Share

それだけが、たったひとつの願い
それだけが、たったひとつの願い
Auteur: 夏目若葉

第一話

Auteur: 夏目若葉
last update Date de publication: 2024-12-18 19:11:29

 吐き出す息が真っ白なこの季節は吸い込む空気が冷たく、乾燥していて喉が痛い。

 だけど首元に巻いたマフラーのせいで、身体は若干暑いくらいだ。

 履き慣らしたはずの黒のパンプスもつま先が痛くなっている。

 でも今はそれを気にしている余裕はまったくなく、私は髪を振り乱しながらあわてて往来をひた走る。

「すみません、遅くなりました!」

 バイト先のカフェへ辿り着くと、一目散に店長に駆け寄って深々と頭を下げた。

 遅れるとわかった時点で電話を入れたとはいえ、十五分の遅刻だ。

「そんなに焦らなくてもよかったのに」

 店長は私の姿を視界に捉えると、あきれ気味に緩慢な笑みを浮かべた。やさしくてダンディな店長が神様に見えた瞬間だった。

「リクルートスーツ……今日、面接だったのか?」

 スタッフルームのロッカーの前でマフラーをはずし、乱れたセミロングの髪を手櫛で直す私に武田くんが声をかけてきた。

 私たちは高校の同級生で、今はお互い別々の大学に通っているけれど、奇遇にもこのバイト先で再会した。

 彼は昔からガッチリ体型だから、その肉体を活かすのならほかの選択肢もあっただろうに、なぜかカフェでバイトをしている。

「うん。急に来るように言われちゃって」

「そっか。断るわけにもいかないよな」

 今日の面接は小さな電子部品メーカーの事務職の募集だった。

 急に呼び出されてしまったのだけれど、武田くんの言う通り、断る選択肢は持ち合わせていない。

「当然だよ。まだ内定ゼロだもん。どんな会社でもいいから早く就職決めないといけないしね」

 溜め息を吐きながら、武田くんになんとか笑みを返した。

 私の名は安田由依(やすだゆい)。年齢は二十二歳。

 大学四年の冬にして未だどこの企業からも内定をもらえていない、いわゆる就活難民だ。

 自分ではがんばっているつもりなのだが、ここまで面接に受からないとなると、いったいなにがダメなのかわからない。

 このままでは卒業後の春から私はどう考えても無職になる。

 焦っても仕方ないのかもしれないが、精神的にはどんどん追い込まれている。

Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application

Latest chapter

  • それだけが、たったひとつの願い   スピンオフ・エマの気持ち 第六話

    「すみませんでした」 「いや、終わり良ければすべて良し。あ、そうそう、ショウさんが心配して様子を見に来てくれたみたいだ」 彼のほうへ目をやると、監督に対してていねいに頭を下げてあいさつをしていた。  会社の人間として今後も仕事がもらえるようにコミュニケーションを取ってくれているのだ。「ショウさん……お疲れ様です」 「控室で話そう」 ショウさんはおじぎをする私の背中に手を添え、マネージャーと三人で控室へ戻った。「俺、コーヒーを買ってきますね」 なんとなくわざとらしい笑みをたたえて、マネージャーが外に出ていく。  おそらくショウさんがふたりで話したいから席をはずせと言ったのだろう。「あの……エイミーに付いていなくて大丈夫なんですか?」 マネージャーとして彼女のそばにいたほうがいいのではないかと気にかかったけれど、ショウさんはふるりと首を横に振った。「今日はもう終わったんだ。急いでここへ向かったらエマの撮影に立ち会えるんじゃないかと思って飛んできた」 「そうだったんですか。ありがとうございます」 おもむろに彼が腕を引き寄せ、たくましい胸に私を閉じ込める。  突然の行為にドキドキしながら、私も彼の大きな背中に手を回して抱きついた。「あ。マネージャーが戻ってきちゃいますね」 ずっとこうしてはいられない。ほかの誰かにこんなところを見られたら大変なことになる。「ゆっくりのんびりコーヒーを買いに行くように言ってある」 「大丈夫ですか? 私たちの関係に気づいたんじゃ……」 「いや。元マネージャーとしてエマと話したいってことにしてあるから」 心の中でマネージャーに「ウソをついてごめんなさい」と謝っておく。  だけどこれで大好きなショウさんとあと少しの時間、ふたりきりでいられる。「おととい、なにがあったんだ? 急に泣き出したって聞いたぞ?」 「ちょっと……情緒不安定で」 「俺となかなか会えなかったからか?」 身体を離し、背の高いショウさんが私の顔を覗き込んできた。  鋭い瞳に射貫かれ、甘い声で問われたらごまかすなんてできなくて、素直にうなずいてしまった。「ごめんな。俺のせいだな」 「違うんです。私が悪いんです。……ヤキモチを焼いたから」 「ヤキモチ? 誰に?」 そんなの聞かなくてもわかると思うけれど。  口ごもる私を見て、

  • それだけが、たったひとつの願い   スピンオフ・エマの気持ち 第五話

     翌日。ショウさんから電話がかかってきた。『昨日の撮影だけど、体調不良で延期になったって聞いた。大丈夫か?』 どうやら私のマネージャーがそう伝えたらしい。だけどショウさんは私との電話で、原因が体調不良ではないと気づいているだろう。「心配してくれたんですか?」 『当たり前だ』 間髪入れずに返事をしてくれたことがうれしい。彼が心配する相手がこの世で私だけならいいのにと、欲深い考えまで浮かんでしまう。「ありがとうございます。大丈夫です。明日はショウさんのことを思い出しながらがんばりますね」 『エマ……』 「しっかりしなきゃ、CMを下ろされちゃいますもんね」 最後は彼を心配させすぎないよう、明るい声で電話を切った。〝空元気〟という言葉がしっくりくる。 次の日、再び撮影がおこなわれるスタジオへ向かった。  二日前と同じように衣装に着替え、メイクを施してもらう。「エマさん、おとといはすみませんでした。体調が悪かったんですね。私、全然気づかなくて……」 「こちらこそリスケさせてもらって申し訳ないです」 ヘアメイク担当の女性がいきなり謝るものだから、ブンブンと顔を横に振って恐縮した。  体調不良は表向きの理由だから、彼女が気に病む必要はなにもない。 すべて準備が整ったところでマネージャーが呼びにきた。「エマ、撮影本番だ。いけるか?」 「はい」 スタジオに入り、監督やスタッフに先日のことを詫びてからスタンバイする。  幸いにも監督に怒っている様子はなくてホッとした。温和な性格の男性でよかった。 二日前と同じように、スタジオのセットのソファーに寝そべる。  菓子を手に取り、うっとりと眺めたところで監督からカットがかかった。「表情がまだ硬い。もっとリラックスしていこう」 「すみません」 いったん立ち上がって、フゥーッと深呼吸をしながら頭を切り替える。大丈夫、自分を信じろと言い聞かせて気持ちを高めた。  そのとき、スタジオの入口がそっと開き、男性がひとり入ってくるのがわかった。――ショウさんだ。  どんな会話をしているのかは聞こえないが、ショウさんが私のマネージャーに声をかけてヒソヒソと話をしている。  彼がここに現れたことが信じられなくて見入っていると、自然と視線が交錯した。『が・ん・ば・れ』 やさしい瞳がそう言っている気がし

  • それだけが、たったひとつの願い   スピンオフ・エマの気持ち 第四話

    「エマ、とにかく次の撮影までゆっくり休んで」 自宅マンションまで送ってもらった私は、深々と頭を下げてマネージャーを見送った。「私って、本当にダメだな……」 ポツリとひとりごとが漏れたあと、頭に浮かんでくるのはショウさんの顔だった。  ……会いたいな。それが無理なら声だけでも聞きたい。……電話をしたら迷惑だろうか。  彼が忙しくしているのは百も承知なのだけれど、それでもスマホを手にして通話ボタンを押してしまった。  打ち合わせ中だとか、タイミングが悪ければ出てはもらえないだろう。  しかし数コールのあと、『もしもし』といつもの低い声が耳に届いた。愛してやまないショウさんの声だ。「ショウさん……今、電話して平気でしたか?」 『ああ。少しなら。そっちの撮影は順調か?』 「いえ、今は家にいます」 『CMの撮影なのにもう終わったのか? えらく早いな』 「……」 私のスケジュールを把握してくれていたことが単純にうれしい。  だけど、そのあとの言葉にはすぐに反応できなくて、口ごもってしまった。『……エマ?』 「実は、今日は中止になったんです」 『中止?! なぜだ』 「私が悪いんです。……うまくできなくて」 コントロール不可能な感情に支配されて、泣きだしてしまっただなんて言えなかった。  ショウさんに慰めてほしいわけでも、がんばれと激励してほしいわけでもない。今日のことは自分の責任だとわかっている。甘えちゃいけない。『大丈夫か?』 彼のやさしい声が聞こえてきて、心にジーンと沁み入った。  あんなに不安定だった気持ちが途端にないでいくのだから不思議だ。  顔が見たいな。可能ならビデオ通話に切り替えてもらおうかな。そう考えた矢先だった――――『あ、いた! ショウさん、ちょっといいですか?』 スマホの向こう側から、彼を呼ぶ女性の声がした。おそらくエイミーだ。ショウさんも『今行く』と返事をしている。  正直、エイミーがうらやましい。仕事の相談に乗ってもらえて、付き添う彼に見守ってもらえる。  ショウさんは本当に素敵でカッコいいから、近くにいたら自然と好きになるに決まっている。エイミーだってそうだ。『話の途中ですまない。俺、行かなきゃ』 「はい。突然電話してすみませんでした。お仕事がんばってくださいね」 『また連絡する』 声が

  • それだけが、たったひとつの願い   スピンオフ・エマの気持ち 第三話

     小さなものでいい。楽しいこと、幸せなこと……私にとってそれは何なのかと考えたら、真っ先にショウさんの顔が浮かんだ。  彼と一緒にいられるだけで楽しくて、こんな素敵な人が恋人なのだと思うと幸せな気持ちになる。『エイミーちゃんはあのイケメンのマネージャーさんに恋してるのかも』 『待ち時間とか、一緒にいるときはすごく仲よさそうに話しているみたいだし』 先ほどの言葉がタイミング悪く脳裏に浮かんでしまった。  愛されているのは私のはずなのに。  うれしそうに微笑み合うのは私だけの特権なのに。  そう考えたらつらくなって、自然な笑顔を作らなきゃいけないはずが、反対に涙がポロポロとこぼれ落ちた。「あれ? エマさん?!」 私の様子に気づいた監督とスタッフがあわててやってくる。もちろん撮影は一旦ストップだ。「エマ、どうしたの」 マネージャーが駆け寄ってきて、私にそっとティッシュを差し出した。「すみません」 小さく声に出して謝ると、周りにいたスタッフ全員が困った顔をして私の様子を見守った。  心配されているのはわかるけれど、その視線が突き刺さるように痛い。すべて私のせいだ。早く撮影を再開しなければと思うのに、涙が止まってくれない。「ちょっと休憩しよう」 監督がそう告げ、私は頭を下げて謝罪したあと、マネージャーに付き添われて控室に戻った。  肩が出ているドレス姿だったため、マネージャーが背中から上着をそっと掛けてくれた。「なにかあった?」 「……」 「こんなこと珍しいじゃないか。体調が悪いの?」 「えっと……そうじゃないんですけど……」 うつむきながらボソボソと言葉を紡ぎながらも、マネージャーの目は見られなかった。  プロとして失格だ。心が不安定になっているという理由なんて通らない。「監督と話してくるから。とりあえずここで待機してて?」 「はい」 マネージャーがそばにあった水のペットボトルを手渡し、そのまま控室を出ていった。  ほうっと息を吐いてそのまま待っていると、マネージャーが戻ってきて、今日の撮影は中止になったと告げた。監督と話し合った末に、そう決めたらしい。  申し訳なさでいっぱいになりながらも、私はマネージャーと共に監督のもとへ行き、誠心誠意謝罪した。数日後にまた日程を決めて撮影をおこなうとのことだ。  どうやらマネ

  • それだけが、たったひとつの願い   スピンオフ・エマの気持ち 第二話

     ショウさんのことだとすぐにわかった。彼は裏方にしておくにはもったいないくらいのイケメンだから。「けっこう前に変わったんですよ」 「そうなんですね。実は、あのマネージャーさんは今、エイミーちゃんのマネージメントをしてるって聞いたものだから。エマさんの担当からは外れたのかと思って」 エイミーはうちの事務所に電撃移籍してきたモデルだ。今後は俳優業も積極的にやりたいと言っているらしい。  二重の瞳がパッチリとしていて、二十歳とは思えないくらいの色気を醸し出している、女子力の高い子。事務所も全力で売り込みをかけるつもりのようだ。  ジンくんのサポートは甲さんとふたり体制でおこなうことになったため、ショウさんが当面、エイミーのマネージメントを担当すると聞いている。「エイミーちゃん、幸せですね。事務所を移籍して飛ぶ鳥を落とす勢いだし、大好きな人にマネージャーになってもらえて」 「……大好き?」 思わず聞き返してしまった。ショウさんとは年の差があるけれど、エイミーにとってみたら恋愛対象に入るのかもしれない。「あ、これは私の勘なんですけど、エイミーちゃんはあのイケメンのマネージャーさんに恋してるのかも」 「そう……ですか」 「待ち時間とか、一緒にいるときはすごく仲よさそうに話しているみたいですし」 ……ダメだ。聞けば聞くほどグサグサと胸に傷が出来ていく。  ショウさんの恋人は私だ。いくらエイミーが大人っぽくて魅力的でも、彼はそんなに簡単に落ちたりしない。  私を裏切って傷つけるようなことはしない人だと信じている。  信じているはずなのに……――会えていないという現実が、私の心を真っ黒に塗りつぶしていく。 コンコンコンと控室の扉がノックされ、返事をすると男性マネージャーが姿を現した。「エマ、準備できた?」 「はい」 「オッケー。スタジオへ行こう」 マネージャーの後ろをついていき、撮影スタジオに入る。  監督やスタッフに頭を下げてあいさつしたけれど、笑顔が引きつっていたかもしれない。  設置してある撮影用のソファーへうつ伏せで寝そべるようにと指示があった。  うっとりとした顔で商品の菓子をつまみ、ゆっくりと口へ入れる。言われたとおりにしたはずなのに、監督から「カット!」と声がかかった。「エマさん、表情をもう少し明るくして。食べたあと、幸

  • それだけが、たったひとつの願い   スピンオフ・エマの気持ち 第一話

     ずっと密かに恋焦がれていたショウさんに告白をして、付き合えるようになって早くも二ヶ月が過ぎた。  交際は順調……のはず。といっても、私も仕事があるし、ショウさんもジンくんのマネージメントで忙しくしていて海外を飛び回っている。だから実はそんなに会えていない。  連絡が来た日は浮かれ、来なかった日は落ち込んで不安になる。そんな毎日を送る私は、至極単純にできているなと自分でも思う。  普通の人たちのようにふたりでテーマパークへ行って、手を繋ぎながらデートを楽しみたい……というのは、密かに思い描いている願望だ。  しかし、ショウさんとの恋愛は誰にも言えない秘密。  堂々とデートなんてできない。……私がこの仕事を辞めない限りは。それは付き合い始めた当初からわかっていた。◇◇◇ 今日は以前からお世話になっているチョコレート菓子の新しいCM撮影の日。  衣装のドレスに着替えた私は控室でスマホをいじりながら待機していた。「エマさん、本日もよろしくお願いします」 「こちらこそよろしくお願いします」 やってきたのはヘアメイク担当の女性だった。彼女とは何度か一緒に仕事をしていて顔なじみになっている。「今回は大人っぽい商品イメージなんで、ヘアメイクもそういうオーダーが来ています」 笑みを浮かべてコクリとうなずくと、彼女は私の前髪をあげてピンで固定し、慣れた手つきでテキパキと顔に化粧下地を塗り始めた。「うわぁ、すごく肌の調子がいいですね」 「そうですか?」 「エマさんは元々きめ細かくて綺麗な肌なんですけど、今日は潤っていて絶好調です。なにか良いことありました?」 そう聞かれ、すぐに頭に思い浮かんだのはショウさんの顔だ。  秘密だとしても、恋は恋。彼と付き合い始めてからの私は毎日がバラ色で、わかりやすく浮かれていると思う。「わかった! 恋人ができたとか?」 「で、できてないですよ!」 図星を指されてドキドキしながらも、ウソをつかなければいけないのが心苦しい。  本当なら正直に話して、女子らしく恋バナに花を咲かせたいところなのだけれど。 にこやかに話をしながらもメイクが終わる。髪を綺麗にセットし、髪飾りを付けて完成となった。  鏡のほうを向いてみると、そこには普段より大人に見える自分がいた。さすがプロのヘアメイクの腕前は違う。「めちゃくちゃ素

  • それだけが、たったひとつの願い   第八十九話

     私は彼の気配を背中で感じつつ、ほかのスタッフに紛れてその場を離れた。 このまま仕事をすっぽかして帰るわけにはいかないし、どうしたものかと物陰で考え込んでいたら、今度は相手役である神山(こうやま)めぐが到着したらしい。 周りにいたスタッフが一斉に挨拶している声が聞こえた。 彼女は少し前から売れ始めたグラビアアイドルで、少しずつ女優の仕事も始めているスタイル抜群のかわいらしい女性だ。 私も挨拶に加わり、よろしくお願いしますとにこやかに頭を下げる。 だけど彼女はテレビや雑誌の中とは違ってやけにツンとした態度で、首をちょこっと振っただけで周りから目をそらせて自分の控室へと向かった。 若

  • それだけが、たったひとつの願い   第八十八話

    「由依ちゃん、それシャンパングラスだから割らないように注意して」 私がたまたま手にした荷物はどうやら『ワレモノ注意』だったらしく、上森さんから丁寧に扱うようにと指令が飛んできた。「高価なシャンパングラスなんですね」「うん。少しでも演者が映えるようにね」 撮影はクルーザーのデッキで行われる。 男女のカップルが楽しそうにシャンパングラスを片手に談笑するシーンだ。 さほど広くはない屋内スペースに小さなウッドテーブルがあり、沖合いに着いたら最後の準備としてそこにシャンパンとグラスをセッティングするように言われている。「鳥飼大和なら、このクルーザーもシャンパングラスも似合っちゃいますね」

  • それだけが、たったひとつの願い   第八十六話

    「次のページも見て?」 甲さんに促され、再び紙面に視線を落とすと記者がプライベートについて質問していた。 記者 『こんなにカッコいいHarryさんですから昔からモテましたよね? 今までフラれた経験なんてないんじゃないですか?』 ジン 『ありますよ。彼女に急にいなくなられた経験が』 明らかに私のことだとわかるような文言をジンがインタビューで答えるなんて、今までは一度もなかった。いったいどういう気持ちの変化なのか。 記者 『Harryさんがフラれたんですか? 信じられないです』 ジン 『当時の僕は幼かったんでしょう。その彼女には一度も好きだと言われなかったんで、元々好かれていなかった

  • それだけが、たったひとつの願い   第八十五話

     役作りのために髪をばっさり切るという普通なら嫌がりそうな行為まで気にせずにやるし、そのままでも十分なのに異常さを出すためにゲッソリと痩せる。 私の前ではなんでもおいしそうに食べていたころのジンを思い出すと、今の彼を尊敬するし、感動を覚えた。 まさに最後の映画デートのときに私が言ったようなカメレオン俳優になれていると思う。 誰にも負けない演技力が魅力の、本当にすごい俳優に成長しているのだ。「これ、今週発売になった雑誌。ジンがインタビューされてる記事が出てる。いつものように和訳をつけといたから」「ありがとうございます」 甲さんが鞄から雑誌を取り出して私に手渡してくれた。 ジンが載

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status