記されている。 美果はそれを絵で見ていた。 蛍から美果への&he

  • PSYCHO-w   24.スケッチブック

    「一度、負けてるから、どうしても勝ちたいの」「美果ちゃん……貴方は生きて帰れたのよ ? 」「わたし、今度こそ勝つ。その為に行くの」 何を言っても聞かない意思表示。 人助けではなく、勝つために行くと言う。 こういう人間は止められない。今までルキのゲームに関わった者の中にも、多く存在したのだ。「どうしてこうなっちゃうの……いつもいつも…… ! 」 あの狂気の世界に依存してしまう。平凡な生活を送っていた者ほど、ルキと言う男を求めてしまうのだ。「一体、ルキの何がそうさせるの ? 」 山本 美果は変わってしまった。しかし結々花は一つ間違っている。美果を変えたのは蛍である。蛍のスケッチブック。それだけ美果にとって劇薬だったのだ。「……無駄死にだけはやめて……」「しませんよ」「……どうしてこんな事に……。貴女を巻き込もうなんて、考えてなかったのよ !?」「結々花さんも言ったじゃない……。グレーなこともするって」 結々花は心底参った表情のまま、早退のタイムカードを切った。「勝算があるのよね ? 」「負ける気は無いですけど」 □□□□□□ 蛍と梅乃のコンテナゲームが終了してから三日。 早朝、蛍の医療コンテナに美果とルキが訪れ密かな戯れがあった後に戻る。 時刻はゲーム開催、四時間前。 シャワールームから出た美果が真新しいバスローブを羽織り、ウェーブした黒髪をドライする。 鏡に写った背後には椎名とスミスが、ルキと共に古い映画を観ながら談笑していた。 ここは船上にあるルキのプライベートルームだ。コンテナ船の全体が見渡せる、広い窓ガラスの高級ルームとなっていた。 暫く唸っていた美果のドライヤーが止まる

  • PSYCHO-w   23.復讐の経緯

     時は蛍がコンテナ船へ乗った日まで遡る。 結々花は図書館へ戻り、その日も来館した美果を多目的ルームに案内した。 しかしそれから一時間もしないうちに美果がカウンターへ現れた。通常、この図書館施設は出入口の受付で監修室や小体育館を借りるのだが、多目的ホールをメインに使用している美果が図書館内の結々花のカウンターに来るのはなにか事情があるはずなのだ。「美果ちゃん、帰るの ? 」 浮かない美果の表情に結々花も躊躇ってしまう。全てに勘付いている。接触をしてくると言うのは関わりたいからだ。 この子は真実を知りたいのだろうと思う。「落ち着かない……。 わたし、まだ連絡先交換してなくて……なんでこんな便利な物を忘れてたんだろ。言ってくれれば良かったのに」 スマホを手にカウンターのポトスを見つめる。「あー……。あまり自分の内情を話す子じゃないもんね」 蛍と美果の間柄がまだそんなものなのか……と、結々花は意外だった。美果の方が蛍に絆されているように見える。美果も面倒見が良く、上手く蛍を飼い慣らしていると推測していたが、それも違う。 蛍と美果は図書館を一歩出れば、それぞれプライベートを共にすることは無かった。せいぜい帰宅途中に画材を買う時くらい共に歩く程度。「あ、ごめんね。ちょっと……」 結々花の胸元でヴーヴー音を立てる物体。 時刻とタイミング。 結々花の組織の者だった。人的接触型SPY ヒューミント。これはターゲットと接触し、近しい間柄になり潜り込むスパイである。 結々花はその場から走ると、廊下でそのコールを取った。「ねぇ ! どうなったのよ !!? 」『ルキは船上 ! これでも俺、情報早ぇから ! 』 流暢な日本語。そして若い男性の印象。 結々花はこの相手の顔を知らない。しかし長年に渡ってMの周辺を洗う中で、

  • PSYCHO-w   22.蝶と囁き

    「少し遊ぼうと思ったんだけど、流石にぶち込んじゃ可哀想だしね。玩具で代用してたんだけど、俺が暇だしさ本末転倒だよね」 ルキがしょうもなさそうにくすくすと笑いながら、手元の安っぽいプラスチックのスイッチをカチカチと動かす。「ああっ !! 」 更に響く振動音と共に美果の身体が蛍に倒れ込む。「はぁ、はぁっ ! また ! だ、駄目 !! 」 恐らく始まったばかりの状況じゃない。  美果の中には既に玩具がひしめき合って仕込まれていた。蛍の寝巻きにまで流れる愛液。  背後からルキが手を伸ばし美果を強引に起こし、足と足を絡ませ固定する。美果の締め付ける部分を見せびらかすように、そのまま広げて蝶を開く。  独特なフェロモンの香りが蛍の鼻をつく。  もう玩具では物足りな気な美果の秘部が誘い込むかのように蜜を垂らしていた。「……止めろよ、美果は関係無いだろ」「しょうがないじゃん。美果ちゃんが勝手にこの船に押しかけて来たんだから。  ……まぁ、なんで場所を知ってたかは敢えて聞かないけどさ。  ほら、美果ちゃん。俺、疑われちゃうからなんか言ってよ」 美果は既に堕ちている。  今にも飛びそうな快楽の中、トロんとした瞳で蛍を見つめる。「ケイくん、わたしは大丈夫だから……あっ ! んあぁん !!  ルキ、もうこんな弱い振動じゃ……早く終わらせてっ ! 」「ちょっとちょっと。俺に命令しないでくれる ? 」 一気に中の異物を引き抜くと、今度はルキの長い指が侵入し、限界まで口を拡げる。「や、あっ……んん ! 」「ほら、見てよケイ。美果ちゃんの内側、すっごい綺麗な色してるだろ ?  中はぁ……ん〜まぁまぁかな」 蛍の目の前、淫らに動くルキの指。  美果は耐えることなく快楽に身を任せるだけだった。蛍は尋常では無い美果の肉欲と脱力感に、何らかの薬物投与の疑いをすぐに察した。「あ〜あ、指だけで腰

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