INICIAR SESIÓNセントグラードにある第一上層ブロックに十万人を収容できる大規模なレース競技場があった。本日はグランプリレース競技組織とGUNSが協賛する航宙機フェスティバルが催されている。
「うわ! 凄い人だなぁ……」
スタンドを埋め尽くす人だかりに、ミハルは圧倒されていた。先日、強引に決められた通り、彼女はオープンレースなるものにエントリーしている。
オープンレースはショーのメインイベントだった。ティーンエイジクラス、フルエイジクラス、プロフェッショナルクラスという三クラスのレースが予定されている。
ミハルが参加するのはティーンエイジクラスだ。実をいうと、オープンレースは航宙士学校の威信をかけた戦いではない。なぜなら、航宙士学校だけで競うのではなく、十代のパイロットであれば誰にでも参加資格があったからだ。
セントラルにある各航宙士学校には優先枠が設けられていたものの、残りの出場枠は予選を勝ち抜いた大学生やセミプロたち。時にはGUNSの若手パイロットまでもが参加していたから、航宙士学校としてはいまいち盛り上がりに欠けた。学校対抗戦でもなければ、それがイベントの枠を出ることはない。
「ミハル・エアハルトさんですか? ティーンエイジクラスの選手はこちらに……」
係員に誘導され、ミハルは控え室へと向かう。心なし気持ちが昂ぶってきた。レース前の独特な雰囲気。緊張とは違ったけれど、ミハルは鼓動を早めている。
控え室にはティーンエイジクラスの選手が揃っていた。思い思いにストレッチをしたり集中したりと、レースへの意気込みが伝わってくる。
「まあ、私は普段通りだ……」
言ってミハルはギアを操作。別にやるべきルーティンもなかったから、彼女は途中までだった動画の続きを見ることにした。
「ティーンエイジクラスの皆さん、機体チェックの前に軽く説明させて頂きます。予選時にレース機の経験がある方も復習の意味で聞いてください」
ミハルが動画を再生するや、直ぐさま係員が機体についての話を始めた。
水を差された感がありミハルは不満そう。操縦の説明なんてと顔を顰めている。「レース機は一般の機体と同じではありません。推進機も違いますしスピードに特化していますから、あらゆる機能が簡略化されています。練習時から必ずヘルメットの着用をお願い致します」
全方位モニターが航宙機に採用されてから、ヘルメットは使用されなくなっていた。既にレース機以外ではセフティバブルというジェル噴出式の安全機構に取って代わっている。
「レース機はパイロットを映す鏡だと表現されます。なぜなら、レース機はパイロットの実力通りにしか動かないからです。AIによる制御は一つとして存在せず、全ての機動がパイロットの能力に依存します。AIアシストに慣れた方には操縦しづらいでしょう。レース前には十分な練習をし、機体に慣れるようお願い致します」
一般的な航宙機にはAIアシストシステムが必ず備わっている。元々は脳波アナライザーを利用したオートパイロットの技術であったが、意志決定の判定にどうしても曖昧さを残してしまうために補助機動として採用されていた。
視覚や聴覚によって意識した情報を元にAIが方角補正や予備動作を始める。これによりランディング時や障害物の回避機動における事故を革命的に減ずることができた。
一般機はより安全に、戦闘機はより高度な回避を現実のものとし、全てが次世代機へと進化している。ただ、それらはあくまでアシストであって、進行中の機動に逆らったり、入力操作より優先されたりすることはなかった。
「ヘルメットっていつの時代……? 鬱陶しいな……」
不満を口にしながらも、ミハルはヘルメットを手にする。子供の頃に装着したことはあったけれど、視界が狭まるし窮屈だしと良いイメージは持っていない。
「以上で説明は終わりです。選手の皆さんは機体のチェックをお願い致します。実際に乗って頂き、危険を感じるようでしたら直ぐに申し出てください」
操縦や機構の説明などが終わると、選手たちはドックへと案内された。全員揃っての移動となっていたため、またもや渋々とミハルは行列のあとを行く。
スターティンググリッドの後方にドックはあった。どうやら個別に担当整備士がいるらしい。従って、ここでも興味のない話を聞く羽目になるミハル。補講免除のためとはいえ、面倒なことこの上ない。
「ミハルちゃん、これが乗ってもらう機体だよ。学校にある機体とは全く異なるから、充分に練習しておいてね」
別に練習なんてとミハルは内心思っていたけれど、整備士はミハルの側を離れなかった。流石にやり過ごすこともできず、今度もまた不承不承に自機へと乗り込んでいく。
「ポジションチェック、計器異常なし……」
航宙士学校で習った通りの手順を踏み、ミハルはエンジンを始動する。レース機は使い慣れたSBF推進機とは違ったが、コックピットに目新しい機能は見られない。だが、機体は異様に小さく、背後より届くエキゾーストノイズは明確に学校の機体と異なっていた。
まあでも大丈夫でしょと軽くミハルは頷いて、発進する旨を管制に告げた。
「ミハル・エアハルトですが、発進してもよろしいですか?」
『こちら競技場管制、リクエストを受諾しました。セントグラード航宙士学校ミハル・エアハルトさんはグリッドへと進んでください』
抽選の結果、ミハルは十番グリッドとなっていた。十番グリッドはスターティンググリッドの一番端であり、レース用語でいうところの大外である。
「十号機、ミハル・エアハルト発進しますっ!」
ゴンと踏み込んで、ミハルはいきなりフルスロットル。しかしながら、それはいつも通りである。とろくさい学校の機体では何の問題もなかった。
「っ――!?」
想像よりも強いGがミハルを襲った。息が詰まりそう。思わずスロットルを緩めそうになるけれど、何か負けたような気がして再び一杯まで踏み込んでいる。
まるでミサイルのように加速していく。考えていたよりもずっとパワーがあった。今までの機体が子供用の玩具であったと考えてしまうほどに。
「確かに凄い機体ね……」
それでもミハルは直ぐに慣れて、手足のごとく機体を操る。時折、派手な機動を見せたりして大歓声を浴びていた。
「先生はこういったことを私に体験させたかったのかな?」
少しばかり変わった機動を見せると観客たちは即座に反応する。だが、ミハルには響かなかった。幾ら観客が騒いだとしても、実際には何も聞こえなかったし、何より見せ物になるのは好きじゃなかったから。
結局、コースを二周ほどしてミハルはドックに戻ってしまう。もう十分だと言わんばかりである。
「ミハルちゃん流石だね! セントグラード代表は伊達じゃないな。だけど今年に関して言えば、ちょっと厳しいと思うね……。もっと練習した方がいいんじゃない?」
褒め殺しかと思えば、整備士は気になる話を口にした。
流石に苛っとしたミハルはムッとした表情をして問いを返している。「他にどんな選手がいるのですか?」
少しきつめの口調は自負心のせいだ。勝つのは自分以外にあり得ないとさえ彼女は思っている。
「今年は百回目の記念大会だからね。ティーンエイジクラスにまで軍部が出張ってきてるんだよ。今年十九歳になるジュリア・マックイーン。お姉さんが銀河連合軍でエースを張っているだけじゃなく、自身も軍部期待の新鋭なんだ。その実力は折り紙付きらしいね」
女の子?――ミハルは益々眉間にしわを寄せた。
百歩譲って男の子ならまだしも、同年代の女の子だと分かっては穏やかじゃない。「どの子だろう?」
ドックを見渡す限り、女性らしいパイロットは一人しかいない。
ピンク色のパイロットスーツ。遠目にも分かる長い黒髪を後ろで結わえている。恐らくは三号機に乗る彼女がその人だろう。ミハルはジッと女の子を見つめながら小さく頷いた。
「彼女を徹底マークだ。私で連覇が途切れるとか格好悪いし……」
必ず勝つのだと心に誓った。
徐々にグレンの思惑通りになっていく。当初は勝ち負けなどどうでも良かったのに、気付けば誰よりも意気込んでいる。「絶対に負けられない!――」
日曜日の午後。寝坊したミハルが慌てて競技場へと向かったあと、用事もなかったキャロルは二度寝していた。気付けば正午を回っており、彼女は遅めの昼食を取るため食堂へと来ている。「今日はどうしよっかなぁ。実家に戻ってもすることないし……」 全寮制であるのだが、日曜日は外出自由だ。さりとて休日を実家で過ごす生徒は概ね土曜の夜から帰省している。よって言葉とは裏腹に、キャロルは実家へ戻るつもりなどないのだろう。 いつもより空席が目立つ食堂。パスタセットを購入したキャロルは長テーブルの端へと着席していた。「ここいいか?」 黙々と食べていたキャロルだが、不意に声をかけられている。視線を上げるとそこには背の高い男の子の姿。かといって知らない顔ではなかった。「ニコル君……」 キャロルは薄い目をして彼を見ている。どうやら彼女はニコルの用事を察しているようだ。「他にも空席はあるじゃない? それにミハルはいないわよ?」 事あるごとにニコルは二人に突っかかっていた。しかしながら、別にニコルがいじめっ子というわけではない。「ミ、ミハルは関係ねぇよ! ちょっとキャロルに用があっただけだ……」 ミハル自身が感付いているかは定かでなかったものの、キャロルは明確にニコルの感情を理解している。なぜなら言動の全てがミハルへと向けられていたのだから。「ああそう? じゃあ、何の用なの?」 どうせ暇であるのだし、キャロルは要件を聞くことにした。 航宙士学校に入ってから、ニコルはずっと二番手である。つまりは一度もミハルに勝ったことがなかった。入学当初はライバル心を剥き出しにしていただけなのだが、年齢を重ねるにつれて、その想いは変化している。「いやその、ミハルはレーサーになるつもりなのか?」 またもやキャロルは薄く蔑むような視線を送ってしまう。先ほどミハルは関係ないと聞いたばかり。まさか続けられた話題までミハルに関することであるとは流石に思わなかった。「どうしてそう思うの?」「本来なら今日は俺がオープンレースに参加する予定だったんだ
セントグラードにある第一上層ブロックに十万人を収容できる大規模なレース競技場があった。本日はグランプリレース競技組織とGUNSが協賛する航宙機フェスティバルが催されている。「うわ! 凄い人だなぁ……」 スタンドを埋め尽くす人だかりに、ミハルは圧倒されていた。先日、強引に決められた通り、彼女はオープンレースなるものにエントリーしている。 オープンレースはショーのメインイベントだった。ティーンエイジクラス、フルエイジクラス、プロフェッショナルクラスという三クラスのレースが予定されている。 ミハルが参加するのはティーンエイジクラスだ。実をいうと、オープンレースは航宙士学校の威信をかけた戦いではない。なぜなら、航宙士学校だけで競うのではなく、十代のパイロットであれば誰にでも参加資格があったからだ。 セントラルにある各航宙士学校には優先枠が設けられていたものの、残りの出場枠は予選を勝ち抜いた大学生やセミプロたち。時にはGUNSの若手パイロットまでもが参加していたから、航宙士学校としてはいまいち盛り上がりに欠けた。学校対抗戦でもなければ、それがイベントの枠を出ることはない。「ミハル・エアハルトさんですか? ティーンエイジクラスの選手はこちらに……」 係員に誘導され、ミハルは控え室へと向かう。心なし気持ちが昂ぶってきた。レース前の独特な雰囲気。緊張とは違ったけれど、ミハルは鼓動を早めている。 控え室にはティーンエイジクラスの選手が揃っていた。思い思いにストレッチをしたり集中したりと、レースへの意気込みが伝わってくる。「まあ、私は普段通りだ……」 言ってミハルはギアを操作。別にやるべきルーティンもなかったから、彼女は途中までだった動画の続きを見ることにした。「ティーンエイジクラスの皆さん、機体チェックの前に軽く説明させて頂きます。予選時にレース機の経験がある方も復習の意味で聞いてください」 ミハルが動画を再生するや、直ぐさま係員が機体についての話を始めた。 水を差された感がありミハルは不満そう。操縦の説明なんてと顔を顰めている。「レース機は一般の機体と同じで
約千年前。地球の衛星軌道上にユニックⅠの建造が始まった頃、世界政府であったオールコンチネンタルユニオンは名称を改めた。 Galaxy United NationS。現在の宇宙政府ともいえる銀河連合GUNSはこの時より発足していた。 太陽系の秩序たるGUNSは宇宙の全権を任されている。各エリアの代表者が集まり、尚かつ選挙で総長を選ぶ。まるで太陽系全体が一つの国家であるかのよう。 現在の統轄本部は木星圏にあったものの、本日は土星圏に浮かぶ研究施設へと各代表者たちが集結していた。総長であるデミトリー・レオポルドもその一人である。「総長並びに議員の皆様、本日は遠いところ土星までお越し頂き有り難うございます」 施設責任者であるマルコが挨拶をした。サターンラボは土星の環境調査をメインに様々な研究を行っている施設である。「マルコ主席研究員、今日は宜しく頼む。専門家として忌憚ない意見を聞かせて欲しい」 土星圏は未開拓の宙域である。GUNSの研究施設が幾つか浮かんでいるだけで、民間人は住んでいなかった。「ここはとても素晴らしい場所ですよ。土星の神々しい姿は勿論のこと、多種多様な衛星など注目すべき物がたくさんございます」「確かに土星の存在感は他を圧倒しているな。懸念であったシャトルライナーも無事に開通したことだし、本格的な開発を始める時期かもしれない」 別に木星圏が手狭になったという事実はない。けれど、人類はどん欲だった。まるでその存在を誇示するかのように銀河の開拓を続けている。「土星圏は観光にも定住にも適しております。是非ともご一考していただければと……」 シャトルライナーは公転周期により旅程が大幅に異なってしまう欠点があるものの、ルート計算は既に完了しており、如何なる周期の場合も航行することができた。 マルコが語るように土星圏は新たな開発地として相応しい。五十を優に超える衛星があり、多様な資源が補給できる。加えて、エネルギー自体も土星を活用できたのだ。「本日は土星のエネルギー事情について説明させていただきます」 言ってマルコは資料を全員に手渡す。 一行は開発審査団とされていたが、実をいうと反対派などいない。この視察は形式的なものであり、視察の実績が残ればそれだけで良かった。「基本的なエネルギーは重力発電にて賄います」 「それでは不足しません
「ええ!? ミハルさん、本気ですか? アナウンサー志望!?」 「はい! セントグラード放送局を受けたいです!」 面談開始五秒で眉根を寄せたのはグレン教員である。やはり就職指導の教師でさえも困惑する希望のようだ。「大道具係でしたら受かるかもしれませんが……」 「ア、アナウンサーです!」 ミハルの指摘にグレンは首を横に振った。彼は直ぐさま端末を操作して、何かの資料を呼び出している。「貴方の一般学科成績です。これで受かると思いますか? ちなみにセントグラード放送局は大卒以上の学歴が必要ですね。またアナウンサーは身長制限もあるようです。150センチしかない貴方は、その条件を満たしていません。どうしても放送局がいいというのなら、条件が設定されていない大道具係しか……」 再度アナウンサーですっとミハル。ところが、グレンの表情から色よい話が聞けそうな予感はしなかった。「ミハルさん、貴方は操縦しか取り柄がないのですよ?」 胸に突き刺さる一言である。確かに一般学科は酷い。こうして一覧にされると改めて思う。進級に必要な最低点で綺麗に纏められていた。「でも、私……」 「操縦士の何が不満なのです? このような時期になったとはいえ、貴方の実技成績ならば引く手数多ですよ? 六年間の学科成績を完全になかったことにできるのは貴方くらいです!」 もはや褒められているのか貶されているのか分からなかった。単に馬鹿だと扱き下ろされているのか、或いは天才パイロットだと称えられているのか。「私はここへ入学する前は航宙機に乗るのが大好きでした。でも、今ではその熱も冷めて、どちらかというと楽しめていません……」 ミハルは語った。希望就職先のわけ。操縦系の職種を選ばない理由を。 それはグレンにとって取るに足りない理由であったが、ミハルには重要だった。仕事としてつまらなく飛ぶくらいなら、いっそ距離を置こうと決意していたのだ。「熱意ですか? それは貴方が常に一番だからでしょうか?」 「そういうわけでは、ないですけど……」 ミハルは言葉を濁す。けれど、それは明白だった。明らかに張り合いがなくなっている。彼女はこと操縦において、ある種の達成感を覚えてしまったのだ。「それならミハルさん、貴方は来週ここへ行ってください。つまらないとは思わなくなりますよ? 仮にも航宙士学校の生徒なのです
統世歴798年――。 人類はかつてない繁栄を手にしていた。 地球圏を飛び出し、火星まで開発し始めたのがほんの二百年前である。しかし、スーパーブラディオン供給装置(SBF)の実用化によって宇宙開発は急速な発展を遂げた。 超光速粒子スーパーブラディオン。光速を超えるその素粒子は人類を銀河へ解き放つ翼である。SBF推進装置は人類にとって広大すぎた星系を手が届く範囲に変えたのだ。 星間シャトルライナーは地球圏から火星圏までを約一時間、木星圏であっても六時間と大幅な時間短縮を実現している。またSBFを使用した通信装置も宇宙開発には欠かせないものだ。タイムラグが生じない通話がSBF通信装置によって可能となっていた。 今や地球圏や火星圏だけでなく、木星の衛星軌道上にまで数多のユニックが浮かんでいる。だが、無計画に建造されているわけではない。常に人口は増加しており、いくら建造しようとも需要が供給を下回ることはなかった。 木星圏にあるガリレオサテライト5THは地球時代の天文学者にちなんで名付けられた。フィフスは太陽系最大のユニックであり、もしも当時に存在していたとすれば、彼が発見した五番目の衛星になっただろうとの意味合いである。 首都セントグラードのターミナルステーションから続く近代的で華やかな大通りを真っ直ぐに抜けると、この街を象徴する建物が見えてくる。歴史を感じさせる外観。特に目を惹くのは時計台が併設された建物だ。贅沢にも天然石を使用して造られたという美しい建物はまるで宮殿であるかのよう。 ところが、そこは学校だった。数ある航宙士学校の中でも一番だと名高いセントグラード航宙士学校の学び舎である。「またミハルが一番かぁ……」 「実力よ! 実力が違うのよ!」 本日は期末試験の結果が発表されていた。試験結果は腕時計型ギアに一斉送信され、生徒たちは各々その結果を確認している。「でも実技だけだよね?」 「それを言っちゃあ、お仕舞いですよ! キャロルさん?」 おちゃらけて見せる彼女はミハル・エアハルト。十八歳になったところだ。軽く罵られたというのに、彼女は実に誇らしそう。 猫っ毛のせいか耳元の髪が少し前向きにはねている。けれど、ミハルはそれほど気にしていない様子。そもそも長い髪に関する校則を面倒がって、ミハルは肩にそって切ってしまったのだ。そんな彼女に特別
木星の衛星軌道上に煌めく幾つもの人工的な光。それらは全てユニバーサルコンチネントという巨大建造物が放つものだ。略称はユニック。それは銀河に浮かぶ新しい大地の名称である。 木星圏には多種多様なユニックが浮かんでいたのだが、中でもガリレオサテライト5THと名付けられたユニックは他に類を見ない巨大なものだった。フィフスと呼ばれるそのユニックは約三億人が生活する木星メガフロントユニック群のシンボル的存在である。 セントラル区画にある首都セントグラードは木星経済の中心地だ。インフラだけでなく観光施設や娯楽も充実しており、誰しもが憧れを抱く大都市であった。 そんなセントグラード市の特区にある第七上層ブロック。本日は外郭部にある競技場で市民参加型の航宙機イベントが催されていた。 たった今、初等学校低学年組の航宙機レースが終わったところである。既に表彰式が始まっており、壇上には三名の若きパイロットが勢揃いしていた。『……以上が初等学校低学年組の入賞者でした!』 三人の首にメダルがかけられ、拍手に見送られながら入賞者が壇上を後にしていく。 その中の一人、初等学校一年生であるミハルは満面の笑みを浮かべていた。彼女は一年生ながら二位につけるという大健闘を見せている。三年生には敵わなかったけれど、彼女は胸に煌めく銀メダルを誇らしく感じていた。 控え室へと続く通路を歩くミハル。堂々と銀メダルを見せびらかすように歩いていた彼女だが、不意に声をかけられている。「嬢ちゃん、何がそんなに嬉しいんだ?」 ミハルはピタリと足を止めた。表彰式が終わったばかりであり、彼女の胸には入賞者の証しが燦然と輝いている。笑顔のわけが分からないなんて、ミハルには信じられなかった。「おじさん、レース見てなかったの?」 「おじさん言うな。俺はお兄さんだ……」 高等学校生らしき彼はパイロットスーツを着込んでいる。どうやら彼も何かしらのプログラムに参加するパイロットのようだ。「私は二位だったのよ! ほら!」 呼び方に関してはスルーし、ミハルは彼に銀メダルを見せた。それだけで彼にも笑顔の理由が分かってもらえるはずと。 しかし、彼は首を横に振る。ミハルが期待した褒め言葉なんてかけてくれない。「嬢ちゃん、二着は負けだぞ?――――」 ミハルは唖然としてしまう。彼女は二着という順位を素直に喜ん