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8.

Author: satomi
last update Last Updated: 2025-08-02 06:54:23

 分娩室に一際大きな泣き声が響き渡る。

「男の子ですよ。頑張りましたね」

 ああ、CEOの瞳の色が遺伝してしまったようだ。

 今は閉じているけど、ちらっと見えた瞳の色は緑……。この子も学校でイジメに遭ったりするのかな?

 この子の名前―――反町大輝(ひろき)

 CEOの名前から一文字もらいました。いずれは父親について知りたがるのかな?財産分与とかそういうのとか無関係に生活してほしいな。

 ドカドカと産婦人科にそぐわない足音が聞こえてくる。

「反町文子の病室は?」

 この声は……CEO?

「文子、やっと探し出した」

「ゴメンなさい。大翔さんに無断で子供を産んでしまって」

「いや、それよりも。なんの相談もなく仕事を辞められた方が大打撃だよ。文子が抜けるとなんか仕事のミスが多くて参った。おかげで来るのがこんなに遅くになってしまったよ。本当は文子が辞めて結構すぐに居場所を特定していたんだが、仕事が回らなくてこんなにおそくなってしまったよ。すまない!で、俺の子供は?」

 心なしか大翔さんがワクワクしているように見えます。

「おそらく新生児室にいると思いますが。あの、本当にごめんなさい。あの子、瞳の色が緑なんです!」

「それは!俺の子って感じでいいな‼」

 いいの?

「それと、名前なんですけど、大翔さんの名前から一文字頂き『大輝』にしたんです。今は反町大輝です」

「そっかぁ。とりあえず新生児室に行ってみよう!」

 そう言って大翔さんは新生児室へと向かっていった。―――そうよね今はというかずっとあの子は‘反町’大輝なのよ。期待しちゃダメよ。

「文子……ガラス越しに新生児を見てもどの子が我が子か分からなかった…」

 私もそうよ。みんなしわくちゃで寝てるし。

「それで、今後の事なんだが……」

 わかってるわよ。トラジェット家とは関わりなく慎ましく生活していくわよ。その示談金かしら?ドラマだと「要らないわよ!」とか言うけど、私は有難くもらうわよ?これからの生活を考えるとお金は必要だもの。いくらあっても無駄ではないわよ。

「文子、これからの人生俺の伴侶として生きてほしい。俺は二人とも大切にするし、文子の事を大切に思っている。愛しているんだ!」

 病院で愛を叫ばれた。病室だったのが救いだけど、タイミング悪く「授乳ですよ~」と看護師さんが大輝を連れて来ていた。―――これは、明日から看護師の
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  • 『役』だったはずなんだけどな。好きになったんだもん。   8.

     分娩室に一際大きな泣き声が響き渡る。「男の子ですよ。頑張りましたね」 ああ、CEOの瞳の色が遺伝してしまったようだ。 今は閉じているけど、ちらっと見えた瞳の色は緑……。この子も学校でイジメに遭ったりするのかな? この子の名前―――反町大輝(ひろき) CEOの名前から一文字もらいました。いずれは父親について知りたがるのかな?財産分与とかそういうのとか無関係に生活してほしいな。 ドカドカと産婦人科にそぐわない足音が聞こえてくる。「反町文子の病室は?」 この声は……CEO?「文子、やっと探し出した」「ゴメンなさい。大翔さんに無断で子供を産んでしまって」「いや、それよりも。なんの相談もなく仕事を辞められた方が大打撃だよ。文子が抜けるとなんか仕事のミスが多くて参った。おかげで来るのがこんなに遅くになってしまったよ。本当は文子が辞めて結構すぐに居場所を特定していたんだが、仕事が回らなくてこんなにおそくなってしまったよ。すまない!で、俺の子供は?」 心なしか大翔さんがワクワクしているように見えます。「おそらく新生児室にいると思いますが。あの、本当にごめんなさい。あの子、瞳の色が緑なんです!」「それは!俺の子って感じでいいな‼」 いいの?「それと、名前なんですけど、大翔さんの名前から一文字頂き『大輝』にしたんです。今は反町大輝です」「そっかぁ。とりあえず新生児室に行ってみよう!」 そう言って大翔さんは新生児室へと向かっていった。―――そうよね今はというかずっとあの子は‘反町’大輝なのよ。期待しちゃダメよ。「文子……ガラス越しに新生児を見てもどの子が我が子か分からなかった…」 私もそうよ。みんなしわくちゃで寝てるし。「それで、今後の事なんだが……」 わかってるわよ。トラジェット家とは関わりなく慎ましく生活していくわよ。その示談金かしら?ドラマだと「要らないわよ!」とか言うけど、私は有難くもらうわよ?これからの生活を考えるとお金は必要だもの。いくらあっても無駄ではないわよ。「文子、これからの人生俺の伴侶として生きてほしい。俺は二人とも大切にするし、文子の事を大切に思っている。愛しているんだ!」 病院で愛を叫ばれた。病室だったのが救いだけど、タイミング悪く「授乳ですよ~」と看護師さんが大輝を連れて来ていた。―――これは、明日から看護師の

  • 『役』だったはずなんだけどな。好きになったんだもん。   7.

     私はあんなに入社したかったトラジェットコーポレーションを退社した。 退社届には『一身上の都合により』と書いた。まさか『CEOの子供を妊娠してるから』とは書けない。 両親には、しばらく内緒にしておく。もともと密な関係じゃないし、大丈夫だろう。 あ、家賃がもったいないからもっと格安の家に引っ越した。治安が良くて、インフラが発達していて、病院が近くにあり買い物がしやすいところ。 そうなると、家賃は結構高くなっちゃうけど、あのマンションだとCEOが押し掛けてくるかもしれないから。自意識過剰かな? CEOに買っていただいた物は全てネットで売り払い、引っ越しの費用とした。こないだ一回しか着ていない服……も売った。 今後はシングルマザーになるつもり。 そのつもりで役所の手続き(結構面倒)とかをした。***************「はぁ?反町が退社?なんで?」「それが…『一身上の都合』とだけ書いてあるのです」 俺を出し抜くとは……。トラジェットの名に懸けて探し出してやる! 俺は俺の腹心の男に『反町文子』という女がどこでどんな生活をしているのか探し出せ。というように指令を出した。実家の人間を使うと『婚約者に逃げられた』とか妙なことを言いだすから面倒だ。 この会社に不満が?もしくは俺に不満があったのだろうか? ……おふくろの媚薬のせいか?あいつには珍しいミスとかしてたもんな。 数日後、俺の腹心の男は信じられない事実を俺に突き付けた。「反町文子さんは、妊娠をしています。どうやら貴方の子のようです。現在は住んでいたマンションを引き払い、隣町のアパートで暮らしています。全ての手続きを自分一人でするつもりのようです」 なんてことだ……。俺の子供……。原因はそれか。 俺は結婚はしたくない。結婚すれば今のように仕事が制限されると思ったから。 あぁ、反町は薬の影響だから子供が出来たと思っているんだったな。 俺は……俺はここまで力を入れて探し出そうとするほど反町を想っている。お前はどうなんだ?俺に都合よく考えれば俺を想ってくれているから子供を堕ろそうとしないのか?「誰だ?この書類はミスだらけじゃないか!」「スイマセン!この子は入社したばかりで……」「教育はキチンとするように。まったく研修でやっただろうに。反町が抜けただけで仕事が捗らないな」 これは事

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     その日は大翔さんの家に泊まらせていただきました。急だったので着替えなど持っていなかったのですが、翌朝外商(?)の方が下着などを売ってくれました。ハズカシイ。外商でも下着を買うお客っていないんじゃないかな?高価な下着…。「もっとゆっくりしててもいいのに~‼」 と、お母様は仰いますが、明日は仕事なのです。今日中に帰宅をし明日に備えなければ! 翌日からも普通に平常通り仕事はするわけですが、CEOは何とも思わないんでしょうか?私はあの時の記憶が時々フラッシュバックされてドキドキです。 あとから確認して所謂‘安全日’というやつだったので、安心したんですけど、ドキドキはどうしようもないです。 CEOの唇が~!とか、あの胸板~!とか大変なことになっています。仕事でミスはしていないはずだから、私の異変には気づいていないはず…。「反町!ここの記載。ミスってるぞ。こんな初歩的なミスは珍しいな?なんかあったのか?」 なんかって……。そりゃあ、貴方との関係が……とは職場では言えないし、アレは薬を盛られたせいだし、偽婚約者をしていた時だから、ノーカウントですよね。「申し訳ありません!すぐに訂正し、再提出をします!」 こんな初歩的なミスは恥ずかしい。 『入社したての秘書』みたいな。これでも結構キャリアを踏んでる方だと思うから余計に恥ずかしい。 うーん、私の年齢だとまだ新米なのかな?それにしてもこのミスは恥ずかしいからとっとと直して再提出してしまおう。 忙しくも月日は流れました。仕事も順調にしていましたし、あれ以来パーティーとかもなくて安心した生活を送っています。 あれ?今月って生理が来たっけ?先月も。最近怠いのって仕事が忙しいからだと思ってたけど、まさか……。 そう思い、私は家の近所のドラッグストアで妊娠検査薬を購入。急ぎ検査。仕事が立て込んでるから妊娠してる暇は私にないのよ! 結果:陽性 なんなのよ!安全日ってのは嘘情報なの? 翌日、有給を使い(かなり溜まっていた)、会社から遠い産婦人科を受診した。「おめでとうございます!ご懐妊です‼」 めでたくないんだけど……。「まだ、性別はわからないですね~。わかっても私は知らせない主義なんですよ」 産後の準備が面倒なタイプだなぁ。 CEOのお母様は喜ぶでしょうけど……。CEOにとっては迷惑な話だろうな、

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     パーティー当日には当然のように大翔さんに会場(大翔さんの自宅)まで、送っていただいた。 その車内にて。「こないだ買った服とかはどうしたんだよ?」「時間外労働手当として、ネットで売りました。今日はこのためにあのショップの店員さんに見繕って頂きました」「まあ、いいと言えばいいんだけど、お前のもんだし。婚約が破談になるまでとりあえず俺がプレゼントしたものは手元に残しておいてくれないか?」 大量の服は片付けてしまう場所に困ります。我が家にはウォークインクローゼットがあるわけじゃありません。「はあ、大量には困りますが、2.3着なら置き場があります」「よかった~」「ちなみにこの服は『一度着ただけ』という事でネットで売りたいと思います」「いやいや、似合ってるし。俺はとっておいてもらいたいなぁ」 大翔さんの顔はズルいと思う。お願いされるとなんとも絆されてしまう…。いや、自分がイケメンに弱いのがいけないんだけど。 会場(大翔さんの自宅)に到着した。二度目だけど、ガーデンパーティーが開くことができる庭を所有しているのはなかなかすごいと思う。「大翔お兄ちゃ~ん!久しぶり!会いたかった!」「お前が自分の意志で留学を決めたんだろ?」「大翔お兄ちゃんと同じが良かったんだもん」 と、頬を膨らませる可愛い系の女の子?美少女。「へぇ、この人が大翔お兄ちゃんの婚約者?大翔お兄ちゃんが選んだ人にしては普通だね」「彼女の魅力は俺だけが知ってればいいんだ」「そんなこと言って妬けちゃうなぁ」 とかなんとか、大翔さんと親しくしている美少女は大翔さんのイトコさんらしい。会話をしながら私を睨んだりしてくるのはやっぱり…大翔さんと結婚したかったのかなぁ?イトコなら結婚できるもんね。 「喉乾いたでしょ?はい、ちょっとしたカクテル。蛍(けい)湖(こ)ちゃんはまだ未成年でしょ?これは大翔と文子ちゃんによ。はい、どうぞ」 そのカクテルは甘くて、美味しかった。甘いカクテルは度数が高いって聞いた事があるけど、私は大丈夫かな?というか、あの美少女イトコは蛍湖ちゃんていうのかぁ。 なんかフワフワしてきたなぁ。「おふくろ!仕掛けやがったな?」「オホホ、何の事?さあ、若い二人は家の中にでも入ったら?」「文子」「文子。無事か?」 大翔さんに叩かれていたと思われる頬が痛いです。「

  • 『役』だったはずなんだけどな。好きになったんだもん。   4.

    「反町!この資料を10部印刷してくれ」「わかりました」 通常業務に変わったウィークデイ。CEOが私を呼ぶのも『文子』ではなく『反町』。私も『大翔さん』ではなく『CEO』と呼んでるからお互い様なんだけど、なんか寂しいな。「このあとの会議の資料は……」「こちらに用意してあります。どうぞ」 こそっと「こちらに用意してありまちゅ。じゃないんだな」と、言われて資料が入ったバインダーでCEOの頭を殴ろうかと思った。脳内では実行したけど。 もう、あのことは忘れようとしてるのに…。 優しい声で「文子」と呼んで、私の手を引いてくれた……。 浸っていたというのに、CEOは容赦なく仕事をくれてくれる。今日は定時で帰れるかなぁ?是非とも帰りたい!連続のドラマを録画予約してくるの忘れたのよ(※重要)。一刻も早く仕事を終えて帰らねば! それからは鬼のような勢いで仕事をしていた。 あとから聞いた話(同僚談)によると、近寄りがたいオーラを放ってさらに、物凄い勢いで、書類を片付けていたらしい。  そんな状態だったというのに、CEOは私にまたしても無理難題を言ってきた。「今度の週末にうちの庭でパーティーを開くんだが、そこに俺の婚約者としていてほしい」 という話だ。ガーデンパーティーか?庶民とは考え方が違うんだな。社交というやつだろうか? あとから悩む羽目になるから、今度の週末は天気が悪いといいなぁと思いながら、ネットで天気予報を見た。どのサイトを見ても今週末前後は快晴。最後の手段!と気圧配置を見たがダメだった…。どう考えても、快晴。私の心はどんよりとしているというのに……。「こないだ買った服があるだろう?その中から当日相応しいと思うやつを着たらどうだ?」 こないだ買った服は全部ネットで売り払いました!今後使わないと思ったので!とはなかなか言いにくかった。仕方がないので、この間のお店に行きました。「あら、トラジェット様の婚約者様。今日はどのような用件で?」「今週末にトラジェット家でガーデンパーティーがあるようなのでそれに相応しい服を見繕っていただきたいと大翔さんと違って、私は小市民ですので予算はこの程度で……」 と、提示した額は庶民が精いっぱいの200万。頑張りました。貯金も使うこととなりました。ああ、懸命に働いてきたのに。時間外手当が欲しい‼ それでもショッ

  • 『役』だったはずなんだけどな。好きになったんだもん。   3.

     声の主はお父様かな?大翔さんの声をイケオジ的にした感じ。「あのっ、初めましてっ。反町文子です!大翔さんとは…」「うふふ」「クックックッ」 え?皆様笑ってる?何故?「文子さん、その方はこのお店の大将よ」 あまりの失態に赤面してしまった。これは…明後日からの業務の際も事あるごとに大翔さんにいじられる系か?「親父はもう少し奥の間だと思う。さあ、行くか」 そんなに奥から…よく通る声なんだなぁ、お父様の声。「文子、これが俺の親父」「実の父親に向かって『これ』とはなんだ!」「あの、初めまして。反町文子と申しまちゅ」 噛んだ…盛大に噛んだ!はぁ、これも明後日からの業務でいじられそうだなぁ。「赤面して可愛らしいお嬢さんじゃないか、よくこんな可愛らしいお嬢さんが見つかったな?」「彼女は会社で俺の秘書をしてるんだよ」「お前というやつは、部下に手を出したのか?」「あの…まだ健全な関係です!」「文子さんがそう言うのなら信じるが……」 大翔さんがお父様に睨まれている。家訓で『部下に手を出さない事』とかになってるのかな?「親父だって秘書してたおふくろに思いっきり手―出したんじゃねーか!」「それとこれとは別だ!」 どうなってるの?でもまぁ、お母様がお綺麗なのは秘書だったからなのね。秘書も美しくないといけないから結構大変なのよねぇ。「まあまあ、話も盛り上がってることだし、美味しい料理でもいただきましょうよ!」 そこでもかなり、大翔さんとお父様は子供っぽい口喧嘩をしてたけど、お母様によると『いつものこと』だから放っておいて女同士で楽しみましょう?と言われた。「ねぇ?大翔と本当に健全な関係なの?」 私は口に含んでいたお茶を吹き出しそうになりました。「私はね、本っ当に孫の顔が見たいのよ。文子さんならさぞかし孫も可愛いんだろうなって希望を持っちゃうのよね」 そんなことを言っても、あくまでも今日のための『私』だからなぁ。 そんなお母様の話を聞いた後に大翔さんに家まで送っていただきました。「お母様は本当にお孫さんを望んでいらっしゃいましたよ?」「お前までそんなことを言うのか?俺は今は仕事に没頭したいんだよ」 わかります。仕事をしている時の大翔さんは魅力的ですからね。さぞかし全力投球なんでしょう。「それじゃあ、また明後日会社でな……」「送って

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