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第3話

Penulis: ルーシー
携帯画面にお勧めとして出てきたその投稿を、玲奈は見たくはなかったが、やはりいつもの癖でそれをタップしてしまった。

そこに映ったのは、やはりある一枚の写真だった。智也が腰を屈めて沙羅の前にいる様子だ。

そしてそれと一緒に付いていたコメントはこうだ。「ちょっとお酒を飲んで冷たい風に当たってたの。ただ電話を一本かけただけで、あなたがすぐ来てくれた。あなたと一緒にいられて、とっても幸せ」

それを見ると、玲奈の心は、やはりどうしようもなくチクリと痛んだ。

こんなにこの二人が愛し合っているのなら、大局的に見て、彼らの願いを叶えてあげるべきではないか?

離婚するとなれば、玲奈はただ娘の親権ともらうべき財産分与をしてもらえれば、それ以外のことはどうでも良いのだ。

携帯を戻し、玲奈は大股でサッとリビングへと入っていった。

家政婦の宮下(みやした)は驚いた様子で「若奥様?」と声を漏らした。

「愛莉は?」

「お嬢様は上でバービー人形でおままごとをしていらっしゃいます」

宮下がそう言い終わると、上の階から突然愛莉の驚くような声が聞こえてきた。「ママ?」

長い時間娘に会っていなかったので、玲奈は心がぎゅっと締め付けられたようになり、大きな歩幅で上の階へあがると、娘を抱きしめた。そして、娘の前に膝を曲げて屈み込み、彼女の頬に手を当ててキスをした。

キスをして、話し始めようした時、愛莉が手をさっきキスされた頬に当てて、しきりにゴシゴシと肌が真っ赤になるまで擦っていた。

それを目の当たりにした玲奈は胸が苦しくなり、喉元まで来ていた言葉をそのまま呑み込んでしまった。

彼女は少し瞳に涙を浮かべ、辛そうに娘を見つめていた。

玲奈が何か話し始める前に、先に愛莉が口を開いた。「ママ、ちょうど良いところに帰って来たわ。ママに電話しようと思っていたの。私、もうすぐ幼稚園でしょ、私ね、東通りにある陽ノ光(ひのひかり)幼稚園に行きたいの」

東通りにある幼稚園の話をした瞬間、愛莉の瞳がキラキラと輝きだした。

玲奈はそれを聞いて訝しく思っていたが、娘からどうしてもと言われて、彼女もそれを断るわけにもいかなかった。それにただの幼稚園なわけだし、もしそこが合わなかったら、また他に移ればいいだけの話だ。

それで彼女は娘の要求を受け入れることにした。「じゃ、東通りの幼稚園に通いましょう」

それを聞いた愛莉はあまりの嬉しさに飛び跳ねた。「ありがと、ママ。ママがやっぱり一番」

喜ぶ娘を見て、話そうと思っていた言葉を玲奈はどう切り出せばいいのか困っていた。

彼女は無意識にお腹をさすり、再び顔を上げた時、真剣な表情で愛莉に尋ねた。「愛莉、弟か妹が欲しくない?」

この時愛莉は早く部屋に戻りたそうにしていたが、やはり真面目に少し考えてから答えた。「じゃ、私、弟がほしい」

それを聞いて針で突かれたように心がチクリと痛んだ。彼女は潤んだ瞳で見つめて尋ねた。「じゃ、もしママが怖いって言ったら?」

羊水栓塞症が彼女に与えるリスクはとっくに過去のことだったが、しかし彼女が心に負った傷は過去として消し去ることはできない。

愛莉は玲奈を見つめ、とても真面目に答えた。「そんなこと聞くくらいなら、弟か妹がほしいかなんて聞かないでよ。愛莉のことだって産んだくせに」

この瞬間、雷に打たれたような衝撃が走った。玲奈はそこに立ち尽くし、顔を真っ青にさせてピクリとも動かず固まっていた。

暫くしてからようやく彼女は口を開き、またやっとの思いで声を絞り出した。「じゃ、愛莉は、ママがいなくなっても平気?」

愛莉が生まれてからずっと玲奈が一人で昼も夜も関係なくミルクやおむつの世話をしたり、あやして寝かしつけたりしていたのだ。

だからこの4年間、玲奈はぐっすりと眠れた日などなかった。

この時、彼女は娘に母親のことを愛しているのか聞きたかった。

しかし、玲奈は愛莉が眉間にしわを寄せているのがはっきりと分かった。「はぁ、もう寝なきゃ」

そう言い終わると、愛莉はさっさと自分の寝室に戻り、ドアをバタンと閉じてしまった。

玲奈は階段の前でまるで石化したかのように固まり、体から血の気が引いていくのを感じていた。

そしてすぐに、その寝室から愛莉がキャッキャッと楽しそうに笑う声が聞こえてきた。「ララちゃん、私ね、東通りにあるあの幼稚園に行けることになったの。幼稚園にあがったら、ララちゃんがお仕事帰りに私を迎えに来てね。そうしたらララちゃん、これ以上疲れなくてよくなるよ。

それにね、それにね、ララちゃんがパパと弟か妹を産むことはないのよ。ママが言ってたんだけど、赤ちゃん産むのってとっても危ないことなんだって。たっくさん血が出て、命も危ないんだって。弟を産むのはママに任せておけばいいわ。だって、ママはもう愛莉のこと産んだんだから、怖くないもん。

ララちゃんに会いたい。ララちゃんがお話してくれるのが聞きたいわ。もっと一緒にいたいよ……」

玲奈は部屋の外に立っていて、さっき娘にキスをした時、嫌がられたのを思い出していた。この時の彼女の心は脆くなったガラスのように粉々に砕けてしまった。

彼女は智也と離婚しても、せめて娘くらいは自分と一緒にいてくれるものだと思っていた。それが、その娘も智也に習って、よそ者のほうに懐いているらしいのだ。

そうか、玲奈と智也の結婚における彼女の努力と犠牲は、ただの笑い話であったわけだ。玲奈が過去どれほどのものを失ってきたのか、誰も気にしてはくれない。

長い時間そこにぼうっと立ち尽くし、やがて、玲奈は身も心もボロボロの状態のまま下の階へとおりていった。

宮下は茫然自失となった玲奈を見て、彼女の元へ駆け寄り何か尋ねようとしたが、彼女に下がるように指示されるジェスチャーをされてしまった。

小燕邸を出たところで、玲奈は智也に電話をかけた。

何度かけても智也は電話に出なかった。それでも玲奈は諦めず、またひたすら電話を鳴らし続けた。

実は普段の彼女は、一回か二回彼に電話をかけても繋がらなかったら、すぐにかけるのを止めるのだった。

しかし今夜は、彼女はいつもとは違い、狂ったようにひっきりなしに電話をかけ続けた。

そうしてやっと、智也が電話に出た。「今忙しい、何の……」

智也の話が終わる前に、玲奈はそれを遮った。「会いたいの、今すぐ」

電話越しに、玲奈はまるで頭がおかしくなってしまったかのように、ひたすら智也に向かって煩くまくし立てた。

自分が他人からどのように見られるかも全く気にしない様子で彼女が吠え続けるので、智也は彼女のことを煩わしく思い、眉間にしわを寄せていた。

そして玲奈が少し落ち着きを取り戻してきてから、智也はやっと口を開いた。「何か用があるなら、来月会った時に話してくれ」

話し終わると、彼は容赦なくさっさと電話を切ってしまった。

相手の電話が切れて、ツーツーという機械音だけになり、玲奈は泣くにも泣けなかった。

智也はずっとこうだ。彼女が怒りをぶつけたくてもまるで空気のように全く相手にしてくれない。

この5年間、玲奈はほとほと疲れ果ててしまった。

絶対に離婚はしてもらう。

しかし、娘に関しては、必ず親権は奪ってみせる。

今娘が沙羅に懐いていたとしても、母親である自分のほうへ気持ちを向けさせる努力をしてみるのだ。

娘は彼女が産んだのだ。しかも自分のすべての時間をかけて大切に育ててきたわけだから、そう簡単に他人の手に渡してたまるものか。

そう決意を固めた時、智也の乗るロールスロイスが小燕邸の前に止まった。

玲奈がその車が止まる音がするほうへ視線を向け、ガラス越しに車の中を見てみると、智也が運転席に、沙羅が助手席で花束を抱えて座っていた。

この時、智也も玲奈に気づき、二人は違う空間から無言で静かに対峙した。

深津沙羅という存在に関して、以前、玲奈は彼女のことで騒ぐ勇気がなかった。そして今は、騒ぐ価値もないと思っている。

気の遠くなるような長い沈黙の後、智也がやっと車のドアを開けて降りてきた。彼はまるでそこには玲奈が存在していないかのように、彼女を無視して助手席のドアのほうへと回り、沙羅にドアを開けようとした。

ただこの時、玲奈はやはり声をあげて彼を呼び止めた。「智也、話し合いましょう」

しかし智也は玲奈に構うことなく、引き続き手を沙羅のために伸ばしてドアを開ようとした。しかし、玲奈がその場に駆け寄り、彼のその手を怒りに任せて叩いた。「智也、あんたが誰に優しくしようと勝手だけど、愛莉は私が産んだ子よ。どうしてよその女に愛莉の母親役を譲ろうとするわけ?」

その時ようやく智也は玲奈を一瞥した。彼は彼女を軽蔑し見下すかのように睨み、声を非常に暗くして言った。「沙羅のほうがおまえより母親として相応しいからだ」

そう言い終わると、智也は玲奈を押し退け、車のドアを開けた。

玲奈はその場にぼうっと立ち尽くし、暫くしてからハッと我に返り、彼の言葉に含まれたその意味を理解した。

つまりこの男、愛莉もこれからまた二人目が生まれてきたとしても、その母親を沙羅にする気なのか?
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煌原結唯
今度の玲奈は、はっきりもの申すタイプで直情型?愛莉、アンタって・・・。
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