LOGIN産婦人科の診療待合室に到着すると、看護師が待つようにと言い残してその場を離れた。
3人は空いている椅子を探して腰掛けた。ここの雰囲気は他の病棟とはどこか違っていた。
痛みを癒す場所というより、希望を診てもらう人が多いからなのか、ギョンシンはこの場所の異質な雰囲気が気に入った。ファヤとギュリョンは産婦人科の診察室の周りをキョロキョロと見回しながら、ギョンシンに小声で囁いた。
「お兄ちゃん、私たちも一緒に入るべきかな?」
「そうしよう」
ギョンシンは、どうせなら一緒に中に入ってほしいと頼もうと思っていた矢先だったので、向こうから切り出してくれるなんてこれほどありがたいことはなかった。
「ありがとうございます。ところでギュリョンお兄さんの叔母様であるハン・ジョンウォン博士のところに行くんですか?」
「あ、はい。ぼ、菩薩様」
ギョンシンが図星を突くと、ハン・ギュリョンの目つきが再び神妙になり、ファヤも自分の機嫌を伺うように目を泳がせた。
ギョンシンは首をかしげながら自分の記憶をくまなく探ってみた。あの人ならアメリカの有名な医療タウンで勤務しているはずだが、まだ海外赴任の前であるらしかった。
「わあ、私って運がいいな。世界的に有名な産婦人科専門医のハン・ジョンウォン博士に診察してもらえるなんて」
ギョンシンは再び手のひらで自分の腹部をなでなでとさすりながら明るく笑った。その様子を見ていたソン・ファヤは手で口元をそっと覆いながらクスリと笑った。
「菩薩様は他人の運命はよく当てるのに、ご自分の運命はちゃんと見えてないみたいですね」
「ファヤ、私、今日より前の21年間の記憶がないんだってば」
「とりあえずここは病院なんですから! あとで精神科の方も相談を受けていってくださいよ」
前世についてこれ以上話すのが面倒になったギョンシンは口を閉ざした。ファヤの精神医学に対する信頼がかなり厚いようだったからだ。
ギョンシンは自分の順番がいつになるのかと気にしていたところ、診療室の入り口の画面に自分の名前が0順位で表示され、看護師に呼ばれた瞬間、一気に緊張が走った。
「ギョンシン様! 第3診療室にお入りください!」
ギョンシンは両目にグッと力を込め、自分の手を神妙に腹部へと当てた。
来るべき時が来たのだ。
= = =
白く高級感のある雰囲気が印象的な産婦人科の診療室。
かなり高価そうな加湿器からは適度な水分がシュッショッと噴き出し、清涼感を与えてくれていた。
ここに到着するやいなや、ギョンシンはさまざまな検査を受け、尿検査の結果「妊娠」という看護師の言葉を聞いた後、いま最終的な告知を待っているところだった。
ギョンシンは30代前半に見える黒髪のウェーブヘアに西欧的な顔立ちをした医師の口元だけを見つめていた。
どうか、あの口から出る言葉が……お願いだから。
「ギョンシン妊婦さん、おめでとうございます。妊娠約6週目くらいのようですね」
「あっ!」
「それともう一つ、貧血気味で倒れられたようです」
あぁ、そんな馬鹿な。
私の人生にこんな幸せなことが起きるなんて。いま新しく始まった人生の第4幕は、暗いトンネルを抜けて光に出会った瞬間だった。
「あ……、ありがとうございます」
その様子を見守っていたファヤとギュリョンも後ろで微笑んでいた。
「妊娠を待ち望んでたんですか? わあ、おめでとうございます、菩薩様」
「おめでとうございます」
その言葉を聞いたギョンシンは振り返り、2人にもお礼の挨拶を伝えた。目がツンと熱くなったため、黒縁メガネを外して自分の目をぎゅっと押し、とりあえず水分が溢れないように整えてから再びメガネをかけ直した。
「家族が出来るなんて、すごく嬉しいです」
「それでは、最後の生理日はいつですか?」
「そ、それはちょっと……。でも、いつも15日前後でした」
「とりあえず出産は10月中旬頃の予定ですね。あ、双子ですので少し早めに出産になるかもしれないと考えておいた方がいいでしょうね」
「えっ? 双、双、双子ですか?」
喜びが倍増したギョンシンは再び自分の下腹部を見下ろし、手のひらでしきりにさすり続けた。
まだお腹はペタンコで何の感覚もないけれど、2つの命が自分のお腹の中に宿っていると思うと、笑みがこぼれるのをどうしても我慢できなかった。
「あの、ギョンシン様。赤ちゃんの父親と一緒にまた来られますか?」
ここでちょっと待てよ。
ギョンシンは頭を大きなハンマーで殴られたかのように、一瞬にして頭の中の思考回路が別の方向へと急旋回した。
今までどうしてこの考えに至らなかったのだろうか。
このお腹の赤ちゃんは時空を飛び越えてきたとでもいうのか? そんなの0.0000001%の確率すらない話だった。
なぜなら、ギョンシンは前世を含めてこれまでの3つの人生を通じて、男性と普通のキスすらいちどもしたことがなかったからだ。
「何か問題でもおありですか?」
急に表情が曇ったハン・ジョンウォンはペンを手に取り、トントンとカルテを叩きながら気持ちを落ち着かせ、決して軽くはない言葉を口にした。
「赤ちゃんを望んでいらっしゃいませんか?」
ギョンシンは自分の耳を疑い、本能的に両手でお腹を包み込みながら叫んだ。
「いいえ! あの、先生! 赤ちゃんが聞いてますよ! 絶対そんなこと言わないでください!」
まるで自分の手で赤ちゃんたちにこの会話が聞こえないようにしようとするかのように奇妙な行動をとるギョンシンを見て、ハン・ジョンウォンは気まずそうに上体を前に傾けた。
「健やかなる子宮ライフ、ですか? あ、はは……失礼しました。妊婦さんがお若くて、赤ちゃんの父親の話しになった途端に表情が急に暗くなったものですから、もしかしてと思って聞いてみたんです」
「私は赤ちゃんたちと幸せになります! 妊娠は奇跡であり祝福なんです!」
ギョンシンは、いま記憶もなく前世もどん底だった上に、妊娠という衝撃的なニュースを聞かされて戸惑っているだけだった。
「私が赤ちゃんの母親になるなんて、すごく嬉しいです。絶対に産んで、赤ちゃんたちと……幸せに暮らします」
ギョンシンは荒い息を整えた。そしてうなだれてペタンコのお腹を見つめた。命を2つも宿しているなんて、早く時間が過ぎて無事に産んであげたいと思った。
「赤ちゃんの父親は、もしかして妊娠を望んでいない方ですか?」
「ああっ! お願いですから、そういう言葉は控えてください!」
今日だけで赤ちゃんたちが何度も驚かされている気がして、ギョンシンは再び手のひらでお腹を隠した。ハン・ジョンウォンは「しまった」というように手で自分の口を塞いだ。
「あ、ごめんなさい」
その時、水分を噴き出す加湿器の音だけが病室の中に静かに響き渡った。
憂いに満ちた顔で、ギョンシンはゆっくりとお腹からハン・ジョンウォンへと視線を移した。ちょっと話しづらいことだが、真実を告げるべき瞬間だった。
「実は、赤ちゃんの父親が……誰だか分からないんです」
その瞬間、この病室にいる全員の表情がこわばり、誰も言葉を発することができなかった。
その日の夜、二人はリビングの床にふかふかの布団を広げ、並んで横になって窓の向こうの銀色の夜空を見上げた。周囲では、愛犬たちがそれぞれの小さく温かい体温を抱いたまま、気持ちよさそうに顔をうずめて静かな息を整えていた。ギョンシンは初めてこの家のドアを開けて入ってきて、あの子たちの徹夜の育児に追われながら慌てふためいていた最初の日の記憶を静かに思い返した。そして暗い記憶の彼方、テハと初夜の温もりを分かち合ったあの日の淡い思い出もそっと辿ってみた。「記憶の彼方のお前が、誕生日プレゼントだと言って自分自身を捧げてくれた。愛おしくて、うっとりするほどだった。」テハは言葉を区切り、ギョンシンの目元をやさしく撫でた。「去っていったお前が再び戻ってきてくれた時も、俺はただ感謝しかなかった。」テハの言葉に、ギョンシンはMH事務所に向かって彼に韓国語の家庭教師をしに行っていた最初の日を思い出した。酷い運命のように絡み合い、ペネルペのせいで彼が命を落としかけた恐ろしい瞬間すら、過ぎ去ってみれば淡い微笑みとともに通り過ぎていった。「私もお腹の子の父親がテハさんだなんて……本当に幸せで狂いそうでしたから。私を望まれないとしてもこの子を最後まで育てたいと思うほど、私にもついに家族ができたという事実がとても嬉しかったんです。」出会った時に感じた感情、そしてお互いがいなかった時に抱いていた愛おしさまで。二人は積み重なった光り輝く気持ちを静かに解き放った。その時、並べて置いてあった二人の携帯電話が短い時差を置いて同時に振動した。ギボムとマホからの連絡だった。ついに事件の捜査が完全に締めくくられたという報せを伝えようとしているかのようだった。ギョンシンとテハはそれぞれの場所から立ち上がり、少し離れたリビングの両端で通話をした。「シン、ジョンミンさんは警察の取り調べを無事に終えて病院に戻るところだよ。」自首したジョンミンとヒョンンスは罪の報いをすべて受けると明かし、ギョンシンの処罰の意思によって最終的な量刑が決まるという。自分が温かい救いを得たように、誰もがそれぞれの場所で罰を受けた後は幸せになることを心から願った。「ギボム、私はあなたに誰よりも幸せになってほしいの。」今世のギボムはついに大切な伴侶を見つけたようだった。前世の束縛にはなかったであろう貴重な縁。二人
ようやくテハとギョンシンは江南のペントハウスへと戻ってきた。ココとムムはその間にすっかり大きく育ち、見違えるほど変わっていた。ルイスが心を込めて世話をしてくれたおかげか、ビション・フリーゼ特有の見事なヘルメットカットと眩しい可愛らしさを誇りながら、ギョンシンとテハの胸へ激しく飛び込んできた。午後の間ずっとテハの両親とともに温かいお茶を飲み、犬たちの愛嬌を見ながら和気あいとした時間を楽しんだ。時間が経ち、テハとパブロは書斎へ入って今後の事業計画と捜査状況を重々しく分かち合い、ギョンシンはルイスのために柔らかいピアノの演奏を聴かせ、義理の母との親しい時間を満喫した。(生きているとこんなこともあるのだな。)甘い義理の実家生活だなんて。わずか一ヶ月前には想像すらできなかった光景に、ギョンシンは胸の奥深くで深い感概に浸った。ルイスはギョンシンと二人きりになっても結婚式の話を先には持ち出さなかった。ギョンシンが自分で決断を下すまで待ってあげようという優しい配慮だった。いつしか窓の外の色調が穏やかに変わり、とっぷりと日が暮れ始めた。これまで愛犬たちを丹念に世話してくれたパブロとルイスは夕食をともに終えた後、二人だけの快適な夜のために大学路のキャンパス近くの自宅へ静かに戻っていった。ギョンシンが客室はまだ十分にあると両親を引き留めたが、二人の大人は優しく手を振って気持ちよく車に乗り込んだ。ついにテハとギョンシン、二人だけの静かな日常がペントハウスの中に漂い始めた。= = =ギョンシンはテハの家に来るといつも探していたリビングのソファへと歩みを進めた。テハも自然と彼女の隣にぴったりと寄り添って座った。ほんの数週間の間に起きた数々の変化が、まるで現実ではないかのようだった。ギョンシンは以前より丸く膨らんだお腹を見下ろし、フッと小さく笑いをこぼした。「テハさん、私のお腹が膨らんだ分だけ、この家も一段階アップグレードしましたね。」 「家族が二人も増えたからな。」 「そうですね。あの子たちがこんなに大きく育ったのを見ると、病院にいた時間が本当に長かったんですね。」ギョンシンがリビングの一角に広く作られた愛犬たちの空間へと視線を向けた。あの子たちの可愛らしい家はいつの間にか4棟に増えており、リビング全体に敷かれた柔らかいマットの面積も以前の2倍以上に広げ
ギョンシンは江南の焼肉店へ向かった後、テハ、ボン・ソンギュの三人でテーブルを囲み、この春の日にあった思いがけない思い出を振り返りながら和やかな食事を楽しんだ。「ハハ、うちのテハ様があの時どれほど太っ腹だったか分かりませんよ。最初は目立たないよう、あの日この店で食事をしたすべてのお客様のお会計を全部払おうとしていたんですから。」ソンギュの暴露にびっくりしたギョンシンがテハを見つめ、舌を巻いた。「お金を湯水のように使っていれば一瞬で一無一物になるとはいいますが……人に施すのがこんなにお好きだなんて、テハさんは本当に素晴らしい方ですね。」鉄板の上でこんがりとお肉を焼いていたテハが照れくさそうにギョンシンをちらりと見下ろし、低くスペイン語をつぶやいた。「Quería ser amable sin aparecerte(君の前に現れず、陰からそっと優しくしてあげたかったんだ。)」「あの時はまあ……そうするしかない事情がありましたからね。でもテハさん、遅くなりましたがお礼を言わせてください。本当にありがとうございました。」テハはただ柔らかく笑って頷いた。よく焼けた韓牛の一点を丁寧に挟んでギョンシンのご飯茶碗の上に載せてやり、静かに付け加えた。「あの時、おいしそうに食べる姿が本当に素敵だった。」ギョンシンはテハが載せてくれたお肉とご飯を口に含んだ後、甘酸っぱく和えた赤貝も一つ挟んで味わってみた。「あの頃はそろそろつわりが始まりかける時期だったのですが、不思議とこのお店に来ると食べ物がのどをよく通ったんですよね。」テハの言葉にギョンシンがふと食卓を見下ろすと、今も彼女の箸は牡蠣のチヂミや赤貝の和え物、魚の煮付けの方へばかり忙しく向かっていた。彼女の席の前にだけ海鮮のおかずがうずたかく積まれている姿は、あの時とまったく一緒だった。「あの頃は記憶をすべて失っていて、自分が何を好きなのかさえ分からなかったんです。頭の中で海鮮が本当に好きな人間だったのだと悟りました。」テハはその言葉が終わるやいなやベルを押して牡蠣のチヂミを追加注文してくれ、ボン・ソンギュもまたギョンシンの前へと赤貝の和え物の器をそっと押しやって気遣ってくれた。プルルル—— プルルル——温かい温もりの中で幸せに食事を続けていたその時、ギョンシンのバッグの中から携帯電話の振動音が響いた。ギ
翌日の明け方。ギョンシンは一晩中深い眠りにつけず、何度も寝返りを打っていた。前世、今世、そして今のすべての記憶が行き交うせいで、ギョンシンの心と精神は激しい嵐が吹き荒れるように苦しみの渦中にあった。テハはそんなギョンシンが哀れで耐え切れなかった。結局明かりをつけ、彼女を包んでいた布団をそっとめくると、ベッドの上に上がってギョンシンを静かに胸へ抱き寄せた。「シン、すごくつらいのか?」テハの低く静かな声が耳元に響くと、ギョンシンは力なくぐったりとしたまま彼の胸へすがりつき、かすかに体を震わせた。「……少しつらいですね。」 「シン、お前がつらいと赤ちゃんたちも一緒につらくなる。」「赤ちゃん」という言葉に、ギョンシンはかすかな意識の中でも自分の手を静かにお腹の上へ添えた。「……そうですね。」ギョンシンは静かに目を開け、両手をお腹に添えたままテハの胸の中へ深く潜り込んだ。「……人生って本当に分からないものですね。それでもジョンミンさんとヒョンンスさんは……世間の冷たい視線を受けることになったら……すごく苦しいでしょうに……。」この瞬間にも人を思い遣って心を痛めるギョンシンの儚い気質を見て、テハは彼女を抱きしめる腕に強く力を込めるしかなかった。「捜査はすべて非公開で進められる。」ギョンシンはまばたきをしながら、よかったと安堵のため息をついた。テハはギョンシンの乱れた髪を静かにかき上げてやり、片手をギョンシンのふっくらとしたお腹の上にそっと乗せた。「この状況でも他人の心配ばかりするとは。」ギョンシンは晴れやかに微笑んで見せ、テハの首を強く抱きしめた。「本当にすごいのはテハさんですよ。いつも私の味方になってくれてありがとうございます。」 「俺はお前のためなら何でもする男だ。」テハの短い一言が胸の奥深くまで沁み渡った。二人はお互いの温もりを強く抱きしめ合ったまま、病室の中の心地よさを満喫した。いつしか窓の向こうで濃い闇が退き、夜が明け始めていた。テハの胸に抱かれながら窓の外の風景の変化を感じたギョンシンは、薄い笑みを浮かべたまま静かに日の出を見つめた。長く長い闇のトンネルをようやく抜け出した気分だった。ギョンシンは胸に固まっていたすべてのわだかまりを吹き飛ばした気持ちで、満ちてくる日差しを迎えた。そして傍らで確かな温もりを届けてくれる
ギョンシンは痛む頭を押さえ、ジョンミンを見下ろした。ひたすら頭を下げたまま、暗い表情で荒い息ばかりを吐き出す姿が痛ましいほどだった。今日危篤の峠を越えてかろうじて目を覚ましたジョンミンが、いつ再び意識を失うか分からず、目を覚ますやすぐにここへ駆けつけたのだと、ギボムが代わりに事情を説明した。ヒョンンスもまた、少し前にギョンシンと会話を交わしたにもかかわらず、ジョンミンのように罪人の顔をしたまま、とても目さえまわせずにいた。(今、少しずつ記憶が薄れながらも露わになっている。この人たち、本当に私のことをすごく嫉妬していたんだ……。)前世も今世も、人は多くの経験を経てこそ成熟し、変化するものに違いなかった。テハは腕組みをしたままギョンシンの隣に座り、二人に向かって冷ややかで殺伐とした視線を送った。「言いたいことがあるなら早く終わらせろ。」テハのきっぱりとした声にギボムが深く深呼吸をすると、まるでジョンミンを代弁するかのように口を開いた。「ギョンシン、お前に大きな傷を負わせたジョンミンさんとヒョンンスさんは、謝罪から伝えたくてここを訪ねたんだ。」話し終えたギボムが車椅子をギョンシンの前まで慎重に押し寄せて近づき、ドユンもまたヒョンンスの車椅子をジョンミンの傍らへぴったりと寄せた。「申し訳ありません……この言葉を伝えたくて……目を閉じることができませんでした。」 「心から……申し訳ありません。すべては私たちのこじれてしまった心から……始まりました。」ジョンミンとヒョンンスの抑圧された謝罪が弾け飛ぶと、病室の中の空気は垂直に沈下するように重く沈み込んだ。二人はひたすら申し訳ないという言葉を繰り返し、肩を震わせて涙を流した。ギョンシンは胸の奥深くから湧き出るため息を飲み込んだ。人間には申し訳ないという言葉では解決されないものも確実に存在した。「具体的に何が申し訳ないのですか。私はすべて聞かなければなりません。」瞬間、テハとギボムの目がビクッと揺れる気配がかすめ過ぎた。ギョンシン自身も自分の口調が冷ややかで冷たい音色に変わったのを感じた。今、ギョンシンの記憶は前世、今世、そしてまさにこの瞬間まで。この二人によって苦しみ苛まれたすべての出来事が走馬灯のように駆け巡っていた。「いつもギョンシンさんに嫉妬心にとらわれ、頭にくるとギョンシンさんの写真を撮
ギョンシンの心の中には、炎と氷がひんやりと同居していた。最初はこの身体でテハの世界に足を踏み入れ、自分を決して似つかわしくない不審者だと考えていた。しかしギョンシンは退かなかった。テハの指の節々に刻まれたギターのタコに気づいてやったのも、夜ごとに悪夢にうなされる自分を温もりで抱きしめてくれたのも、ただ彼一人だったのだから。何より、お腹の中でモゾモゾと育つ赤ちゃんたちこそ、世界で最も完璧で幸せな家族の完成体だった。ギョンシンは超音波写真を大切に持ち上げ、テハの両親に向けて広げてみせた。テハの心を受け入れ、残された未来を彼とともに歩んでいくことを確信した今、彼女は堂々とパブロとルイスを直視した。「Madre y padre. Sean mi verdadera familia.(お義母様、お義父様。私の本当の家族になってください。)」ギョンシンはこの小さな生命たちとテハのおかげで、ようやく二人と切れることのない強固な絆で結ばれたことを感じた。その時、テハがギョンシンの肩を優しく抱きすくめながら、自信に満ちた口調で両親へ向けて口を開いた。「お母さん、お父さん。僕はギョンシンと幸せに生きていきます。それから……香港の事業は僕が引き継いで育てます。」テハの思いがけない宣言に、パブロは大きく驚いたように両手でテーブルを突き、荒い息を吐き出した。「本当……それは本当なのか?」 「Dios mío…….(まあ、なんてこと……)」ルイスもまた両手で顔を覆いながら体を震わせた。パブロとルイスは込み上げる感情を抑えきれず、深い息を何度も漏らした。「僕の人生で女はギョンシン一人だけです。兄さんの事業を継ぐと決めたのも、すべてギョンシンのおかげです。」テハの口から滞りなく真実が溢れ出た。少しして、パブロが空咳をしながら肩を一度すくめてみせた。「……韓国語はやはり難しいな。」テハの韓国語はすでに流暢そのものであり、本当に韓国語を学ぶべきなのは両親の側であったため、ギョンシンが傍らで親しみやすく補足説明を付け加えた。「難しい決断を下してくれてありがとう。」 「Gracias. Realmente me alegro(ありがとう。本当にこれ以上なく嬉しいよ。)」二人の和らいだ表情と同じくらい、冷たかった病室の中にようやく心温まる温もりが漂い始めた。ル







