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第9話

Author: よろず日和
智則は、すぐには帰らなかった。

彼はそのまま小さな町に滞在することにした。

以前のように強引に私の生活に踏み込んでくることはなく、ただ毎日、少し離れたところから、私が海辺へ行く姿や、花を買う姿、夕暮れ時に木彫りの店の外でお茶を飲む姿を見つめていた。

彼はようやく、待つことを覚えた。

けれど、あまりにも遅すぎた。

ある夜、町を激しい雨が襲った。

コンビニを出ると、道路には足首まで浸かるほど雨水が溜まっていた。

海風に煽られた雨が容赦なく吹きつけてくる中、私は軒下に立ち尽くし、突然あの夜の冷たい海水を思い出した。

指先が震え始める。

その寒さは外から染み込んでくるものではなく、記憶の奥底から這い上がってくるものだった。

智則が向かい側から駆けてきた。

傘を差すことさえ忘れていた。

「依緒」

彼が手を伸ばし、私を支えようとした。

けれど、その手が届くより早く、別の誰かが乾いた上着を私の肩にかけた。

湊が私の隣に立ち、私のほうへ傘を傾け、風雨から守ってくれていた。

彼は、なぜ私が震えているのかとは聞かなかった。

ただ静かな声で尋ねた。「家に帰る?」

私は頷い
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