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第147話

Author: ルーシー
車内で、玲奈は顔をそむけ、真剣な眼差しで拓海を見つめていた。

拓海もまた彼女を見返す。

光と影がその顔にまだらに落ち、彼の表情を一層濃く際立たせる。

「一晩、俺と寝ろ」

彼は、先ほどの言葉を繰り返した。

だが前回の戯れとは違い、今度は本気で「ただ一緒に眠るだけ」を望んでいるのだと、玲奈にも伝わってきた。

それでもなお、彼女は必死に食い下がる。

「須賀君......あなた、前に言ったでしょう?

人に何かを頼むとき、まずは無茶な条件を出すのだって」

拓海は眉をわずかに吊り上げ、口元に笑みを浮かべる。

「今回は違う。

本当にそれだけでいい。

寝た後なら――君がどうしようと構わない。

命を差し出せと言われても、俺は従う」

玲奈の頬に一気に朱が走り、彼を睨みつける。

「......スケベ野郎。

恥を知りなさい」

拓海の瞳には相変わらず粗野な色気がにじんでいる。

「君は俺にとって宝物みたいな存在だ。

いくらでも待ってやる。

時間は好きなだけ使え」

玲奈は言葉を失い、ただ沈黙する。

昂輝の行方は依然わからず、智也を頼れぬ以上、他に縋れる相手はいない。

拓海はこれまでも手を差し伸べてくれた。

彼なら、約束を守ると信じられる。

――だが、その代償として彼が求めているものを、自分は差し出せるのだろうか。

胸に湧いた疑念が、次の瞬間には虚しさへと変わる。

守り抜いてきた清らかさに、果たしてどれほどの意味があるのか。

拓海は彼女に無理強いするつもりはなかった。

車のドアに手をかけ、降りようとする。

玲奈に時間を与え、本気で考えさせたかったのだ。

だが、その背に、思いがけず声が届く。

「......須賀君。

私、あなたの条件を呑むわ」

振り返った拓海の瞳が驚きに大きく揺れる。

「本気か?」

玲奈は彼を見ず、うつむいたまま小さく答える。

「ええ」

彼は待ちきれぬように車を降りると、低く告げた。

「運転は俺がする」

玲奈が助手席に移ると、心臓は荒々しく跳ね、胸を塞ぐような不安が押し寄せた。

自分の選択が正しいのか、それとも取り返しのつかない過ちなのか――答えはわからない。

すでに智也との離婚を思い描いてはいたが、まだ法的には夫婦のまま。

もしこのまま拓海と関係を結べば、それは「婚内不倫」に他ならない。

けれど
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