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さよならの後に降る雨
さよならの後に降る雨
Author: 福まみれ

第1話

Author: 福まみれ
ガスコンロが爆発した。

深津志保(ふかつ しほ)は深い傷を負い、命の灯が今にも消えそうだった。

その時、そばにいてくれたのは、まだ五歳の息子――深津陽向(ふかつ ひなた)だけだった。

魂となった志保は、泣きじゃくる陽向の傍らでただ立ち尽くしていた。

陽向は、涙でぐしゃぐしゃの顔で、深津翔太(ふかつ しょうた)に必死に電話をかけていた。

「パパ、ママがいっぱい血を流してるよ、もう死んじゃいそうだよ。ママを助けて……」

けれども翔太は、「ママの嘘ばかり真似するな」と冷たく言い放ち、電話を切ってしまう。

陽向は必死に涙をぬぐい、どうにか救急車を呼び寄せたが、その救急車さえも翔太に奪われてしまう。

「パパ、お願い、ママの救急車を奪わないで!ママは本当にもうダメなんだ!」

「嘘つきめ、ママに変なことばかり教えられて。どけ、由紀(ゆき)はもうすぐ子どもが生まれるんだ。ママより由紀のほうが救急車が必要だ!」

翔太は、目を真っ赤にした陽向を突き飛ばし、振り返りもせず、由紀を抱えて救急車に乗り込む。

「パパ……パパ!ママを助けてよ!」

陽向は泣き叫びながら救急車を追いかけたが、背後から大型トラックが猛スピードで近づいていることに気づかなかった。

志保は必死で陽向の名前を叫び、どうにかして彼を守ろうとした。

けれど何もできず、ただその光景を見ていることしかできなかった。

陽向がトラックの車輪に巻き込まれていく、その瞬間――

視界が真っ赤に染まった。

志保は、何もかもが壊れていく音を聞いた気がした。

――これまで何度も、翔太は由紀とその娘のために、自分と陽向を置き去りにしてきた。

志保が抗議するたび、「由紀の父親には命を救われた恩がある」と、翔太は決まってそう言い訳をした。

ただの優柔不断な人だと、志保は自分に言い聞かせてきた。

まさか、ふたりの命をも、あっさり切り捨てる人だったなんて。

――私が、陽向を不幸にしてしまったんだ。

胸を引き裂かれるような痛みの中、志保の命は静かに尽きていった。

もし来世があるのなら、もう二度と翔太とは関わりたくない――

……

涙で目を腫らしたまま、志保は陽向を寝かしつけてからソファに座り込み、そのとき初めて、自分が生き返ったのだと気づいた。

消えない痛みが身体の奥を這いまわり、指先まで震えが止まらない。

志保はスマートフォンを手に取る。

SNSを開けば、由紀が頻繁に投稿を重ねていた。

最新の投稿は、少しふくらんだお腹を撫でながら、男の手を握って微笑む由紀の写真だった。そこには、こんな言葉が添えられていた。

【二十八歳の誕生日にプロポーズされました。私と子どもに家族をくれるって(照)】

写真の男の右手薬指に、小さな黒子がある。

それを見て、志保は凍りついた。

――翔太だった。

こんな光景、前にも一度見たはずなのに。

もう一度、現実として突きつけられると、胸の奥がずきんと痛む。

翔太が由紀にプロポーズをしたその時、志保という妻、そして陽向のことを一度でも思い出しただろうか。

でも――

彼は、志保と陽向親子の命すら大事に思わなかった人だ。何を期待したって無駄だ。

馬鹿なのは、自分が「恩返しのため」という嘘を信じ、息子と一緒に死んだことだ――

志保は、前世で自分と陽向が死んだときの光景を思い出し、涙が枯れるほど泣いた。

翔太が帰ってきたら、このバカげた結婚生活にはっきり終止符を打とう――それだけを心から願っていた。

そうして、夜が明けるまでじっと待ち続けた。

……

午前三時。

ようやく帰ってきた翔太は、志保の腫れた目を見て、うんざりしたようにワイシャツの口紅を拭った。

「口紅は由紀がうっかりつけたんだよ。結婚指輪も、ただ一時的に外しただけだ。いちいち気にするな」

ここ何年も、翔太は由紀と腕を組んで歩いたり、ホテルの同じ部屋から出てきたりした。

そのたびに、「気にしすぎだ」と言うのが決まり文句だった。

その言葉に、志保は思わず生理的な嫌悪感がこみ上げる。

志保は、涙にくぐもった声で翔太に問いかけた。

「いつも『気にするな』って言うけど……じゃあ、もし私が智也(ともや)の家に行って、夜中の三時に帰ってきたら、あなたはどう思うの?」

翔太は、志保が由紀に嫉妬することに、もううんざりしていた。

「志保、お前、もういい加減にしてくれよ。あいつはお前に気があるんだぞ。俺は由紀に恩があるだけで、それとは全然違うだろ?」

――何が違うっていうの。

言いかけた言葉を飲み込み、志保はふっと苦笑した。

「もういい……私、決めたの。翔太、あなたと離婚する」
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