INICIAR SESIÓN約千年前。地球の衛星軌道上にユニックⅠの建造が始まった頃、世界政府であったオールコンチネンタルユニオンは名称を改めた。
Galaxy United NationS。現在の宇宙政府ともいえる銀河連合GUNSはこの時より発足していた。
太陽系の秩序たるGUNSは宇宙の全権を任されている。各エリアの代表者が集まり、尚かつ選挙で総長を選ぶ。まるで太陽系全体が一つの国家であるかのよう。
現在の統轄本部は木星圏にあったものの、本日は土星圏に浮かぶ研究施設へと各代表者たちが集結していた。総長であるデミトリー・レオポルドもその一人である。
「総長並びに議員の皆様、本日は遠いところ土星までお越し頂き有り難うございます」
施設責任者であるマルコが挨拶をした。サターンラボは土星の環境調査をメインに様々な研究を行っている施設である。
「マルコ主席研究員、今日は宜しく頼む。専門家として忌憚ない意見を聞かせて欲しい」
土星圏は未開拓の宙域である。GUNSの研究施設が幾つか浮かんでいるだけで、民間人は住んでいなかった。
「ここはとても素晴らしい場所ですよ。土星の神々しい姿は勿論のこと、多種多様な衛星など注目すべき物がたくさんございます」
「確かに土星の存在感は他を圧倒しているな。懸念であったシャトルライナーも無事に開通したことだし、本格的な開発を始める時期かもしれない」
別に木星圏が手狭になったという事実はない。けれど、人類はどん欲だった。まるでその存在を誇示するかのように銀河の開拓を続けている。
「土星圏は観光にも定住にも適しております。是非ともご一考していただければと……」
シャトルライナーは公転周期により旅程が大幅に異なってしまう欠点があるものの、ルート計算は既に完了しており、如何なる周期の場合も航行することができた。
マルコが語るように土星圏は新たな開発地として相応しい。五十を優に超える衛星があり、多様な資源が補給できる。加えて、エネルギー自体も土星を活用できたのだ。
「本日は土星のエネルギー事情について説明させていただきます」
言ってマルコは資料を全員に手渡す。
一行は開発審査団とされていたが、実をいうと反対派などいない。この視察は形式的なものであり、視察の実績が残ればそれだけで良かった。「基本的なエネルギーは重力発電にて賄います」
「それでは不足しませんか? もっと高効率な方法はなかったのでしょうか?」火星圏代表のモルガン議員が早速と口を挟む。
エネルギー問題は常に人類の課題だった。食料や水は難なく作り出せたものの、それらを作るのにも何をするのにもエネルギーが必須。よって安定的なエネルギー供給は何よりも先だって考えられることだ。「コア熱の利用はやはりコストとの兼ね合いで難しいですね。現時点では重力と太陽光による発電を推奨します。安全面やコスト面を考慮すると重力発電の比重を高くするべきでしょうね」
重力発電は同じガス惑星である木星でも有効的な発電方法である。重力圏へ質量を投下するだけであったので、建設が容易であると同時に安全面やコスト面でも優秀だった。
「新設計されたグラビティジェネレーターシステムを実際に見ていただきましょうか」
マルコがモニターのスイッチを入れると土星の様子が映し出された。小さく浮かんでいる幾つもの物体がグラビティジェネレーターシステムであるらしい。
「では、始めます!」
小さな建造物から飛び出す無数の物体。隕石のように飛び出し、それは長い尾を引いた。
「一つのアンカーで木星と同じく千キロ発電できます。発電効率は従来のジェネレーターと比べ十倍と非常に強力です」
グングンと伸びていく発電メーターに参加者たちは感嘆の声を上げた。
アンカーとは重力に引かれて落ちていくだけのおもりである。アンカーには速硬化性の液化樹脂が付着され、射出されると同時に硬化しながら糸を引く仕組みだ。その糸は発電機の始動線となり、アンカーが落ちていく千キロの間は発電し続ける。また千キロが過ぎればアンカーは発電機から切り離され、始動線ごと土星へと落下していく。巻き上げや回収の必要はなかった。
好反応にマルコは笑みを浮かべる。研究費用の増額を希望していた彼は今回の視察訪問を是非とも成功させたいと考えていたのだ。開発業務は専門外であったものの、視察にあわせて完璧な準備を済ませていたのである。
「大変です! マルコ主席!!」
ところが、視察は思わぬ形で中断されてしまう。どうやら問題が発生したらしい。
「どうした? 故障か?」
「ジェネレーターシステムに異常はありません。ですが……」眉根を寄せるマルコ。この場面で最も困る状況は故障であるはず。よって異常なしと答えたオペレーターが取り乱す理由は分からなかった。
「土星の質量が急激に失われています!!」
続けられた突拍子もない報告にマルコは絶句する。何とか言葉を絞り出そうとするも、冗談としか思えない話に指示など出せるはずもなかった。
「質量40%……いや、20%にまで減少!」
「あり得んだろう!? 予備のセンサーに切り替えろ!」非現実的な報告にマルコはセンサーの異常を疑う。しかしながら、それは適切な指示ではなかった。何しろモニターへ映し出される土星は目に見えて縮小していたのだから。
「ジェネレーターシステム緊急停止だ!」
遂にはデモンストレーションの中止を命令する。だが、時すでに遅し。土星は爆縮し、もう視認できない。何が起こったのかも掴めぬまま、土星はその姿を消した。
「ど……土星……完全に消失しました……」
為す術なく土星は消失。残された輪っかが、ただ儚くモニターに映っていた。
これはデモンストレーションであったはずだ。巨大なガス惑星がアンカーを撃ち込んだだけで消失するなんて、素人であっても冗談としか思わないだろう。
「重力場消失! 揺れますっ!」
その刹那、研究施設に警報が鳴り響く。立っていられないほどの激しい揺れに襲われた。
「姿勢制御急げ! 被害報告!」
土星の衛星軌道に乗っていた全ての存在は紐が外された風船のよう。
かつては、その象徴だった環でさえも追い散らされた羽虫のごとく、ゆっくりと拡がるようにして離れていく。土星という足枷はもうなくなったのだ。研究所は直ぐさま姿勢制御をし事なきを得た。けれど、先ほどまであれほど浮かれていた面々は表情をなくし、言葉すらなくしている……。
日曜日の午後。寝坊したミハルが慌てて競技場へと向かったあと、用事もなかったキャロルは二度寝していた。気付けば正午を回っており、彼女は遅めの昼食を取るため食堂へと来ている。「今日はどうしよっかなぁ。実家に戻ってもすることないし……」 全寮制であるのだが、日曜日は外出自由だ。さりとて休日を実家で過ごす生徒は概ね土曜の夜から帰省している。よって言葉とは裏腹に、キャロルは実家へ戻るつもりなどないのだろう。 いつもより空席が目立つ食堂。パスタセットを購入したキャロルは長テーブルの端へと着席していた。「ここいいか?」 黙々と食べていたキャロルだが、不意に声をかけられている。視線を上げるとそこには背の高い男の子の姿。かといって知らない顔ではなかった。「ニコル君……」 キャロルは薄い目をして彼を見ている。どうやら彼女はニコルの用事を察しているようだ。「他にも空席はあるじゃない? それにミハルはいないわよ?」 事あるごとにニコルは二人に突っかかっていた。しかしながら、別にニコルがいじめっ子というわけではない。「ミ、ミハルは関係ねぇよ! ちょっとキャロルに用があっただけだ……」 ミハル自身が感付いているかは定かでなかったものの、キャロルは明確にニコルの感情を理解している。なぜなら言動の全てがミハルへと向けられていたのだから。「ああそう? じゃあ、何の用なの?」 どうせ暇であるのだし、キャロルは要件を聞くことにした。 航宙士学校に入ってから、ニコルはずっと二番手である。つまりは一度もミハルに勝ったことがなかった。入学当初はライバル心を剥き出しにしていただけなのだが、年齢を重ねるにつれて、その想いは変化している。「いやその、ミハルはレーサーになるつもりなのか?」 またもやキャロルは薄く蔑むような視線を送ってしまう。先ほどミハルは関係ないと聞いたばかり。まさか続けられた話題までミハルに関することであるとは流石に思わなかった。「どうしてそう思うの?」「本来なら今日は俺がオープンレースに参加する予定だったんだ
セントグラードにある第一上層ブロックに十万人を収容できる大規模なレース競技場があった。本日はグランプリレース競技組織とGUNSが協賛する航宙機フェスティバルが催されている。「うわ! 凄い人だなぁ……」 スタンドを埋め尽くす人だかりに、ミハルは圧倒されていた。先日、強引に決められた通り、彼女はオープンレースなるものにエントリーしている。 オープンレースはショーのメインイベントだった。ティーンエイジクラス、フルエイジクラス、プロフェッショナルクラスという三クラスのレースが予定されている。 ミハルが参加するのはティーンエイジクラスだ。実をいうと、オープンレースは航宙士学校の威信をかけた戦いではない。なぜなら、航宙士学校だけで競うのではなく、十代のパイロットであれば誰にでも参加資格があったからだ。 セントラルにある各航宙士学校には優先枠が設けられていたものの、残りの出場枠は予選を勝ち抜いた大学生やセミプロたち。時にはGUNSの若手パイロットまでもが参加していたから、航宙士学校としてはいまいち盛り上がりに欠けた。学校対抗戦でもなければ、それがイベントの枠を出ることはない。「ミハル・エアハルトさんですか? ティーンエイジクラスの選手はこちらに……」 係員に誘導され、ミハルは控え室へと向かう。心なし気持ちが昂ぶってきた。レース前の独特な雰囲気。緊張とは違ったけれど、ミハルは鼓動を早めている。 控え室にはティーンエイジクラスの選手が揃っていた。思い思いにストレッチをしたり集中したりと、レースへの意気込みが伝わってくる。「まあ、私は普段通りだ……」 言ってミハルはギアを操作。別にやるべきルーティンもなかったから、彼女は途中までだった動画の続きを見ることにした。「ティーンエイジクラスの皆さん、機体チェックの前に軽く説明させて頂きます。予選時にレース機の経験がある方も復習の意味で聞いてください」 ミハルが動画を再生するや、直ぐさま係員が機体についての話を始めた。 水を差された感がありミハルは不満そう。操縦の説明なんてと顔を顰めている。「レース機は一般の機体と同じで
約千年前。地球の衛星軌道上にユニックⅠの建造が始まった頃、世界政府であったオールコンチネンタルユニオンは名称を改めた。 Galaxy United NationS。現在の宇宙政府ともいえる銀河連合GUNSはこの時より発足していた。 太陽系の秩序たるGUNSは宇宙の全権を任されている。各エリアの代表者が集まり、尚かつ選挙で総長を選ぶ。まるで太陽系全体が一つの国家であるかのよう。 現在の統轄本部は木星圏にあったものの、本日は土星圏に浮かぶ研究施設へと各代表者たちが集結していた。総長であるデミトリー・レオポルドもその一人である。「総長並びに議員の皆様、本日は遠いところ土星までお越し頂き有り難うございます」 施設責任者であるマルコが挨拶をした。サターンラボは土星の環境調査をメインに様々な研究を行っている施設である。「マルコ主席研究員、今日は宜しく頼む。専門家として忌憚ない意見を聞かせて欲しい」 土星圏は未開拓の宙域である。GUNSの研究施設が幾つか浮かんでいるだけで、民間人は住んでいなかった。「ここはとても素晴らしい場所ですよ。土星の神々しい姿は勿論のこと、多種多様な衛星など注目すべき物がたくさんございます」「確かに土星の存在感は他を圧倒しているな。懸念であったシャトルライナーも無事に開通したことだし、本格的な開発を始める時期かもしれない」 別に木星圏が手狭になったという事実はない。けれど、人類はどん欲だった。まるでその存在を誇示するかのように銀河の開拓を続けている。「土星圏は観光にも定住にも適しております。是非ともご一考していただければと……」 シャトルライナーは公転周期により旅程が大幅に異なってしまう欠点があるものの、ルート計算は既に完了しており、如何なる周期の場合も航行することができた。 マルコが語るように土星圏は新たな開発地として相応しい。五十を優に超える衛星があり、多様な資源が補給できる。加えて、エネルギー自体も土星を活用できたのだ。「本日は土星のエネルギー事情について説明させていただきます」 言ってマルコは資料を全員に手渡す。 一行は開発審査団とされていたが、実をいうと反対派などいない。この視察は形式的なものであり、視察の実績が残ればそれだけで良かった。「基本的なエネルギーは重力発電にて賄います」 「それでは不足しません
「ええ!? ミハルさん、本気ですか? アナウンサー志望!?」 「はい! セントグラード放送局を受けたいです!」 面談開始五秒で眉根を寄せたのはグレン教員である。やはり就職指導の教師でさえも困惑する希望のようだ。「大道具係でしたら受かるかもしれませんが……」 「ア、アナウンサーです!」 ミハルの指摘にグレンは首を横に振った。彼は直ぐさま端末を操作して、何かの資料を呼び出している。「貴方の一般学科成績です。これで受かると思いますか? ちなみにセントグラード放送局は大卒以上の学歴が必要ですね。またアナウンサーは身長制限もあるようです。150センチしかない貴方は、その条件を満たしていません。どうしても放送局がいいというのなら、条件が設定されていない大道具係しか……」 再度アナウンサーですっとミハル。ところが、グレンの表情から色よい話が聞けそうな予感はしなかった。「ミハルさん、貴方は操縦しか取り柄がないのですよ?」 胸に突き刺さる一言である。確かに一般学科は酷い。こうして一覧にされると改めて思う。進級に必要な最低点で綺麗に纏められていた。「でも、私……」 「操縦士の何が不満なのです? このような時期になったとはいえ、貴方の実技成績ならば引く手数多ですよ? 六年間の学科成績を完全になかったことにできるのは貴方くらいです!」 もはや褒められているのか貶されているのか分からなかった。単に馬鹿だと扱き下ろされているのか、或いは天才パイロットだと称えられているのか。「私はここへ入学する前は航宙機に乗るのが大好きでした。でも、今ではその熱も冷めて、どちらかというと楽しめていません……」 ミハルは語った。希望就職先のわけ。操縦系の職種を選ばない理由を。 それはグレンにとって取るに足りない理由であったが、ミハルには重要だった。仕事としてつまらなく飛ぶくらいなら、いっそ距離を置こうと決意していたのだ。「熱意ですか? それは貴方が常に一番だからでしょうか?」 「そういうわけでは、ないですけど……」 ミハルは言葉を濁す。けれど、それは明白だった。明らかに張り合いがなくなっている。彼女はこと操縦において、ある種の達成感を覚えてしまったのだ。「それならミハルさん、貴方は来週ここへ行ってください。つまらないとは思わなくなりますよ? 仮にも航宙士学校の生徒なのです
統世歴798年――。 人類はかつてない繁栄を手にしていた。 地球圏を飛び出し、火星まで開発し始めたのがほんの二百年前である。しかし、スーパーブラディオン供給装置(SBF)の実用化によって宇宙開発は急速な発展を遂げた。 超光速粒子スーパーブラディオン。光速を超えるその素粒子は人類を銀河へ解き放つ翼である。SBF推進装置は人類にとって広大すぎた星系を手が届く範囲に変えたのだ。 星間シャトルライナーは地球圏から火星圏までを約一時間、木星圏であっても六時間と大幅な時間短縮を実現している。またSBFを使用した通信装置も宇宙開発には欠かせないものだ。タイムラグが生じない通話がSBF通信装置によって可能となっていた。 今や地球圏や火星圏だけでなく、木星の衛星軌道上にまで数多のユニックが浮かんでいる。だが、無計画に建造されているわけではない。常に人口は増加しており、いくら建造しようとも需要が供給を下回ることはなかった。 木星圏にあるガリレオサテライト5THは地球時代の天文学者にちなんで名付けられた。フィフスは太陽系最大のユニックであり、もしも当時に存在していたとすれば、彼が発見した五番目の衛星になっただろうとの意味合いである。 首都セントグラードのターミナルステーションから続く近代的で華やかな大通りを真っ直ぐに抜けると、この街を象徴する建物が見えてくる。歴史を感じさせる外観。特に目を惹くのは時計台が併設された建物だ。贅沢にも天然石を使用して造られたという美しい建物はまるで宮殿であるかのよう。 ところが、そこは学校だった。数ある航宙士学校の中でも一番だと名高いセントグラード航宙士学校の学び舎である。「またミハルが一番かぁ……」 「実力よ! 実力が違うのよ!」 本日は期末試験の結果が発表されていた。試験結果は腕時計型ギアに一斉送信され、生徒たちは各々その結果を確認している。「でも実技だけだよね?」 「それを言っちゃあ、お仕舞いですよ! キャロルさん?」 おちゃらけて見せる彼女はミハル・エアハルト。十八歳になったところだ。軽く罵られたというのに、彼女は実に誇らしそう。 猫っ毛のせいか耳元の髪が少し前向きにはねている。けれど、ミハルはそれほど気にしていない様子。そもそも長い髪に関する校則を面倒がって、ミハルは肩にそって切ってしまったのだ。そんな彼女に特別
木星の衛星軌道上に煌めく幾つもの人工的な光。それらは全てユニバーサルコンチネントという巨大建造物が放つものだ。略称はユニック。それは銀河に浮かぶ新しい大地の名称である。 木星圏には多種多様なユニックが浮かんでいたのだが、中でもガリレオサテライト5THと名付けられたユニックは他に類を見ない巨大なものだった。フィフスと呼ばれるそのユニックは約三億人が生活する木星メガフロントユニック群のシンボル的存在である。 セントラル区画にある首都セントグラードは木星経済の中心地だ。インフラだけでなく観光施設や娯楽も充実しており、誰しもが憧れを抱く大都市であった。 そんなセントグラード市の特区にある第七上層ブロック。本日は外郭部にある競技場で市民参加型の航宙機イベントが催されていた。 たった今、初等学校低学年組の航宙機レースが終わったところである。既に表彰式が始まっており、壇上には三名の若きパイロットが勢揃いしていた。『……以上が初等学校低学年組の入賞者でした!』 三人の首にメダルがかけられ、拍手に見送られながら入賞者が壇上を後にしていく。 その中の一人、初等学校一年生であるミハルは満面の笑みを浮かべていた。彼女は一年生ながら二位につけるという大健闘を見せている。三年生には敵わなかったけれど、彼女は胸に煌めく銀メダルを誇らしく感じていた。 控え室へと続く通路を歩くミハル。堂々と銀メダルを見せびらかすように歩いていた彼女だが、不意に声をかけられている。「嬢ちゃん、何がそんなに嬉しいんだ?」 ミハルはピタリと足を止めた。表彰式が終わったばかりであり、彼女の胸には入賞者の証しが燦然と輝いている。笑顔のわけが分からないなんて、ミハルには信じられなかった。「おじさん、レース見てなかったの?」 「おじさん言うな。俺はお兄さんだ……」 高等学校生らしき彼はパイロットスーツを着込んでいる。どうやら彼も何かしらのプログラムに参加するパイロットのようだ。「私は二位だったのよ! ほら!」 呼び方に関してはスルーし、ミハルは彼に銀メダルを見せた。それだけで彼にも笑顔の理由が分かってもらえるはずと。 しかし、彼は首を横に振る。ミハルが期待した褒め言葉なんてかけてくれない。「嬢ちゃん、二着は負けだぞ?――――」 ミハルは唖然としてしまう。彼女は二着という順位を素直に喜ん