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Novels by こいたろ

あずき日和

あずき日和

鹿児島の片田舎で暮らす、気高く聡明な三毛猫・あずき。 愛護センターから佐々木家に迎えられた彼女は、ドッチャリ体型とふっとい眉毛のような顔模様を持つ、一歳の女の子。 口数は少なく、目力は強い。 言動はまるで侍。 そして、ちょっぴりツンデレ。 そんなあずきと、気の弱いハスキー犬の佐助、そして佐々木家の人々が織りなす、何気ない日々。 海へ行ったり、町を歩いたり、季節を感じたり。 ときには馴染みの猫たちと出会い、のんびり過ごしたり。 一話完結で綴られるのは、特別ではないけれど、どこか心に残る一日。 桜島、町並み、食、季節の風景、鹿児島ならではの暮らし。 そんなあずき達のハートフルな日常をのぞいてみませんか。
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Chapter: 秋のご馳走
ここは薩摩の国――。鹿児島県は姶良市。錦江湾には桜島を望む。そして――ここに一匹の、気高く聡明なにゃんこがいる。その名は――あずき。⸻十月の朝。「ほら、佐助。もうすぐ着くぞ」孝史の声に、後部座席で寝そべっていた佐助が起き上がった。窓に鼻を寄せ、くんくんと忙しく匂いを嗅ぐ。「ワンッ!」(何か見えた! あっちにも何かある!)いつも通り落ち着きのない佐助。隣のあずきは、どっちゃりと座席を占領したまま、窓の外を眺めていた。「ナァ……」(騒がしい…)車窓に、黄金色の田んぼが流れていく。山の裾まで続く稲穂の向こうでは、コンバインが動いていた。「今年は刈り取りが早いところもあるな」孝史が言うと、由乃が窓の外を覗いた。「孝作さんのところは、間に合いそう?」「昨日、電話したら、あと少しだってよ」「じゃあ、今日で終わるといいね」「兄ちゃんたちが来れば、助かるって言ってたぞ」「ふふ。毎年それを言われてる気がする」車の中に笑い声が広がった。あずきは耳を片方だけ後ろへ向けた。伊佐へ向かう日は、家族がいつもより早起きする。あずきにとっては、少々迷惑な話だった。けれど、出発前におやつをもらえたので、今回は大目に見ることにしていた。「ナァ」あずきは目を細め、窓の外へ顔を戻した。やがて車が家の前に着くと、孝作が玄関から出てきた。「おーい、待ってたぞ!」「おう。稲刈りはどうだ?」孝史が車を降りながら尋ねる。「今日で片づけたいな。兄ちゃん、午後は頼むぞ」「はいはい。こっちも働きに来たんだからな」「口だけじゃなかろうな?」「言ったな、孝作」二人は顔を見合わせて笑った。その後ろから優子が顔を出す。「もう、玄関で始めないでよ。お茶もまだ出してないんだから」「おう、優子。久しぶり」由乃が挨拶すると、優子はにっこり笑った。「由乃さん、いらっしゃい。お昼はおにぎりにしたよ。豚汁もあるからね」「わあ、楽しみ。朝から何も食べずに来たの」「えっ、由乃さんまで働く気満々?」「もちろん。食べるためにもね」二人が笑っていると、庭の向こうから声が飛んできた。「瑞稀ー!」「綾乃、弥生!」長靴を履いた双子の姉妹が駆けてくる。「昨日から来てたの?」「うん! 昨日は稲を運ぶのを手伝ったよ」「今日は瑞稀も一緒だね」「三人でや
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-10-13
Chapter: 秋の夜長に栗三昧
ここは薩摩の国――。鹿児島県は姶良市。錦江湾には桜島を望む。そして――ここに一匹の、気高く聡明なにゃんこがいる。その名は――あずき。*十月。朝晩の風に、少しずつ秋の気配が混じるようになった。夏の頃は朝から元気だった蝉の声も、今ではすっかり聞こえなくなっている。代わりに庭から聞こえてくるのは、どこか涼しげな虫の声。佐々木家の窓辺では、あずきが外を眺めていた。一歳の三毛猫。ふっとい眉毛のような模様を浮かべた顔に、今日も変わらぬ貫禄。そして――どっしり。ドッチャリ。窓辺に収まる、その姿。ナァ……。あずきの毛並みを撫でる風が、以前より少し涼しくなっていた。あずきは目を細める。チラッ。庭を見る。木の葉が一枚、ひらりと落ちた。その葉を目で追い――ぷいっ。興味をなくした。昼過ぎ。台所から、いつもとは違う匂いが漂ってきた。あずきの耳が動く。鼻がひくひく。ナァ……。(何やら、良い匂いがする)匂いの正体を確かめるべく、あずきは窓辺から降りた。どすん。床に足をつける。そして、ゆっくり台所へ向かう。てくてく。廊下を進む。角を曲がる。すると――由乃が台所で何かをしていた。「今年も栗が出てきたね」テーブルの上には、秋の味覚。栗。いくつもの栗が並んでいる。瑞稀も手伝っている。「結構あるね」「今日は栗ご飯にしようか」「いいね」その会話を聞きながら、あずきは少し離れた場所に座った。チラッ。栗を見る。ナァ。さらに近づく。くん。くん。鼻を近づける。硬い。丸い。そして、ほんのり土と木のような匂いがする。前足でチョイチョイとつついてみる。、ナッ。由乃が笑う。「あずき、栗が気になるの?」あずきは顔を上げる。チラッ。由乃を見る。ナァー。由乃は栗を一つ持ち上げた。「これ、栗だよ」あずきの目が栗を追う。右へ。左へ。栗が動くたび、あずきの頭も動く。瑞稀が笑った。「すごい見てる」あずきは少しだけ姿勢を正した。ギラリ。栗を見る。まるで獲物を見定める武士のようだ。しかし――栗は動かない。しばらく見つめたあと、ぷいっ。あずきはその場を離れた。どうやら、興味を失ったらしい。*夕方。台所から、また良い匂いがしてきた。今度は先ほどとは違う。あずきは再
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-09-29
Chapter: あずきが佐々木家の家族になった日
ここは薩摩の国――。鹿児島県は姶良市。錦江湾には桜島を望む。そして――ここに一匹の、気高く聡明なにゃんこがいる。その名は――あずき。*それは、あずきがまだ一歳になる前のこと。生後半年ほどだった。場所は、霧島市隼人町。少し高い丘の上にある、鹿児島県の動物愛護センター。その日、佐々木家は家族でそこを訪れていた。「ここが愛護センターなんだね」瑞稀が建物を見上げる。「いろんな事情で保護された猫や犬がいるんだって」由乃が答える。孝介は辺りを見回した。「犬とか猫がいるの?」「ああ、そうだよ」孝史が答えた。この日は日曜日、孝史と由乃は子供達の社会見学を兼ねて家族で来ていた。*施設の中へ入る。職員から説明を受けながら、家族は犬や猫たちの様子を見て回った。元気な犬。静かにこちらを見つめる猫。人の気配を感じると、そっと近づいてくる子もいる。それぞれに事情があり、ここで新しい家族との出会いを待っている。そんな中――。瑞稀の足が止まった。「……あれ?」視線の先。そこに、一匹の三毛猫がいた。まだ幼い。生後半年ほど。それでも、顔には特徴的な模様があった。ふっとい眉毛のような模様。そして――妙に鋭い目。チラッ。三毛猫がこちらを見る。瑞稀と目が合った。「……」瑞稀も見つめ返す。三毛猫は逃げない。ただ、じっと見ている。ギラリ。その目には、幼猫とは思えない妙な貫禄があった。「この子……」瑞稀が小さく呟いた。由乃も近づいてくる。「三毛猫ね」「かわいい」孝介も覗き込む。三毛猫は、孝介を見る。チラッ。そして――ぷいっ。「無視された」孝介が苦笑する。由乃も笑った。「人見知りなのかな?」すると職員が声をかけてくれた。「その子は人には慣れていますよ」「そうなんですか?」「はい。今はふれあい猫として、人と触れ合う活動をしています」家族が顔を見合わせる。「ふれあい猫?」「はい。来館された方に触れてもらったり、人と過ごす経験を積んでもらっています」そう言われると、三毛猫はまるで聞こえていたかのように立ち上がった。そして、こちらへ歩いてくる。小さな身体。短い足。まだ幼い体つき。けれど、その歩き方だけは妙に堂々としていた。てくてく。てくてく。佐々木家の前まで来る。そし
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-09-26
Chapter: なぎさ海浜公園の午後
ここは薩摩の国――。 鹿児島県は姶良市。 錦江湾には桜島を望む。 そして―― ここに一匹の、気高く聡明なにゃんこがいる。 その名は――あずき。 * 朝から、あずきは玄関にいた。 いつもならお気に入りの場所で丸くなっている時間なのに、今日は玄関のたたきに座り、外をじっと眺めている。 三毛猫らしい模様の顔。 その中にある、ふっとい眉毛のような模様。 そして、一歳の雌猫とは思えない、堂々たるドッチャリ体型。 座っているだけなのに、妙な貫禄がある。 ナァー。 その声に、由乃が振り向いた。 「今日はお天気もいいし、あずきも一緒に行こうか」 あずきの耳がぴくりと動く。 チラッ。 由乃を見る。 それから、何事もなかったように外へ視線を戻した。 ナッ。 そのすぐ後ろでは、佐助が大喜びしていた。 ワン! (お出かけ! お出かけ!) 尻尾をぶんぶん振りながら、玄関を行ったり来たりする。 あずきが横目で見る。 ギロリ。 佐助の動きが、一瞬だけ止まった。 ワン……。 あずきは満足したように、再び外を見る。 * 車で向かった先は、なぎさ海浜公園。 錦江湾に面した海辺の公園である。 車から降りると、潮の香りがした。 風が心地よく頬を撫でていく。 あずきはキャリーから出ると、すぐには歩き出さなかった。 鼻をひくひく。 耳を動かす。 草の匂い。 海の匂い。 鳥の声。 遠くから聞こえる人の話し声。 そして―― かすかに混じる、猫の匂い。 あずきの目が変わった。 ギラリ。 ナァ……。 瑞稀がその様子を見て笑った。 「あずき、何か見つけたの?」 もちろん、人間にその意味は伝わらない。 あずきは答える代わりに、歩き始めた。 てくてく。 ゆっくりとした足取り。 その後ろから佐助がついてくる。 ワン! (待ってよ、あずき!) あずきは振り返らない。 ただ、ほんの少しだけ歩く速度を落とした。 * 公園の木々が並ぶ一角。 あずきが突然、足を止めた。 少し先に、一匹の茶白猫がいる。 茶白猫も、あずきを見ていた。 互いに近づくこともなく、しばらくその場にいる。 やがて茶白猫がゆっくり歩いてきた。 あずきも一歩進む。 鼻先を近づけ、互いの匂いを確かめる。 そして―― 額が、そっと触
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-09-26
じじばばにゃんこと異世界奇譚

じじばばにゃんこと異世界奇譚

「じじばばにゃんこと異世界奇譚』 最愛の家族を失い、 静かに生きていた老夫婦トシオとミツコ。 ある日、 三匹の子猫との出会いをきっかけに、 二人は異世界『レヴァナスタシア』へ導かれる。 そこは、 竜と獣人、 魔法と戦乱が存在する世界。 若き姿を得た二人は、 争い続ける種族達へ、 “同じ鍋を囲む温かさ”を届けていく。 これは―― 優しさが、 世界を変えていく物語。
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Chapter: 海の向こうに眠るもの…
――西方都市、中央塔。ワードル=バイスは、机の上に広げた古い地図を見つめていた。北東にあった黒い点は消え、その代わりに海の向こうへ新たな印が浮かび上がっている。青い光を帯びた、小さな印だった。「……海槍、か」老人は、その名を口にした。しばらくして、机の引き出しから一枚の古い羊皮紙を取り出す。そこには、地図と同じ印が描かれていた。ただし、こちらには文字が添えられている。ワードルは目を細めた。「まさか、今になって再び動き出すとはな……」誰に聞かせるでもない呟き。窓の外では、朝の風が吹いていた。遠くに見える街並みは、いつもと変わらない。人々は仕事へ向かい、商人たちは店先に商品を並べ、街道には旅人の姿が見える。この世界のどこかで何かが起きているなど、誰も気付いていないようだった。ワードルは羊皮紙を丸め、紐で結んだ。「まだ、すべてを話すわけにはいかぬか……」そして、扉の方へ顔を向けた。「おい」「はい」控えていた従者が入ってくる。「古文書庫から、海に関する記録を集めてくれ。特に、古い街道と海域を結ぶ記述だ」「承知しました」「それと、トシオ殿たちが戻ったら、すぐに知らせてくれ」「お二人は、もう出発されたのですか?」「ああ」ワードルは再び地図へ目を落とした。「……道が開いたのなら、次に何が起きるか分からん」従者は一礼し、部屋を出ていった。静かになった室内で、ワードルは小さく息を吐いた。「頼むぞ……」その言葉は、誰に向けられたものだったのか。老人自身にも、はっきりとは分からなかった。◇その頃。森の奥では、トシオとミツコが古い石畳を歩いていた。「しかし、妙な場所だな」トシオが周囲を見回す。道の両側には、背の高い木々が立ち並んでいた。その間から差し込む光が、苔むした石畳を照らしている。「ずいぶん長いこと、人が通っていないみたいねぇ」「ああ。道も荒れ放題だ」トシオは足元の草を避けながら進んだ。先ほどまで二人がいた場所には、巨大な石の門があった。門の向こうに現れた海と島。そして、黒い柱。あの光景は幻だったのか。それとも、実際にどこかに存在する場所なのか。まだ何も分からない。「ねぇ、トシオさん」「何だ?」「さっきの青い石、見せてもらってもいいかしらねぇ?」「ああ、そうだったな」トシオは
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-10-25
Chapter: 古き道の先…
 西方都市を出て、しばらく。 街道を外れた二人は、細い獣道のような道を歩いていた。「こっちで合ってるのか?」 トシオが前方を見る。「たぶんねぇ」 ミツコは手にした地図を眺めながら答える。「ハハハ、たぶんかよ」「ワードルさんがくれた地図と、トシオさんが感じてる方向を合わせると……こっちになるものぉ」「なるほどな」 トシオは頷いた。 道は次第に細くなっている。 人が通らなくなってから、かなり経っているのだろう。 草が伸び。 ところどころ木の根が道を覆っていた。「昔は、ちゃんとした道だったのねぇ」「みたいだな」 トシオは足元を見る。 土の下から、古い石畳が顔を出している。「しかし……」「どうしましたかぁ?」「誰が何のために、こんなところに道を作ったんだろうな」「さぁ……」 ミツコは少し考える。「でも、道があるってことはぁ」「ん?」「誰かが、どこかへ行くために作ったんでしょうねぇ」「そりゃそうだ」「だったら……」 ミツコは前を見る。「この先にも、誰かが行きたかった場所があるのかもしれないわねぇ」「……そうだな」 二人は歩き続けた。     ◇ 昼を少し過ぎた頃。 二人は小さな泉を見つけた。「おっ」 トシオが足を止める。「ちょうどいい」「少し休みましょうかねぇ」 二人は泉のそばに腰を下ろした。 ミツコが買い物籠を開く。「何か食べるか?」「ええ」 籠から出てきたのは、おにぎり。「おっ、いいな」「ふふっ」 トシオはおにぎりを受け取る。 一口食べる。「……うまい」 ミツコも隣で食べ始める。 静かな森。 泉の水音。 風に揺れる葉。 しばらく二人は何も話さなかった。 やがて。「ミツコ」「なぁに?」「……みんな、大丈夫かな」「ミーコちゃんたち?」「ああ」 トシオは空を見上げる。「別れてから、結構経ったからな」「大丈夫よぉ」 ミツコは穏やかに答えた。「フィルちゃんも一緒でしょう?」「ああ」「だったら、きっと大丈夫」「そうだな」 トシオは笑った。「フィルなら、腹減ったって言いながら歩いてそうだ」「ふふっ」 ミツコも笑う。「ミーコちゃんに怒られてるかもしれないわねぇ」「それもありそうだな」 二人の笑い声が森へ響いた。 その時。 ――カサッ。
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-10-04
Chapter: 黒い点の向こう側…
 夜が明けた。 西方都市を包んでいた霧もすっかり晴れ、朝の光が石造りの街並みを照らしている。 宿の一室。「まぁ……いいお天気ねぇ」 ミツコは窓を少し開け、朝の風を部屋へ招き入れた。 それから、部屋の隅に置いていた買い物籠を手に取る。「さて……何にしましょうかねぇ」 籠から取り出したのは、米と味噌そして漬物や卵  朝飯の支度を手慣れた調子で始める。 焼き魚に、卵焼き、味噌汁。 そして小鉢をいくつか。「トシオさん、ご飯できたわよぉ」「おう!」 その声に、トシオが振り向いた。「おっ、飯かっ!」「ええ」「ふふっ。トシオさんは朝から元気ねぇ」「朝は米に限る」「そうねぇ」 二人は向かい合って朝食を始めた。 トシオは白飯を頬張り、満足そうに息を吐く。「ふふふ」 ミツコは味噌汁を口にする。「昨日は遅かったものねぇ」「ああ」 トシオの箸が止まる。「……昨日の話なんだが」「閉じる者のこと?」「それもだ」 トシオは少し考える。「ワードルって爺さん……何か知ってると思わねぇか?」「そうねぇ」 ミツコは穏やかに頷く。「私も、そんな気がするわぁ」「かなり前から知ってる感じだった」「ええ」「でも、全部は話さない」「話せないのかもしれないわねぇ」 トシオがミツコを見る。「話せない?」「誰にでも話せることじゃないものも、あるでしょう?」「……まあな」 ミツコは小さく笑う。「急がなくても、少しずつ分かっていけばいいんじゃないかしらねぇ」「そうだな」 トシオも頷いた。「俺達には俺達のやることがある」「ええ」 朝食を終えると、ミツコは食器を片付ける。 そして何気なく買い物籠へ手を入れた。「それじゃあ、出掛ける準備をしましょうかねぇ」「おう」 籠から必要な物を取り出し、荷物を整えていく。 トシオはその様子を眺めながら、ふと思った。「……便利だよな、それ」「そうねぇ」「何でも入ってるし」「必要なものは入れてあるものぉ」「そりゃそうか」 二人は宿を出た。     ◇ 西方都市中央塔。 最上階。 ワードル=バイスは、一枚の古い地図を前に立っていた。 地図には、いくつもの印が残されている。 東。 西。 南。 北。 そして中央。 ワードルは、昨夜から何度も同じ場所を見つめてい
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-09-29
Chapter: 西方都市との盟約…
 石柱に刻まれた文字を、ミーコはじっと見つめていた。 古い。 けれど。 完全に読めないわけではない。「……名前じゃない」 ミーコが呟く。 フィルニアが隣から覗き込む。「じゃあ何だ?」「分からない」 ミーコは指先を文字へ近付けた。「人の名前みたいに見えるけど……」 石柱の文字へ触れる。 その瞬間。 淡い緑色の光が広がった。 ミーコの目の前へ、いくつもの光景が浮かび上がる。 古い街。 今よりも低い塔。 まだ西方都市と呼ばれていなかった頃の景色。 そこへ様々な種族が集まっている。 何かを囲んで話し合っている。 そして。 一人の人物が石柱へ手を置いた。 声は聞こえない。 けれど。 何かを託している。 その人物が立ち去った後。 石柱だけが残った。 映像が消える。「……昔の記憶」 ミーコが目を開く。「この石柱は、何かを封じるために置かれたんじゃない」 女性が尋ねる。「では、何のために?」「残すため」「……残す?」「誰かがここに何かを残したんです」 ミーコは石柱を見る。「たぶん、記録とか……約束とか」 フィルニアが腕を組む。「じゃあ、地下にある扉も?」「扉は……」 ミーコが振り返る。 さっきまで黒い霧に包まれていた通路。 そこにはもう異変がなかった。 黒い存在も。 消えていた。「……いない」 ミーコが呟く。「どこへ行った?」 フィルニアが周囲を見る。 兵士達も辺りを探した。 だが。 どこにもいない。 ただ石柱の足元に。 小さな光が一つだけ残っていた。 ミーコがしゃがみ込む。 手を伸ばす。 光は指先へ触れた。 温かい。 それは一瞬だけミーコの手のひらで揺れ。 やがて消えた。「……ありがとう」 なぜそんな言葉が出たのか。 ミーコ自身にも分からなかった。         ◇ 地下から地上へ戻る。 都市はまだ騒然としていた。 空に浮かんでいた黒い亀裂は、すでに消えている。 街の灯りも少しずつ戻り始めていた。 人々は互いの無事を確かめ合っている。 ミーコとフィルニアも大通りへ出た。 女性が二人へ近付いてくる。「助かりました」「私達だけでは、あの地下へ入ることもできなかった」 ミーコは首を振った。「私達も何が起きたのか、全部分かったわけじゃあ
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-09-22
Chapter: 地下の声…
 地下全体が大きく揺れた。 天井から細かな砂埃が落ちてくる。 壁に掛けられていた古い灯りが、左右へ大きく揺れていた。 ミーコは足元を確かめながら、目の前に立つ黒い存在を見つめている。 フィルニアは一歩前へ出た。「ミーコ、下がってろ」『うん』 ミーコは素直に後ろへ下がる。 だが。 目は黒い存在から離さなかった。 さっき聞こえた声。 ――見つけた。 あの言葉が、まだ頭の中に残っている。「お前……何なんだ?」 フィルニアが問い掛ける。 黒い存在は答えない。 ただ。 胸元に浮かんだ小さな光だけが、ゆっくり明滅している。 その光は、黒い身体とは不釣り合いなほど淡かった。 フィルニアが拳を握る。「答えないなら――」『待って』 ミーコが止めた。「どうした?」『あれ……』 ミーコは胸へ手を当てる。「怖がってる」 フィルニアが振り返る。「……怖がってる?」『うん』「何が?」『分からない』 ミーコは首を横へ振った。『でも、さっきからずっと』『何かから逃げてるみたい』 黒い存在が、ゆっくり顔を上げる。 顔はない。 それでも。 ミーコには、その動きがどこか怯えているように見えた。 その時。 背後から声が飛んできた。「近付かないで!」 昼間に出会った女性だった。 その後ろには数人の兵士がいる。「ここは危険です!」「でも……」 ミーコが振り返る。 女性は黒い存在を見たまま、息を呑んでいた。「それは、この都市に昔から残っているもの」「知ってるんですか?」「詳しくは知らない」「私達が知っているのは、あの扉の向こうに何かが封じられていたということだけ」 フィルニアが黒い扉を見る。「だったら、何で今になって出てきた?」「分からない」「何年も動かなかったのに」 女性の声が震える。「今日になって突然……」 ゴン。 その時。 黒い存在が一歩前へ出た。 兵士達が一斉に武器を構える。「止まれ!」 黒い存在は止まらない。「撃て!」 弓が放たれた。 矢が黒い身体へ突き刺さる。 しかし。 傷口から黒い霧が噴き出すだけで、倒れる様子はない。「効いてない!」 兵士の一人が叫ぶ。 黒い存在が腕を上げる。 その瞬間。 廊下の壁から黒い亀裂が走った。 バキッ! 石壁が崩れ落ちる
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-09-22
Chapter: 西方都市…
 朝。 湖を包んでいた霧が、ゆっくりと晴れていく。 水面には薄い光が差し込み、昨日まで見えていなかった対岸の景色が少しずつ姿を現した。 ミーコは湖畔に立っていた。 昨夜見えた光の道は、まだ残っている。 緑色の細い線。 湖面から森の外へ伸び、その先へ続いていた。「これ……本当に道なのかな」 ミーコが呟く。「少なくとも、普通の道ではないな」 フィルニアが隣から答える。「俺様達が歩くと、ちゃんと光が前へ伸びていく」 試しに一歩踏み出す。 光の線が少しだけ明るくなった。 もう一歩。 また先へ伸びる。「面白いな」 フィルニアが笑う。「歩けってことだろ」『そうみたい』 ミーコも頷いた。 森精族達は少し離れた場所から二人を見ている。 案内してくれた女性が近付いてきた。「ここから先は、私達の村へ戻る道とは違うわ」「西方都市へ向かうなら、この道を使うといい」「どのくらいかかりますか?」「歩きなら半日ほど」 ミーコは頷く。「ありがとうございます」「こちらこそ」 女性はミーコの手を取った。「森を守ってくれてありがとう」「私は何も……」「あなたが木へ触れたことで、眠っていた道が開いた」「それだけでも、この森にとっては大きなことよ」 ミーコは少し照れたように笑った。「じゃあ……また来てもいいですか?」「いつでも」 フィルニアが横から口を挟む。「俺様もな」「あなたは少し静かにしていなさい」「なんで俺様だけ!」 森精族達から小さな笑いが起きた。 久しぶりに聞いた笑い声だった。 ミーコはその光景を見つめる。 昨日まで知らなかった人達。 けれど。 別れるとなると、少し寂しかった。「行こう」 フィルニアが言った。「ああ」 二人は森を抜ける。 緑の光に導かれるように。 西へ向かって歩き始めた。         ◇ 森を出ると。 景色が一気に変わった。 木々が途切れ、なだらかな丘が続いている。 遠くには白い城壁。 その向こうへ無数の塔が伸びている。 昨日、湖面に映っていた都市だった。 だが。 実際に目の前へすると、その大きさは想像以上だった。「でかいな……」 フィルニアが呟く。「王都より大きいかも」 ミーコも目を見張る。 城壁の外側にはいくつもの街道が伸び、商隊が行き交っ
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-09-22
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