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第4話

Author: 静穂
蓮はすぐさま、大急ぎで119番に通報した。

救急車が来るのを待つ間、彼は紗良をその腕に抱きかかえ、鋭い視線を突き刺すように結衣を睨みつけた。

「さっきの質問を、今答えてやる。……俺は、嫌だ」

結衣の瞳が、わずかに震えた。

蓮は指輪を床へと投げ捨て、そらすことなく結衣を見つめ返した。怒りのあまり、彼の言葉はもう誰にも止められないほど残酷なものになっていた。

「もし選べるのなら、たとえ一生独りで死ぬことになったとしても、お前と再婚なんて絶対にしない」

それだけでは飽き足らず、大勢の招待客たちの前で、蓮はさらに追い打ちをかけるような一言を吐き捨てた。

「結衣……お前と過ごしたあの七年間の結婚生活こそが、俺の人生で一番の後悔だ」

周囲からの冷ややかな視線と嘲笑まじりの囃し立てが、一斉に結衣を包み込んだ。

だが、今の結衣にはそんな騒音すら耳に届かなかった。ただ信じられないという思いで、呆然と蓮を見つめていた。「……今、なんて言ったの?」

「言ったはずだ」蓮は射抜くように見据え、言葉の一つひとつを心に叩きつけるように繰り返した。「俺の人生で一番の後悔は、お前のような女と七年もの時間を無駄にしたことだ!」

その残酷な言葉がようやく現実のものとして突き刺さったのか、結衣は膝の力が抜け、よろめくように一歩後ずさった。

……そして次の瞬間、彼女の口から真っ赤な血が激しく噴き出した。

意識が遠のき、その場に崩れ落ちる瞬間、結衣の目に映ったのは、真っ青な顔をしてステージへと駆け寄ってくる両親や親族の姿だった。 その一方で、蓮は一度も振り返ることなく、紗良を抱きかかえたまま会場を去っていった。

二人の結婚式は、結局のところ、あまりにも滑稽で無残な笑い話となり、人々の好奇の目に晒される格好の噂の種に成り果ててしまった。

結衣は、もう二度と目が覚めることはないだろうと、心のどこかで確信していた。

しかし、再び意識を取り戻した彼女は、ただ静かに天井を見つめたまま、長い間、物思いに沈んでいた。

蓮が最後に言い放ったあの冷酷な言葉が、いつまでも頭の中で鳴り止まない。

それを思い出すたびに、鋭い刃で生身の心を切り刻まれているような、言葉にできない苦痛が結衣を苛んだ。

共に寄り添い、歩んできた二千日以上の歳月。

生死を分かつような絶望的な状況でさえ、かつては互いの命を懸けて守り合ったはずだったのに。

結衣の胸が、一瞬だけ激しく波打った。

かつてのあの、胸を焦がすような愛までもが、すべて嘘だったというの?

信じられない。

蓮が、本気であの七年間を後悔しているだなんて…… 結衣には、どうしても信じられなかった。

結衣は傍らに控えていたアシスタントに視線を向け、静かに口を開いた。「……一つ、頼みたいことがあるの」

それから間もなくして、USBメモリが蓮の元へと届けられた。

その中には、結衣と蓮がこれまでの歳月の中で大切にしてきた思い出がたくさん詰まっていた。

蓮はかつて、清香に似た面影を持つ紗良を見ただけで、かつての記憶を呼び覚まされた。

だから結衣は信じていた。これらを目にすれば、二人の歩んできた過去を、蓮も必ず思い出してくれるはずだと。

これまでは、すべてを思い出した蓮が、どちらを選ぶべきかという苦しみに苛まれるのが見ていられなくて、あえて何も言わずにいた。

でも、今の結衣は、たとえ自分勝手だと思われようと、彼にすべてを思い出してほしかった。そして、「後悔なんてしていない」と、そう伝えてほしかった。

あの言葉を取り消してくれさえすれば……。自分はまだ、この命を繋ぎ止めておける気がした。

箱の中には、不格好な手作りの陶器のマグカップや、どこかの観光地で買ったお揃いのストラップ、そして色あせたペアの映画の半券が入っていた。

それらを目にした瞬間、蓮の視線が止まった。

結衣と過ごした日々の断片が、不意に脳裏をかすめる。

だが次の瞬間、紗良が何気ない様子でパチンと指を鳴らした。「蓮さん、それ、なあに?」と、甘い声で問いかける。

その音とともに、蘇りかけていた記憶は一瞬で霧散し、跡形もなく消え去った。

蓮はどこかぼんやりとした様子で首を振ると、無造作に箱の中身をかき混ぜた。

「……ただの、くだらないガラクタだな」

彼は興味を失ったように視線を逸らすと、皮肉めいた笑みを浮かべてアシスタントを見た。

「浅見家もいよいよ破産か? こんなゴミを送りつけてくるとは。ここは不用品回収所じゃないんだぞ」

アシスタントは言葉を飲み込み、縋るように問いかけた。「……本当に、何も思い出せないのですか?」

「何もない」

食い下がるアシスタントは、今度はUSBメモリを差し出した。「では、こちらだけでも見ていただけませんか?」

蓮はそれを受け取ることすらせず、そのままゴミ箱へと放り捨てた。

「結衣に伝えろ。無駄な真似はやめろとな。催眠を成功させるには、本人の『忘れたい』という強い願いが必要なんだ」

「つまり俺が彼女のことを忘れたのは、出会ったことを心の底から後悔していたからに他ならない」

病院のベッドの上で、結衣はずっと病室の入り口を見つめていた。

ようやくドアが開いたが、思い描いていたように蓮が駆け込んでくることはなかった。戻ってきたのは、アシスタント一人だけだった。

結衣の瞳の光が、見る間に弱まっていく。

「……思い出しては、くれなかったの?」

アシスタントはかける言葉が見つからず、長い沈黙の後、ようやく蓮の反応と、彼が吐き捨てた残酷な言葉をそのまま伝えた。

それを聞き終えた結衣は、長い間、何も言わなかった。

これまでずっと、彼女の心を支え、生へと繋ぎ止めていたのは、あの七年間という記憶だけだった。

だというのに……

不意に心の奥底が崩れ落ち、底知れぬ虚無感が押し寄せてきた。結衣は喉をかきむしるように、肺がちぎれそうなほど激しく咳き込んだ。

混濁していく意識の中で、彼女はようやく悟った。

自分の抱き続けてきた執着は、最初から最後まで、ただの滑稽な笑い話にすぎなかったのだと。

清香には勝てず、その身代わりにすぎない紗良にさえ及ばない。その現実を、もっと早くに見極めるべきだったのだ。

まるで運命が追い打ちをかけるように、国際天文学連合から一本の電話が入った。

「浅見様、大変申し上げにくいのですが……以前、ご主人様と共に購入されたあの星が、三日後に消滅することになりました」

その瞬間、結衣の心から、すべての重荷がふっと消えていった。

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