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お気楽公爵家の次男に転生したので、適当なことを言っていたら英雄扱いされてしまった。
お気楽公爵家の次男に転生したので、適当なことを言っていたら英雄扱いされてしまった。
Author: イコ

転生しても僕は僕は平凡でした

Author: イコ
last update Petsa ng paglalathala: 2026-07-29 09:59:43

 変わり映えのしない人生に変化を求めていた。

 人とは違う人生を歩みたい。そんなことを思っても、結局は世間の歯車の一つとして、会社に行って時間を潰して、友人たちとバカな話をして酒を飲む。

 楽しみなどそれぐらいしか存在しない。いや、若い頃にはいくらでも楽しみは存在していた。

 だけど、歳を重ねるごとに、いつからか楽しみは減っていった。体も鈍って、動かすことが億劫になった。

 昔は運動が得意だった。

 恋愛だって、女性を口説くために友人たちと作戦を練った。

 身なりに気をつけて、お金がないのでバイトに明け暮れて。やっとできた恋人がいるくせに、他の女性を口説こうという意欲もあった。

 だけど、どれも歳と共に倫理に囚われ、理性という檻と、若くないという戒めによって制限される。

 誰かに迷惑をかけることをしてはいけない。

 ただ大人しく仕事をして、お金を稼いで、ささやかな楽しみにお金を注いで、老後を待つだけの日々。そんな日々で本当にいいのだろうか?

 不意に訪れる疑問は不安を与えてきて、少しでも何かに夢中になりたいと思って、本を手に取った。

 最近は電子書籍やWEB投稿も増えているから、いくらでも現実から離れて物語の中へ没入することができた。

 そんな中でも戦略、戦術、謀略、計略、政変など、戦争が起きる小説が大好きで読み漁っていた。だからといって、オタクになれるほど真剣でもなくて、戦略や戦術を覚えられるわけでもない。

 ただ、物語の中に出てくる英雄たちに憧れ、彼らのような冒険をして、活躍してみたい。もしくは、大金持ちの子供に生まれ変わって、傍若無人に振る舞ってみたい。

 はたまた、悪役になってカッコいいセリフを告げながら散っていく。

 どんなキャラクターも憧れの存在だった。いつか生まれ変わるなら、そうなりたい。

 平和なことは美徳であり、平和な世界に生まれたことは幸せなことだ。それは間違いない。だけど、僕の能力は平凡で、英雄になれる素質も存在しない。

 僕にとって幸福とはなんだったのだろうか?

 ♢

「オギャー、オギャー」

 変化が訪れたことに気づいたのは、赤ん坊の泣き声を聞いた時だった。

(えっ? どういうことでしょうか? 身動きが取れません。目は霞んで、自分の体とは思えないほど動かすのが億劫です)

「あらあら、フライは泣き虫ね。お兄ちゃんはそんなに泣かなかったわよ」

 女性の声が聞こえたと思えば、突然、体を持ち上げられました。

(なっ!? 僕を抱き上げている? ここは病院か何かでしょうか? 看護師さん、すごい力持ちですね!)

 頑張って目を開けようとすると、薄ぼんやりと見える景色の中に、赤茶色の髪をした、記憶ではお会いしたことがない西洋風の顔立ちをされた若くて美しい女性が見えました。

 その白い肌と紅い瞳が印象的な人が、僕に向かって微笑みかけてくれています。

「ほら、ご飯でちゅよ」

 突然、女性が服をずらして胸を露出します! いけません。若い人が、こんなおじさんに肌を晒しては! 僕はやめさせようと手を上げようとしますが、まったく動きません。

 大怪我をして、身動きが取れなくなってしまったのでしょうか? 身動きが取れないから、こんな幼児プレイを強要されているのですか?

 くっ! 彼女の胸が僕の口元に当たって、ミルクを飲まされます。さぞ滑稽な姿でしょう。

 ですが、神よ。僕はあなたに言いたい! 神よ。あなたは存在していたのですね!

 ここで初めて気づきました。僕が赤ちゃんなのですね! 女性の胸に当たった口は小さくて、胸を抱きしめる僕の手は赤ちゃんそのものです。

 赤ちゃんになったのはわかるのですが、若い女性にミルクを飲ませてもらう趣味はありません! もう少し意識が戻るのを遅くできませんでしたか? 神様、もっと空気を読んでください!

 ただ、不思議なものです。

「フライ、私はあなたの母ですよ〜。いっぱい飲んで、早く大きくなってね」

 彼女が僕の母? だからでしょうか? 母から与えられる温かさに、幸福を感じられるのです。味などまったくわかりません。

 ですが、僕は自ら変化を望み、神様は変化を与えてくださいました。

 それは、久しく僕が忘れていた刺激です。

「フライ。あなたはエルトール家の次男です。あなたの兄を支える役目を持って生まれてきたのです。元気に育って、しっかりとお支えするのですよ!」

 僕が意識を取り戻してからの日々は、あっという間に過ぎていきました。

 ♢

 改めて僕のことを整理します。

 僕の名前はフライ・エルトール。現在五歳です。

 羞恥心に耐えながらも、僕は母から与えられたミルクを飲み干しました。決して、心から望んでいたなんてことはございません。はい。ございませんとも!

 転生者として数十年を生きた記憶を持っており、趣味は読書で、物語の世界へ入り込むことが好きでした。

 そして、僕が目覚めたこの世界は、転生前に読み進めていた『ファルグリア大陸戦記』という小説の中なのです。

 ファルグリア大陸では、将来的に大陸を巻き込む大戦乱が巻き起こります。

 戦乱の中では、多くの英雄たちが誕生しては死んでいく。

 悲しきドラマが描かれる物語でした。

 ですが、僕ことフライ・エルトールという人物を、僕は存じ上げておりません。

 いや、エルトール公爵家は大陸の四分の一を支配する帝国の最上位貴族であり、物語にはもちろん登場します。

 ですが、フライ・エルトールなる人物は影も形もありません。つまりは、モブ・オブ・ザ・モブ。僕の人生が生まれ変わったとしても、平凡ということでしょうか?

 ただ、生まれながらにお金持ちの次男。

 しかも、ファンタジー世界。

 剣と魔法が織りなす戦乱の世の中、その一歩手前。

 滾るなというほうが無理ではありませんか? 僕には無理です。わくわくします。

 今から鍛えまくって最強になってみましょうか? それとも、暇なので魔法を極めましょうか? どんな道でもやり直せるって最強ですよ!

 こんなの、いくら生き返らせてもらってもいいですからね。

 ♢

 はは、生まれ変わっても性根が変わるとでも? 無理無理。

 現在十五歳になりましたが、僕は平凡なままでした。

 僕は確かに努力をしようとしました。

 WEB小説やラノベによく出てくる、魔力を使い果たしたら魔力量が増える法則を試してみました。いや、あれって魔力を使い果たす前に頭痛と吐き気がして、ものすごくしんどいんです。

 なら、剣術を幼い頃から鍛えて最強に? もっと無理ですよ。筋骨隆々な大人たちに混じって剣を振るっても、一向に強くなりません。

 むしろ、ぶっ飛ばされたり、公爵家の息子として手ほどきを受けたりする程度です。

 誰も本気でやらないんです。まぁ、最初は剣を振るうことが楽しくて、一時期はハマって振りまくりましたけど、全然強くなれませんでした。

 好きな戦記物の知識を活かして、戦術や戦略なんて覚えていればよかったのですが、まったく覚えていませんから、軍師としての素質も皆無。

 ちょっと神童と呼ばれることも期待していましたが、家では、ぼんやりとした大人しい少年としか見られていません。

 ただ、平凡な貴族家の次男として育てられましたよ。

 まぁ、若さとはすごいものです。教師としてついてくれた方々の指導を受ければ、マナー、歴史、魔法基礎、剣術はそこそこできるようになるのですから。

 若さ万歳です。

 無理に魔力量を増やさなくても、筋肉痛で動けなくなるほど鍛えなくても、適当にしていれば、それなりになるものです。

「フライ! 貴様はやる気がないのか?」

「兄上、そんなことはありません。ただ、僕は兄上の代替品です。父上からも母上からも、兄を支えなさいと育てられました」

「それは! お前は悔しくないのか!?」

 兄は熱血男だ。すべてに全力投球で、僕が言ったことを守る素直さも持っている。

 僕が魔力切れの訓練をしていた時などは、

「何をしているのだ? どうして、そんなにも無理やり魔力切れを起こすんだ!? 命がいくつあっても足りないではないか!?」

「兄上。これは魔力量を増やすためにやっているのです」

「そんなことで増えるものか! 誰もそんなことを教えてはくれなかったぞ!」

「兄上は子供ですからね。まだ大人の言うことを聞いているだけの、いい子ちゃんなのです」

 あの頃の僕は転生者優位主義でしたからね。幼さにかまけて、兄上を煽ったものです。

「むむむ、確かに教師たちの言うことばかりを聞いていてはいけないな」

「そうでしょう、そうでしょう。兄上もやってみてはどうですか?」

「うっ? しかし、魔力切れを起こすと頭痛と吐き気が……」

「怖いんですか?」

 僕が挑発すると、兄上はすぐに乗ってきます。

「怖くなどない! やってやる!」

 兄上が七歳の頃で、かわいかったですね。

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