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chapter38

Author: 水沼早紀
last update Last Updated: 2025-06-30 09:35:14

 課長が私の顔を覗き込んでいる。

「……迷惑じゃない、かなって」

「迷惑だと思ってるなら、そんなこと言わないさ」

「……課長」

「瑞紀、俺の前では、遠慮なんてしなくていい。もちろん遠慮する必要もない。……せめて俺の前では、素直になっていいんだ」

 課長に抱きしめられるだけで、ドキドキする。

「……本当に、いいんですか?」

「いいんだよ。 ありのままの瑞紀が好きなんだ」

「ありがとうございます。……でももう少しだけ、考えさせてください」

 今すぐには、答えなんて出せない気がした。

「ああ。いつまでも待ってるよ」

「ありがとうございます」

「遠慮する必要なんて本当にないからな。瑞紀がそうしたいと思う答えを、俺はちゃんと受け止める」

「……はい」

 課長は本当に優しすぎる。課長がこんなに優しいから、私はいつも課長に甘えてしまう。

「そうだ。これ俺の部屋の鍵」

「……え?」

 課長から、家の鍵を渡される。

「それ渡しておくよ。もし答えが決まったら、俺の部屋に来い。……そこで歓迎してやる」

「はい。 分かりました」

 課長と同棲って、なんかすごいな。

「大丈夫。俺は瑞紀を信じてる」

 私も、課長のことを信じてる。 信じたいし、信じようと思った。

「愛してる」

 言葉を発する前に塞がれた唇は、甘くも優しく、情熱的だった。

「あの……課長は私のこと、どのくらい好きですか?」

「ん?」

「やっぱり、なんでもないです」

 私は何を変なことを聞いてるんだろう……。

「そんなに気になるなら、教えてやるよ」

「え? きゃっ……!」

 課長は私を、ベッドに押し倒した。

 ソファーの上に押し倒された私は、そのままジィーッと課長を見つめていた。

「……あの、課長?」

「ん?」

「なんなんでしょうか……この状況は」

 課長を見つめていると、課長から「見て分かるだろ?」と聞かれる。

「いや、分かります。 分かりますけど……」

「けど?」

「なぜこの状況に、なるんでしょうか……?」

 こうなるなんて全く思ってなくて……。なぜこうなってるのか……。

「だってさっき、聞いただろ?どのくらい好きですか?って」

「いや、それはそうなんですけど……」

 聞いただけなのに、なんでこの状況に……?

「だから、身体で教えてやる。 言葉じゃ伝わりにくいしな」

「えっ!?あ、あのっ……!」

 か、身体で教えてやるって…
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