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変わり映えのしない人生に変化を求めていた。
人とは違う人生を歩みたい。そんなことを思っても、結局は世間の歯車の一つとして、会社に行って時間を潰して、友人たちとバカな話をして酒を飲む。
楽しみなどそれぐらいしか存在しない。いや、若い頃にはいくらでも楽しみは存在していた。
だけど、歳を重ねるごとに、いつからか楽しみは減っていった。体も鈍って、動かすことが億劫になった。
昔は運動が得意だった。
恋愛だって、女性を口説くために友人たちと作戦を練った。
身なりに気をつけて、お金がないのでバイトに明け暮れて。やっとできた恋人がいるくせに、他の女性を口説こうという意欲もあった。
だけど、どれも歳と共に倫理に囚われ、理性という檻と、若くないという戒めによって制限される。
誰かに迷惑をかけることをしてはいけない。
ただ大人しく仕事をして、お金を稼いで、ささやかな楽しみにお金を注いで、老後を待つだけの日々。そんな日々で本当にいいのだろうか?
不意に訪れる疑問は不安を与えてきて、少しでも何かに夢中になりたいと思って、本を手に取った。
最近は電子書籍やWEB投稿も増えているから、いくらでも現実から離れて物語の中へ没入することができた。
そんな中でも戦略、戦術、謀略、計略、政変など、戦争が起きる小説が大好きで読み漁っていた。だからといって、オタクになれるほど真剣でもなくて、戦略や戦術を覚えられるわけでもない。
ただ、物語の中に出てくる英雄たちに憧れ、彼らのような冒険をして、活躍してみたい。もしくは、大金持ちの子供に生まれ変わって、傍若無人に振る舞ってみたい。
はたまた、悪役になってカッコいいセリフを告げながら散っていく。
どんなキャラクターも憧れの存在だった。いつか生まれ変わるなら、そうなりたい。
平和なことは美徳であり、平和な世界に生まれたことは幸せなことだ。それは間違いない。だけど、僕の能力は平凡で、英雄になれる素質も存在しない。
僕にとって幸福とはなんだったのだろうか?
♢
「オギャー、オギャー」
変化が訪れたことに気づいたのは、赤ん坊の泣き声を聞いた時だった。
(えっ? どういうことでしょうか? 身動きが取れません。目は霞んで、自分の体とは思えないほど動かすのが億劫です)
「あらあら、フライは泣き虫ね。お兄ちゃんはそんなに泣かなかったわよ」
女性の声が聞こえたと思えば、突然、体を持ち上げられました。
(なっ!? 僕を抱き上げている? ここは病院か何かでしょうか? 看護師さん、すごい力持ちですね!)
頑張って目を開けようとすると、薄ぼんやりと見える景色の中に、赤茶色の髪をした、記憶ではお会いしたことがない西洋風の顔立ちをされた若くて美しい女性が見えました。
その白い肌と紅い瞳が印象的な人が、僕に向かって微笑みかけてくれています。
「ほら、ご飯でちゅよ」
突然、女性が服をずらして胸を露出します! いけません。若い人が、こんなおじさんに肌を晒しては! 僕はやめさせようと手を上げようとしますが、まったく動きません。
大怪我をして、身動きが取れなくなってしまったのでしょうか? 身動きが取れないから、こんな幼児プレイを強要されているのですか?
くっ! 彼女の胸が僕の口元に当たって、ミルクを飲まされます。さぞ滑稽な姿でしょう。
ですが、神よ。僕はあなたに言いたい! 神よ。あなたは存在していたのですね!
ここで初めて気づきました。僕が赤ちゃんなのですね! 女性の胸に当たった口は小さくて、胸を抱きしめる僕の手は赤ちゃんそのものです。
赤ちゃんになったのはわかるのですが、若い女性にミルクを飲ませてもらう趣味はありません! もう少し意識が戻るのを遅くできませんでしたか? 神様、もっと空気を読んでください!
ただ、不思議なものです。
「フライ、私はあなたの母ですよ〜。いっぱい飲んで、早く大きくなってね」
彼女が僕の母? だからでしょうか? 母から与えられる温かさに、幸福を感じられるのです。味などまったくわかりません。
ですが、僕は自ら変化を望み、神様は変化を与えてくださいました。
それは、久しく僕が忘れていた刺激です。
「フライ。あなたはエルトール家の次男です。あなたの兄を支える役目を持って生まれてきたのです。元気に育って、しっかりとお支えするのですよ!」
僕が意識を取り戻してからの日々は、あっという間に過ぎていきました。
♢
改めて僕のことを整理します。
僕の名前はフライ・エルトール。現在五歳です。
羞恥心に耐えながらも、僕は母から与えられたミルクを飲み干しました。決して、心から望んでいたなんてことはございません。はい。ございませんとも!
転生者として数十年を生きた記憶を持っており、趣味は読書で、物語の世界へ入り込むことが好きでした。
そして、僕が目覚めたこの世界は、転生前に読み進めていた『ファルグリア大陸戦記』という小説の中なのです。
ファルグリア大陸では、将来的に大陸を巻き込む大戦乱が巻き起こります。
戦乱の中では、多くの英雄たちが誕生しては死んでいく。
悲しきドラマが描かれる物語でした。
ですが、僕ことフライ・エルトールという人物を、僕は存じ上げておりません。
いや、エルトール公爵家は大陸の四分の一を支配する帝国の最上位貴族であり、物語にはもちろん登場します。
ですが、フライ・エルトールなる人物は影も形もありません。つまりは、モブ・オブ・ザ・モブ。僕の人生が生まれ変わったとしても、平凡ということでしょうか?
ただ、生まれながらにお金持ちの次男。
しかも、ファンタジー世界。
剣と魔法が織りなす戦乱の世の中、その一歩手前。
滾るなというほうが無理ではありませんか? 僕には無理です。わくわくします。
今から鍛えまくって最強になってみましょうか? それとも、暇なので魔法を極めましょうか? どんな道でもやり直せるって最強ですよ!
こんなの、いくら生き返らせてもらってもいいですからね。
♢
はは、生まれ変わっても性根が変わるとでも? 無理無理。
現在十五歳になりましたが、僕は平凡なままでした。
僕は確かに努力をしようとしました。
WEB小説やラノベによく出てくる、魔力を使い果たしたら魔力量が増える法則を試してみました。いや、あれって魔力を使い果たす前に頭痛と吐き気がして、ものすごくしんどいんです。
なら、剣術を幼い頃から鍛えて最強に? もっと無理ですよ。筋骨隆々な大人たちに混じって剣を振るっても、一向に強くなりません。
むしろ、ぶっ飛ばされたり、公爵家の息子として手ほどきを受けたりする程度です。
誰も本気でやらないんです。まぁ、最初は剣を振るうことが楽しくて、一時期はハマって振りまくりましたけど、全然強くなれませんでした。
好きな戦記物の知識を活かして、戦術や戦略なんて覚えていればよかったのですが、まったく覚えていませんから、軍師としての素質も皆無。
ちょっと神童と呼ばれることも期待していましたが、家では、ぼんやりとした大人しい少年としか見られていません。
ただ、平凡な貴族家の次男として育てられましたよ。
まぁ、若さとはすごいものです。教師としてついてくれた方々の指導を受ければ、マナー、歴史、魔法基礎、剣術はそこそこできるようになるのですから。
若さ万歳です。
無理に魔力量を増やさなくても、筋肉痛で動けなくなるほど鍛えなくても、適当にしていれば、それなりになるものです。
「フライ! 貴様はやる気がないのか?」
「兄上、そんなことはありません。ただ、僕は兄上の代替品です。父上からも母上からも、兄を支えなさいと育てられました」 「それは! お前は悔しくないのか!?」兄は熱血男だ。すべてに全力投球で、僕が言ったことを守る素直さも持っている。
僕が魔力切れの訓練をしていた時などは、
「何をしているのだ? どうして、そんなにも無理やり魔力切れを起こすんだ!? 命がいくつあっても足りないではないか!?」
「兄上。これは魔力量を増やすためにやっているのです」 「そんなことで増えるものか! 誰もそんなことを教えてはくれなかったぞ!」 「兄上は子供ですからね。まだ大人の言うことを聞いているだけの、いい子ちゃんなのです」あの頃の僕は転生者優位主義でしたからね。幼さにかまけて、兄上を煽ったものです。
「むむむ、確かに教師たちの言うことばかりを聞いていてはいけないな」
「そうでしょう、そうでしょう。兄上もやってみてはどうですか?」 「うっ? しかし、魔力切れを起こすと頭痛と吐き気が……」 「怖いんですか?」僕が挑発すると、兄上はすぐに乗ってきます。
「怖くなどない! やってやる!」
兄上が七歳の頃で、かわいかったですね。
《side フライ・エルトール》 異端者の調査をするため、学園都市という大きな街で何かを調べるなら、まずはその土地に詳しい人間に話を聞くのが一番だ。 そして、その「土地に詳しい人間」といえば……フェル爺さんだ。 学園都市の事情に精通し、どんな情報も掴んでいる頼れる情報屋。私は彼の酒場を訪れることにした。 フェル爺さんがいる酒場では、いつものようにボートレースが開催され、相変わらず喧騒に包まれていた。 ただ、普段と違うのは、客の顔がどれも険しいことだ。カウンターで酒を飲む者たちは口数が少なく、どこか怯えた様子を見せている。「おやおや、フライじゃないか。どうしたんじゃ? いつもの奴らもおらんようじゃ」 いつもは奴隷のテルやチョコ、最近はノクスと来ることが多いので、フェル爺さんが不思議そうな顔をする。「見知らぬ顔と来るなんて珍しいな」 奥のカウンターでグラスを磨いていたフェル爺さんが、私を見つけて手を振った。「いやぁ、フェル爺さん。どうにも変な奴らが学園都市に潜んでいるって話を聞いてね。その辺りの事情を教えてもらえないかなって思ってさ。隣にいるのは、僕の兄のエリック・エルトールだよ」 私は笑顔で挨拶しながら、カウンターに腰を下ろした。 しかし、フェル爺さんの表情は冴えない。「ふむ、学園都市に潜む変な奴らとな……確かにヤバいことは起きているのぅ。何より、それだけじゃない。最近、この街じゃもっとおかしな話が広がっておるんじゃよ」「おかしな話?」「ああ。『バーサーカー状態』という言葉を聞いたことがあるかのぅ?」 フェル爺さんが小声で問いかけてくる。その言葉に、私は首をかしげた。「いや、聞いたことないけど。何それ?」「要するに、理性を失った者が暴走する現象じゃよ。今回は、剣闘士にそのような者が現れてのぅ」「剣闘士が?」「そうじゃ。剣闘試合が開かれていることは知っておるじゃろ?」「もちろん」
《side フライ・エルトール》 学園都市は、フェスティバルの喧騒に包まれていた。 広場では大道芸人が火を操り、路地裏では小さな商人たちが珍しい品々を並べて呼び込みをしている。 そんな賑わいの中から、私たちは異端者を探さなければならない。誰が異端者なのかも分からない上に、これだけの観光客が溢れる中で見分けるのは至難の業だ。「これだけの人混みの中で異端者を探せ、なんてなかなか無茶だよね」 私はため息をつきながら、フェスティバルの喧騒を見渡した。 エリック兄上は冷静な顔で周囲を観察している。彼の鋭い視線は、すでにいくつもの疑わしい動きを捉えているようだった。「だからこそ、私が来たんだ」「エリック兄上には、相手を見つける方法があるの?」「フライ、私もただ魔塔で研究だけをしていたわけじゃないんだ。見ていてくれ」 エリック兄上が魔法を発動すると、魔力がゆっくりと薄く広がっていく。 すると、人々がそれぞれ異なる光を放っているように見えた。「うわ〜、なんか初めて見る魔法だね。なんだい、これ?」「ふふ、これは相手の魔力や属性を知ることができる魔法だ。私の魔力には全属性が含まれていて、同じ属性に反応して輝くよう、波動として放出しているんだ」「これで何が分かるの?」「異端者は魔術を使っていると言ったよな?」 私はエリック兄上の言葉に頷く。「魔術は、八属性以外の力だと言われている。八属性とは異なる魔力の波動を検知できるということだ」 なるほど。だけど、それなら聖痕や私のような無属性も反応するんじゃないだろうか?「それって、僕の無属性でも反応するんじゃない?」「それはそうだな。だが、候補を特定することはできる!」 自信満々ながらも、少し欠陥があるところがエリック兄上らしいね。「だからこそ、フライの観察力も借りたい。フライは人を見る目があるだろう? 私はあまり人付き合いをしていないからな」 真面目に研究ばかりしている陰キャなエリッ
1、フライ・エルトール 立場:帝国公爵家次男、転生者、本編主人公 性格:飄々とした青年。異世界に転生し、様々なことを試しながら、他者との交流を楽しんでいる人物。 物語:第三章では、ローズガーデン陣営の指揮官として、巧妙な策略と軽妙な言葉で周囲を翻弄する。 クラウン・バトルロイヤルを通じて仲間たちとの絆を深めたが、新たな脅威に直面することになる。 異端者と呼ばれる存在や魔塔に興味を示し、エリックと共に調査へ乗り出す。 2、エリック・エルトール 立場:帝国公爵家の長男、魔塔の研究者 性格:冷静沈着で責任感が強く、フライとは対照的ではあるが、フライのことが大好きなブラコン。 物語:フライの実兄で、魔塔周辺に現れた異端者たちの動きを察知し、調査のために学園都市へ現れる。戦闘や知略にも長けており、彼の存在が新たな局面を切り開く鍵となる。 3、セシリア・ローズ・アーリントン 立場:公国の第一公女、婚活目的でフライを狙っている。 性格:計算高く腹黒い一面を持つが、内面は乙女で、フライに対して一途な想いを抱いている。 物語:第三章のクラウン・バトルロイヤルにて、公国の力を示すためにフライをローズガーデンへ誘うと同時に、自分の気持ちも告白する。 4、アクアリス・ネプチューナ 立場:海人族の王女、鯨人族の族長の娘 性格:心が広く、海と歌を愛する穏やかな人物。ただし、頭が良く、様々なことが人よりも見えている。 物語:海人族の姫君であり、クラウン・バトルロイヤルの優勝者。冷静な判断力と強大な魔法を持ち、海人族の未来のために戦った。 優勝後は一歩引き、観察者としての立場を取る。 5、ブライド・スレイヤー・ハーケンス 立場:帝国第二皇子、帝国英傑会リーダー 性格:冷徹、革新派、大胆不敵、負けず嫌い。 物語:帝国の第二皇子であり、生まれながらに才能に恵まれた存在である。クラウン・バトルロイヤルで熾烈な戦いを繰り広げ、帝国に住まう者たちへ、才能
《side フライ・エルトール》 クラウン・バトルロイヤルが幕を閉じた翌朝。 どんよりとした空模様を眺めながら、私は少し重い頭を抱えていた。 昨日の盛り上がりは楽しかったけど、どうにも飲みすぎたらしい。そんな中、エリザベートが妙に落ち着かない様子でやってきた。「フライ様、お客様がお見えです」「ん……お客様?」 朝一番に誰が来たのかと思いながら、私は面倒くさそうに椅子から立ち上がった。 そして、応接間に向かうと、そこにいたのは……。「エリック兄上?!」 応接間にいたのは、整った顔立ちと冷静な佇まいを持つエリック・エルトール兄上だった。「久しぶりだな、フライ」 エリック兄上は微笑を浮かべながら私を見つめている。その穏やかな表情に、思わず肩の力が抜けた。「まさか、兄上がここに来るとは思わなかったよ。クラウン・バトルロイヤルの観戦にでも来たのかい?」「そんな暇はないさ。ただ、少し興味深い情報を耳にしてね。確認する必要があったんだ」 興味深い情報? 私は首を傾げながら、彼の言葉を促す。「何の話だい?」 エリック兄上は一歩前に出て、周囲を見渡した後、小声で続けた。「魔塔の近辺で、不審な集団が目撃された。どこの国の者かは分からないが、帝国でも問題視されているようだね。その調査に来たんだ」「魔塔の近くに現れた不審な集団を、帝国も問題視している?」 魔塔――古代の遺物とも言われるその巨大な建造物は、魔導師たちの研究機関であり、古代の建造物として潤沢な魔力を含んでいる。 そのため、突如として魔物が出現することもあり、実はダンジョンなんじゃないかと私は思っている。 この世界には、ダンジョンという概念が存在していないに等しい。 迷宮と呼ばれる地下施設や、魔塔のような怪しい場所は存在するが、時折その周辺で奇妙な動きがあるという噂が立つ程度だ。 だが、それは魔塔の問
《side フライ・エルトール》 クラウン・バトルロイヤルが幕を閉じた夜。 私はフェル爺さんに無理を言って酒場を貸し切り、互いの労をねぎらうための「お疲れ会」を開くことにした。 会場は酒場らしい喧騒に満ちていた。 豪快な笑い声が飛び交い、テーブルの上には各種の料理と酒が所狭しと並べられている。 参加者はローズガーデン、平民同盟、自由同盟、そして優勝を飾ったブルーシーの面々だ。「いやぁ、集まってくれてありがとう。今日はただ飲んで食べて、楽しく過ごすだけだからさ。肩肘張らずに楽しんでいってよ。費用は全て僕の奢りだ」 私はジョッキを掲げて声を張り上げた。すると、一斉に歓声が返ってきた。 優勝チームであるブルーシーの面々が、一番奥のテーブルに陣取っている。その中心で静かに酒を飲んでいるのが、海人族の姫君アクアリス・ネプチューナだ。 私は彼女の席に向かい、ジョッキを片手に腰を下ろした。「いやぁ、アクアリス嬢、優勝おめでとう。君たちの優勝を心からお祝いするよ。乾杯」「フライ・エルトール様、あなたは私との約束を果たしてくださいました。あなたが仕掛けてくださった二面戦争のおかげで、我々は勝利できた。あれがなければ、私たちの勝利は難しかったでしょう」 アクアリスはにっこりと微笑む。その大人びた余裕のある態度は、戦場でも酒場でも変わらないようだね。「でもまぁ、僕も楽しませてもらったよ。あの戦場で君が最後に見せた魔法、あれは凄かったね」「私も限界を超えた……ということなのでしょうね。ブライド皇子の強さによって引き出されたのかもしれません。ですが、あれは勝利に必要な一手に過ぎません」「冷静だねぇ。もう少しお酒を飲んで、気楽に話そうよ」 私はジョッキを傾け、彼女のグラスを満たす。アクアリスは少しだけ驚いた表情を見せたが、やがて微笑みを浮かべてグラスを口に運んだ。 次に私は、自由同盟のテーブルへと足を運んだ。そこではリーダーのフリーダムが、ラドンにまたがる仕草をしながら仲間たちと大笑いし
《side アイス・ディフェ・ミンティ》 目を覚ますと、世界が霞んで見えた。 視界に入るのは、崩れた陣地と倒れ伏す兵士たちの姿だった。体は重く、全身が痛みに覆われている。「ここは……どこだ……」 口から出た声は、かすれきっていた。記憶を手繰り寄せようとするが、戦場の混沌しか思い出せない。「目が覚めたか、アイス王子」 低く響く声が耳に届く。 視線を向けると、竜人族のリーダー、エスカルーデが傷だらけの体を引きずりながら立っていた。彼の目には、失望と同時に敬意の色も浮かんでいた。「我々は敗北しました……だが、素晴らしい戦いだった」 彼は武人だ。私の敗北とは意味合いが異なる。 彼は思うのだろう。強い者と拳を交え、気持ちよく敗北したと……。 私は思う。策略が通じず、敗北した。 いや、私は策を講じる前に、何もできなかった。「すまぬな、アイス王子よ。貴殿の役に立てなくて」 胸が重くなる。 敗北。 その言葉の意味が、体の隅々にまで染み込むようだった。「敗北、か……そうか、私は……負けたのか」 敗北という現実を受け入れるたびに、心の中で何かが砕ける音がした。 これまで築き上げてきた誇り、信念、そして未来への希望。それらが次々と崩れ落ちていく。 何よりも、ブライド皇子に敗北したことが、どうしようもないほどに狂おしい。「私は……何をしていたんだ……」 自分の中には何もない。ただ虚無だけが広がっている。「王子、貴殿を誤解していた」「えっ?」 エスカルーデの声が、深い闇の底に沈みかけていた私を引き戻す。「貴方が敗北したとしても、我々は貴方を友と







