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アナウンサー志望

Autor: 坂森大我
last update Fecha de publicación: 2026-09-01 05:46:00

「ええ!? ミハルさん、本気ですか? アナウンサー志望!?」

「はい! セントグラード放送局を受けたいです!」

 面談開始五秒で眉根を寄せたのはグレン教員である。やはり就職指導の教師でさえも困惑する希望のようだ。

「大道具係でしたら受かるかもしれませんが……」

「ア、アナウンサーです!」

 ミハルの指摘にグレンは首を横に振った。彼は直ぐさま端末を操作して、何かの資料を呼び出している。

「貴方の一般学科成績です。これで受かると思いますか? ちなみにセントグラード放送局は大卒以上の学歴が必要ですね。またアナウンサーは身長制限もあるようです。150センチしかない貴方は、その条件を満たしていません。どうしても放送局がいいというのなら、条件が設定されていない大道具係しか……」

 再度アナウンサーですっとミハル。ところが、グレンの表情から色よい話が聞けそうな予感はしなかった。

「ミハルさん、貴方は操縦しか取り柄がないのですよ?」

 胸に突き刺さる一言である。確かに一般学科は酷い。こうして一覧にされると改めて思う。進級に必要な最低点で綺麗に纏められていた。

「でも、私……」

「操縦士の何が不満なのです? このような時期になったとはいえ、貴方の実技成績ならば引く手数多ですよ? 六年間の学科成績を完全になかったことにできるのは貴方くらいです!」

 もはや褒められているのか貶されているのか分からなかった。単に馬鹿だと扱き下ろされているのか、或いは天才パイロットだと称えられているのか。

「私はここへ入学する前は航宙機に乗るのが大好きでした。でも、今ではその熱も冷めて、どちらかというと楽しめていません……」

 ミハルは語った。希望就職先のわけ。操縦系の職種を選ばない理由を。

 それはグレンにとって取るに足りない理由であったが、ミハルには重要だった。仕事としてつまらなく飛ぶくらいなら、いっそ距離を置こうと決意していたのだ。

「熱意ですか? それは貴方が常に一番だからでしょうか?」

「そういうわけでは、ないですけど……」

 ミハルは言葉を濁す。けれど、それは明白だった。明らかに張り合いがなくなっている。彼女はこと操縦において、ある種の達成感を覚えてしまったのだ。

「それならミハルさん、貴方は来週ここへ行ってください。つまらないとは思わなくなりますよ? 仮にも航宙士学校の生徒なのですから、貴方はフライトを楽しんでください」

 言ってグレンはミハルのギアにパンフレットデータを送信する。

 どうやら学校行事ではないらしい。それは来週末に行われるイベントの資料だった。

「オープンレース? 何これ?」

 見出しに書いてあったのはオープンレースという文字。また挿絵から想像できたのは公営ギャンブルであるグランプリレースに他ならない。

「こんなの無理です! うちの両親は堅物なのでギャンブルとか以ての外ですし!」

「ミハルさん、心配ありませんよ? これはただの催しです。レースを模したゲームですからね。セントラル区画の若きパイロットが集まって競争するだけです。本校はセントラル区画の航宙士学校枠として毎年出場しています。その出場者にはニコル君を指名していたのですが、貴方に行ってもらいましょう」

「ちょっと待ってください! 私、参加するなんて一言も……」

「ミハルさん、確か航宙論の試験結果は要補講でしたよね? 私の担当ですので免除することも可能ですが……。まあ貴方が長期休暇を満喫したくないというのでしたら無理にとは言いませんけれど……」

「ぐぅっ……」

 妙な声を漏らす。確かに学期後にある長期休暇の真ん中に補講が入っていた。その補講が邪魔になって、ミハルは大した計画が立てられなかったのだ。もしもそれが免除となるのなら、レースに出るくらいは何でもないことかもしれない。

「分かりました……。じゃあ、そのレースにでます。でも、ちゃんと約束は守ってくださいよ!?」

「勿論です。ちなみに我が校は直近十年間で一度の負けもありませんからね?」

 念押しのつもりが、逆にプレッシャーをかけられてしまう。

 ただミハルには自信があった。名門セントグラード航宙士学校でずっと一番だった自負がある。同じ年頃のパイロットに後れを取るとは思えなかった。

「次回の面談はレースが終わったあとにしましょう。貴方の気が変わっているかもしれませんし……」

 ミハルは何も答えなかった。もとい気が変わるなんてあり得ないと考えていた。だから、小さく頭を下げるだけで挨拶とし指導室から退出する。

 補講免除に対する条件はレースへの出場のみ。優勝しろとは言われていない。

 ミハルはその真意が掴めずにいた。ギアに映し出されるパンフレットを不思議そうに眺めているだけだ……。

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  • Solomon's Gate   ミハルがいない午後

     日曜日の午後。寝坊したミハルが慌てて競技場へと向かったあと、用事もなかったキャロルは二度寝していた。気付けば正午を回っており、彼女は遅めの昼食を取るため食堂へと来ている。「今日はどうしよっかなぁ。実家に戻ってもすることないし……」 全寮制であるのだが、日曜日は外出自由だ。さりとて休日を実家で過ごす生徒は概ね土曜の夜から帰省している。よって言葉とは裏腹に、キャロルは実家へ戻るつもりなどないのだろう。 いつもより空席が目立つ食堂。パスタセットを購入したキャロルは長テーブルの端へと着席していた。「ここいいか?」 黙々と食べていたキャロルだが、不意に声をかけられている。視線を上げるとそこには背の高い男の子の姿。かといって知らない顔ではなかった。「ニコル君……」 キャロルは薄い目をして彼を見ている。どうやら彼女はニコルの用事を察しているようだ。「他にも空席はあるじゃない? それにミハルはいないわよ?」 事あるごとにニコルは二人に突っかかっていた。しかしながら、別にニコルがいじめっ子というわけではない。「ミ、ミハルは関係ねぇよ! ちょっとキャロルに用があっただけだ……」 ミハル自身が感付いているかは定かでなかったものの、キャロルは明確にニコルの感情を理解している。なぜなら言動の全てがミハルへと向けられていたのだから。「ああそう? じゃあ、何の用なの?」 どうせ暇であるのだし、キャロルは要件を聞くことにした。  航宙士学校に入ってから、ニコルはずっと二番手である。つまりは一度もミハルに勝ったことがなかった。入学当初はライバル心を剥き出しにしていただけなのだが、年齢を重ねるにつれて、その想いは変化している。「いやその、ミハルはレーサーになるつもりなのか?」 またもやキャロルは薄く蔑むような視線を送ってしまう。先ほどミハルは関係ないと聞いたばかり。まさか続けられた話題までミハルに関することであるとは流石に思わなかった。「どうしてそう思うの?」「本来なら今日は俺がオープンレースに参加する予定だったんだ

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  • Solomon's Gate   アナウンサー志望

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  • Solomon's Gate   ミハル・エアハルト

     統世歴798年――。 人類はかつてない繁栄を手にしていた。  地球圏を飛び出し、火星まで開発し始めたのがほんの二百年前である。しかし、スーパーブラディオン供給装置(SBF)の実用化によって宇宙開発は急速な発展を遂げた。 超光速粒子スーパーブラディオン。光速を超えるその素粒子は人類を銀河へ解き放つ翼である。SBF推進装置は人類にとって広大すぎた星系を手が届く範囲に変えたのだ。 星間シャトルライナーは地球圏から火星圏までを約一時間、木星圏であっても六時間と大幅な時間短縮を実現している。またSBFを使用した通信装置も宇宙開発には欠かせないものだ。タイムラグが生じない通話がSBF通信装置によって可能となっていた。 今や地球圏や火星圏だけでなく、木星の衛星軌道上にまで数多のユニックが浮かんでいる。だが、無計画に建造されているわけではない。常に人口は増加しており、いくら建造しようとも需要が供給を下回ることはなかった。 木星圏にあるガリレオサテライト5THは地球時代の天文学者にちなんで名付けられた。フィフスは太陽系最大のユニックであり、もしも当時に存在していたとすれば、彼が発見した五番目の衛星になっただろうとの意味合いである。 首都セントグラードのターミナルステーションから続く近代的で華やかな大通りを真っ直ぐに抜けると、この街を象徴する建物が見えてくる。歴史を感じさせる外観。特に目を惹くのは時計台が併設された建物だ。贅沢にも天然石を使用して造られたという美しい建物はまるで宮殿であるかのよう。 ところが、そこは学校だった。数ある航宙士学校の中でも一番だと名高いセントグラード航宙士学校の学び舎である。「またミハルが一番かぁ……」 「実力よ! 実力が違うのよ!」 本日は期末試験の結果が発表されていた。試験結果は腕時計型ギアに一斉送信され、生徒たちは各々その結果を確認している。「でも実技だけだよね?」 「それを言っちゃあ、お仕舞いですよ! キャロルさん?」 おちゃらけて見せる彼女はミハル・エアハルト。十八歳になったところだ。軽く罵られたというのに、彼女は実に誇らしそう。 猫っ毛のせいか耳元の髪が少し前向きにはねている。けれど、ミハルはそれほど気にしていない様子。そもそも長い髪に関する校則を面倒がって、ミハルは肩にそって切ってしまったのだ。そんな彼女に特別

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