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女の影②

Author: 雫石しま
last update Last Updated: 2025-08-16 03:26:00

明穂が病院のベッドで目を覚ました頃、吉高は紗央里の両膝裏をグイッと抱え上げ、汗と欲にまみれて激しく腰を動かしていた。薄暗い寝室は、閉め切ったカーテン越しに漏れる薄光と、むせ返るような熱気で満たされていた。喘ぎ声が響き合い、汗と吐息が絡み合う。

「うっ、うっ」

吉高は妻・明穂が寝ていたベッドで愛人を抱く背徳感に酔いしれていた。そのシーツには、明穂の匂いがまだほのかに残り、吉高の胸に罪悪感と快楽が同時に突き刺さる。紗央里は、明穂の不在を埋めるようにそのシーツの上で身をよじらせ、貪られる情事にゾクゾクする快感に溺れていた。彼女の爪が吉高の背中に食い込み、鋭い痛みが彼をさらに煽る。

「ああ、あ!せんせ!先生!」

紗央里の声は、甘く切なげに響き、吉高の理性を溶かした。

「紗央里!」

彼は彼女の名を呼び、まるで自分を縛る全てから逃れるように腰を打ちつけた。

「もっと、もっと、ちょうだい!」

最初は隣近所を気にして声を抑えていた二人だが、熱に浮かされるとタガが外れ、喘ぎ声は開け放った窓の外まで響き渡った。

「ああ!すごい!」

「うっ、紗央里、うっ!」

「ああっ!」

カーテンが揺れ、ベッドの軋む音が部屋にこだまする。古い木製のベッドフレームは、まるで二人の情熱に耐えかねるように悲鳴を上げた。窓の外では、夏の夜の虫の声がかすかに聞こえるが、それすらかき消すほどの激しい音。

近隣住民は、若い女が吉高の家に出入りする姿を何度も目撃していた。紗央里の派手な赤いワンピースや、夜遅くに響く彼女の笑い声は、近所の主婦たちの噂の種だった。

隣家の佐藤さんは、その淫靡な騒音に眉をひそめ、子供に聞こえないよう窓を閉める日々が続いていた。ある晩など、子供が「ママ、隣で誰か叫んでる」と無垢に尋ね、佐藤さんは顔を赤らめながら「テレビの音よ」と誤魔化した。

だが、愛欲に溺れた吉高はそんな噂にも気づかず、平然と回覧板を隣人に渡し、世間話までしていた。「最近、暑いですね」と笑顔で話す彼の背後で、紗央里の香水の匂いが漂うこともあった。

吉高の心は、明穂の病室と紗央里の柔肌の間で引き裂かれていたが、

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Comments (2)
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千恵
傷害罪と、ねいぐるみ腹さきを送り付けた罪もあるから、執行猶予付くかわかんないけど、罰せられるよね
goodnovel comment avatar
タチコマ
やったね、紗央里、馬鹿吉高とお幸せに!
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