Masuk空は、茜色から深い群青へと、ゆっくりとその表情を変えつつあった。
薄闇の帳が降り始め、星々の瞬きが、ちらほらと夜空に滲み出す頃。 エレナたちは、今夜の糧を得るため、黄昏の影が長く伸びる近くの森へと足を踏み入れた。 しっとりとした土の匂い。 木々が放つ、青々とした香り。 ひんやりとした空気が、頬を撫でて通り過ぎる。 エレナは、薬草の知識も豊富なシイナと共に、 食用となる木の実やキノコを探す――採集班。 そして、シオンをリーダーに、グレンとミストの三人が、 森の恵み――という名の“獲物”を求めて奥へと進む――狩猟班。 (……シオンさん、本当に大丈夫かな……) 胸の奥で、エレナは小さく呟いた。 出発の直前。 ふだんなら誰よりも頼もしいシイナが、なぜか遠い目をして、 絞り出すような声でシオンに告げた言葉が、頭から離れない。 「シオン……すまんが、少しだけ……本当に 少しだけでいいから、 アイツらを頼む……。何かあったら、すぐに知らせてくれ……」 あの時のシオンの表情といったら。 まるで―― 「世界が滅ぶ三秒前」のような、尋常ではない、覚悟に満ちた顔だった。 〜*〜*〜*〜 「エレナさん、どれくらい採れたかな?」 背後から、シイナの穏やかな声がかかる。 彼の籠の中には、色とりどりの木の実や、美味しそうなキノコが程よく集まっていた。 「私はこのくらいです。 結構、大粒のクルミもありましたよ!」 エレナが差し出した鉄製のボウルの中には、 瑞々しいベリーがころころと光っている。 五人で分け合う分としては――上出来な収穫だ。 「うん。それだけあれば、スープの実にしたり、焼いたりしても美味しいだろう。 よし、一度戻って、狩猟班の成果と合わせて――」 調理の算段を口にした、その瞬間だった。 「馬鹿野郎ォォォォォ!!!!」 魂そのものを叩きつけたような怒声が、 森の奥深く――狩猟班がいるはずの方角から、 木々を震わせて轟いた。 「……えっ?」 「な、なんですか……今のは!?」 エレナとシイナは、弾かれたように顔を見合わせる。 嫌な予感が、背筋を駆け上がった。 二人は、絡み合う木の根に足を取られぬよう気をつけながら、 声がした方角へと、全力で駆け出した。 そして――数分後。 息を切らし、視界が開けたその場所で、 エレナたちの目に飛び込んできた光景は―― 森の一角が、 文字通り――赤々と、燃え上がっていた。 パチパチと、不気味な音を立てて火の粉が舞い上がる。 木々の葉は黒く焼け焦げ、濃い煙がもうもうと立ち込め、 熱風がこちらまで届き、肌を炙るようだった。 「あああああ! 火力調整ミスったぁぁぁぁぁッ!! ちょっと強すぎたかァァァァ!?」 燃え盛る炎の中心で、グレンが両手で頭を抱え、阿鼻叫喚の叫び声を上げている。 その足元には―― もはや獲物だったとは思えない、炭と見紛う黒い塊。 「はいッ!! 皆さん、ご安心を! こんな時こそ――私の出番ですッ!!!」 シャキン! 今にもそんな効果音が聞こえてきそうな勢いで、ミストが前に躍り出た。 「鎮火しますよォォォォ――ッ!!」 宣言と同時に、ミストの掌から放たれたのは―― 膨大な量の水。 ダムが決壊したかのような轟音とともに、 凄まじい水流が、一帯をまるごと呑み込んだ。 「……グレンさんごと!?」 エレナの悲鳴めいたツッコミも虚しく、 グレンは頭から滝のような水を浴び、修行僧のごとく全身びしょ濡れになる。 「ちょっ!? 冷たい冷たい冷たい!!! おいミストォ! 服までびしょ濡れだぞぉ!!!」 「安心してください、グレンさん! 炎はほぼ鎮火しました! 服は……まぁ、焚き火で乾かせばOKです!! ……あ、焚き火も消えちゃいましたね!」 ミストはどこか誇らしげに、胸を張っている。 確かに、火は消えた。 ――すべて、完全に。 (………………) エレナは、言葉を失った。 (ああ……もう、完全に収拾がつかないなぁ……) 内心でそっとため息をついた、その時。 意識の奥で、エレンが深く、静かな溜息をついた気配が伝わってくる。 きっと、 「……何をやっているんだ、こいつらは……」 などと、冷え切った目で見ているに違いない。 そして。 騒動の中心から、少し離れた場所へと目を向けた、その先―― ――シオンが。 力なく、地面に突っ伏していた。 その背中から漂うのは、 言葉にできないほどの疲労と、諦念と、 魂が半分ほど抜け落ちてしまったような気配。 白い灰が、彼の肩に、静かに降り積もっている。 「……お、お疲れ様です……シオンさん……」 エレナがそっと声をかけても、 彼は、かすかに肩を震わせただけで、顔を上げる気力すら残っていないようだった。 「……シオン。なんか……すまない……」 シイナが、心の底から申し訳なさそうに、深々と頭を下げる。 その声には、同情と、諦めが、濃く滲んでいた。 〜*〜*〜*〜 結局、狩りの成果は――ほぼゼロだった。 エレナたちは、採集してきた木の実と、ベルノ王国の街で買っておいた保存食とで、簡素な夕食を済ませるしかなかった。 焚き火を囲み、控えめな食事を口に運びながら、誰からともなく小さな溜息が漏れる。 そして――夜。 気を取り直した一行は、再び街へと戻ってきた。 その時、エレナたちを迎えたのは―― 昼間の穏やかな街並みとは、まるで別世界のような光景だった。 街の至るところに、淡く柔らかな光を湛えたランタンが灯され、石畳の道を優しく照らしている。 昼間は閉ざされていた店の扉も開き、窓からは温かな明かりが溢れ、人々の楽しげな話し声や、どこからか弾むようなリュートの音色が漂ってくる。 まるで、静かな祭りの夜のようだった。 『ようこそ、旅の方々。夜の街へ』 ふわりと、優しい声が耳元に届く。 驚いて振り返ると、そこには細身の男がひとり、穏やかな微笑みを浮かべて立っていた。 洒落た刺繍のベストに、白いシャツ。 その佇まいはどこか上品で、物腰も柔らかい。 ――だが。 エレナは、すぐに“違和感”に気づく。 その男の――足元が、ほんのりと透けて見えるのだ。 まるで、薄い磨りガラス越しに眺めているかのように。 肌の色も、月明かりのせいだけではない、どこか青白い。 生きている人間のそれとは、明らかに違っていた。 (……えっ……? う、嘘……でしょ……?) 背中を、冷たいものがすっと撫でる。 まさか、これって、いわゆる―― (エレン……こ、これって……もしかして……幽霊、とか……!?) 内心の悲鳴に、エレンが静かに、しかし即座に応じる。 (ああ。どうやらこの街は、古くから“死者の街”として知られていたようだな。夜の帳が下りると、現世に留まる霊たちが、こうして姿を現すのだろう。驚くことはない) あまりにも落ち着き払ったその返答に、エレナの心は、逆にパニック寸前になる。 (ちょっ……! 先に言ってよ! そういう大事なことはもっと早く! 心の準備くらいしたかったんだからっ! いきなり目の前に現れたら、誰だってびっくりするでしょ!?) (何を今さら。私自身、“死者”に近い存在ではないのか?) (エレンは別!!) 『ふふ。大丈夫。怖がらせてしまったかな? 呪ったりなんかしないよ』 エレナの葛藤を見透かしたかのように、目の前の霊の男は、ふわりと優しい微笑みを深めた。 その顔には、不思議と恐怖を煽る色がなく、むしろ穏やかな温度だけが宿っている。 その時。 誰かが、そっとエレナの強張った肩に手を置いた。 驚いて振り返ると、そこにはミストが、いつになく穏やかな笑顔で立っていた。 「大丈夫ですよ、エレナさん。 この街は確かに、“夜の街”――あるいは“霊の街”と呼ば れています。ですが、ご覧の通り、彼らは決して恐ろしい存在ではありません」 ミストは、ランタンの灯りに照らされた霊の姿へ、やさしく視線を向ける。 「むしろ――この世界に、何らかの理由で“留まり続けている、もう一つの命”。 私たちは亡霊と呼びますが……“共存者”と呼ぶ方が、ずっと自然なのかもしれませんね」 その落ち着いた語り口に、エレナの胸の奥で、固く絡まっていた緊張が、少しずつほどけていくのを感じた。 ついさっきまであれほど強く感じていた恐怖が、不思議と、ほんの少しだけ薄らいでいく。 「そ、その……お、お邪魔しますっ! わ、私たちは……旅の者でして……その、えっと……!」 緊張のあまり、言葉はしどろもどろだった。 それでも、目の前の霊の男は、くすくすと楽しそうに喉を鳴らし、にっこりと優しく笑ってくれた。 その笑顔には、もはや生者と死者を隔てる壁のようなものは、ほとんど感じられなかった。 ふと周囲を見渡せば。 シオンたちもまた、どこか安堵したような、温かな眼差しで、エレナのことを見守ってくれていた。────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ
**────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した
**────エレナの視点────**「という訳なんだ」ジンさんの軽やかな口調で語られた残酷な現実に、私の心は氷のように凍りついてしまった。リディアさんが捕らえられて、処刑される。その事実が、どうしても受け入れることができなかった。「そ、そんな……嘘ですよね??」私の声が震えている。まるで悪夢から覚めたいと願うかのように、その言葉にすがりついた。「……こんな時に嘘なんてつかないよ」ジンさんの飄々とした口調が、現実の重さをより一層際立たせる。「……くっ!!!」シイナさんが拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。その青白い顔に、激しい怒りと悲しみが刻まれていた。「皆は先にこの国を脱出してくれ……!俺は……俺はリディアさんを助けに行く!!」シイナさんが勢いよく立ち上がり、扉に向かって歩き出そうとする。その瞳に宿る決意の炎は、誰にも止められないほど激しく燃えていた。「待てよ!!そんなの俺たちだって同じ気持ちだ!」グレンさんが力強く立ち上がる。彼の声には、シイナさんに負けないほどの強い意志が込められていた。「ええ……彼女には計り知れないほど多大な恩があります。なので……グレンと私でリディアさんを救出に向かいます」シオンさんの顔に、鋼のような決意が浮かんでいる。「シイナ、あなたこそエレナさんやミストさんと共に先に脱出してください」「だめだ!今回はパーティリーダーの責任として、俺が行く!」「シイナ!」「俺が、彼女を助けてすぐに戻ればいいことだろう!」「おいシイナ!俺がやられたテッセンとかいうやつの事を忘れたわけじゃないだろ!?少し落ち着け!」三人の激しい言い争いが、小さな家の中に響き渡る。誰も一歩も引かない様子で、感情のままに言葉をぶつけ合っていた。「あわわわわ……みなさん!こんな時に言い争ってる場合じゃないですって!」ミストさんが慌てて三人の間に割り込もうとするが、激しい感情の渦に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまう。「ぎゃー!!」(みんな……冷静さがすっかり抜けて、これじゃあ救える命だって救えないよ……!)(それに……私だってリディアさんを助けたいのに……)私の心の中で、やりきれない想いが渦巻いている。みんなの気持ちは痛いほど分かるけれど、このままでは誰も救えない。そう考えていた、まさにその瞬間だった。私の意識が、まるで深い
**────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い
(この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った
**────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ







