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Nox.II 『歴史秘書のお仕事』V

ผู้เขียน: 皐月紫音
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-07-18 18:33:35

 ヘーデンストローム家では、使ったお金はすべて明細を残す決まりだった。

 当然ながらレイフであっても、好き勝手に家の金を使うことはできない。

 だが、このような贅沢品を買うことはある程度許容されている。

 寧ろ、ヘーデンストローム家のものが、その場の|服装規定《ドレスコード》に相応しくない格好をしていることの方が、プライドの高い父からすれば許容できないことだろう。

 身なりの良い|出迎え係《ポルティエ》が扉を開き、新しい服への|着替え《ドレスアップ》を終えたレイフたちが外に姿を現す。

「レイフくん、うん! やっぱり、すごく似合ってるよ!!」

「そ、そうか? ありがとな」

 店内で試着した時にも絶賛していたエミリーが、改めて制服から着替えて、店から出てきたレイフの姿に目を輝かせる。

 レイフが着ているのは、|紫檀色《したんいろ》の|線《ライン》が襟や袖に入った黒の|三つ揃え《スリーピース》だ。

 首に締めた|瑠璃色《るりいろ》のアスコットタイは、色合いが気に入って購入したものだ。

 レイフは制服でさえも、いつもラフに着崩している。

 社交の場も姉とは違い、父に同行することは稀だった。

 そのためか、どうにもこういうしっかりした装いは落ちつかない。

 だが、エミリーのような女性が、こうも絶賛してくれるのであれば、たまにはこのような格好も悪くないかもしれない。

 レイフは身だしなみには、気を使っている方だ。

 それに今までは無縁だったが、年相応には女性には興味もある。

 自分のセンスで選んだものを、褒められたのならば悪い気はしない。

「そういうエミリーも、なかなか似合ってるぜ」

「おっ! さりげなく褒め返すとは、レイフ氏もなかなかやりますなぁ〜」

「何キャラだよ、それ……」

 るんるんと楽しげにレイフに隣を歩くエミリーは、愛らしい薄浅葱色のドレスに黒のクロークを重ねることで、わずかに大人の艶やかさを香らせていた。

――「ぷっ! ジャック! なんですか、その格好は! あなたったら、|道化師《ピエロ》みたいですわ」

「なっ!? お、お前が選んだんだろっ!」

 思考に割って入ってきた声の方へと視線を向ければ、ジャックの服を見たレオノールが口元を手で押さえ、|堪《こら》えきれないといった様子で噴き出していた。

「っ……!?」

 それに釣られるようにジャックの方へと視線を向けたレイフは、思わず噴き出しそうになったのを必死に堪えた。

 ジャックの今の格好は確かに、|道化師《ピエロ》と言われても仕方ないほど、派手なものだ。

 ピンク色の光沢感がある|燕尾服《テイルコート》、同色の|帽子《シルクハット》に水色の蝶ネクタイ。

 極めつきにその右手には、|杖《ステッキ》まで握り締めていた。

「まさか本気で買うとは思いませんでしたもの。

 よ、よくお似合いですわよ……ぷっぷっ!」

「笑ってるじゃねぇかっ!!」

「あはは、ごめんなさいですわ〜」

 抗議の声をあげるジャックから逃れるように、レオノールは後方へと向かって小走りで駆け出した。

 紺藍色のドレスと深紅のクロークが、夜風を受けて舞う。

 まるで、ひらひらと風と踊る蝶のように。

 彼女はジャックから、あくまで優雅さを損なわずに距離を取ってゆく。

 しかし、場所が悪かった——。

「あっ——」

 彼女のヒールが石に引っかかり、その体がゆっくりと倒れていく。

 その先は車道だ。

 ゴォォォ……と、冷たい死神の大鎌が地面を削るような音が響く。

 突き刺すような風を纏わせ、それはレイフの横を駆け抜ける。

 黒い車体の奏力車が一直線に、レオノールの右側から迫っていた。

 「っ――」

 レオノールの血色の美しい唇から、|吐息《といき》とも、言葉とも判別し難い|音《ね》が漏れる。

 死を受け入れる準備ができてしまったのだろう。

 |白金色《プラチナブロンド》の髪が風に凄烈に踊った。

 黒い死神を映していた|深藍色《ふかきあいいろ》の|双眸《そうぼう》が静かに閉じる。

 レイフ達の悲痛な叫び声が、レオノールの耳朶を打つ――。

 ――ふふ、死を目前にすると、時間がゆっくりに感じるというのは本当だったのですね。

 そんなに必死に叫んでしまって……。

 私は……こんな可愛げのない女にはもったいないほど、良い友人たちに恵まれたようですわ。

 「バカッ! 諦めてんじゃねぇ!! 届けえぇぇっ――!!!!」

 レイフ達が固まっていたとき、その男だけは走り出していた。

 精気に満ち溢れた声が、冷気を切り裂いて、レオノールの意識を強引に引き戻す。

 優雅さも知性も欠片もない。

 いつもやかましいほどに明るく、粗野で目障りな男。

 〝ジャック〟は大きく吸い込んだ息を吐き出し、吹きつける突風の壁を|掻《か》き分け、|杖《ステッキ》をレオノールへと向けて差し出した。

 レオノールの|双眸《そうぼう》が、驚きと切なさが入り混じったような色を浮かべ見開かれ、真珠のような光が夜空に舞った。

 この声だ——。

 顔は及第点で成績はいつもギリギリ、運動神経もそこそこ。

 家もいわゆる中産階級、レオノールのように家格も高く、莫大な資産を持つ者も多い学園の生徒のなかでは見劣る。

 唯一の取り柄と言えば、アホみたいな元気と明るさだけ。

 レオノールのような人間には全く釣り合わない。

 それなのに気がつけば、いつも彼のことを目で追っていた。

 勉強に集中しているとき、友人と談笑しているときも。

 ジャックの能天気な声が聞こえてくると、一瞬不快な気分になるのに、気がつけば口角が上がってしまっている。

 彼を見ているのは少なくとも、気取り屋の貴族や|傲慢《ごうまん》な成金の子息を相手するよりは、よほど愉快な気分になれたからだ。

 ——あなた、そんな真面目な顔もできますのね……。

 レオノールは目前に差し出された|杖《ステッキ》の先を、確かに|掴《つか》んだ――。

 想像を遥かに超える男の力が、勢いよく彼女の体を引き戻してゆく。

 瞬く間に、レオノールの体はジャックの左腕に抱き締められていた。

 重なり合った胸から、互いの鼓動がやかましいほどに響き合う。

 暖かな安心感と痛いほどに相手を愛しく想う気持ちが、身体の内側から湧き上がってくる。

 それは彼女の涙腺を、あまりにも容易に崩壊させた。

 恐かったのだ。

 死にたくなかったのだ。

 期待していたのだ。

 彼が助けに来てくれることを――。

 レオノールの悲鳴をあげて潰れてしまいそうだった心――そのすべてを受け入れるようにジャックは両手でしっかりと、ほっそりとして頼りなさげな彼女の肢体を抱き締めた。

「ありがとうございます……」

「おうよ……」

 そのまま離れる機会を逃し、二人はうまく顔を合わせることができないままに、妙に長く感じられる時間、身体を重ね合っていた。

 互いの体温がどんどんと高まっていき、上気する顔は朱く、夕焼けの空と同じ色に染まっていた。

 レイフは二人を少し離れて眺めているニコラの隣に歩いてゆくと、その肩にがっしりと腕を回す。

「良い雰囲気じゃねぇか。こりゃうかうかしてらんねぇな? お前も」

「私とレオノールはそういう関係じゃない。昔からの幼馴染で実の兄妹のように育ったんだ。

 変な勘繰りは、しないでいただこう」

「はっ、どうだかな」

「どちらかといえば、私にとって問題なのは、君の方なんだけどな……」

「はっ? なんで俺が——」

——「こら、みんな! 本当に予約時間になっちゃうよ!!」

 手を叩いて話を強引に切り上げさせたエミリーは、レイフの右斜め前に立つと先行して店へと歩いてゆく。

「このお店って本当にメニューが多いんだよね。レイフくんは何にする?」

「あぁ、俺はマドレーヌでいいかな」

「うーん、夕ご飯くらいはちゃんと食べたほうが良いと思うかなぁ……」

 ニコラが空を見上げながら、吐いた溜息は秋の風とともに、ゆっくりと|黄昏時《たそがれどき》の空へと昇っていった。

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