Home / SF / Solomon's Gate / オープンレース

Share

オープンレース

Author: 坂森大我
last update publish date: 2026-09-02 05:01:29

 セントグラードにある第一上層ブロックに十万人を収容できる大規模なレース競技場があった。本日はグランプリレース競技組織とGUNSが協賛する航宙機フェスティバルが催されている。

「うわ! 凄い人だなぁ……」

 スタンドを埋め尽くす人だかりに、ミハルは圧倒されていた。先日、強引に決められた通り、彼女はオープンレースなるものにエントリーしている。

 オープンレースはショーのメインイベントだった。ティーンエイジクラス、フルエイジクラス、プロフェッショナルクラスという三クラスのレースが予定されている。

 ミハルが参加するのはティーンエイジクラスだ。実をいうと、オープンレースは航宙士学校の威信をかけた戦いではない。なぜなら、航宙士学校だけで競うのではなく、十代のパイロットであれば誰にでも参加資格があったからだ。

 セントラルにある各航宙士学校には優先枠が設けられていたものの、残りの出場枠は予選を勝ち抜いた大学生やセミプロたち。時にはGUNSの若手パイロットまでもが参加していたから、航宙士学校としてはいまいち盛り上がりに欠けた。学校対抗戦でもなければ、それがイベントの枠を出ることはない。

「ミハル・エアハルトさんですか? ティーンエイジクラスの選手はこちらに……」

 係員に誘導され、ミハルは控え室へと向かう。心なし気持ちが昂ぶってきた。レース前の独特な雰囲気。緊張とは違ったけれど、ミハルは鼓動を早めている。

 控え室にはティーンエイジクラスの選手が揃っていた。思い思いにストレッチをしたり集中したりと、レースへの意気込みが伝わってくる。

「まあ、私は普段通りだ……」

 言ってミハルはギアを操作。別にやるべきルーティンもなかったから、彼女は途中までだった動画の続きを見ることにした。

「ティーンエイジクラスの皆さん、機体チェックの前に軽く説明させて頂きます。予選時にレース機の経験がある方も復習の意味で聞いてください」

 ミハルが動画を再生するや、直ぐさま係員が機体についての話を始めた。

 水を差された感がありミハルは不満そう。操縦の説明なんてと顔を顰めている。

「レース機は一般の機体と同じではありません。推進機も違いますしスピードに特化していますから、あらゆる機能が簡略化されています。練習時から必ずヘルメットの着用をお願い致します」

 全方位モニターが航宙機に採用されてから、ヘルメットは使用されなくなっていた。既にレース機以外ではセフティバブルというジェル噴出式の安全機構に取って代わっている。

「レース機はパイロットを映す鏡だと表現されます。なぜなら、レース機はパイロットの実力通りにしか動かないからです。AIによる制御は一つとして存在せず、全ての機動がパイロットの能力に依存します。AIアシストに慣れた方には操縦しづらいでしょう。レース前には十分な練習をし、機体に慣れるようお願い致します」

 一般的な航宙機にはAIアシストシステムが必ず備わっている。元々は脳波アナライザーを利用したオートパイロットの技術であったが、意志決定の判定にどうしても曖昧さを残してしまうために補助機動として採用されていた。

 視覚や聴覚によって意識した情報を元にAIが方角補正や予備動作を始める。これによりランディング時や障害物の回避機動における事故を革命的に減ずることができた。

 一般機はより安全に、戦闘機はより高度な回避を現実のものとし、全てが次世代機へと進化している。ただ、それらはあくまでアシストであって、進行中の機動に逆らったり、入力操作より優先されたりすることはなかった。

「ヘルメットっていつの時代……? 鬱陶しいな……」

 不満を口にしながらも、ミハルはヘルメットを手にする。子供の頃に装着したことはあったけれど、視界が狭まるし窮屈だしと良いイメージは持っていない。

「以上で説明は終わりです。選手の皆さんは機体のチェックをお願い致します。実際に乗って頂き、危険を感じるようでしたら直ぐに申し出てください」

 操縦や機構の説明などが終わると、選手たちはドックへと案内された。全員揃っての移動となっていたため、またもや渋々とミハルは行列のあとを行く。

 スターティンググリッドの後方にドックはあった。どうやら個別に担当整備士がいるらしい。従って、ここでも興味のない話を聞く羽目になるミハル。補講免除のためとはいえ、面倒なことこの上ない。

「ミハルちゃん、これが乗ってもらう機体だよ。学校にある機体とは全く異なるから、充分に練習しておいてね」

 別に練習なんてとミハルは内心思っていたけれど、整備士はミハルの側を離れなかった。流石にやり過ごすこともできず、今度もまた不承不承に自機へと乗り込んでいく。

「ポジションチェック、計器異常なし……」

 航宙士学校で習った通りの手順を踏み、ミハルはエンジンを始動する。レース機は使い慣れたSBF推進機とは違ったが、コックピットに目新しい機能は見られない。だが、機体は異様に小さく、背後より届くエキゾーストノイズは明確に学校の機体と異なっていた。

 まあでも大丈夫でしょと軽くミハルは頷いて、発進する旨を管制に告げた。

「ミハル・エアハルトですが、発進してもよろしいですか?」

『こちら競技場管制、リクエストを受諾しました。セントグラード航宙士学校ミハル・エアハルトさんはグリッドへと進んでください』

 抽選の結果、ミハルは十番グリッドとなっていた。十番グリッドはスターティンググリッドの一番端であり、レース用語でいうところの大外である。

「十号機、ミハル・エアハルト発進しますっ!」

 ゴンと踏み込んで、ミハルはいきなりフルスロットル。しかしながら、それはいつも通りである。とろくさい学校の機体では何の問題もなかった。

「っ――!?」

 想像よりも強いGがミハルを襲った。息が詰まりそう。思わずスロットルを緩めそうになるけれど、何か負けたような気がして再び一杯まで踏み込んでいる。

 まるでミサイルのように加速していく。考えていたよりもずっとパワーがあった。今までの機体が子供用の玩具であったと考えてしまうほどに。

「確かに凄い機体ね……」

 それでもミハルは直ぐに慣れて、手足のごとく機体を操る。時折、派手な機動を見せたりして大歓声を浴びていた。

「先生はこういったことを私に体験させたかったのかな?」

 少しばかり変わった機動を見せると観客たちは即座に反応する。だが、ミハルには響かなかった。幾ら観客が騒いだとしても、実際には何も聞こえなかったし、何より見せ物になるのは好きじゃなかったから。

 結局、コースを二周ほどしてミハルはドックに戻ってしまう。もう十分だと言わんばかりである。

「ミハルちゃん流石だね! セントグラード代表は伊達じゃないな。だけど今年に関して言えば、ちょっと厳しいと思うね……。もっと練習した方がいいんじゃない?」

 褒め殺しかと思えば、整備士は気になる話を口にした。

 流石に苛っとしたミハルはムッとした表情をして問いを返している。

「他にどんな選手がいるのですか?」

 少しきつめの口調は自負心のせいだ。勝つのは自分以外にあり得ないとさえ彼女は思っている。

「今年は百回目の記念大会だからね。ティーンエイジクラスにまで軍部が出張ってきてるんだよ。今年十九歳になるジュリア・マックイーン。お姉さんが銀河連合軍でエースを張っているだけじゃなく、自身も軍部期待の新鋭なんだ。その実力は折り紙付きらしいね」

 女の子?――ミハルは益々眉間にしわを寄せた。

 百歩譲って男の子ならまだしも、同年代の女の子だと分かっては穏やかじゃない。

「どの子だろう?」

 ドックを見渡す限り、女性らしいパイロットは一人しかいない。

 ピンク色のパイロットスーツ。遠目にも分かる長い黒髪を後ろで結わえている。恐らくは三号機に乗る彼女がその人だろう。

 ミハルはジッと女の子を見つめながら小さく頷いた。

「彼女を徹底マークだ。私で連覇が途切れるとか格好悪いし……」

 必ず勝つのだと心に誓った。

 徐々にグレンの思惑通りになっていく。当初は勝ち負けなどどうでも良かったのに、気付けば誰よりも意気込んでいる。

「絶対に負けられない!――」

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • Solomon's Gate   戦線後退

     航宙機部隊は司令室から命令があったように戦線を一つ下げていた。通達通りにベータ線は放棄されている。「絶対、抜かれたくなかったのに!」「別にお前が抜かれたわけじゃないだろ? 後退し、僚機の密度が高まったおかげで担当エリアが小さくなったんだ。ここは文句をいうより感謝すべきじゃないか?」 諭すようなジュリアにミハルはぶぅっと拗ねたような声を出す。だが、確かに余裕は生まれている。息つく暇もなかったベータ線での戦闘に比べ、今は十分な間が取れていた。 依然として補給通達がない301小隊。休憩どころか新たな任務が言い渡されてしまう。「何? マッシュルーム?」 「反物質爆弾とか解せないな。それにこの機体スペック……」 二人は戦闘を続けながら命令をチェックしている。追加された攻撃目標はコードネーム【マッシュルーム】の撃破。判明している全ての情報が開示されていた。「DWより進入……。CSF570チェック!」 マッシュルームを念頭に置きながらも戦闘を続けなければならない。しかし、今のところはそのようなレーダー反応など見受けられなかった。「宙域クリア! 体勢を立て直すわよ!」 「了解!」 アーチボルトの作戦が機能しているようだ。僚機の密度を高め、敵機を分散させる。攻め込まれた形ではあるが、非常に効果的でもあった。「なぁ、ミハル……。エネルギー残量ってどのくらいだ?」 ジュリアが聞いたように、補給に関する連絡は一度もなかった。まるで忘れ去れてしまったのかと勘ぐってしまうほどである。「あと3%ね。正直、幾らも戦えないと思う……」 ジュリアの機体もミハルと同じような残量であった。交戦開始から四時間近くが過ぎ、体力的にも厳しくなってきたところだ。「こちらセラフィム・ワン。セラフィム・ツー応答してください」 ミハルはベイル副隊長に確認を取った。エネルギー警告灯が点灯していること。集中力を維持するのが難しくなっていることを併せて伝える。『セラフィム・ツー了解した。君たちが先に補給させてもらえるよう上申してみる。応答があるまでしばらく待ってくれ』「承知しました……」 何事もなく待つだけとミハルは考えていた。ガンマ線にまで戦線を下げることにはなっていたけれど、ベータ線を維持していた頃よりも各隊の連携が強化されていたし、自分たちが抜けたところで充分に戦えるはずだ

  • Solomon's Gate   マッシュルーム

     クェンティン司令が中央ブロック各隊の交代を決めてから一時間近くが経過していた。しかしながら、まだそれは実行に移されていない。「酷い有様だな……」 クェンティンが漏らす。勿論それは自軍の被害状況である。戦力ダウンを危惧しての交代先延ばしであったが、結果として多くの戦力を失うことにもなっていた。「あの猛攻であればやむを得ないでしょう。寧ろ彼らであったからこその現状かと。予定通りの交代であったなら、現状はより酷いものとなっていたはずです」 データを眺めながらアーチボルトが返した。ただ想定よりも酷い惨状に彼も長い溜め息を吐いている。「セラフィム隊は現状維持と考えるがどうだ? 彼らはあとどれくらい戦える?」 重い口ぶりで問うクェンティンにアートボルトは視線を外した。まだ戦線を維持し続ける彼らの実力はGUNS屈指であろう。エース不在の中で想像よりも機能している。本来なら休息を与えるべきなのだが、悩ましい問題は攻め手が一向に緩まぬことだった。「あと三十分。それが限界でしょう。補充要員ではなく後方部隊の何機かを欠損機に宛がうべき。また彼ら以外の前衛部隊は既に限界です。いち早い交代指示を願います……」 交代を先送りにした結果、忙しなく実行することに。その中でもミハルたち301小隊は一番後になる模様だ。「β線配備、全隊に告ぐ! これよりβ線を一時放棄する。速やかにγ線まで後退せよ! 以降のエリア割り当てはモニターにて通知。γ線だけは抜かれるな!」 遂にアートボルトの作戦が実行に移された。限界に達した部隊から補給へと回る。戦線は一時的に下げられて、ガンマ線が最前線となった。「早く時間が経たないかと考えてしまいますね?」 「ふん、貴様が立てた作戦だぞ? 堂々としておけ!」 懸念された混乱もなく、部隊の交代が進んでいる。戦線を下げた効果か自軍の活躍が目立つようになっていた。 腕を組み戦況を見つめる二人。このまま上手く運べと祈るしかなかった。しかしながら、想定外の事態は予想を遥かに超えて起こり得るもの。見守る二人を嘲笑うかのように、戦況は一転して暗雲に包まれていく。 爆音が響いたかと思えば、イプシロン基地が激しく揺れた――。 立っていられないほどの衝撃である。超巨大構造物がこんなにも揺れるなんて異常事態に違いない。「何事だっ!? 報告急げ!!」 クェンテ

  • Solomon's Gate   新たな輝き

     ソロモンズゲートの裏側。光皇路と呼ばれる穴の脇には出撃前の戦艦が停泊している。 数多停泊する艦隊の中でも一際大きな艦船の発進ゲートに二つの影があった。「ベゼラ様、どうかお願いします!」 「デボルセ、お前は私に敵前逃亡しろというのか?」 どうやら二人は主君と家臣であるようだ。  主君らしき一人はベゼラ・リグルナム上級連士であり、彼の家臣はデボルセ・ミューガンといった。「この機体はいわば棺桶です。聞いていた最新鋭機などではありません……」 「何だと? どういうことだ?」「ある機密データを入手しました。この機体が光速に近いスピードを持つのは事実でありますが、基本的に突き進むしかできません。一旦発進してしまえば障害物を回避する程度しか操縦を受け付けないのです。それどころか指定された距離を進めば自爆するよう設定されています。つまり殿下は戦争に乗じて暗殺されるところだったわけです」 思わぬ話にベゼラは眉を顰めた。連士と呼ばれる士官級待遇で軍籍となったばかりである。まだ若き彼は配属辞令に秘められた陰謀に気付くことなく戦場まで来ていた。「七番ハッチへ連結している物資輸送船に席を用意しました。向こうに手引きする者がいます。どうかベゼラ様はお戻りください。リグルナム家が管理しているアルバに潜伏できるよう手筈が整っております」「本気か? 国に帰っても罰せられるだけだろう?」 急かすようなデボルセにベゼラは首を振る。彼とて覚悟を決めて戦場まで赴いたのだ。たとえ陰謀であったとしても星院家の長男としては安易に引き返せない。「それは問題ありません。既にヘーゼン星院家も動いております。全ては陰謀なのです。この戦争は失態を犯したカザイン皇家の責任逃れに他なりません。今すべきことは臣民を守る政策であるというのに、侵略戦争にて臣民の目を逸らしている。カザイン皇家の陰謀を明らかにすれば臣民の支持を得られることでしょう」 どうやらカザイン光皇連は一枚岩ではないらしい。一連の事象により国家全体が混乱しているだけでなく、その内部ではきな臭い謀略が交錯しているようだ。「こ

  • Solomon's Gate   奮闘するジュリア

     司令室は騒然としていた。第二陣と思われる艦隊がゲートを通過してきたのだ。大艦隊に加え飛来する航宙機は有人機の比率が高い。α線上は再び敵軍に埋め尽くされていた。「これでは補給もままならないですね……」「中央ブロックの部隊には今しばらく我慢してもらうしかないな。代替部隊には配置先の変更を通達しろ。E1EブロックとW1Eブロックを重点的に補充だ」 クェンティンは悩んでいた。戦闘開始から三時間が過ぎて、推進剤の補給やエネルギーチャージ。更にはパイロットの休憩が必要な時間となっていたからだ。この時間になって大量の新手が侵攻してきたとあっては作戦の練り直しを迫られてしまう。「中央ブロック各隊の補給状況はどうなっている? どれくらい持ちそうだ?」「持って一時間でしょうね。疲労に加え、エリアが拡大しています。欠損機は随時補充していますが、最初から戦い続けているパイロットの疲労は蓄積しています……」 アーチボルトの返答は色よいものではなかった。しかし、有人機を加えた大軍の相手が代替部隊に務まるはずもない。「果たして一時間でどれほど削ってもらえるだろうか……」 侵攻してくる艦隊への対応は順調である。問題は航宙機だ。浮遊トーチカによる砲撃や重イオン砲などではとても狙えなかった。「司令、一時間後に戦線を下げてみては如何でしょう?」 唐突にアーチボルトが進言する。それは意外な提案であった。だが、顔をしかめたクェンティンを見る限り、了承などされないだろう。「貴様、本気か? とち狂ったんではないだろうな?」「割と本気です。一時間後にトップパイロットたちが戦線を離脱しますと、必ずやカザインは戦線を押し上げるでしょう。どうせならば離脱と同時に戦線を下げ、僚機の密度を高めるのです。それは同時にα線上に圧縮されていたカザイン機の分散にも繋がります。危うい作戦ではありますが、私が考える最善の策でもあります……」 一時的な後退は攻めの姿勢であるという。確かに結果が同じであれば試す価値はあるのかもしれない。「分かった。ただし補給並びに休憩は三十分とする。デルタ線にまで攻め入られては押し返すのが困難だ。その内容で通達しておけ」「致し方ありませんね。以降は敵軍の様子を見て休憩してもらうことにしましょう。一時間後の交代準備を手配して参ります」 交代時間の変更に続き、通常一時間与え

  • Solomon's Gate   未知なる規模の戦い

     司令室では各部隊への指示が飛び交っていた。  交戦が始まってから二時間。β線上で両軍が押し合うような状況が続いている。 既に前回の大戦を遥かに超える敵機がゲートより侵攻していた。一方的な戦いとなった前回とは異なり、両軍の戦力は拮抗している。「とんでもない数を送り込んできましたね。もう既に前回の総数を超えています」 参謀のアーチボルトが溜め息混じりに話す。ただ言葉とは裏腹に悲壮感はない。カザインの猛攻も想定内といったところだろうか。「しかし、またもや無人機が目立つな。有人機がいないわけでもないのだが……」 「確かに気になります。第二陣に有人機部隊を組み込んでいるのやもしれません」 今回も敵航宙機部隊は無人機が中心の編成であった。GUNSとしては有り難いことであるのだが、有人機が最後まで姿を現さないなんて話は期待していない。「無人機のハッキングはどうなっている?」「いえ、どうもシステムごと換装されているようです。残念ながら戦闘中のハッキングは難しいですね」 先の大戦後にGUNSは回収した無人機を解析していた。その過程で発見したセキュリティホールを利用し、戦闘中にハッキングするという大胆な作戦を立てていたのだ。しかし、カザインはそれに気付いていたのか、対策を講じてきた模様である。「ならば蹂躙するしかないな。β線及びγ線の艦隊は戦線を押し上げろ! α線に配備された艦隊はゲートへ直接撃ち込め! カザインの大将をいぶり出してやれ!」 戦況を動かす指示が飛んだ。無駄撃ちとなる可能性が高かったものの、クェンティンは挑発と威嚇の意味を込めてビーム砲の照射を命令している。持久戦となる前に敵主力部隊の侵攻を促そうとしていた。  ミハルたち301小隊は依然として戦線を維持していた。ゲートのど真ん中に位置する最も攻撃の激しいエリアであったが、そこはエース部隊である。怒濤の勢いで押し寄せる無人機からエリアを守護していた。『こちらセラフィム・ツー、全隊員に告ぐ。W1ラインEブロックがβ線を抜かれたようだ。現在W1ラインFブロッ

  • Solomon's Gate   ミハル、出撃

     第八ドックに隣接する詰め所へと301小隊は集まっていた。 現在は待機中。交戦が始まったのは既に通知されていたが、無人機を除いた航宙機部隊はまだ配置についていない。そわそわと詰め所を彷徨く者や無意味な雑談をする者。緊張を和らげる術は様々であったけれど、そんな中ミハルは椅子に座って音楽を聴いていた。「戦闘配備命令だ! 出撃するぞ!」 ベイル副隊長の号令が詰め所に木霊する。まだ交戦が始まって五分足らず。有人機部隊の最前列を守護する301小隊はいの一番での出撃となった。「おい、ミハル。出撃らしいぞ」 ジュリアが声をかけると、彼女は言葉もなくギアを操作し音楽を止めた。スッと立ち上がり、パイロットスーツを首元まで締める。 徐に歩き出したミハルは、ようやくとジュリアに視線を合わせた。「始まるのね?」 「ああ、必ず勝とう……」 自分でも不思議に思うほど、ミハルは落ち着いていた。数ヶ月前は再三にわたって落ち着けと怒られていたというのに、出撃命令が下った今はどうしてか感情の昂ぶりがない。 中央ブロックでの戦闘はシミュレーターにて何度も経験している。前回を遥かに超える大戦が予想されていたけれど、ミハルの心は強くあるままだ。技術面に加えて精神面や身体面も完全な状態に仕上がっていた。「戦おう……。私は戦闘機パイロットなんだ」 ミハルは軍人であり、戦闘機パイロットである。否応なしに戦場へと飛び立つ立場だ。 しかし、逃げだそうとは思わなかった。長らく抱えた個人的な目標だけでなく、この戦争が意味するところを彼女なりに考えたからだ。戦える者が戦わないことには平穏など得られない。戦って勝つしか人類に未来はないのだと。 戦闘機パイロットである自覚はただ彼女に前を向かせた。カザインが侵攻してくるならば全てを撃墜するだけ。戦闘機パイロットはトリガーを引くだけだ。 一番後に詰め所を出ていく。ミハルは口元を結び、もう一度決意を口にした。「戦うために、ここまで来たんだ――――」  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  β線配備の部隊は持ち場に入っていた。他の航宙機隊も全てが指定宙域についており、敵機を迎え撃つ準備が整っている。 ミハルもそんな僚機の一つだった。初めての大戦。シミュレーターとは違う張り詰めた空気を感じている。前方で爆発が起こるたび、ミハルは鼓動を早めていた。「ミハル、

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status