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第6話《波紋》

last update publish date: 2026-03-02 06:00:29

真っ直ぐ立てる位置を、

身体に覚えさせる」

彩は歯を食いしばる。

彩

「……お腹、燃えてきた」

レイラ

「腹横筋。

ここが死んでると、

どんな服も“借り物”になる」

一拍。

レイラ

「次、肩」

彩は腕を横に上げる。

肘は伸ばしきらず、

指先まで意識を通す。

レイラ

「肩甲骨を“寄せない”」

「背中を広く使って」

彩

「……腕、重い……」

レイラ

「モデルは、

軽そうに見せるために、

重さに耐えるの」

さらに。

レイラ

「首。顎を引いて。

でも、俯かない」

彩の首筋に、汗が滲む。

レイラ

「首は“支える柱”。

顔は、その上に乗ってるだけ」

最後に。

レイラ

「呼吸」

彩

「……はぁ、はぁ……」

レイラ

「吸うとき、胸を持ち上げない」

「肋骨を、横に広げる」

彩は何度か失敗し、

やり直す。

彩

「……できない……」

レイラ

「できるわ」

レイラ

「“美”は才能じゃない。

身体に嘘をつかせない訓練よ」

十秒。

二十秒。

彩の脚が、限界に近づく。

彩

「……もう……」

レイラ

「まだ三十秒」

彩は震えながらも、

姿勢を崩さない。

そして――

ようやく、

レイラが手を下ろした。

レイラ

「終了」

彩はその場に座り込み、

荒く息を吐く。

レイラは何も言わず、

妹を見る。

汗に濡れた髪。

必死に保った姿勢。

逃げなかった目。

レイラ(心の声)

《……この子は、

“耐える身体”をもう持ち始めている》

2 テレビのニュース

壁掛けテレビに、

速報テロップが流れる。

『歌原レイラ、

所属事務所HORIZONを退所

個人事務所を立ち上げ』

彩

「おねーちゃん……

本当に辞めたんだ……」

レイラは淡く笑う。

レイラ

「縛られる場所にいては、

美は守れない」

一歩、

彩に近づく。

レイラ

「彩。あなたも――

“歌原彩”として

立つ時が来たわ」

彩は拳を握り、

力強くうなずく。

彩

「うん。必ずやる。

おねーちゃんと、

同じ場所に立つ!」

その瞳に宿る光を、

レイラは確かに見ていた。

3 彩の帰宅

玄関。

制服姿の彩が靴を履き、

鞄を肩にかける。

彩

「今日はありがとう。

また来るね!」

彩(英語で)

「See you later, sis!」

レイラ(英語で)

「Good.

Your pronunciation’s getting better.」

彩は得意げに胸を張る。

だが――

玄関に落ちるレイラの声は、

少し低い。

レイラ

「……彩。

ひとつだけ、

先に言っておくわ」

彩

「なに?」

レイラ

「近いうちに、

両親と、私は“法の場”で

争うことになる」

彩の表情が、固まる。

彩

「……裁判?」

レイラ

「ええ。

あなたのことで」

一拍。

レイラ

「裁判が始まっても、

すぐに一緒には住めない」

レイラ

「しばらくは、

今の家よ」

彩

「……」

レイラ

「我慢できる?」

問いは、

優しくも、

残酷だった。

彩はしばらく黙り、

やがて言う。

彩

「……できる」

レイラ

「理由は?」

彩

「おねーちゃんが、

迎えに来てくれるって

信じてるから」

レイラは、

一瞬だけ目を伏せる。

レイラ

「……約束するわ。

必ず迎えに行く」

彩

「……うん。

ちゃんと待ってる」

ドアが閉まる。

鍵の音が、

静かに響いた。

(……もう戻れない。

でも――

これでいい)

4 歌原家

夕方。

散乱した郵便物と、

空き瓶。

テレビでは、

「レイラ退所」のニュース。

陽子

「本当に辞めたのね」

和人

「計算高い女だ……

まだ稼げる」

その時、

固定電話が鳴る。

『家庭裁判所です』

『歌原彩さんの親権について、

申立てがありました』

『虐待の診断記録、

経済的浪費の証拠に

基づいています』

受話器を置いた和人の顔から、

血の気が引く。

和人

「……レイラめ」

陽子

「……本気で、

彩を奪うつもりなのね」

5 レイラのマンション・夜

街の灯りが、

静かに瞬く。

スマホに、

弁護士からの通知。

《申立ては受理されました》

(どんな反撃が来ても……)

(彩だけは、

必ず守る)

同じ頃。

暗い居間で、

陽子が低く呟く。

陽子

「……レイラ。

あんた、

絶対に許さない」

ナレーション

両親は、

それを“裏切り”と呼んだ。

だがそれは、

突然の反逆ではない。

積み重ねた選択が、

選ばせ続けた振る舞いが、

行き着くべき場所へ

辿り着いただけだった。

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