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Nox.III『再会は甘美な死をともなって』

Author: 皐月紫音
last update Last Updated: 2025-07-19 20:04:17

◆◇◆◇

店から出てエミリー達と別れると、すっかりと外は冷たい夜の静寂に包まれていた。

友人達と別れ、街からは喧騒が消えてゆき、一瞬だけ、この街には自分以外の人間が居ないのではないかとさえも錯覚しそうになる夜だった。

だが、そんな幻想は一瞬で吹き飛ばされる。

レイフの目前には星々が落ちて、華を咲かせたかのように黄金に輝く|都市《まち》が広がっていた。

陽が沈むと同時に、街灯が淡い明かりを街に灯し、地面に設置された|奏力《ディーヴァ》を利用した照明が、歴史ある荘厳な建築群を壮麗に照らしだす。

それはまるで、愛や喜び、そして哀しみといったものまで内包した、人々の生命の輝きが、街全体を煌めかせているようだった。

街灯に背中を預けたレイフが迎えの車を待っていると、遠巻きに見知った人物の姿が現れた。

「あれは|ニート教師《ヴィオレタ》……? こんな遅くになにしてるんだ?」

レイフが視線を向けた先には、学院にいる時と同様の黒いスーツを着たヴィオレタが歩いている。

それも一人ではなく、複数人の年代も服装も統一感のない男たちに連れられながらだ。

男たちは周囲を警戒する様子を見せながら、人気のない路地裏へとヴィオレタを連れて消えてゆく。

「はぁ〜、ったく、めんどくせぇことになりそうだな……」

彼らの様子に、ただならぬものを感じ取ったレイフは、静かに後をつけることにした。

◆◇◆◇

「それで、貴方たちの飼い主はどこにいるのかしら……?」

表通りのまばゆいまでの煌めきが嘘のように、青白い月の薄明かりだけが微かに照らす闇の中で、ヴィオレタと男たちは対峙していた。

「そう焦るな、ヴィオレタ・ウルバノヴァ。|直《じき》に、あのお方も到着される。

だが——生きてお前を案内しろとは、俺たちは一言も言われていない」

「はぁ〜、この前の連中もだけど、クロヴィスは飼い犬の|躾《しつけ》もろくにできていないようね……。

その救いようがないまでの下劣さと、芸術的なまでの三下っぷりにだけは賞賛を贈るわ」

「なるほどな……。その口の悪さも噂に聞くとおりというわけか。

だが、そうでなくては張り合いがないというもの……」

精気に欠ける瞳で中心人物と思われる男を見つめ、手を打ち鳴らして拍手を贈るヴィオレタに、男の表情がどんどんと険しいものへと変わってゆく。

「あのお方が唯一、警戒されるほどの|死神《リーパー》の力……見せてもらっ——!?」

その言葉が最後まで発せられることはなかった。

突如、飛来した円形の物体が男性の頭部を直撃したからだ――。

男の眼から光が失われてゆき、糸が切れた人形かのように身体は静かに、その場に崩れ落ちる。

——「おいおい、あんまダセぇ真似すんじゃねぇよ」

どこか淋しげな月明かりが、北国の雪原を思わせるような白銀の髪を照らし出した。

「レイフ・ヘーデンストローム……?」

「はぁ、知らない人に付いていっちゃいけませんって習わなかったのかよ。先生?」

そこに立っていたのは、ヴィオレタの教え子であり、秘書として最も長く時間をともに過ごしている生徒――レイフ・ヘーデンストロームだった。

倒れた男の頭から白い球体がバウンドした後、道をころころと転がってゆく。

これは【シャソネ】という|競技《スポーツ》で使われているボールだ。

このボールを足で運んで、より多く相手のチームが守るゴールに入れたチームが勝利する。

王国で最も盛んに行われている競技であり、レイフは選手として将来を有望視されていた。

「貴方、それ……」

「あぁ、路上で遊んでた不良どもから〝借りて〟きた。こんな夜中まで遊んでたら、家族が心配するだろうからな」

「どの口が言うのよ……。子どもが出歩く時間はとっくに過ぎてるわよ……。不良くん?」

軽口を叩きながらも、ヴィオレタは内心はかなり焦っていた。

自分一人ならば、目の前の男たちを駆逐することなどは造作もない。

だが、レイフを守りながら戦うのであれば話は別だ。

時間がない中、やっと掴みかけたわずかな手がかり――。

それを自ら手放さなければならないことに、ヴィオレタは思わず歯噛みする。

だが、民間人をこの戦いに巻き込むわけにはいかない。

いざとなれば手段を選ばずに戦う覚悟くらいは持っているつもりだ。

だが、わずかな時間とはいえども、同じ時を過ごした生徒の死体を見るのは、さすがに少し寝覚めが悪いというものだ。

ここは一度、強引にでも彼を連れて逃げるしかないだろう。

本音を言えば少しでも、クロヴィスに関する情報が欲しかったが致し方がない。

「レイフ、逃げるわよ……」

「あぁ、こんな連中に遅れをとるつもりはねぇが、さすがにあんたを守りながらじゃ厳しいからな」

「それは、こちらの台詞なのだけれど……」

——「うぅっ……」

「——っ!?」

聞こえた声の方へと視線を向ければ、ボールを顔に受けて倒れていた男性が、むくりと起き上がってきていた。

彼は首をコキコキと鳴らすと、何事もなかったかのようにレイフへと嗜虐的な笑みを向けた。

「へぇ、意外にタフじゃねぇか。おっさん」

「小僧……我々の邪魔をした罪は重いぞ?」

「はっ! だったら、どうすん——!?」

レイフの言葉が終わるよりも素早く、男は既に駆け出していた。

常人には到底出せぬ速度で、レイフの目前へと男は移動する。

「くっ――!?」

両者の視線が交錯し、男の口角が三日月のような弧を描く。

勢いそのままに男は、右の剛腕をレイフへと容赦なく振りおろす。

◆◇◆◇

〝クロヴィス〟、〝|死神《リーパー》〟――。

ヴィオレタを追って路地裏まで来てみれば、そこでは次々にレイフの知らない単語が飛び交う意味のわからない会話が繰り広げられていた。

なんにせよ、ヴィオレタが何か厄介なことに関与していることは明白だった。

だが、どんな事情があろうとも、短い時間でもともに過ごし、自分の学院生活を変えるきっかけをくれた相手を見捨てるという選択肢はなかった――。

男の拳が振り下ろされ、風切り音がレイフの耳朶を打ち、白銀の髪が上空へと逆立つ。

——|敏捷《はや》いっ!!

「はあぁぁっ!!」

防御の態勢を取ろうとしたレイフだが、|咄嗟《とっさ》の判断で後方へと跳躍する。

背中を走り抜けた悪寒が、男の拳を受けてはいけないと警告していた。

かくして、その予感は正しかった。

男が放つ拳から発せられた風圧が、レイフの身体を貫いてゆく――。

純粋にして理不尽な破壊の力が、そこには|在《あ》った。

だが、そこで|怯《ひる》むことなく、即座に次の行動へと移ったレイフもさすがだろう。

「おらあぁぁ!!」

「むっ——!?」

着地と同時――再び、男を|目掛《めが》けてレイフは前へと駆け出す――。

今度は男の方が目を見開き、固まることとなった。

レイフは踏み込んだ勢いそのままに、男の頭を目がけて、渾身の力を込めた横蹴りをお見舞いする。

「ぐっ——!!」

蹴りをもろに頭部へと受けた男は、後ろへと大きくバランスを崩す。

「これで終わりだあぁぁっ!!!」

「き、貴様、本当に人間っ——がはっ!!?」

その隙を逃すことなく、月夜を駆け抜ける銀狼の|如《ごと》き勢いで、懐へと飛び込んだレイフの右拳が男の鼻を破壊する。

さらに、おまけとばかりに左の拳が勢いのままに|顎《あご》へと入ると、今度こそ男の体は静かに後ろに倒れていった。

レイフは拳を少し痛めたのか、両手を交互にバタバタと軽く振り、顔をしかめる。

「最近、喧嘩もしてなかったし、身体が鈍ってんな。また、〝ヴァント〟でもやるか……」

レイフは|燕尾服《テイルコート》の|襟《えり》を正すと、首を鳴らして威圧するように固まる男たちを見渡してゆく。

「さて、まずは一人だ。まだやるかよ?」

「バカな……。ただの人間相手に我々が遅れをとるはずが……」

これに驚いたのは男達だけではなく、ヴィオレタも同様に息を呑む様子を見せた。

「いくら現世の体を得たばかりの〝|亡霊《ラルヴァ》〟とはいえど……」

誰に聞かせるわけでもなく、虚空へと発せられるヴィオレタの|言の葉《ことば》を、レイフはそれ以上聞き取ることはできなかった。

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