LOGIN「お待たせ」 次の日、優弥は時間通りに家にやって来た。ラフな格好のように見えても清潔感はしっかりあって、女性ウケの良さそうな車に、助手席のドアを開けてエスコートしてくれる。 恋愛対象として見た事無かったから気づかなかったけど、これは…… (女子が黙ってないわ) これが俗に言うスパダリってやつなのかと、しみじみ感じた。 「なんだ?見惚れた?」 「馬鹿じゃないの?なんで私が優弥に見とれんのよ」 「えぇ?そんなこと言って、結構図星なんじゃないのか?」 ハンドルに手を掛けながら、揶揄う様な言葉を投げてくる。確かに、少しぐらいは見惚れたかもしれないが、悔しいから絶対に言ってやんない。 「どこに行くの?」 車がゆっくりと動き出すと、優弥に問いかけた。 「ああ、隣の市に大きなショッピングモールが出来たんだよ。俺もまだ行ったことないからさ。一緒にどうかと思って」 「へぇ、知らなかったな」 「そりゃそうだろ」 車の中は終始笑い声が絶えず、1時間ほどの距離もあっという間だった。 目的地に着いてからも、優弥は「疲れないか?」なんて、私の事を気遣っては声をかけてくれた。こういう気遣いも昔から変らない。 一緒に買い物をして回って気が付いたが、私と優弥の趣味は結構似ているらしい。 「ええ!?学生の時は気付かなかった!」 「そりゃお前、俺なんて眼中になかったんだろ?ひっどい奴だよな」 「そんな事……あった?」 「お前さぁ、そこは嘘でも否定するところだろ!」 「あはははは!ごめんごめん!」 怒った風を装い、手を振り上げる優弥から笑いながら逃げる。年甲斐もなくはしゃいでる自覚はある。それだけ楽しいって事なん
「……来ちゃった……」 紗千香が訪れた所は、先日、同窓会でやって来た地元の駅。 悩みに悩み抜いて下した決断は、地元へ帰省する事。 本当は実家には頼りたくなかったが、1週間もアパートにジッとしているなんて無理だし、仲佐さんから物理的な距離で離れたかったってのが一番の理由。 「ただいま……」 「……おかえり」 言えに帰ると、母が今でお茶を飲んでいた。声をかけると、そっけない言葉が返って来た。 久しぶりに帰って来たんだからもう少しなんかあるんじゃないの?なんて少し不満はあるが、何も聞かれない方が今はいいかもしれない……そう思いながら、二階にある自室へと向かった。 部屋は私が出てったままの状態だった。家を出てから数年。それなのに机の上や本棚には埃は被っていない。それは、母がこまめに掃除しているのが分かる証拠だった。 (……) ベッドに寝転ぶと、布団もお日様のいい香りがする。そっけない素振りを見せていても、しっかり自分の事を思っている事が分かり、ジンッと胸が熱くなった。 (これからはもう少し帰るようにしようかな……) そう思えるようになった。 *** 「なんだ?ついに出戻って来たのか?」 何処で聞きつけたのか知らないが、次の日に優弥が家にやって来た。 「違うわよ。急に休みになっちゃったから帰って来ただけですけど?」 「はいはい。そう言うことにしとくよ」 「だから違うって!」 こうして優弥と部屋で話していると学生時代を思い出して、ちょっと楽しい。 「なんか学生に戻ったみたいだな」 「私も今そう思ってた!」 「マジ?」
明らかに風呂上がりの香里を目にした紗千香は、戸惑いと困惑で茫然としたままその場に立ち竦んでいた。「どうしたの?浩也に何か用?」「いや、あの……」 私が仲佐さんと一緒に住んでいることを知っている人はいない。ここでバレるのはまずい気がする。けど、この状況でなんて言い返せばいいのか分からない。「えっと……」「香里!お前、何勝手に歩き回って……って紗千香ちゃん!?」 香里さんの後ろから仲佐さんが顔を出してきた。私の顔を見た瞬間、明らかに焦りの表情を見せた。そんな顔、後ろめたいことがなければしない。 紗千香はギュッと拳を握りしめた。「なにぃ?別にいいじゃない。今更知らない仲でもないでしょ?」「おまッ!誤解されるような言い方するな!」「あら?間違ってはないでしょ?」 マイペースに話す香里さんに、仲佐さんは頭を抱えているが、仲の良さは見ていてよく分かる。「あ、あの……なんか、お邪魔みたいなんで、失礼しますね」「ちょっと待って!どこ行くの!?」 苦い笑みを浮かべながら外へ出ようとドアに手を掛けると、仲佐さんが慌てて止めてきた。「コイツとは何もないんだよ。本当だ。今すぐ追い出すから待って」「なに言ってんのよ。今日は泊めてもらうって言ったじゃない」「だから!それは断っただろ!?」「私の服残ってるでしょ?何処にある?」「聞けよ!」 紗千香は口論する二人の様子を見て、自分の居場所がないことに気付かされた。虚しさが一気に襲ってくる。(喧嘩するほど仲がいいって言うもんね) 口では何とでも言えるが、仲佐さんがここまで言い合えるのは香里さんしかいない。 紗千香は、未だに言い合っている二人に何も告げずソッと部屋を出た。 ***「これからどうしよう……」 仲佐のマンションを出た紗千香は、空を見上げながら呟いた。 まあ、普通に考えて自
「本ッッッッ当にごめん!」 紗千香はスマホを耳に当てながら頭を下げていた。 『もういいって。それなりに楽しかったしな』 電話の相手は昨夜置き去りにした優弥だ。 優弥からのメッセージに気が付いたのは昼過ぎ。私を心配する言葉を中心に十数件溜まっていた。慌てて電話すると、ホッとしたような声色で『おはよう』と言われた。 終電を逃した勇也は、近くのビジネスホテルに泊まり、始発で地元に帰ったと言っていた。香里さんが随分と世話を焼いてくれたようで、次に会ったら礼を伝えてくれと頼まれた。 「仕方ないから今度埋め合わせしてあげる」 『あははは!それは楽しみだな』 元はと言えば優弥が強引に飲みに連れ出したのが発端だが、置き去りにしたのは流石に罪悪感を感じてる。その分ぐらいは償ってあげる。 『……なあ……』 「ん?」 『好きだよ』 「は?」 『愛してる』 「え、ちょっと、は?なに!?」 優弥の真剣な声に耳が熱くなる。不意打ちにこれは心臓に悪い。 『言葉にしなきゃ伝わらないと思ってな。言ったろ?諦めないって』 「いや、そうだけど……」 これは狡い。 『もう手段は選ばない。必ずお前を俺のものにしてやる』 「え」 『覚悟してろよ』 「ちょ、優弥!?」 捨て台詞を吐くと私の声も聞かずに通話を切られた。 *** この日は、仲佐さんはオフの日。まだ眠っている仲佐さんを起こさずにそっと家を出た。 一緒に暮らすようになって、何となくそうじゃないかと思っていたが……仲佐さ
──仲佐と紗千香が姿を消した酒の席では、置いてけぼりを食らった優弥が香里に管を撒いていた。 「あの人、なんなんっすか」 「仲佐浩也。声優界で知らない人はいないわよ?」 「そう言うんじゃなくて!」 ダンッ!とグラスを叩きつけるように置くと、崩れるように顔を埋めた。 「……俺、ずっと好きだったんすよ」 「あら、その言い方は過去形よ?諦めたの?」 「まさか!」 香里の言葉に勢いよく顔を上げて言い返した。しかし、すぐに勢いは弱まり、目が伏せていく。 「でも…紗千香はアイツの事ずっと憧れてて…やっと近付けた人を引き離すはどうなんだろうって思う自分もいて……」 「アイツって、浩也の事?」 「そうっす」 「ふ~ん……」 香里は何か考えるような素振りを見せていたが、すぐに優弥の肩に手を置き、誘うように耳元で囁いた。 「ねぇ、私にいい考えがあるの」 「え」 「紗千香ちゃんと彼を引き離したいんでしょ?協力するわ」 妖艶に微笑む香里に少しだけゾッとしたが、これはチャンスなのでは?という感情の方が勝った。 *** 目が覚めた紗千香は体の気怠さと、腰の痛みに顔を顰めていた。隣には気持ち良さそうに眠る仲佐の姿がある。 (昨日も甘かった……) 目を閉じれば、その光景がすぐに浮かび上がる。 強引で乱暴かと思えば、甘く蕩けるような言葉をかけながら優しく抱いてくる。本当、脳がバグる…… (……喉が渇いたな……) 声を出し過ぎて喉がカラカラ。チラッと隣を見るが、仲佐さんはまだ起きる気配がない。起こさないようにそっとベッドから足を出した。
ガヤガヤと賑いながら酒を酌み交わしているのを目にしながら、何故私はここにいるのだろうと問わずにはいられなかった。 隣には不機嫌で仏頂面の優弥。反対側には不気味なほど笑顔の仲佐さん。更にその隣には香里さんまでいる。他にも数人知った顔はいるが、酒の席なのであまりこちらを気にしていない。「ごめんねぇ。ここはおじさんが驕るから、好きなもの頼んでよ」 小柴さんは罪悪感からか、優弥を気遣って声をかけてくれている。「いいですよ。紗千香の仕事知るきっかけにもなりますし。……まあ、遠慮なく驕ってもらいますけど」「あははは!遠慮がなくていいね!若い子はそれぐらいじゃないと」 不機嫌に酒を飲んでいるのに、何故か小柴さんの好感度を上げまくってる。「ねぇねぇ、紗千香ちゃんとはどういう関係なの?」 香里さんが仲佐さんの肩に手を置き、興味津々に身を乗り出しながら優弥に問いかけた。「……幼馴染ですよ。今はですけど」「ええ!?そうなの!?」「ちょっと!優弥!?」 平然とした顔で、これからを見据えた様な言葉を吐き香里さんを喜ばせた。慌てて誤解を解こうとするが、周りの騒がしさに言葉が遮られる。 そんな中、仲佐さんは黙ったまま酒を呷っている。少しぐらいは気にしてくれてもいいのに、全くの無関心。その癖、香里さんの言葉には反応している。(ほんと、なんでここにいるのか分からないや……) ギュッとグラスを握りしめ、熱くなる目頭を誤魔化すように勢いよく酒を呷った。「おい、あんまり飲むなよ?」「……心配されなくても分かってる」 優弥が心配してグラスを奪おうとしてくるが、余計なお節介だと突っぱねた。単なる八つ当たり。……本当、自分で自分が嫌になる。 このままじゃ優弥に当たり散らしそう。顔を洗って少し冷静になりたい。「ちょっと、トイレ」 そう言って立ち上がったと同時に、足がもつれた。――正確には、誰かの足に躓い
「俺は諦めないから」 別れ際、優弥に言われた言葉。 電車に揺られている間も優弥の顔がチラついて離れない。まさか、何年も会っていない幼馴染みに告白されるとは思いもしなかった。 優弥ならば、私なんかよりもっとずっと素敵な女性がいたはず。何故、私?と率直に疑問が浮かぶ。昔を思い出しても、そんな素振りは一切なかった。なんなら雑に扱われた方だと思う。 「ごめんなさい」その一言で片付くと思っていたが、違った。そんな執着される意味が分か
振り返ると、そこには息を切らした優弥が膝を抱えて苦しそうに息を整えていた。 「何でいるの?みんなと行ったんじゃないの?」 「行かねぇよ。お前こそ、送っていくって言っておいただろ」 「いや、どう考えても三次会行く雰囲気だったじゃん」 むしろ、あの状態でよく抜け出せたなとすら思う。 「俺はお前に会いたくて来たんだよ」
同窓会の会場はホテルのお手頃なホールを貸し切って行われた。 久しぶりに会う級友は、大人びて雰囲気が様変わりしていたり、結婚して子連れで参加していたり、それぞれが今を楽しく過ごしているのがよく分かった。 会話も弾み、あっという間に時間が過ぎて行った。 「紗千香はこの後どうする?二次会行くでしょ?」 二次会組と帰宅組と分かれているようで、紗千香も二次会に誘われていた。 「ん~」
「久々に帰って来たなぁ」 紗千香は仲佐のマンションではなく、久しぶりに自分のアパートへ戻っていた。 「はぁ~、やっぱり自宅が一番落ち着く」 着替えもしないでベッドに寝転がっても罪悪感ないし、大声で文句を言ったって平気だ。私以外いないから気を遣わないでいいし、キッチンなんて3歩で行ける。 単なる強がりにしか聞こえないが、そう言って誤魔化してないと泣いてしまいそうだから…… 枕を抱きし







