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第2話

Auteur: 人類補完計画
職員宿舎に戻ると、雅子が湯気の立つカップ麺を手に、そっと私のそばへ寄ってきた。

「先輩……あの桜井社長と先輩って、いったいどういうご関係なんですか?あの方、先輩を見る目が違ってましたし、それに『美穂ちゃん』って呼んでましたよね……

それから、あのキーホルダーの稲穂飾り……あれって、もしかして先輩のことですか?」

私は答えず、窓の外に視線を向けた。校庭では、人の波が次第に散っていき、真言だけが、まるで彫像のように立ち尽くしているのが見えた。

雅子は、会場で拾ってきた車のキーを、そっとテーブルの上に置いた。

「先輩、この稲穂飾り……すごく丁寧に編まれてますね。もしかして、先輩の手作りですか?」

私の視線は、すっかり色あせ、毛羽立ってしまった赤い稲穂飾りに落ちた。

あれは、私が編み物を覚えたばかりの頃、何晩も徹夜して真言のために編んだものだ。まさか、彼が今まで大切に取っていてくれたなんて、思いもしなかった。

あの頃、私は卒業して間もなく、市で一番評判のいい私立病院に就職したばかりだった。

一方の真言は、友人たちと金を出し合い、小さなITベンチャーを立ち上げたばかりだった。だが会社は次々と壁にぶつかり、投資は集まらず、給料すら満足に支払えない。彼は毎日のように、四苦八苦していた。

あの時期が、私たちにとっていちばん苦しかった日々だ。狭いアパートで身を寄せ合い、カップ麺一杯を分け合って食べた。

焦りから口内炎を起こした真言の姿を見て、私は夜の貴重な休息時間を削り、こっそり編み物を習った。微力でも、彼の力になりたかった。

指は赤い紐に擦れて真っ赤になり、痛みに悲鳴を上げそうになりながら、ようやく一つの稲穂飾りを編み上げた。

あの日、投資家に断られて帰ってきた真言に、私はそれをそっと差し出した。

「これ、あげる。これから、きっと良くなるから」

真言は稲穂飾りを受け取り、擦りむいた私の指を見ると、目に涙を滲ませた。

「美穂ちゃんがいてくれて……本当によかった」

真言は私の首元に顔を埋め、声を震わせて言った。

「いつか金持ちになったら、この世で一番いいものを、全部お前にやるよ」

私は笑って、彼の背中を軽く叩いた。

「そんなものいらない。あなたさえいればいい」

あの頃、私たちは貧しくて、互いしか持っていなかった。だが、記憶の中では、あれがいちばん満ち足りた日々でもあった。

そして彼は、確かに金持ちになった。ただし、「この世で一番いいもの」を与えた相手は、私ではなかった。

私は稲穂飾りを手に取り、すり減った編み目をなぞる。

「私は、桜井真言の元妻よ」

「元妻!?」

雅子は、持っていたカップ麺を落としそうになった。

「先輩、冗談ですよね?桜井社長の奥さんって、あの菅原家のお嬢様、菅原千枝(すがわら ちえ)さんじゃ……」

そうかもしれないね。だって、あのとき、私たちの関係を証明した書類でさえ、偽物だったのだから。

私は苦笑いを浮かべ、ベッドボードにもたれかかった。まるで他人事を語っているような気分だ。

「私が真言と出会ったとき、彼は何も持たない貧乏な青年だった。並外れた才能と、孤高な勇気以外にはね」

確かに、あの頃の生活は苦しかった。それでも、私たちの絆だけは、誰にも壊せないほど深かった。

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