さよなら、私の初恋。~あなたの幸せを祈っています~

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last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-18
Oleh:  小嵩 名雪Baru saja diperbarui
Bahasa: Japanese
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菊池瑠衣は神山綾斗を心から愛していた。 例え初恋の神山睦を忘れられずにいても。 瑠衣は綾斗に心から尽くし、愛した。 そして穏やかな夫婦生活を送っていた矢先に、睦が海外から帰国し綾斗の心を揺るがせる。 ある日、瑠衣は見てしまった。 二人が愛し合っている姿を。 瑠衣は結婚する時に自分に誓いを立てていた。 「綾斗の心が睦さんに再び向いた時は離れよう」と。 瑠衣は離婚届にサインをし姿を消す。 しかしこの時は誰も知らなかった。 瑠衣のお腹に新しい命が宿っていた事に。 ※こちらの作品は「夫の前から静かに消え去ります」の未来の話となりますので少しネタバレもあります。 こちらの作品のみでも楽しめるようになっていますのでご安心ください

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Bab 1

000.プロローグ

広大な海に囲まれた小さな島に一つの村があった。

とても貧しい村だが、人々の笑顔は絶えない。

この村には国籍が異なる者達が多く集まっており、偽名を使う者が多いが互いに助け合い、人との絆を大切にしている人々だった。

それもそのはず。

この島にいる人々は都会での暮らしに疲れたり、人に裏切られて傷ついたりと、何かしらの理由で心が傷つき疲れ果てた先に行き着いた場所だからだ。

そんな人達だからこそ絆を一番大切にしていた。

そして村から少し離れた丘の上に一つの家があった。

家からは幼い男女の子供の楽しそうな声が響き渡る。

そしてその二人を叱る女性の声も同時に響き渡った。

家のドアが開き、勢いよく二人の子供が飛び出してくる。

「かつにぃ~待って~」

「美子《みこ》!あの上まで競争だ!!」

「あ!コラ!二人とも待ちなさい!!まだお片付けが終わっていないわよ!!」

兄妹は女の言葉を無視して、すでに丘の上へと走り出していた。

女は腰に手を当て、眉間に皺を寄せながら丘の上へと走っている二人の後ろ姿を見送る。

「まったくもぉ~!」

女は溜め息をつきながら、家の中を見渡す。

お昼ご飯を食べ終えたばかりで、机の上にはたくさんの汚れた食器が並んでいる。

そして子供達が座っていた椅子が無造作に倒れていた。

女は腰まである茶色い髪を無造作に後ろで一本に纏め、青い瞳にやる気を宿し、部屋の中の片付けをし始めた。

ちょうど片付けが終わった頃に呼び鈴が鳴った。

呼び鈴に気がつき母親が扉を開けると、恰幅の良い女性がいた。

その女性の腕にはたくさんの果物が入った籠がぶら下がっている。

「ルルおばさん!今日もありがとう!」

「い~ってことよ!あんたには助けられてばかりだからね!」

「そうだ!おばさん!ちょっと待っててね!」

女はルルに待つように伝えて家の中へと急いで入っていき、暫くすると走って戻ってきた。

女は少し息を切らせながら、手の中にある小さな袋をルルに手渡す。

「ルルおばさん!今日はいいのが手に入ったの!おじさんに飲ませてあげて!」

「いつもありがとうね…」

ルルは目がしらに涙を少し溜め、女に礼を言う。

ルルのパートナーは体が弱く、一日をベッドの上で過ごしていた。

しかし女のこの薬茶を飲み始めると次第に顔色が良くなっていき、今では外に散歩も行けるようになった。

女が作る薬茶は効き目がよく、この村では有名だった。

この村では助け合いの精神が強い。

利益の事は二の次だ。

その人々の思いを女も受け継いでおり、金銭を取る事はなかった。

ただ生きていく為に無理がない範囲で食料との交換をしてもらっている。

女は微笑みながら差し出された籠を受け取り、ルルを見送った。

女が家の中へ戻ろうとした時、後ろに人の気配を感じ、ルルが戻ってきたのかと思い振り返ろうとしたその時、背後から伸びてきた腕に抱きしめられた。

抱きしめられた時に香ってきたシトラスの臭いに懐かしさを感じ、鼓動がほんの少し早くなる。

「やっとだ...」

後ろから男の掠れた声が耳をくすぐる。

女の体はこの声で心臓が早鐘のように脈を刻み始めた。

「8年...君が消えてから8年だ...会いたかった...瑠衣《るい》...」

瑠衣と呼ばれた女は唇を震わせる。

何か言葉を伝えたくても震えて声がでない。

男はそんな女の様子を気にもとめず、自分の方へ体を向かせ両手で女の顔を包み込む。

「瑠衣...愛している...」

男はいまだ体を硬直させたままの女にそっと口付けを交わす。

女は口付けをされた瞬間、目を見開き、力の限り逃れようとするが、もがけばもがくほど男の手に力が入り、顔が固定され逃げられなくなる。

最初は軽い口付けだった。

啄むような口付けを何度もし、そして業を煮やしたかのようにだんだんと激しくなっていく。

そして男は母親の口内に侵入しようと、固く閉ざされた唇を何度も舐め、開けるように促すと同時に、かつて女が弱かったうなじをそっと撫でる。

すると女は耐えきれずに甘い吐息を漏らしてしまった。

男はその瞬間を逃さず、口内に遠慮なく侵入する。

内側から歯列をなぞり、縮こまり奥に籠ってしまっている女の舌を絡め取る。

どのくらいの時間が経っただろうか。

女にとっては長い時間のように感じた。

男が口付けに満足したのか、唇が離れた時、女の息は絶え絶えで、強制的に与えられた快楽の熱が体に籠り、顔色は朱色に染まり、熱い吐息が漏れている。

しかし女はなんとか男の名前を口にした。

「あ...綾斗《あやと》...さん...なんで...」

――なんであなたがここに...

そう言葉にした女はとうとう意識を手放し、男の腕の中で倒れてしまった。

男は意識を失った母親の顔にかかった髪の毛を優しく振り払い、その口元には微笑が浮かんでいる。

「瑠衣...俺の妻...俺が本当に愛する人...」

男は女の額に軽く口付けを落とし、横抱きにしながらゆっくり立ち上がった。

そして家の中を見渡した。

質素であまり裕福ではない見た目ではあるけれど、心が落ち着く内装。

ところどころに花が飾られたり、子供の絵なのか何枚も壁に飾られている。

男は懐かしさに目を細めた。

女と夫婦として過ごしていた時、暖かく迎えてくれた家、そして疲れた心を癒してくれる部屋を思い出している。

全てこの女が細かい所まで気遣ってくれ、自分の好みを把握してくれていた。

ふと机にある写真の数々に目を向けた。

二人の子供と楽しそうな写真、いろいろな村人と笑顔で写る写真。

そして質素な服にヴェールを被って一人の男と笑顔で手を取り合い幸せそうな写真。

男はその写真を冷たい目で見下ろし、いつの間にか後ろに控えていた男に目配せをし、それらの写真を全て回収させた。

しかし最後の一枚のみ、破棄するように指示を出す。

男は意識のない女をそのまま家の外に連れ出した。

「さぁ...帰ろう。俺達の家へ」

男は女を抱いたまま船に乗り込んだのだった。

女は菊池瑠衣《きくいけるい》。

かつて由緒正しき家門の令嬢だった。

男は神山綾斗《かみやまあやと》。

彼はウィング国という国で国内屈指の大企業の社長を務めている。

そしてこの二人はかつて夫婦だった。

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広大な海に囲まれた小さな島に一つの村があった。 とても貧しい村だが、人々の笑顔は絶えない。 この村には国籍が異なる者達が多く集まっており、偽名を使う者が多いが互いに助け合い、人との絆を大切にしている人々だった。 それもそのはず。 この島にいる人々は都会での暮らしに疲れたり、人に裏切られて傷ついたりと、何かしらの理由で心が傷つき疲れ果てた先に行き着いた場所だからだ。 そんな人達だからこそ絆を一番大切にしていた。 そして村から少し離れた丘の上に一つの家があった。 家からは幼い男女の子供の楽しそうな声が響き渡る。 そしてその二人を叱る女性の声も同時に響き渡った。 家のドアが開き、勢いよく二人の子供が飛び出してくる。 「かつにぃ~待って~」 「美子《みこ》!あの上まで競争だ!!」 「あ!コラ!二人とも待ちなさい!!まだお片付けが終わっていないわよ!!」 兄妹は女の言葉を無視して、すでに丘の上へと走り出していた。 女は腰に手を当て、眉間に皺を寄せながら丘の上へと走っている二人の後ろ姿を見送る。 「まったくもぉ~!」 女は溜め息をつきながら、家の中を見渡す。 お昼ご飯を食べ終えたばかりで、机の上にはたくさんの汚れた食器が並んでいる。 そして子供達が座っていた椅子が無造作に倒れていた。 女は腰まである茶色い髪を無造作に後ろで一本に纏め、青い瞳にやる気を宿し、部屋の中の片付けをし始めた。 ちょうど片付けが終わった頃に呼び鈴が鳴った。 呼び鈴に気がつき母親が扉を開けると、恰幅の良い女性がいた。 その女性の腕にはたくさんの果物が入った籠がぶら下がっている。 「ルルおばさん!今日もありがとう!」 「い~ってことよ!あんたには助けられてばかりだからね!」 「そうだ!おばさん!ちょっと待っててね!」 女はルルに待つように伝えて家の中へと急いで入っていき、暫くすると走って戻ってきた。 女は少し息を切らせながら、手の中にある小さな袋をルルに手渡す。 「ルルおばさん!今日はいいのが手に入ったの!おじさんに飲ませてあげて!」 「いつもありがとうね…」 ルルは目がしらに涙を少し溜め、女に礼を言う。 ルルのパートナーは体が弱く、一日をベッドの上で過ごしていた。 しかし女のこの薬茶を飲み始める
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001.出会い
紅葉が舞い散る庭園で、若い男女が向かいあっている。 女は由緒正しき家柄の令嬢、菊池瑠衣《きくいけるい》。 降ろすと腰まである茶色の髪を、今は綺麗に束ね、光り輝く髪飾りで彩っている。 そして魅力的な青色の瞳が目の前の男に釘付けになっていた。男はこのウィング国、国内屈指の大企業の次期社長でもあり、一族の次期当主でもある神山綾斗《かみやまあやと》。 整った顔立ちに漆黒の闇のような黒髪を、左側のみ後ろに撫でつけ、右側は目にかかるかかからないかの長さで揺れ動いている。 そんな彼の瞳もまた髪の色と同じく黒色だが、人を吸い込むような美しさを持っていた。 そして少し吊りがちな目も魅力を増すためのパーツになっている。男は目の前のティーカップを無言で手に持ち、優雅に口元へと運んでいく。 その際に目の前の視線に気づき手を止めて瑠衣を見るが、瑠衣は恥ずかしさのあまり俯いてしまった。 そんな瑠衣の行動に淡く微笑み、気にせず紅茶を一口、また一口と運んでいく。 瑠衣は顔を真っ赤にして俯いているが、下から覗き見るように綾斗を見た。――綺麗な人...瑠衣は綾斗のような綺麗な男性を今までの人生でお目にかかる事がなかったので、目を合わせただけで心臓が飛び出しそうな程、鼓動が騒がしかった。 顔だけではなく、体全身が暑い。カチャンッ綾斗がティーカップを置く音が、やけに大きく瑠衣の耳に届いた。「菊池さん...」綾斗が言葉を発すると、瑠衣は体を硬直し「ハイ」っと機械のような返事をしてしまった。 そんな反応をした瑠衣に綾斗は口元に手をあて、堪えきれず笑ってしまった。――笑うと可愛らしいのね……瑠衣は綾斗が肩を震わせ、大声で笑うのを必死に耐えている姿が先程の優雅さとかけ離れていて可愛いと思ってしまった。 ひとしきり笑い終わると、綾斗は目に薄っすらと滲んだ涙を指で拭き取りながら、瑠衣に向き直った。「大変失礼しました」 「いえ!私が変な風に返事をしてしまったので...気にしないでください」瑠衣は顔の前で両手をブンブンと振り、綾斗に気にしないように伝えた。「はぁ...ありがとうございます。お陰で緊張が少しほぐれました」 「えっ!」瑠衣は目を丸くした。 先程まで凄く緊張していたのは自分の方だったのに.... 寧ろ綾斗は余裕だったはずだ。 そんな事を考えていたら
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002.再会
お見合いから一年の時が経った。 あのお見合いに関してはお互いに合わなかったっと言う事で何事もなく話は流れ、瑠衣にとっていつもの日常が戻り、今では楽しく大学生活を送っている。 ただ一つ困った事に、瑠衣の恋愛は皆無に等しかった。 菊池家は昔は血筋を重んじ、それなりの名家と縁談を結んできたが、今代の当主...つまり瑠衣の父親、菊池廉次郎《きくいけれんじろう》は古い考えに囚われず自由恋愛を尊重している。 それは母親である菊池春子《きくいけはるこ》も同じだ。 二人は家門同士のお見合いでの結婚だったが、お互いに心から愛し合っていた。 だから自分達の子供にも本当に愛する人と幸せになってほしかった。 ただ、出会いがなければ愛する人が見つからない。 だからたまに神山家のような所とお見合いを組むが、子供達が嫌がれば強制はしない。 瑠衣の兄である菊池壮《きくいけそう》には一度のお見合いで今は仕事以外の事は考えたくないと言われたので、今はお見合いの場を設けていなかった。 だが瑠衣は神山家の後、数回お見合いの場を設けたがそのどれもが上手くいかなかった。 瑠衣の心を動かす殿方がいなかった事に春子は少し残念に思っていたが、廉次郎は寧ろ可愛い娘はお嫁に出したくないので、いなかった事に安堵していた。 そして当の本人はというと、神山綾斗とのお見合いが鮮烈すぎたのか、他の人に惹かれない事に悩んでいた。――これが初恋の呪いなのか...そう。瑠衣は綾斗に一目惚れしたあの時が人生で初めて恋愛としての【好き】を体験したのだ。「あぁぁぁぁぁーーー」友人達とカフェに入り、恋愛の話になるといつも瑠衣は頭を抱えていた。 もちろん瑠衣の友人達もこうなる事は今はもう知っていたし、気にする事もなかった。 瑠衣はテーブルに頭を擦り付けた後、伏したまま隣に座る黒髪の女を見上げる。「...私も凛みたいに美人だったら、悩まなかったのかな…」 「…何言ってるの…」黒髪の女性はアイスモカの上にホイップをたくさん乗せた飲み物を飲みつつ、隣にいる瑠衣に視線をやる。 彼女は長井凛《ながいりん》。白蓮国《びゃくれんこく》という国からこのウィング国に来た子だ。 凛は瑠衣より1歳年下の19歳。 同性である瑠衣から見ても、凛は整った顏をしており美人だ。 ただし本人の纏う空気がかなり冷たい為、声をかけ
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003.迷惑です
「あいたたた…」瑠衣は後ろに倒れた際に頭をぶつけてしまい、痛みで顏が歪んだ。――ほんともう。なんて迷惑な…瑠衣は隣で同じく倒れている人物を見て、怒りをぶつけた。「ちょっとあなたね…」 「……」瑠衣が怒ろうと話しかけたと同時に、その人物が何かを言う。 瑠衣は全く聞き取れずに耳を近づけ「なんて?」と問いかけた。「なんで…助けたんだ…」 「はっ!?」暗すぎて顔はよく見えなかったが、身投げをしようとしたのは男性というのはわかった。 そして身長も瑠衣より高い。 助けられて良かったと安堵し、感謝はされないと思っていたがまさか文句を言われるなんて…――この人…瑠衣は男性の心臓に右手人差し指を強く突き付けて、怒りを爆発させた。「ちょっとあなたねぇ!何があったかわからないけど、こんな所で身投げなんてしないでよ!あんたは望み通り死ねたとしても、その後は?事後処理は??」瑠衣はここまで言うつもりはなかったが、男性の態度に腹を立てすぎて止まる事が出来なかった。「あんたの水死体を見つけた人は?どんな気持ちになると思う?例えば朝の気持ちのいいランニング中、愛犬との散歩中、はたまた幼い子が見つけたら?そんなえげつないのを見たら一生のトラウマものでしょうね!その日だけじゃなくて、頭から離れるまで最悪な人生になっちゃうかもね!赤の他人の勝手な行動のせいで!しかもそれを事後処理する色々な人達も、仕事とはいえそんな事させられる身にもなってみなさいよ!」男性は瑠衣の勢いに圧倒されて、言葉が出ずただただ瑠衣を見上げるしかなかった。「この世の中ね!思い通りになる事なんてないの!たとえなったとしても幸運だと思えばいいの!人生最悪だと思っていても生きていれば必ずいい事があるはずなの!人間は約80年生きられる可能性がある!80年もあるのよ!そんな中、ひとつも楽しい事がないわけないじゃない!もしなかったらそれは自分が努力しなかったせいよ!!」瑠衣はもう止まらない。 男性に顔を近づけて言い含めるように言葉を発する。「いい。どんな大層な理由があっても前を向いて生きなさい!死ぬなら人に迷惑をかけないようにしなさい!!かけるなら病院のベッドの上でか老後の衰弱死のみよ!わかった!?」瑠衣は一息に言いたい事を言い、肩を激しく上下させながら新鮮な空気を肺に送った。 暫く男は瑠衣の勢
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004.捨てられました
綾斗はひとしきり笑い終えると、目元の涙を拭いながら目の前に座る瑠衣を見つめた。「君は...面白いね」綾斗は目元を緩ませ、瑠衣へ微笑を向けた後、やがて真剣な面持ちで言葉を紡ぎ始める。「じゃぁ...もし良かったら...聞いてくれないかな...俺の話を...」 「...私でよければ」瑠衣はあんなに輝いていた綾斗がどうしてこんな風になり、死を選んでしまうほど追い詰められたのか気になった。 瑠衣にとって綾斗は例え実らないと分かっていても恋に落ちた初めての人。 自分の側にいなくても、どこかで幸せに生きていてほしい人であった。 それに死を選ぶほど追い詰められた人を前にして、手を差し伸べないという選択肢はない。 瑠衣は居住まいを正して、綾斗の真剣な眼差しを正面から受け止めた。「ありがとう...」綾斗は今にも泣きそうな表情で感謝を伝えると、言葉を選びながら少しづつ語り始めた。「そうだね...まずは君とのお見合いが終わってから半年くらい経った後かな...社長である父が事業で失敗をしてしまってね...自分で言うのも気が引けるけど、神山家はこの国ではトップクラスの企業。多少、事業が失敗しても揺るがないと思っていたんだ...」綾斗は一度言葉を切り、話を続ける。「だけどその失敗した事業が思いのほか損害が大きくて...うちの会社があっという間に傾いてしまったんだ...今は以前からの伝手を使ってなんとか体裁を保っているけど、このままだといずれ立ち行かなくなる...」瑠衣はこの時初めて神山家の現状を知った。 恐らく父は知っている可能性が高いが、あまり仕事の話を持ち込まないので一家団欒の時に話が出る事はない。 しかし会社が傾いたからと言って 死を決意する程なのかと思っていたら、次の言葉で納得した。「君には以前紹介したと思うけど...睦......俺の姉が出ていってしまったんだ...この家と共に沈むのが嫌だと言って...」瑠衣は自分が今まで綾斗の事が忘れられずに苦しんでいたので、この理由で全て納得してしまった。 あれだけ愛おしそうに見つめて困難な道にも立ち向かう覚悟があったのに、家が沈みかけたら逃げてしまった。 だけどそれ以上に愛している人が近くにいない事が苦痛なのだろう。 きっと一目惚れと一緒で、深く愛した人程忘れられるはずがない。「俺は...俺達は愛し
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005.トラブルは突然に
「綾斗さん!契約取れましたよ!!」 「綾斗さん。お疲れ様です!」 「綾斗さん。少し働きすぎです!今日は一日休んでください!」あの日以降、綾斗は父である神山昭仁《かみやまあきひと》から傾きかけている神山グループを引き継ぎ、立て直す為に奔走する日々を送っている。 瑠依は大学の講義が終わってからすぐに綾斗の会社で手伝いを始める日々を送っている。 瑠衣の家である菊池家の力を借りる事もできたが、綾斗は最初の投資以降その申し出を断った。 菊池家の力をずっと借り続け、また同じような事があった場合、神山家はもう立ち直れないだろうと思ったからだ。 それに力と言うのならすでにたくさん借りている。 瑠衣というお嬢様を。 瑠衣は初めこそ業務内容に四苦八苦していたが、綾斗がつきっきりで教え、今では書類整理をさせると綾斗好みの整理の仕方で大変助かっている。 瑠衣は物覚えがいい。 そして明るくてとても癒される。 あの絶望の中、瑠衣がいてくれたからこそ今の自分がある。 綾斗は瑠衣との出会いに日々感謝をするばかりだ。 綾斗は真剣に机に向かっている瑠衣を見つめ、口元に笑みを浮かべる。 瑠衣はそんな綾斗の視線に気がつき、顔を上げると目が合った。「……な…なんですか?今日は失敗してませんよ?」瑠衣は頬を膨らませ、あらぬ疑いがかけられているかもしれない事に不満をあらわにした。 綾斗はそんな瑠衣を見て、席を立ち、膨らんだ頬を人差し指でつつくと、瑠衣の顔は真っ赤になりそっぽを向いてしまう。 綾斗はそんな瑠衣を見て、もっとからかってみたくなり、わざと耳元で囁く。「そんなに膨らませて、どうしたのかな…前に俺の髪を切った時は生き生きしていたのに…あれ…結構くすぐったかったんだよ…」綾斗はそういうと、フッと瑠衣の耳に息を吹きかける。 瑠衣は息を吹きかけられた瞬間、吹きかけられた耳を手で押さえ、抗議する為に勢いよく綾斗の方に振り向くと、唇に柔らかい何かが当たった。 それは綾斗の頬だった。 綾斗はまだ瑠衣の耳元の近くに顔を近づけていたのだ。 二人は固まった。 今、社長室には二人しかいない。 静寂が訪れた部屋の中では、二人の心臓の音がうるさく感じる。 意識が現実へと先に戻ってきた瑠衣は、そっと顔を離し、上目遣いで綾斗の顔を見ると、綾斗は目を見開いたまま固まったままだっ
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