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第二話

Auteur: 夏目若葉
last update Date de publication: 2024-12-18 19:12:16

「しかし、こんな日にまで地味なスーツでドタバタ走るなんてな」

 客観的感想を述べる武田くんに対し、ムスッとして口を尖らせた。

 武田くんは早々に大手企業から内定をもらっているから、私と違って気持ちに余裕がある。

 私も早く就職を決めたいけれど、なかなかうまくいかないのが現状だ。

「怒るなよ。珍しいと思っただけだ。世間じゃ今日がなんの日かくらい知ってんだろ」

 もちろん知っている、と私はそれに無言でうなずいた。

 このカフェの店内も、今月に入ってから存在感のある大きなツリーが置かれ、赤や緑のモールで派手な飾りつけがしてある。

 今日はクリスマス・イヴだ。ロマンティックな恋人たちの日なのに、私は面接が長引いたからバイトに遅刻したと、リクルートスーツ姿でドタバタと息を切らして走っていた。

 恋人のいない私には、クリスマスなんて関係ないのだけれど、今日の格好はさすがに自分でも色気がないと思う。

「武田くんだって、デートしないでバイトしてるじゃない」

「そうだな。俺も彼女いないから。恋人のいない者同士、バイト終わったらどっか行くか? 飯くらい奢ってやるよ」

 武田くんの言葉が冗談なのかそうではないのか、いまいちわからなくて押し黙る。

 彼が友達という枠を超えて言っているのだとしたらどうしよう、と一瞬臆したが、それは考えすぎだろうか。

「ごめんね。実はお母さんが昨日から体調悪くて、バイトが終わったら晩ご飯を作らなきゃいけないの。お姉ちゃんが仕事終わりにケーキを買って帰ってくれるから、今年は家族でクリスマスなんだ」

 笑みを浮かべたつもりだが、うまく笑えていたのか自信がなくて武田くんから目を逸らしてしまう。

「そうか、残念」

 彼が一瞬、心配そうな顔をしたように見えたけれど、それは気のせいだと思いたい。

 実は先ほどの発言には、いくつかのウソが混じっている。

 それを見透かされた気がしてソワソワしてしまった。

 私の家庭は結構複雑だから、それを正直に周りに話すのが嫌で、いつの間にか言い訳のように取り繕う習慣がついているのだ。

 まず、母が昨日から体調が悪く、私が夕飯を作ろうと考えているのは本当だ。

 だけど以前から武田くんには、二歳年上の姉は会社勤めをしていて、父親は現在単身赴任中なのだと伝えているが、本当は姉は夜の街で働いているし、父は私が高校二年のときに失踪した。

 父がいなくなったために姉は大学を辞め、夜の街で働く道を選ばざるをえなかった。

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