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84話

作者: 籘裏美馬
last update 最終更新日: 2025-11-21 08:38:57

御影さんに茉莉花、と呼ばれる度に嫌な気持ちになる。

私は御影さんに向き直り、はっきりと彼に言った。

「お見舞いは同行頂かなくて結構です。……親しくない方を、病室には連れて行きたくないです」

私の言葉に、御影さんは呆れたように溜息を零し、額に手をやった。

「茉莉花、いい加減俺の気を引きたいからってそう言う態度はやめてくれ。茉莉花、その態度が藤堂家の顔を潰しているんだぞ」

「御影さんの仰る意味が分かりません。御影さんの気を引く……?私が……?何の意味があって?」

心底意味が分からない。

私の表情を見た御影さんが、困惑したように苓さんを示した。

「こんな所にまで、ホストを手配して──。……?この男……、昨日茉莉花と一緒にいた……?」

そこでようやく苓さんの姿に見覚えがあった事を思い出したのだろう。

御影さんははっとして、私と苓さんを交互に見やる。

また、苓さんをホストだなんだと失礼な事を。

私は額を押さえて、仕方なく苓さんの事を紹介した。

「彼は、小鳥遊苓さんです。さっきお話したじゃないですか……失礼な事を言わないでください」

「小鳥遊……こいつが……?」

「行きましょう、苓さん」

私は苓さんに声をかけ、服の裾を引っ張る。

早く御影さんと離れたい。その一心で苓さんを引っ張ったのだけど、何故か苓さんは御影さんを睨みつけている。

どうして、そんな目で御影さんを睨んでいるのか──。

私が疑問を覚えた時、その答えを苓さんが口にした。

「昨日、俺と茉莉花さんを見た……?それじゃあ、茉莉花さんが知り合いに会ったって言うのはこの人ですか?」

「え、ええ、はい。そうですが……」

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コメント (1)
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hime kichi
御影ざまぁ見ろ!何様やと思ってるねん!苓さん、いいね!
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