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第319話

Author: ルーシー
拓海の笑みは、まるで人の心の奥に静かに染み込む毒のようだった。

玲奈はその笑みを見つめながら、胸の奥が不意にざわめくのを感じた。

――危ない。

このままでは、彼の中に沈んでしまう。

玲奈は慌てて顔を背け、一歩、彼から距離を取った。

拓海という男が、あんな言葉を口にして、いったい何を求めているのか。

彼女には分からなかった。

けれど、信じてはいけない――そう思った。

この世界は、真実と嘘が複雑に絡み合っている。

信じた瞬間に傷つくのは、いつだって自分の方だ。

玲奈は拓海から離れたが、彼の視線がなおも自分を追ってくるのを感じていた。

やがてダンスが始まった。

明も、智也も、薫も、それぞれにダンスの相手を見つけていた。

玲奈は人の波の中に立ちながら、誰かに話しかけられても、ただ微笑みで応じるだけだった。

踊る気など、初めからなかった。

その傍らに、拓海が静かに立っていた。

言葉を交わすことはない。

ただ黙って、彼女のそばにいた。

人の笑い声と音楽が満ちる会場。

けれど、その華やかさは、玲奈にはどこまでも遠かった。

彼女はまるで、別世界の傍観者のようだった。

一方、沙羅はピアノの前に座り、鍵盤に指を落としていた。

白いドレスが照明を受けて輝き、まるで光の輪に包まれているかのよう。

その姿に視線を向ける人々の数は、増える一方だった。

玲奈はふと、以前薫が言った言葉を思い出した。

――「沙羅っていうのは、どこへ行っても成功できる女だ」

あの言葉は、きっと本当だった。

沙羅はどんな場所にいても、必ず注目を集める。

玲奈は胸の奥に小さな痛みを抱えたまま、その場にいることが苦しくなった。

外の空気を吸いたくて、そっと出口の方へ歩き出した――そのとき。

鋭い悲鳴が、音楽を裂いた。

玲奈は反射的に振り返る。

視線の先で、智也がダンスの相手を突き放し、人々をかき分けて舞台へと走っていた。

舞台上では、沙羅が倒れていた。

天井の装飾の一部が外れ、彼女の頭上に落ちたのだ。

白い身体が床に打ち付けられ、動かない。

智也はすぐに彼女を抱き上げた。

薫も駆け上がり、必死に呼びかける。

「沙羅さん!」

続いて明人も駆け寄り、声を震わせた。

「沙羅!」

智也は沙羅を抱えたまま冷静に指示を出す。

「薫、義兄さん、車を出して
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