LOGIN「マスクをしていて顔をまともに見ることはできなかったが……。」
確認できたのはほんの一瞬の視線だけだったが、その中に溜まっていた空虚さは、依然としてカ・ゲヨンの脳裏を浸食していた。ゲヨンはキム・ガンムの言葉を軽く受け流しながら、ニュース画面を見つめて深い思索にふけった。
少年の体は風に吹かれれば散ってしまいそうなほど華奢で、声は甘美な美声だった。特に、涼しいほど整った目元を思い浮かべると、マスクの裏に隠された容貌もかなり秀麗だろうと推測された。
画面の中の報道を眺めながら、ゲヨンは奴が病院の心臓部まで潜入し、その巨大な恥部を切り出してきた過程を頭の中で細密に描き出した。力で制圧するのではなく、密かに他人の深淵を掘り下げていく奴。 ゲヨンはふと、防犯カメラに収められていたはずの奴の残像を確認したいという衝動に駆られた。その時だった。「ゲヨン? おい! カ・ゲヨン!」
キム・ガンムの鋭い声に、ゲヨンは現実に引き戻され、顔を向けた。
「なんだ?」
「呼んでも返事がないと思ったら、何をそんなに呆然としているんだ?」自分がこれほど一人の人間に興味を注ぐとは。自分でも不思議な感覚だった。
「ゲヨン、早く再開発を推進して香港に渡らなきゃならないんだ。」
「そうだな。俺を待つ時間も惜しんで本を読み、ニュースまで確認したと思ったら、再開発地域まで直接仕切るのか? お前、本当に仕事中毒か?」ゲヨンは友人たちの言葉を適当に聞き流し、テレビ画面に視線を固定した。
「協力しろ。自分の時間を無意味に捨てたくないからな。」
ゲヨンの言葉にキム・ガンムは眉間を深く寄せてため息をついた。
「一人は暇を持て余して騒ぎ、一人は分単位で人生を刻んで自分を酷使して……。俺の友人たちは、なぜこんなに極端なんだ?」
ガンムの言葉にハン・ギュリョンは楽しそうに笑い、全面的に同意した。そして、ゲヨンに向かって滑らかな口調で秘密めいた一言を付け加えた。
「ガンム、俺は生まれた時からこうだったが、どうもゲヨンはそうやって何かの拍子に、とんでもないところにハマりそうだ。」
その言葉にガンムも腕組みをしたまま、少し笑みを浮かべて頷いた。
「確かに。あんなにうんざりするほど仕事ばかりしていても、ある女にガツンと惚れる瞬間が来るだろうな。その時は目が180度ひっくり返って、尻尾を巻いて追いかけ回すはずだ。」
瞬間、ハン・ギュリョンがガンムの肩に腕を回しながら、ゲヨンに向かって意地悪く目を流した。ガンムはゲヨンと視線を正面からぶつけ合い、重みのある助言を投げた。
「カ・ゲヨン、気をつけろよ。」
「何を?」 「ただ、せめて人並みに平凡な恋愛をしてほしいという願いだ。」 「うるさい。」ハン・ギュリョンはガンムの肩に乗せた指を密かにもて遊びながら、悪戯っぽい瞳でささやいた。
「ハハ、まあいいさ。世界は広いし、女は余るほどいるんだから。」
ゲヨンは応える価値もないというように視線を外したまま、依然として医療不正事件の報道だけを凝視した。友人たちの冗談を騒音と切り捨て、時計を確認するやいなや、迷いなく身を翻した。
「無駄な時間を使わずに急げ。」
「ハハ、わかったよ。行こうぜ。」ハン・ギュリョンとキム・ガンムは、遠ざかるゲヨンの背中を追いながら会話を続けた。
「そういえばゲヨン、その再開発地域で居座っているという『プルタン保育園』の持ち主、女だろ?」
「そう聞いた。」 「とりあえず敷地だけでも一度見ておこう。その女、連絡がつかないそうだが、何か手がかりがあるかもしれないじゃないか。」キム・ガンムも興味深げな表情でハン・ギュリョンの話を聞きながら、携帯を取り出して何かを検索した。
「ああ、いいな。そういえば、俺が保育園前の住宅に防犯カメラを一つ仕掛けておいたんだが、郵便物がかなり溜まっていたよ。近いうちに誰か現れそうだ。」
「おっ、さすが緻密だね。名探偵キム・ガンム様だ。さあ、早く行こう。俺もそこがすごく気になる。」隣にいたハン・ギュリョンが楽しそうに歩調を早めた。ゲヨンは固く口を閉ざしたまま、先頭に立って病院のロビーを後にした。
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彼らが去ると、ロビーの隅に身を潜めていた看護師たちが集まってきた。背中が完全に見えなくなった後、彼女たちはこらえていた感嘆の声を上げながら囁き始めた。
「うちのキム・ガンム先生、本当にすごく素敵よね。あんな男性、誰が連れて行くのかしら?」
「高嶺の花だと思って夢も見ないことね。キム・ガンム先生のお宅は、両家のご両親が揃って大型病院の院長で、とてつもない資産家なんですって。財閥じゃなきゃ名刺も出せないわよ。」 「その隣の方々も、外見が本当に幻想的だわ。年はキム・ガンム先生より一、二歳下でも、家族より絆が深いって言われてるし。」 看護師たちは恍惚とした表情で、彼らがいた場所を見つめながら続けた。 「金髪の方はHHグループ財閥三世のハン・ギュリョンよね? テレビで見たことあるわ!」 「あの黒髪の美男子は、まだ二十六か七だって噂だけど、資産が兆単位らしいよ。」 「警備会社に建設会社、海外ホテルまで持っている超大富豪なんだって。」看護師たちの執拗で粘りつくような視線は、消えたゲヨンたちの残像を追いながら、しばらくロビーを彷徨っていた。あの完璧な男性たちが、どんな女性と関わることになるのか、彼女たちの想像力は際限なく膨らんでいった。
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日が急速に傾き、影が長く伸びた午後。ソウル旧市街の廃墟となった保育園の庭に、荒いオートバイのエンジン音が鋭いこだまを残した。
今日もどこで夜を明かさなければならないのか。ヒョンシンは最近、家がないという悲哀が骨の髄まで沁みるようだった。小部屋村(チョッパンチョン)さえも、再開発の狂風に押されて追い出された身だった。おまけに、自分が世話をしている保育園出身のチェ・ジュヒョンが入院している療養病院からの帰り道であれば、心は制御できないほど乱れた。 こうして心が締め付けられるたびに、ヒョンシンが訪れる場所があった。両親と共に過ごした思い出が宿った場所。 『郵便物でも来ていないかな。』 ソウル市内の古い路地の果て、山の麓と向かい合ったまま危うげに立っているこの保育園は、両親が残してくれた唯一の遺産だった。火魔が通り過ぎた後の無残な骨組みと、荒涼とした静寂だけが漂う二階建ての建物。 オートバイで保育園の入り口にたどり着いた瞬間、ヒョンシンの本能が警告を鳴らした。不吉な予感は一度も外れたことがなかった。「ああ……。」
路地の入り口を占領した黒いセダン三台と、重厚な大型バン。車の頭が路地の果てではなく反対を向いているという事実は、誰かが敷地の中まで自分の家のように出入りし、車を回したという明白な証拠だった。
「なんてことだ……!」案の定、静寂であるはずの保育園の中から、見知らぬ男たちの声が流れてきていた。
「お前、誰だ?」
警備員の中でリーダーらしき男がヒョンシンを見つけるやいなや、ずかずかと近づいてきた。自分の土地に足を踏み入れておきながら、逆に高圧的な態度とは。ヒョンシンは呆れたが、気圧されないよう努めた。
「何ですか? ここの持ち主でもないのに。」
「恐れを知らないな。この辺に住む子供か? 危ないから今すぐ戻れ!」彼はヒョンシンを不良中高生程度とみなしたのか、面倒だというように手を振り、追い出そうとした。
「マ室長、あまり怒鳴るな。最近の男の子たちは、アイドルみたいにどうしてこう綺麗なんだ?」
「ハン・ギュリョン、それもセクハラだ。自重しろ。」一体こいつらは誰だ。ヒョンシンは込み上げる怒りを抑え、男を睨みつけた。今すぐ自分の土地から消えろと叫びたかったが、再開発敷地の買収を強要する者たちなら、状況が複雑になる。
背筋を伝って冷や汗が流れた。続いて聞こえてきた名前が、波のように押し寄せて思考を停止させた。「ガンム、これは純粋な誉め言葉だ。あいつ、同年代の女の子を何人も泣かせる顔をしてるって意味だよ。」
ハン・ギュリョンの金髪の隙間から閃く瞳がヒョンシンを射抜くように凝視すると、彼女は背筋が凍りついた。今度は、キム・ガンムという男もゆっくりとヒョンシンへ体を変えた。
「そういえば美少年ではあるな。坊主、俺たちは食ったりしないから。」
食わないという言葉とは裏腹に、探索するような彼の視線は極めて威圧的だった。その時だった。
「お前、何をしているやつだ? ここにはなぜ来た? お前、正体は何だ?」
カ・ゲヨンの声が冷たいガラスの破片のように鼓膜を突き刺した。彼は一歩、また一歩と、獲物を締め上げる捕食者のように近づきながら、ヒョンシンに向かって質問を投げつけた。
心地よい重低音に、一抹の感情も込めない、倦怠的で傲慢な口調。圧倒的なフィジカルと秀麗なマスク、相手を息苦しくさせる支配的な気運まで。ヒョンシンはこの男の声と漂うイメージを組み合わせた瞬間、全身の毛が逆立つような恐怖を味わった。 まさか、違うはずだ。鼻先が触れそうな距離まで男が近づいてきた。爽やかで高級感のあるムスクの香りが鼻先を刺し、強烈な引力を放つ。ヒョンシンが感じたひどい違和感の正体は、まさにそれだった。『くそッ! 4万ドル! あの男だ!』
一瞬、足元が崩れるような極度のめまいが、ヒョンシンを襲った。
夜明け。ヒョンシンが眠っている顔をしみじみと見つめてから、ゲョンはやっと静かにリビングへ出てくることができた。ヒョンシンがチェ・ジュヒョンに会う前、最後のミッションのために苦悩しながら朝を迎えたあの日が、ゲョンの頭の中にくっきりとよみがえった。彼女がひとりで血の滲むような決断を下したまさにその場所へと歩いていき、ゲョンも同じように床に座った。「お前が見つめていた風景はこれだったんだな」窓の外のソウルの街並みは、青灰色の混じる妙な静寂と明るさをたたえていた。人生を賭け、命を投げ出す覚悟で思い悩んでいたヒョンシンが、まさにこの場所で一世一代の選択をしたのだろうと思うと、胸が重くなった。ゲョンは小さく深呼吸をしてLFに電話をかけた。「ケンズ代表。相変わらず連絡が早いな」 「用件だけ言え。次の行き先はどこだ?」 「話が早くて助かる。イギリスのロンドンだ」ヨーロッパをより確実に掌握しようとするLFの巨大な計画が垣間見えるようだった。「ヒョンシンを手放したくない」 「さあな。約束をしっかり守るエスだからな」ゲョンは再び考えに耽った。しばらく両目をソウルの上空へと向けた。「……ヒョンシンに広い世界を見せてやりたいんだ。俺はもちろんヒョンシンのそばに立つ」 「ほう、まるでヒルのように貼り付くつもりか?」 「ああ、それに俺は彼女をオックスフォードに連れていきたい。どうだ、共通の目的地になっただろう?」ゲョンは思いつきで言っているわけではなかった。国内であれ海外であれ、ヒョンシンには大学生になりたいという夢があった。LFとの課題も裏から支え、彼女を幸せにするルートも提供してやりたかったのだ。その時、LFはゲョンの心を読み取るかのように、ゆっくりと笑いながら言葉を続けた。「それを知っているか? 私の愛おしいエスは頭が良いから、かつてその大学に合格した履歴もある。私自身、だからこそロンドンに狙いを定めたのさ」ゲョンはあまりの驚きに、思わず胸が高鳴った。すでにLFは自分と同じ気持ちだったというのか。「面白い。じゃあ、俺も彼女のそばで継続教育学部(Department for Continuing Education)のコースでも通うとするか」 「ケンズ代表。お前も相当しつこい男だな」 「早ければ今年の10月学期(Michaelm
ついに3月中旬。ヒョンシンとゲョンは玄関の扉を入るやいなや、約束でもしたかのように互いの唇を重ね合わせ、くすくす笑い声を交わした。「また何ヶ月も経ったみたいです。ゲョンさんの家は来るたびに新鮮ですね」 「これでやっと俺も安心して足を伸ばして眠れるな」その低く呟くような告白に、ヒョンシンは胸の奥がツンと痛んだ。自分のせいでこの男の胸がどれほど冷やりとしたか推し量ることもできず、ただ申し訳ないばかりだった。「ごめんなさい、ゲョンさん」ヒョンシンがそっと謝ると、ゲョンはふたたび彼女の唇を軽くキスで奪い、優しい眼差しを合わせた。「ヒョンシン。それでも今回は違った。お前が必ず戻ってくると信じていたから」ゲョンはスーツの胸の内ポケットから真っ黄色の黄金のハンカチーフを取り出して見せた。そして優しい手つきでまたポケットにスッとしまい込み、自分の胸をトントンと叩いた。感謝と申し訳なさが入り混じり、ヒョンシンはゆっくりと手を上げて自分の首元を探った。「私ももう習慣のように……このネックレスが私の体の一部になったみたいです。ゲョンさんの心が私を何度も救ってくれました」ヒョンシンはゲョンの大きな手を引き寄せ、ネックレスが触れている自分の鎖骨の上にそっと乗せた。「いつも身につけさせてくれてありがとう」 「僕たちはこうしていつも心が繋がっていたんだね」これ以上の言葉は必要なかった。言わなくても互いの深い息づかいに込められた本心がそのまま伝わってきた。そして堪えていたゲョンの欲望が爆発するかのように、ヒョンシンの唇を飲み込んだ。寝室まで歩いていく余裕すらなかった。二人は焦れったい手つきで互いの服を脱ぎ捨て、リビングのソファの上に転がり落ちた。荒い吐息と熱い息遣いがリビングいっぱいに響き渡った。地獄のような苦難を乗り越えて訪れた関係は一段と激しく、空間全体を燃え上がらせるように熱く火照らせた。ただ原始的な本能に身を任せ、無言で求め合う二人の男女の体温が絡み合った。時には荒々しい獣のように激しく、時には世の中で最も純粋な子供のように優しく。まさにその瞬間。Rrrr— Rrrr—ソファの下に落ちたゲョンの携帯電話が激しく振動した。遠のいていた意識がはっきりと戻った。「ゲョンさん。私たちの夜はとても長いです。早く携帯から確認してください」 「……ああ。私
ヒョンシンを先に送り出した後、チュ・ヒョジンはLFとのティータイムを続けた。ヘルマンも今夜はチュ・ヒョジンに任せ、ナンバーたちを連れて仕事を片付けに出かけていたため、二人だけの時間はとても甘美なものだった。「あら、あなたひどくない? 神様って本当に不公平よね」ヒョンジンは紅茶とマカロン、タルト、フルーツ、みたらし団子、サンドイッチまで、トレイがしなるほどのおやつを並べていた。「病人がこんなにセクシーでいいの? 顔を見るだけで今にも私を抱き上げてホテルへ直行しそうなほどエネルギーに満ち溢れているのに。さあ、早く食べてぱっと起き上がってよ」 「繰り返しになるが、このデザートを全部食べたら、ない病気までできそうだな」LFが日差しのように明るく笑いながら見つめた。「あら、あなた怒ったの? ああ、お酒がないからか!」 「やっと俺のことが少し分かってきたな」ヒョンシンはイチゴをフォークで刺してLFに差し出しながら満面の笑みを浮かべた。「あなた、結構危険な男だったのね。本当に驚いたわ」LFは無造作にイチゴを受け取って食べると、フォークを下ろした。「俺もヘルマンも、金儲けのために投資したんだ」 「だから君は魅力的なんだ」LFが腕を組んだままじっと見つめた。「これからは、君の公演で『ブラボー』をもっと長く叫べるようになったわけだな」 「今年も、来年も、再来年も私の公演を見に来てよ。あぁ、我慢できない。私とキスして」ヒョンシンがそっと病室のベッドの上に這い上がってきた。「おや、趣味が変わっちまいそうだな」 「あなたに秋と冬ができたなんて嬉しいわ。来年の春も、その次の春も私たちのベッドでもっと熱く過ごしましょう」 「君、すっぴんもなかなかだな。もちろん服まで脱げばもっと綺麗だろうが」ヒョジンは微笑みながらLFの襟を引っ張り、熱く唇を重ねた。= = =その日の夕方、開浦洞(ケポドン)にあるムヒョンの家。「家が小さくても綺麗に可愛くまとめてるね、シオン」今日退院したヨレンとリソンを家に招いたシオンが、フルーツを綺麗に剥きながら迎えた。「俺が倒れてる間、リソンの面倒を見てくれてありがとう。一緒に食べようと思ってさ」 「ヨレン先輩、意識が戻ってからも見事に僕たち全員を騙すなんてひどすぎますよ」2組のカップルは食卓を囲み、これまで胸に秘めて
やっぱりこれも長生きしてみるものだった。流れる涙をLFが拭いてくれた。笑わなければならないのに、なぜか涙ばかりが出た。カ・ゲョンがLFを信じて二方だけの時間を過ごせと「プレゼント」という表現まで使うなんて。「……LF先輩、ご機嫌ななめのようですね」 「ああ。機嫌がいいわけないだろ? レディを泣かせるのは趣味じゃないからな」こんなにも美しく笑いながら言う言葉だなんて。「こっちに来い」LFは笑みを引っ込め、淡々とした表情でヒョンシンを見つめた。ヒョンシンがベッドに腰掛けて彼との距離を縮めた。彼が手を伸ばし、ヒョンシンの頭をゆっくりと撫でてくれた。まるで複雑な心をすべて分かっているかのような優しい手つきだった。「それでも、先輩を助けたかったのに……自分の手でやり遂げました」LFの濃い紫色の瞳に温かい笑みが広がった。相変わらず美しく、神秘的に人を惑わす瞳だった。「なぜ毎回助けるんだ?」ヒョンシンは泣かないようにと涙ぐみながらも唇を尖らせた。「先輩、私のせいで銃まで撃たれて私を助けてくれたじゃないですか。私も……その日は本当に生きるのが嫌だったのに」 「その日はお前が望んだんだ。韓国に来たいと言っただろ」間違いではなかった。キーマンを探そうとしたのはまさにヒョンシンの意志だった。ヒョンシンは胸が熱くなって喉がツンと痛んだが、深く息を吸い込んで感情を鎮めた。「はい。あの地獄は私が選びました」 「それに、悪人の肝臓がなんで俺の体についてるんだ?」 「悪人に罰を与えようと」そのとき、LFの耳に心地よい笑い声がヒョンシンの耳をかすめた。「気に入らないな。今度からしっかり体を酷使しないとな」ヒョンシンは言い返す代わりに、ふふっと笑ってしまった。この状況でもLFは相変わらずでのんびりと他人事のように話していた。「俺の病気、いつ気づいた?」そろそろ深刻な話をしなければならないのだろうか。ゲョンが置いていったジュースを一口飲んだヒョンシンは、ゆっくりと言葉を切り出した。「盆唐でバンジージャンプをしたとき、何か変でした。その後もずっと時間がないという話をしたり……1年後にこの世にいない人のように振る舞っていたじゃないですか。後でヘルマン先輩と話しているのをちらっと聞いたんです」 「無駄に鋭いな」LFは本当に面倒くさそうに、あまりにも美し
焦りを覚えたキム・ミンチョルは、突然何冊もの帳簿を取り出して説明を始めた。「さあ、俺が望むのは世の中が正しく正されることだ。」キム・ミンチョルがハンビダンのコードタワーとしての役割を果たしたという証拠物には、悪事ばかりが記されているわけではなかった。過去にハンビダンで成し遂げた実績や大がかりな事件、そしてそれなりに正しく築き上げられた正義の結果物も並べられていた。「俺は自分の父親からこれを受け継いだとき、要員たちのあの血の滲むような努力に感謝した。」最近の帳簿を見ると、ヒョンシンが成し遂げた任務も記載されていた。ゲョンを初めて医療不正の現場で出会ったこと、ソウルで証拠を確保した警察の不正、ハン・ギュリョンの会社への侵入事件まで。すべて実際に起きた事実だった。そのとき、帳簿を一緒に覗き込んでいたハン・ギュリョンが目を丸くし、ゲョン、カンムと視線を合わせた。「うちの会社の創立記念日の侵入事件は、結局黒幕がペク会長だったわけ? じゃあ、LFはなんなのよ。助けに来てくれたってこと? 私を守るように依頼したじゃない!」 「バイトくんを香港に連れて行ったのも、結局LFが助けようとしたってわけか。」帳簿には、ヒョンシンが国の機密を流出させようとした裏切り者の要員だという濡れ衣を着せられたうえ、さらにH建設の技術を持ち出そうとした産業スパイのリストにも名前が載っていた。キム・ミンチョルは指でヒョンシン除去の依頼項目を指し示しながら、周囲を見回した。「エス, 俺はただチェ・ジュヒョンを信じ続けていただけなんだ。お前が、まさかLFをそそのかしてヴィクトリアを崩壊させ、カ・ゲョンまで巻き込んでハンビダンを世間に暴き出し瓦解させようとする人物だとは思わなかった。お前を殺そうとしたことは謝る。」ヒョンシンはあきれて言葉Fが出なかった。続いて広げられた資料はハンビダンの会計帳簿だった。負傷した要員を無料で治療したり、生活費を継続的に支給するなど、むしろキム・ミンチョルの財産の一部がハンビダンへ寄付されていた情勢も確認された。「俺はハンビダンのタワーだ。ハンビダンの機能に感謝を感じる人間のひとりさ。もちろん、明日は検察に出頭する。これまで犯した罪があるなら、それは受ける。だが、チェ・ジュヒョンが犯した罪まで濡れ衣を着せられるのはごめんだ。俺はこの国の腐った部分をずっと
ヒョンシンは、悪びれる様子もなく現れたキム・ミンチョルを見るだけで歯ぎしりが出る思いだったが、何とか平静を保とうと努めた。カ・ゲョンはすぐにマ室長を呼び、準備してきた数々の証拠をテーブルの上に冷ややかに並べた。「まったく、気が早い奴らだな!」 「私に忍耐力があまりないもので、かなり増えたほうみたいです。一週間も時間を与えたのに答えを出せなかったとは、残念ですね。」ゲョンは話し合いに先立ち、チェ・ジュヒョンとキム・ミンチョルの罪を立証する書類と証拠を見せ、決定的な録音ファイルまで聞かせた。「こんな……! 不法な証拠なんて効力はない! 法はそこまで甘くないぞ!」 「院長! どうしてカンムに手を汚させようとなさったのですか? 違法だろうとなんだろうと、SNSや放送局にバラして恥をかかせることはできるってご存知ですよね?」怒りを抑えきれなくなったハン・ギュリョンが怒鳴りつけると、キム・ミンチョルはすぐに尻尾を巻き始めた。「ハン社長! わかったから、話そうじゃないか。」「俺は今日、親父の味方じゃない。」 「この親不孝者が! すべてお前のせいだ!」カンムの乾いた言葉に、キム・ミンチョルは八つ当たりするように再びヒョンシンを睨みつけた。ヒョンシンはハンビ단に対してすっかり愛想が尽きていたうえ、こんなふうに骨の髄まで腐りきった組織にこれ以上自分の命を賭けたくなかったため、気持ちを立て直してきっぱりと口を開いた。「院長、私は正義を立てて自分の大切な人たちを守るためにこれまで要員でいたのであって、誰かの欲を満ために命を張ったわけではありません。」「そうか? また要員が一人引退する瞬間だな。」キム・ミンチョルはとりあえず惜しそうな表情を作ると、理解したという意味でうなずいた。「エス。もう出ていっていい。これからはチェ・ジュヒョンが残した裏金の話もあるし、ハンビ단의機密について話さなければならないから、席を外してもらうぞ。」ヒョンシンは突然気まずくなって体を縮こまらせた。そのとき、傍らにいたギュリョンとカンムがソファから背中を離し、一言ずつ浴びせた。「院長、一番大事なこと! うちのバイトくんを殺そうとなさったではありませんか?」 「そうです、親父。この事態に至った原因なんですから、コードネーム・エスに謝罪からするべきでしょ。」キム・ミンチョルは一体







