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出撃後に思う

Author: 坂森大我
last update publish date: 2026-09-15 17:02:30

「お疲れ様! とんでもなく早かったわね?」

 オペレーションルームに戻るや、シエラが感想を交えながら出迎えた。

 笑顔の三人。新入隊員を迎えて初めての出撃であったが、戦果のほどは表情を見れば明らかである。

「ミハル、次からは前を飛べ。援護してやる……」

 不意にグレックがそんな命令をした。

 ミハルはただ驚いて視線だけを返す。自分は新人であると理解している。先ほどの戦闘も戦力になったとは言い難い。けれど、隊長が前を飛べと言うのだ。

「私が前衛機で良いのですか? 私は何も分かっていませんけど……?」

「勘違いするなよ? お前が後衛機に向いていないというだけのこと。前を飛ぶ機体に気を取られすぎだ。宙域全体を捉えられていない。集中しているようで、その実は気を抜いているとしか思えん。トレースする必要がなければ、ちっとはマシになるかと思ってな」

 記憶と重なる話である。グレックの指摘はアイリスと似ていた。気を抜いた覚えはなくとも二人にはミハルが集中していないように見えてい

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  • Solomon's Gate   特訓の成果

     太陽系全域に防衛成功という吉報が届いた。誰しもがGUNSの奮闘を称え、星系に訪れた束の間の平穏を実感したことだろう。 セントラル基地にも勝利の一報は届いている。しかし、吉報だけではなく届いたのは負傷者や死者の詳細まで。 いの一番にキャロルの無事を確認したミハルは安堵している。また長く軍部に在籍する他の隊員たちも食い入るように名簿を眺めていた。 朝一番は出撃がなければ全員でコーヒーを飲むのが慣例である。夜勤明けの交代時間であるため、簡単な引き継ぎと雑談をするのだ。いつもなら大した話題もないのだが、本日は開戦翌日とあって長話となっている。「大尉、アイリス中尉が戦線離脱だって! 無事だといいのだけど」 シエラが被害報告書を読みながら話す。顔見知りである人たちの怪我や訃報は快勝した事実よりも大きく、心の内からゆとりを奪っていく。 死者数は想定よりもかなり少なかったのだが、それでも昨年度に記録した二百倍という人数がたった数時間で失われていた。「何でもジュリア坊を庇ってのことらしいの。心配じゃなぁ」 ミハルの目標であるアイリスの容体については詳しく書かれていた。損傷した内臓の手術に加え、挫滅した左足を膝上から切断したことまで。内容を見た限りは、とてもパイロットを続けられる状態だと思えなかった。「アイリス・マックイーンは絶対に復活しますよ!」 皆が溜め息を吐く中、ミハルが声を張った。彼女がパイロットを辞めるなんて少しも想像できない。憎らしいほどの自信と共に復活すると信じている。「逃げも隠れもしないって彼女は言ってたもの!」 ミハルを導いていた目も眩むほどの光。少し風が吹いたくらいで消えるはずがない。今も太陽の如く輝いてミハルを誘っているのだから。「俺もそう思うぞ。損傷した臓器の手術は成功しているようだし左足についても、さして問題はないだろう。俺にちゃんとした義足を付けろというくらいだ。あいつは棒切れじゃないものを選ぶだろう」 言ってグレックが笑う。自虐的なその冗談に本気で笑える者はいない。皆が経緯を知っていたからオペレーションルームは微妙な空気に支配されてしまう。「き、緊急通信! 大規模な海賊団が現れたようです! 大至急応援に向かってください! 位置はエスバニア区画から2000kmのところです! データリンクします!」 GUNSが歴史的勝利を収

  • Solomon's Gate   大戦の爪痕

     敵機の殲滅を任された航宙機部隊はゲートより進入したほぼ全てを撃墜していた。 最前線に陣取る第三航宙戦団第一隊【301小隊】も例に漏れず、任務をほぼ完遂している。「アイリス隊長、エリア内の敵機はあと二機です!」 「ジュリア、急ぐ場面じゃない! 艦船はまだ生きているぞ! 深追いするな!」 圧倒的な戦果を収めていたのは隊長であるアイリス・マックイーン。最も敵影の濃い中央エリアを担当していたにもかかわらず、301小隊は後方に敵機を逃していない。被害がないわけでもなかったが、エース部隊と呼ばれるに相応しい戦果を上げている。「大丈夫です! この敵機だけでも!」 姉であるアイリスの警告にジュリアは勇ましく答えた。だが、彼の戦果は正直に芳しくない。アイリスの支援機を務めていたこともあって撃墜数は隊員の中でも極端に少なかった。 ジュリアは少しでも撃墜数を稼ごうというのか、隊列を乱し残存航宙機の排除へと向かう。濛々と粉塵を上げる艦船の脇を抜け、ジュリアはようやく敵機を照準に捕らえた。「もらったぁぁっ!!」 ジュリアが叫んだその刹那、突如として艦船が爆散する。放射状に破片を撒き散らしながら、周辺に存在した全てを巻き込む大爆発を起こした。 全員が息を呑んだ。それは誰も予想できなかった絶望的な場面に違いない。しかし、そのような状況であっても声を上げる者がいた。「ジュリアァァアアア!!」 声の主は姉であるアイリス・マックイーンだった。声の限りに叫んだ彼女はジュリアの無事を疑っていない。なぜならレーダーを確認する限り、ジュリアの機体はまだ反応を残している。確実に巻き込まれたはずであるが、【3SP25】という機体反応は消失していない。「ベイル、指揮を執れ! 私はジュリアと合流する。一旦引いていろ!」「了解です!」 戦局がほぼ決定した場面であったはず。残念ながら、すんなりとは終わらなかった。  アイリスは直ぐさま回頭しジュリア機の元へと急ぐ。「ジュリア、応答しろ!」 通信するも返事はなかった。気を失ってい

  • Solomon's Gate   開戦

     GUNSソロモンズゲート支部イプシロン基地ではゲートの監視を強化していた。 人類史上かつてない大戦を目前に控え緊張が高まっている。人類から攻め入る予定はなかったものの、もはや開戦は時間の問題だった。 イプシロン基地にはデミトリー総長の姿がある。彼は人類の未来を見届ける覚悟を決めていた。万が一の場合には副総長へと全権を委任するよう準備し、数日前よりイプシロン基地に滞在している。「緊張状態が続くな……」 「どうせ開戦するのであれば兵士たちの緊張が切れる前にして欲しいところです」 デミトリーの独り言にも似た話に司令官であるクェンティン大将が返した。  敵軍の偵察機は全て撃墜している。人類は手の内を殆ど見せていない。カザインがゲートから侵攻したとしても撃退できると信じていた。「ゲートに熱源反応です! 来ますっ!!」 にわかに戦況が動き出した。穏やかだったゲートが太陽光を受けたように輝くと一筋のビーム砲が突き抜けていく。それは瞬く間にダミー戦艦を撃ち抜いて、銀河の果てまで届くかのような長い光の尾を引いた。 まるで開戦の狼煙である。両軍共が覚悟を決められたはずだ。「遂に始まるのか……」 人類として避けたかったはずの銀河間戦争が始まってしまった。デミトリーは過度に緊張している。「全軍第一戦闘配備! 侵略者共を追い返せっ!」 クェンティン司令の号令が轟く。重イオン荷電粒子砲が起動に入り、戦闘機も宙域へと射出された。各々が通達済みの作戦行動を迅速にこなしている。「物体複数観測しました! 小型機多数! 座標転送します!」 即時にデータベースへ反映され、末端の戦闘機までもが出現ポイントを確認する。「ロックオン完了! 迎撃します!」 GUNSのシナリオ通りに進んでいた。第一陣である航宙機は出現と同時にロックオンされ全てが撃墜されている。「百機撃破! 続いて来ます! 大型……複数! 艦隊です!」 続いて艦船が進入。しかし、ここも即座に座標が転送され、ゲートN面に配置された戦艦や重イ

  • Solomon's Gate   決して折れない心

     交渉期限が過ぎ、緊張状態のまま一ヶ月が過ぎている。ゲートにはカザインの艦隊が集結しており、いつ大戦が始まったとしてもおかしくはなかった。 セントラル基地の面々も遠く離れたゲートの様子を気に懸けている。戦争は避けられぬ未来であり、配備された兵士たちの無事を祈らずにはいられない。「ミハル、攻撃を仕掛けてみろ。ここからは敵機も攻撃をしてくる。シミュレーションだからといって手を抜くんじゃないぞ?」『了解……』 ミハルは仮想戦闘シミュレーターに乗り込んでいた。ただし、戦闘訓練ではなく、宙域における認識能力を測定するためだ。測定者はヘルメットのようなギアを装着。コックピットを模したカプセルへと入り、ギアに流れる映像に対して適切な操縦をしていく。「もっと集中しろ! 支援機が落ちれば単機となるんだぞ!」 『はい! 分かってます!』 中性粒子砲は砲身の冷却を必要とする。二秒近くあるその照射ラグを補うために、戦場では前衛機に対して一機ないし二機の後衛機が編成されていた。 ところが、シミュレーションでは単機であるらしい。グレックの指示は支援機を失う場面を想定しているようだ。「しかし、凄いの。入隊の頃からは考えられんな。いったい嬢ちゃんはどこまで見えておるんじゃ……?」「バゴスさん、まだまだですよ。この程度で満足してもらっては困る……」 ミハルが叩き出した認識率にバゴスが感嘆の声を上げた。けれど、グレックは気にくわないのか首を振るだけだ。「ミハル、もっと積極的に撃墜しろ。前衛機は撃墜してこそ存在を示せるというもの。照射ラグの間に立て直せ。適切な機動を決定する時間はその二秒だけだ」『了解です……』 手厳しいグレックにバゴスは苦笑いである。データを見る限りは非の打ち所がない。認識範囲から正確性、瞬間の認識数はトップパイロットのそれと遜色がなかったのだ。 しばらくして計測が終わったのか、ミハルはギアを外してカプセルから出る。だが、息つく暇もなくグレックに注意を受ける羽目になった。「ミハル、腑抜けたフ

  • Solomon's Gate   語られる過去

     カザインのメッセージが世間に公表されてから既に二ヶ月が過ぎていた。 この間に各エリアにて人民投票が行われ、尚且つ結果を持ち寄った議会でも更なる投票を行った。しかし、結論に変わりはない。大方の予想通り、カザインの勧告には従わないとの結果になった。 既にカザインが定めた交渉期限は過ぎている。だが、人類は返答していない。許諾でない返答などすべきではないと判断されたからだ。最早、銀河間戦争は確定した未来となり、古今未曾有の大戦が幕を上げようとしている。「ミハル、最後は艦船の中央に撃ち込んでやれ!」「えっ!? 照会したデータベースには中央にSBFがあることになってますけど!?」 二ヶ月という期間にミハルは六十回もの出撃を経験している。毎日のように出撃機会があり、前衛機にも随分と慣れていた。「気にするな。流石に大型艦船の足を止めるには推進機を破壊するしかない。爆散すればそれまでのことだ」「りょ、了解です……」 本日は宇宙海賊と戦っていた。敵航宙機二十機に母艦である艦船が二隻。規模としては最大クラスの宇宙海賊である。だが、既に航宙機群は行動不能に追い込んだ。残すところは二隻の艦船のみ。「照準、USC1チェック……」 セミオート射撃も習得とまではいえないものの、自分のものに出来つつある。フルオートよりも精度を上げられたし、今となってはフルオート射撃に不安を覚えてしまう。「USC1シュート!」 ミハルのセミオート射撃が母艦を貫く。確実にSBFを撃ち抜いたはずだが、幸いにも爆散は免れていた。「こっちも片付いたぞい!」 「バゴスさん、宙域管理局に通信してくれ! 俺は統轄本部に任務完了を伝える」 相変わらず先輩たち二人は見た目と戦果が一致していない。たった二名で主要宙域の守護を任されるだけはあった。 任務を終え基地に戻るや、ミハルは直ぐさま降機して整備士のファーガスと機体の確認を始めている。不具合や違和感、その他感じたことを全て。ミハルの機体はまだ調整段階であり、完成するまでには地道なセットアップを必要としていた。

  • Solomon's Gate   銀河間戦争

     ソロモンズゲート支部イプシロン基地は早朝から慌ただしかった。 司令室にはクェンティン・マクダウェル大将の他、基地の視察に訪れたデミトリー総長の姿もある。けれど、総長の視察によって慌ただしいわけではない。「遂に来たか……」 「開戦準備が整ったのかと思われます」 デミトリーが呟くとクェンティン大将がそれに返した。  既定路線であった銀河間戦争。しかし、戦争の始まり方は誰にも分からなかった。突如として攻め込んでくるのかと思いきや意外にもカザイン光皇連は通信回線に乗せてメッセージを送ってきたのだ。 その内容は従属を迫るもの。同意するならば人類の身分はカザインが定める最下層クラスとなる。また星系に関する全ての権利はカザインに移譲し、人類は全ての主権を失ってしまう。返答の猶予は太陽系時間にして約二ヶ月。返答がなければ以降は予告なく攻め込むとの内容だった。「これが……カザイン?」 メッセージを最後まで見届けたデミトリーは息を呑んでいた。だが、それは想定内であった内容についてではなく、メッセージを伝えたカザインの容姿に問題がある。「まるで……人類そのものじゃないか?」 カザインからのメッセージと聞いていなければ分からなかっただろう。彼らの容姿は人類と酷似していたのだ。目、鼻、口、表情に至るまで何もかもが同じだった。髪の色味に少し特徴があったけれど、それが人種的なものであるかは定かではない。「どうされますか?」 クェンティン大将が聞いた。彼はイプシロン基地の司令官である。歴戦の軍人らしく毅然とした態度であった。「この内容では議会にかけたところで否決されるだろう。奴隷に落ちてまで生き延びたいという人間がどれほどいようか……」 開戦するものと考えてくれとデミトリー。メッセージを太陽系の全域に公表した上で議決を取る予定らしい。さりとて彼は得られる結果を分かっていた。「デミトリー総長、どうかご安心ください。必ずやこの星系を守り抜いてみせます。我々とて戦闘準備は万全でありますから」「それは心強いな。必ずや勝利してくれ。人類の未来は君たちにかかっている。我々は吉報を待つしかできないが、できる限りの支援をさせてもらうつもりだ」 デミトリーは少し表情を和らげ、そのように話す。  現状ではイプシロン基地を抜かれると人類の敗戦が濃厚である。ほぼ全ての戦力をここに割

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