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一角獣と飛竜

作者: みゃー
last update 最終更新日: 2025-07-13 20:00:32

 予定が狂い、朝食会は短時間で終わった。

 それでもクロの両親は、理久と僅かだが和やかに会話出来て礼も言え満足気だった。

 クロの父は、すでに国王を退位しているので、今はこの城とは別の城に住んでいる。

 理久とクロも笑顔で、城の赤絨毯の敷かれた長い廊下で、両親の帰りを見送った。

 クロは、この時も横にいる理久の右手を強く握り離さなかった。

 クロは、最初はこの会食で理久と結婚する事を両親に告げるつもりだったのに、本当にクロは「結婚」のけの字も食事中には出さなかった。

 しかし、結婚の話しが出なかった事で、理久は、クロがちゃんと理久の結婚は出来ないと言う気持ちに配慮してくれたんだと安堵した半面、何故が心がモヤモヤした。

 酷くモヤモヤした。

 この気持ちが、クロへの罪悪感なのかそれとも何なのか、理久は、両親の背中を見送りつつ思った。

 そして、理久は、オルフェが気になって仕方なかった。

 クロの両親を見送った後、オルフェも帰った。

 オルフェも別れ際笑顔だったが、理久にだけはそれがどうしても造りモノに見えて仕方無かった。

 そして何より……

 オルフェの食事の仕方が流石上流階級の者らしくて、ただ紅茶を飲みサンドイッチを食べるだけでも美しく品格があった。

 あの品格は、誰でもすぐに身に付くものでは無いと理久は思う。

 理久は、ただの日本の一般高校生の自分と真の王子様との格の違いを見せつけられた。

 そして……

 クロのプロポーズを断ったのは、理久本人なのに……

 逞しく勇壮なクロと、美しく麗しいオルフェ……

 二人並べると、文句が付けようがない完璧な一対に見えた。

 クロの横には、理久よりオルフェが似合う気がして理久は、さっきより更にどんどん自信を喪失していた。

「さぁ!理久!これから一緒に町に遊びに行こう!でも、その前に、動物好きなお前に見せたいモノがある!」

 そんな元気の無い理久の顔をずっと見ていたクロは、急にそんな事を言い出して、理久の右手を強く握ってきた。

 クロはそのまま理久の手を引いて、城の裏手の、明るい日差しの降り注ぐ広大な草地に連れ出した。

 そこは、時折駆け抜ける涼やかな風が爽やかな薫りを纏い煌めき、色鮮やかな花や短い緑草を揺らす。

 従者レメロンや護衛の獣人騎士達は気を遣い、理久とクロからかなり離れた場所に待機していた。

 理久は眼前、少し
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    「宝石店?」 理久は、戸惑う。「ああ…そこで真紅のエーヴィゲ、リーベと言う宝石を買って、指輪はまだ受け取ってもらえないだろうからネックレスにして貰う。理久……それを受け取ってくれないか?」 そう言うクロの真剣な顔も近くて、理久は焦る。「ほっ……宝石って……まさか高いんじゃ……そっ、そんなのいいよ……俺、高校生だし……」「理久……頼む……受け取ってくれ……お願いだ……エーヴィゲ、リーベを贈られた者は、贈った者を終生、死ぬまで忘れず思い出すと言う言い伝えがある……だから……だから……受け取ってくれ……」 クロは、今度は理久の両手を握って懇願した。 その必死さに、理久は少し体を斜め後ろに引いて苦笑いした。「ハハっ……クロ……やだな……そんな物無くても、俺がクロの事忘れる訳ないじゃん。それに……それになんだか……もう二度と会えないようなその言い方が、何かイヤだ……絶対にイヤだ!」「イヤか?……俺に、会えなくなるのは?……」 クロが、更に真剣な顔を向けて理久を見詰め尋ねる。 ただでさえイケメンだが顔を引き締めると、更にその度合いが上がる。 一瞬、変な間が空いた。「あっ!当たり前だろ!イヤに決まってる!」 そう理久が叫ぶと、サッとクロが動いた。「理久!理久!理久!」「クッ……クロ!」 理久は、横からクロの逞しい体に強く抱き締められ、体を動かせ驚く。 その理久の動きで、ゴンドラが左右に揺れる。「あっ!危のうございます!」ゴンドリエーリが焦り、大声をうわずらすた。「すまん!ついうれしくて……」 クロが、理久をまだ抱き締めながら振り返り、背後のゴンドリエーリに向かい苦笑いした。「すいません!」 理久もクロの腕の中から、ゴンドリエーリを見て赤面しながら謝った。 だが、そこに…… 水路を吹くさやかな風に混じるように、誰かは知らない男の声が理久の耳に入った。「異世界の人間よ……良いのか?王にあんな事を言っても?」「え?」 理久は、ハッとした。「クロ……たった今、俺に何か言った?」 クロは、キョトンとした。「いや……何も言ってないぞ」 やはり、それはそうだろう…… 明らかにクロと声が違うし、ゴンドリエーリも言った様子が無い。 だが理久は、ハッキリ聞こえたその声に、嫌な胸騒ぎがした。

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     理久はずっと自分でも、失敗した時の気持ちの切り替えは早い方だと思っていたが…… 今回は、なかなか上手くいかなかった。 そして結局…… クロの両親の今日一日の予定が詰まっていて、クロの風呂や着替えなどもあり、元の豪華な朝食を再び用意して食べる時間が無かった。 大きく長いテーブルに、人数分の紅茶とサンドイッチだけがぽつんと用意される散々な結果になってしまった。 入り口から向かって左側に、理久、クロの順で並んで座って、それに対面する形でクロの両親が座った。 そして、その他に二人の同席人がいた。 一人はクロの従者で、名はレメロン。 レメロンは、クロの横に椅子を持参し着座した。 クロと年は近い感じのやはり犬系の美形獣人で、見るからに頭がキレそうな容姿。 そして、もう一人は…… さっき理久が椅子の数を気にしていた事は正しかった。 犬系獣人でなんと隣国の王子様でクロの幼馴染オルフェで、クロの両親の横に座った。 大広間は、この6人だけになった。 しかし、それにしても……と…… 理久は、メンタルをやられたままで、クロを含めた回りに座る獣人達をチラチラと見た。 そして……(これが……これが……異世界の実力か……ヤバ!キラキラして眩し過ぎる!) 獣人達の美形割合いの高さに圧倒され、理久の緊張感はおのずと更に高まってしまう。 クロもかなりの美形だが…… 逞しく勇ましい感じのクロと違って、特にオルフェは、長い金髪も麗しい正に美しく上品なまるで絵に描いた様な正統派王子様だった。「すまない……理久殿、アレクサンドル。オルフェが、どうしても二人に会いたいと言ったもので連れて来た」 クロの父がそう申し訳無さそうに言うと…… オルフェは、クロに向かいニッコリして言った。「すまない、アレク……本来私は来るべき立場では無いし、おじ上、おば上にも断られたんだが……お前が愛してる人間がどんな人間か、どうしても見たくて……おじ上達に何度も頼み込んだんだ」(愛?!愛してるって!……) 理久は、自分の事を言われているのと、日本男子にとって直球過ぎるフレーズに顔を赤くし固まる。「お前は、俺……いや、私の兄弟も同然だ。よく来てくれた!新ためて紹介する。私が愛してる理久だ!」 クロの方はそう言い理久の肩を抱き、オルフェにニコリと微笑んだ。「はっ……初めまして…

  • いなくなった愛犬を探していたら異世界で獣人王になっていて、俺は愛妃になれと攫われた!(交際0日で獣人王と婚約しました))   アクシデント2

    一瞬の事で、一体何が起こったか分からず呆然とする理久が気付くと…… 理久は、クロに強く抱き締められ壁に背中が着いていた。 少し距離があったのに、クロは野生的な恐るべきスピードで理久の元に来た。 やはり理久は、食器やナイフが当たりケガをする事も無く、食べ物や飲み物で体や服も汚れなかった。 クロは、完璧に理久を守った。 しかし、テーブルの上にあった幾つかの食器がクロに当たり、テーブルから飛んだ食べ物、飲み物でクロの体の後ろ半分がかなり汚れてしまった。 何一つ汚れ無かった理久は、アワアワ焦り、理久を抱き締めるクロを見た後左を見る。 すると…… 床にへたり込むアベルも、同じく理久が昨日見たもう一人の使用人かわいい系ウサギ男子リオンが盾になり、ケガや汚れから庇われていた。「大丈夫か理久?ケガは無いか?」 クロが、理久の頬を両手で持ち上げ心配一杯の表情で聞いてきた。「う……うん……俺は……大丈夫……でも、クロ……ごめん。俺が悪かったんだ。俺が考えも無しに配膳に手を出したから……」 クロの目を見てそう言い理久は、又恐る恐るアベルに視線を移した。 そして…… この大事な時にやらかしてしまった事と、回りの使用人獣人達がすっかりドン引いてしまっている雰囲気に動揺しながらなんとか言葉を繋げた。「ごめんなさい……本当にごめんなさいアベルさん……アベルさんは大丈夫?……」「とんでもない。こちらこそ申し訳ありませんでした……理久様。私は大丈夫です。理久様」 立ち上がれないアベルも、言葉がなかなか続かない。 クロと同じ部分を飲み物などで汚し、床に両膝立ちするリオンにまだ抱き締められながら、顔面蒼白になっていた。「陛下、理久様、どうか、どうかアベルをお許し下さい!アベルは今朝は体調が優れなかったので休む様に言ったのですが、今日はたまたま他にも突然の病気や急用で欠勤の者が多くて、無理をして配膳しておりました。でもやはり、私が絶対にアベルを止めるべきでした!全て私の不注意でございます!」 代わりに、両膝立ちしたままリオンが更にアベルを抱き締め、理久とクロに頭を下げながら懇願し言った。 一見、かなりベビーフェイスに見えるリオンだが…… 実体は、それとは又違っている。 そこに……「これは一体どうした事だ?!」 妃と共にやって来た犬系獣人の前国王が、テーブ

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