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道楽息子は気楽でいいね

Author: イコ
last update Petsa ng paglalathala: 2026-07-29 10:02:09

 さて、十年が経って十五歳になった今では、すっかりやる気のない道楽息子として世間様から認知されております。

 次男など長男の代替品であり、気楽に生きる以外に道はありませんからね。

 全てはエルトール家の長男であり、兄上のエリック・エルトール君次第です。

 彼は平凡な僕とは違って魔法の才能があり、魔塔からスカウトが来る逸材ですからね。

「兄上、兄上のような優秀な方に対して、悔しいなどと思うはずがないではないですか」

 悔しくないのかと聞かれても、全く悔しくない。転生して、人生をやり直させてもらっているだけでも丸儲けだ。しかも、魔法が使えて、若さを手に入れて、お金持ちの家に生まれた。

 もう、これだけで人生勝ち組であり、あとはどうやって楽しむのかを考えるだけだ。

「むむむ、フライ。お前は自分をわかっていないぞ!」

「何を言うのですか? 兄上は魔力量が普通の魔導士たちの十倍ですよ。それだけで十分なのに、全属性まで使えるではありませんか?」

 魔法には、火、水、風、土の四大元素を主とした四属性がある。さらに応用属性として、雷、氷、光、闇の四属性を加えた八属性を、基本属性と呼ぶ。

 兄上は、この基本属性が全て使える。全属性使いって、普通にチートキャラだ。

 さすがは、将来の帝国を支える公爵様だ。名前も登場しないモブなフライ君とは大違いです。

「いや、それはお前が!」

「うん? 兄上はすごいです。僕は基本属性がどれも使えませんよ」

 そうなのだ。兄上は八属性全てが使える。

 それに対して、僕は無属性魔法しか使えません。

「くっ! もういい、フライ。お前はもっとやる気を示せ! そして、もっと人前に出て自分の力を示せ!」

 兄上は昔から、なぜか僕を押し上げようとしてくる。

 僕は自分の力を諦めたというのに、弟想いの良い兄です。

「どうでもいいですよ。結局、この家は兄上が継ぐのです。僕は結婚もできません。死ぬまで飼い殺しなんですから」

 貴族家の次男とは、虚しい生き物なのだ。

 長男の代替品であるがゆえに、自由に結婚もできない。もしも僕が結婚して子供が生まれてしまえば、跡目争いに発展する恐れがあるということで、結婚も許されない。

「ぐっ! だから、それを認めさせる意味でも、人前に出ろと!」

「いやいや、どうでもいいですって。公爵家の次男というだけで、かなりの額のお小遣いはもらえます。それに、来年からは学園に行って勉強もしますから」

 建前は、いつの世も大切なのだ。学園に入学することは帝国貴族の掟であり、次男であっても入学する必要がある。

 十五歳までは家で雇った家庭教師に習い、十六歳からは貴族も平民も分け隔てなく通う帝国の学園に入学させられる。

 その学園にて、大陸全土を巻き込む大事件が起きるわけだが、モブである僕には関係ない。

「そっ、そうか! 学園があったな。僕はお前が通う年には卒業してしまうが、お前のことは教師たちに伝えておこう」

「え〜、面倒なので、そんなことしないでください」

 本当にブラコン兄だ。弟のためになんでもしようとするのはやめてほしい。

 イケメンの兄ではあるが、家族以上の感情は持っていない。むしろ、転生した記憶があるので、年齢的には随分と年下の可愛い少年であり、頑張ってくれと応援するだけだ。

「とりあえず、学園にはちゃんと行くんだぞ」

 モブである僕にまで気を使う兄は素敵な人ではあるが、多くを求められても困る。この世界では十五歳で成人扱いになるので、酒を飲むことが許される。

 魔法もダメ、剣術もダメ、戦術や戦略もダメ。

 唯一できる勉強も、転生前の経験と、赤ちゃんの頃から転生したおかげで言葉や計算ができるだけ。まぁ、年齢を重ねていけば優秀な子には抜かれるので、そこそこが一番いい。

「兄上も立ち去ったので、酒でも飲みに行こう」

 現在の僕の趣味は、飲み歩きだ。

 友人と呼べる者たちはいないが、公爵家の領内では僕が飲み歩いていても、町民たちが気にすることなく声をかけてくれるので、本当に良い街だと思う。

「フライ様! 今日も来たんですか?」

「うん。今日も上等な酒を頼むよ。それに、みんなにも一杯奢ってやってくれ。お金は父上からもらっているからね」

 ガリガリに痩せた店主はあまり稼げていないようだから、ここ最近は二日に一度の頻度で来ている。

「ひっ!? 金貨って、一杯どころか、一か月は飲めますよ!」

 店主が何やら言っているが、僕としては、もらったお小遣いの一部なのでどうでもいいです。こういうふうに、誰かに奢っていい気になってみたかったのです。

 何より、この店で一番良いワインを提供されるので、それも気分がいいですね。

「どうぞ」

「ありがとう」

 うん。飲みやすくて美味しいね。本当はエールが好きなのですが、この世界のエールは品質があまり良くないのです。それに、冷えていないのも問題ですよね。

「エールはある?」

「また、あれをするんですか?」

「うん。ダメかな?」

「いえ、好きにしてください。お代は十分なほどにいただいていますから。それに……」

「それに?」

「なんでもありません」

 店主は、エールが入った樽を持ってきてくれる。

 僕は無属性魔法しか使えません。

 さて、無属性魔法とはどんな魔法でしょうか? 答えは簡単。属性を持たない魔法ということです。

 兄上が八属性全ての魔法を使えるのに対して、僕はどれも使えない。

 魔力はエネルギーの塊のようなもので、属性魔法はエネルギーを他の物質へ変換することができます。

 逆に無属性魔法は、魔力をエネルギーのままでしか使えません。

 つまり、エネルギーをどのような形に変化させるかによって、無属性魔法も変化するということです。

 むしろ、無属性のほうが僕のイメージどおりに変化してくれるので、僕としては扱いやすかったので、どうでもいいですけどね。

「温度よ、下がれ」

 火属性魔法も氷属性魔法も使えない僕としては、魔力というエネルギーに直接命令して、温度を変化させて調整すればいいと考えた。

 エールが一番美味しい温度は、六〜八度ぐらいだと僕は思っています。

 その温度に調整するのは難しかったけど、最近ではちょうど良い温度を見極められるようになった。

「うん。これでいいかな? マスター、ジョッキをちょうだい」

「はい! フライ様」

「うん! 美味い」

 僕は一杯だけ飲むと、残りをマスターに返す。

「これを販売しても?」

「いいよ。僕は最初の一杯だけでいいからね」

「ありがとうございます!」

 店主が嬉しそうに、キンキンに冷えたエールの樽を持ち上げる。

「フライ様がエールを冷やしてくださったぞ! 限定五十名だ。しかも、料金はフライ様持ちだぞ! 食事を注文してくれた者に、早い者勝ちだ!」

 店主の声に反応したように、店の外にいた者たちまで店内に入ってきて、すごい賑わいになった。

 やっぱり、みんなキンキンに冷えたエールのほうが好きなんだね。

「「「ありがとうございます! ありがとうございます!」」」

 何人か僕に頭を下げていく大人たちがいたけど、僕としてはキンキンに冷えたエールと、美味しいご飯が食べられればそれでいい。

 何より、領地に住んでいるということは、エルトール公爵家の住民ということでしょ? それって、僕の家族みたいなものだしね。

「みんなは僕にとって家族だからね。気にしなくていいよ。たくさん飲んで、明日も仕事を頑張ろう!」

 僕はみんなを鼓舞するように声をかける。

「誰でも大歓迎だよ。ウェルカム、ウェルカム!」

 僕はコミュ障ではないので、フランクに誰とでも話をする。転生前は会社と家の往復ばかりで、こうやって人と交流する機会は少なかった。

 だから、今世では誰とでも友人になりたい。それに、お金を気にして好きなこともできなかったから、今は働かなくても、公爵家のお金を好きに使える。

 使ったお金で、みんなからお礼を言われる。これほど優越感を満たしてくれることはないね。

 きっと僕は、戦乱に入る前に殺されるか、戦乱で役に立つ前に死んでしまう運命のモブだ。なら、今を好きに生きても問題ない。

「「「ありがたや、ありがたや!」」」

「あはははは! みんな大袈裟だよ。たくさん食べて、飲んでくれ! 店主、もう一枚金貨を渡しておくよ。好きに食べさせてあげて! 食料が足りないなら、買い足してあげてね」

「はっ、はい! ありがとうございます!」

 僕は楽しく飲み食いをして、店を出た。

 連日とはいかないが、自由に遊び歩く生活は悪くない。来年には学園に行って、こんなことができなくなるのだから……。

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