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第十二話

Penulis: 夏目若葉
last update Terakhir Diperbarui: 2024-12-22 19:28:44

「香ちゃんを車で送ったあと、僕がまたここに戻ってこられたらいいんだけど、ちょっとこのあとどうしても外せない仕事があって……」

 相馬さんは腕時計で時間を確認しつつ、どうしたものかと考えこんでしまった。

「私のことは気にしないでください。なにか困ったことがあれば名刺の番号に電話、ですよね」

 電話をしなくてはいけないような非常事態は、この一晩で起こらないだろうけれど、相馬さんと姉を安心させるために今はそう言うしかない。

「由依ちゃん、申し訳ない。あとで香ちゃんに由依ちゃんの番号を聞いておいて、僕からも気になったら連絡するからね」

「わかりました」

「それに、今日はジンもいるから。僕に電話しづらいことなら、ジンに言ってくれても構わないよ。彼は悪いヤツじゃないし、話し相手くらいにはなるかな」

 じっと黙って聞いていたけれど、苦笑いする相馬さんにどう返事をしていいかわからずにさすがに困ってしまった。

 私が不安だったり寂しかったらかわいそうだと、相馬さんが気を遣ってくれているのはもちろんわかっている。

 だけど今日は特に精神的に打ちのめされていて、心の中がめちゃくちゃで、到底そんな気分ではないのだ。

 初対面のジンと愛想よく喋る気力なんて私にはもう残ってはいない。

 それでも相馬さんには、わかりましたと取ってつけたような笑みを顔に貼り付けた。

 今の私には、そう振る舞うことしかできない。

「由依、お母さんのことは私にまかせて。できるだけ早く由依が家に戻れるようにするから」

 姉の口調は真剣だけれど、その瞳は不安でいっぱいだった。

 結局、姉も今のところ具体的な解決策は思い浮かばず、どうしていいのかわからないのだろう。

「お姉ちゃん、無理しないでね。身体に気をつけて」

 軽く微笑み、肉付きのない華奢な姉の背中を玄関先でポンポンとさする。

 姉は元々細身だけれど、また痩せたようだ。

 相馬さんがこの部屋の鍵を私に渡すと、姉とふたりで玄関を出た。

 その背中を見送り、扉がガチャリと完全に閉まると身体の力が抜けていく。

 私は先ほど案内された部屋へ再び戻り、この空間がしばらくは私の住処なのだと考えたら、どうしようもなく泣きたくなってきた。

 椅子に座り、両手で顔を覆うと涙が出そうになったけれど、それを払しょくするようにふるふると小刻みに頭を振った。

 もうなにも考えられないし、
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