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第十七話——サプライズの夜

Autor: 桜庭結愛
last update Última actualización: 2025-12-07 14:00:00

 私たちは、ビルの最上階にある高級フレンチのお店に足を踏み入れていた。慣れないドレスコードを身に着けている。ウェイターが引いた椅子にゆっくりと腰をかけた。窓の外には、ビルの灯りが小さな星のように、やさしく光っている。旅行を締めくくるに相応しい景色だった。

 ドリンクを聞かれ、大人たちはワインを、三人はぶどうジュースを注文した。今日はコース料理を予約してある。最後にはとっておきのサプライズが待ち構えていた。

「すごい!ソワソワしちゃうね〜」

「子どもっぽいからそれやめろ」

 足を机の下で揺らしていると、蓮に指摘されてしまった。唇を尖らせて、椅子に座り直す。

「うるさいな〜緊張しちゃうんだもん」

「まぁ分からなくはないが……じっとしてろ」

「は〜い……」

 肩を落として机に視点を向けると、今度は右隣から声が聞こえた。

「いつも通りの陽菜で安心するなー」

「……え?」

 そう言って穏やかな笑みを浮かべている翠は、私の方を見て首を縦に振っている。

「心がふわふわしてたのが、スッと降りてくるって感じがするよ」

「んー……難しいけど、翠の役に立ててるなら良かった」

 こめかみを指で突きながら考えるが、翠の感情はうまく想像できなかった。代わりに私を見ている翠の笑顔だけが私の脳裏に刻まれる。

 話していると私たちの前にドリンクと小さなキッシュが運ばれてきた。バターとチーズの香りが私たちの鼻をくすぐり、食欲を刺激する。キッシュの濃厚な味とジュースの爽やかさが混ざり合って、口の中で心地良いハーモニーを奏でた。

「ん〜おいしい!」

「優しい味だね」

「そうだな」

 優しい味に自然と頰が緩んだ。目の前にいる両親の雰囲気も柔らかくなり、この空間全体に温もりが広がる。

 料理を堪能していると右斜め前から声をかけられた。

「陽菜ちゃん、旅行は楽しかった?」

「うん!楽しかったよ!」

「そっか。良かったわ。何が一番だったの?」

「うーん……」

 一度手に持った食器を優しく置き、顎に手を当てて考える。今日までの三日間が、動画のように頭に流れた。

「海が一番楽
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