Masuk石灰の塗られた白い建物が並ぶ、石畳の大通り。
道の両側には店舗が並び、軒先に日よけを張り、野菜や日用雑貨が陳列されている。 路肩に積まれた木箱や樽。道行く人々。
日常の雑多な風景の中に、人々が取り巻く生活空間が生まれていた。
その中心にいるのは、眉を吊り上げ腕を組む、いかにも不機嫌そうな金髪の少女だ。
周囲の人々が着るくたびれた服とは違う、フリルをこしらえたピンク色のドレスは、彼女が高貴な家柄の人物であることを物語っている。
さて、そんな少女の前には、十代後半と思われる少女が膝立ちになり、何かを懇願している様子だった。
彼女の姿は黒いワンピースにエプロンドレス。白いキャップを被った明るい茶髪。
おそらくは、目の前の少女の家に仕える使用人だろう。
「私のやることにケチ付けるとか、メイドのくせにっ」
「で、ですが奥様からの言いつけですので、どうか」
「いーやーだー!」
懇願する使用人に対し、お嬢様は耳を押さえてそっぽを向く。
状況の分からないアデーレだったが、それだけでお嬢様がわがままを通そうとしていることは分かる。
外見からして、彼女はまだ十歳に満たないくらいの子供だろう。
そうなれば、きっとアデーレと同じぐらいの年齢だ。
ただしこちらの精神面は二十歳過ぎの男でもある。
わがままを通そうとするお嬢様の姿に、内心呆れていた。
「ありゃあ、バルダート様んトコの娘さんか?」
「まーたお嬢様の
「参ったな……」
外野の大人たちのつぶやきが耳に入る。
バルダートとは、あの貴族の娘の苗字だろう。
いいところの娘とはいえ、見ていないで助けないのかと思ってしまうのは現代日本の感覚か。
行動に起こせるかは別として。
だが身分が厳しく定められているであろうこの世界において、貴族の娘に楯突くのは非常に危険な行為だろう。
実際アデーレとしての自分は、この状況に関わりたくないと思っているように感じられる。
だが、今は良太としての意思も混在してしまっている。
暴漢に素手で挑んで命を落とすような【身の程知らず】。
そのせいだろうか……。
「帰るんだったら、アンタ一人で帰りなさいよ!」
お嬢様が、近くにあった棒きれを手に取り、思いっきり振り上げる。
その光景を前にした瞬間、アデーレの身体は自然と人だかりの中心へと走り寄っていた。
お嬢様の背後に迫ったアデーレの小さな手が、振り上げられたお嬢様の右手首を掴む。
「っ! 誰よ、気安く触るのは!?」
お嬢様が、周囲の大人たちが、そこに立つアデーレの方に顔を向ける。
少し遅れて聞こえてくるどよめき。
「それは良くないと思う」
「はぁ!? 町民風情が私に……」
そんな状況でも、アデーレは動じなかった。
落ち着いていられたのは、この程度の事は見慣れた良太の精神面あってのことなのだが。
だがポーカーフェイスのアデーレを前にしたお嬢様は、わずかに面を食らったらしい。
怒りの表情は鳴りを潜め、目を丸くしていた。
「……な、なによ。愛想のない奴ね」
「別に。愛想は必要ないと思うから」
「ふざけんじゃないわよ! 私を誰だと思ってるのよッ!?」
「そうは言っても、会ったことなかったし」
自分の権威を主張するお嬢様だったが、それがアデーレの心には響いてこない。
それはさておき、お嬢様からすればアデーレの態度は無礼な挑発以外の何者でもない。
再び露わとなる怒りの矛先は、使用人からアデーレへと向けられていた。
「後、貴族の娘だろうと、暴力はダメだよ」
「うるさい! だから下の人間が私に指図するなっ!」
力づくでアデーレの手を振り払うお嬢様。
間髪入れずに力強く腕を振り上げ……。
「身の程を、知りなさい!!」
アデーレの顔面に向けて、棒きれが振り下ろされる。
「お嬢様っ!」
背後にいた使用人が、お嬢様を制止しようと手を伸ばす。
だがそれよりも早く、アデーレの手が今度は棒きれを掴んでいた。
「……は?」
予想外の抵抗だったのだろう。
お嬢様は虚を突かれ、呆けた表情を浮かべている。
よく手入れされた綺麗な手が棒を放し、それをアデーレはすぐさま地面へと投げ捨てる。
良太はこれまで、ヒーローを演じるためのトレーニングを重ねてきた。
ただ体を作るだけではなく、動体視力や身のこなし、度胸を鍛えることも怠っていない。
そんな経験のおかげか、棒きれを防ぐことに一切の恐怖はなかったのだ。
長い沈黙が、その場を包み込む。
「エスティラ」
人だかりの中から、落ち着いた男性の声が沈黙を破るように響く。
その声は通りがよく、この場にいる全ての人の耳に自然と染み入るように感じられた。
同時に、呆然としていたお嬢様……エスティラとは彼女の名前だろう。
彼女の表情はなぜか、みるみるうちに青ざめていった。
お嬢様の見つめる先。
人だかりがまるで海を割るように道を開け、そこを通って身なりのいい男性が一人、二人の方へ歩み寄ってくる。
「感心しないな。そのような行いは」
先ほども聞こえた声。
そこに立っていたのは、襟が大きめのコートを着た、壮年の男性だった。
お嬢様と同じ金髪で、角ばった小顔と鋭い目が印象的だ。
男性は気候にそぐわない恰好をしているにも関わらず、額に汗の一つも浮かべることなく、
「おとう、さま……」
やはり彼は、お嬢様の父親だったようだ。
先ほどまでの行いを今更になって後悔しているのだろう。声は震え、涙目になっている。
それだけで、彼が厳しい人物であることがアデーレにも理解できた。
◇ 「この度はお騒がせしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」群衆に向けて、深々と頭を下げる使用人の女性。
お嬢様に頭を下げて、更に周囲の人々にまで頭を下げなければならないとは。
つくづく大変な仕事だと、アデーレは眉をひそめた。
しかし周囲の人々は手助けしてあげられなかったことを謝罪したり、使用人に同情する様子を見せている。
つまるところ、誰も迷惑を
「私の方からも謝罪させてくれ。このような往来で、私の娘が迷惑をかけてしまった」
「ドゥラン様っ。そんな滅相もっ!」
人々がどよめき立つ。
無理もない。確かに娘に非があろうとも、貴族である父親が謝罪をしたのだから。
身分の低い側からすれば、どう受け止めればいいのか分からなくなる。
「なに、気にしないでくれ。それより君」
皆からドゥランと呼ばれている貴族が、アデーレの方に目をやる。
「どうやら随分と胆力があるようだね。今はいくつだい?」
「はい、十歳です」
極力失礼にならないよう、アデーレは答える。
実際はそこに二十一歳の若者が加わるわけだが。
「なるほど、この子の一つ上か。さぞ立派なご両親に育てられたのだろうな」
顎に手を当てながら、ドゥランは感心するようにうなずく。
口ぶりからは嫌味や娘に対する無礼への怒りは感じられず、純粋にアデーレを褒めているように聞こえる。
だが傍らに立つエスティラは、未だにこちらを睨みつけてくる。
(これは、完全に嫌われたな)
肩をすくめるアデーレ。
前世の記憶を取り戻したかと思えば、妙なトラブルに巻き込まれたものである。
とはいえ、農家の娘と貴族の娘。
今回のことは異例中の異例だ。本来なら身分が違いすぎる故に、お互いの接点は皆無に等しい。
今後嫌がらせに来ないとも言い切れないが、今日明日中に逆襲されるということもないだろう。
何より、自分が悪いことをしたなどとは一切思っていない。
その辺りはドゥランも理解しているはずだ。後の説教は彼に任せればいい。
「それでは、我々はこれで失礼する。さぁ帰るぞ、エスティラ」
「はい……」
ドゥランに促され、肩を落として馬車の方へ向かうエスティラ。
何がしたくてわがままを言っていたのかは分からないが、ご愁傷様とアデーレは心の中で憐れむ。
そんな二人の後姿に、周囲の人々が頭を下げる。
そういえば、彼らは一体どういう立場の貴族なのだろうか。
「まさか、執政官様の娘に口を挟むとはなぁ」
「サウダーテさんトコの娘さんだろ? いやぁ、度胸があるなぁ」
執政官。
あまり聞き慣れない役職ではあるが、それが政治に関する役職であることくらいはアデーレ(というよりは良太)でも分かる。
そうなると、ただの領主などという存在では収まらない貴族なのかもしれない。
「……やってしまったのかな?」
今まで
とはいえ、それは佐伯 良太という悪童の話だ。
両親が健在で、愛されて育てられてきたであろうアデーレからすれば、余計なことをしてしまったかもしれない。
徐々に、佐伯 良太の人格がアデーレに影響を及ぼし始めている。
これは果たして良いことなのか……。
既に元の生活に戻ることのできない良太には、答えを出すことはできなかった。
礼拝堂を後にしたアデーレは、一人バルダート家の屋敷に続く坂道を上っていた。 この道は港から続く大通りで、馬車も通れるよう頑丈な石畳によって舗装されている。 バルダートのお嬢様と最悪の出会いを果たしたのも、この場所だった。 バルダート家がこの地に別邸を持ったのは、避暑のためである。 シシリューア島は周囲の島々に比べると、地熱の影響により気温が高いらしい。 だからロントゥーサ島の、風通しが良く港からも近い土地に別邸を建てたそうだ。 (だからって、歩いて通うのにこの坂はちょっと大変だ) 額に汗をにじませながら、アデーレは屋敷へ続く坂道を上る。 勾配は緩やかだが、それでも今日の晴天はほどほどに疲労を蓄積させてくる。 これが夏本番になると、気温はさらに上昇する。 こうなると、たとえ実家が近いとはいえ、屋敷の使用人部屋で住み込みという選択肢も出てくる。 なお、その場合の父の反応は、推し量るまでもなく容易に想像がつく。 そんな、アデーレ・サウダーテとしての日常。 これまでを振り返り、そしてこれからに思いを馳せ……。 時折思うのは、この先自分はどういう人生を送るのだろうということだ。 今はまだ、佐伯 良太として歩んだ時間の方が長い。 だが後十年も経たずして、アデーレは良太の享年を超えることとなる。 今後、アデーレとしてそれらしい人生を送るのだろう。
その日は一日、屋敷の掃除に明け暮れることとなった。 拭き掃除に掃き掃除、使われていなかった家具を磨き本家から運ばれた食器を磨き……。 幸いだったのは、夕暮れまでに帰宅することが許されたことだろうか。 「そう。そんなに急なお話だったの」 テーブルに突っ伏すアデーレを、食器を片付けるサンドラが心配そうに見つめる。 いつもは率先して家事を手伝うアデーレだが、慣れない重労働で動く気力を失っていた。 「家事ならって……正直、なめてた」 「さすがバルダート家のお屋敷だな。掃除一つ取ってもうちの比じゃなかったんだね」 顔を上げずに話すアデーレの肩を、ヴェネリオが優しくさする。 「それだけじゃないよ。あんなに広いのに人が少ないし」 メリナと仕事を進めていくうちに、アデーレは気づいたことがあった。 それは、メリナのような経験を積んだベテランの使用人が、一人か二人の新米使用人を連れて仕事をしてたということだ。 ベテランの使用人は、おそらくメリナを含めて十人ほど。 彼女達が率いる新人は、同年代の顔見知りばかりだった。 顔見知りが多いのは気楽だが、未経験者ばかりでは手際が悪い。 そうなると仕事量は増え、一人ひとりの負担も大きくなる。 その結果が、帰るなり息も絶え絶えのアデーレというわけだ。 (メリナさんもそうだけど、先輩たちの手際
その日の夜……。「えっ、ドゥラン様のところへご奉公に行くの?」 ランプの明かりに照らされたダイニングで、家族と夕食を囲んでいたアデーレ。 向かい側に座る両親との話題は、昼間のメリナと交わしたやり取りだ。 真っ先に反応したのは母のサンドラ。 アデーレは母親似で、特に背中の辺りまで伸ばした青交じりの黒髪はサンドラ譲りだ。「やってみないかって誘われただけだから。確かに六年前のことはあるけど……」 六年前のことは、島の者なら誰でも知っている。 大貴族バルダート家の一人娘に楯突いた農家の娘。 そのことで忌諱されるなどといったことはなかったが、良くも悪くも度胸がある子だと一目置かれることとなった。 あの頃は良太が物を知らなかっただけのことで、バルダート家がどういった家柄なのかもわからず口を挟んでしまった。 お嬢様ことエスティラの父、ドゥラン執政官。 執政官とは、ここシシリューア共和国における国家元首なのだ。 後にそのことを知ったアデーレ……というより良太は、いよいよ国のトップの娘に口出ししてしまったのかと、色々な意味で自分に感心してしまったものだ。 だが、後悔はしていないし、自分が悪いことをしたという認識もない。 何よりメリナと知り合えることも出来たのだ。今ではいい思い出だろう。一応は。「父さんは悪くないと思うよ。数年働けば、転職の際の紹介状も書いてもらえるらしいじゃないか」「そうは言ってもあなた、もしもエスティラお嬢様に目を付けられでもしたら」「なあに、あのドゥラン様のご息女だよ。六年も前のことを根に持つようなことはないさ」 手にしていたスプーンを皿に置いて、アデーレの顔色をうかがうサンドラ。 楽観的なヴェネリオに対し、やはりサンドラは娘の身を案じているようだ。「メリナさんが、一般の人はお嬢様に会うことはめったにないって」「そうかもしれないけど……やっぱり心配だわ」 サンドラのため息が、アデーレの耳に残る。 過保護を人の形にしたようなヴェネリオほどではないにしても、サンドラも人並みの母親以上の思いをアデーレに抱いていることが伺える。「まぁまぁ。それで、アデーレはどう考えているんだい?」「私は……一度屋敷に行ってみようと思う」 「そうか」とつぶやき、ヴェネリオが姿勢を改める。 アデーレの言葉を聞いたサ
良太の記憶を取り戻して、六年の歳月が過ぎた。 あれからアデーレの性格は、徐々に良太の人間性に引っ張られてしまった。 しかし彼女も元来おとなしい性格だったためか、周囲から違和感を抱かれたことは数えるほどしかない。 また、両親に恵まれなかった良太とは違い、アデーレの両親であるヴェネリオ、サンドラ夫妻は深い愛情を持っていた。 一人娘故の溺愛ともいえるが、農民なりに女性として満足のいく生活を送らせてあげようと、アデーレに着飾る機会などを与えてくれた。 今のアデーレは、良太が送った二十一年の人生と地続きになったような状態だ。 純粋なアデーレ・サウダーテとして育てられた十年の月日があったためか、幸いにも性別が変わったことを受け入れるのにそれほど時間が掛かることはなかった。 むしろ、そうでなければ……そんなことをふと思いつつ、着替え中の自身を鏡に映す。「中身、男のままだったらまずかったなぁ、これ」 そう言って、肌着越しに自分の胸に手をやる。 佐伯 良太としての率直な感想は、でかい。町でも上の方の大きさである。 おかげで町の男共の視線を集めるし、コルセットやら何やらは息が詰まる。 自分が女性であるという自覚があるからまだよかったが、着替える度に毎度ガチガチに抑え込むのは苦痛だった。 また、身長もかつての良太に比べれば低いとはいえ、女性としては高い方だろう。 東洋人では考えられない脚の長さについては、初めて気づいたときに感動してしまったほどだ。 とはいえ、男の頃の生活を思い出すと、今の身だしなみに気を遣わなければいけない生活は窮屈で仕方がない。 髪は伸ばした方が似合うと母に言われ、現在は長い髪を腰の上あたりで切りそろえている。 これを毎度キャップが収まるようまとめるのが、とにかく面倒なのだ。 大体これでは伸ばした意味があるのかと、アデーレとしては常日頃疑問に思っていた。「アデーレ、ちょっと来てくれないかしらー?」 扉越しに聞こえる母の声。 さすがに下着姿のまま自室を出る訳にもいかない。「ちょっと待っててー」 扉に向けて返事をするアデーレ。 そのまま周囲の衣服を手に取り、手早く朝の着替えを済ませるのだった。 ◇ 十六歳になったアデーレの仕事は、主に農作業の手伝いだ。 サウダーテ家の農場は港町
石灰の塗られた白い建物が並ぶ、石畳の大通り。 道の両側には店舗が並び、軒先に日よけを張り、野菜や日用雑貨が陳列されている。 路肩に積まれた木箱や樽。道行く人々。 日常の雑多な風景の中に、人々が取り巻く生活空間が生まれていた。 その中心にいるのは、眉を吊り上げ腕を組む、いかにも不機嫌そうな金髪の少女だ。 周囲の人々が着るくたびれた服とは違う、フリルをこしらえたピンク色のドレスは、彼女が高貴な家柄の人物であることを物語っている。 さて、そんな少女の前には、十代後半と思われる少女が膝立ちになり、何かを懇願している様子だった。 彼女の姿は黒いワンピースにエプロンドレス。白いキャップを被った明るい茶髪。 おそらくは、目の前の少女の家に仕える使用人だろう。「私のやることにケチ付けるとか、メイドのくせにっ」「で、ですが奥様からの言いつけですので、どうか」「いーやーだー!」 懇願する使用人に対し、お嬢様は耳を押さえてそっぽを向く。 状況の分からないアデーレだったが、それだけでお嬢様がわがままを通そうとしていることは分かる。 外見からして、彼女はまだ十歳に満たないくらいの子供だろう。 そうなれば、きっとアデーレと同じぐらいの年齢だ。 ただしこちらの精神面は二十歳過ぎの男でもある。 わがままを通そうとするお嬢様の姿に、内心呆れていた。「ありゃあ、バルダート様んトコの娘さんか?」「まーたお嬢様の癇癪かぁ」
最初に感じたのは、吹き抜ける潮風だった。 鼻をくすぐる海の匂い。全身を包む柔らかな感触。 とても穏やかに、体が揺れる。 (……あれ?) それは、あまりにもおかしな感覚だった。 違和感が脳内を駆け巡り、急ぎ周囲を確認するため目を開けてみる。 眩しさに目を細めた後、目の前に広がっていたのは楽園を思わせる美しい海。 海底の砂が見えるほどの透明度と、青と緑の混じるエメラルドグリーン。 そんな海を見渡せる白い砂浜の上に、脚を伸ばして座っていた。 しかし、その脚は小さく細く色白で全く見慣れないものだった。 手に付いた砂を払おうと、視線を下に移す。 ……見慣れない服。髪も長くて鬱陶しさを覚える。 手のひらは小さく、これまでのトレーニングのおかげでごつくなった手ではない。 砂浜の白に負けないほどに美しい、色白でほっそりとした子供の手だ。 更に視線を落とせば、多少だが胸に膨らみがあるように見受けられる。 (何だ? 何が起きてる?) ゆっくりと、裸足のまま砂浜に立つ。 青い海、白い砂浜。遠くには白い岩の岬が海に向かって伸びる。 そして今になって気づく。【彼は】自分がズボンをはいていないことに。 着ている服は、男からすれば馴染みのないベージュのワンピースというもの







