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栗山徹史:重いとか軽いとか

last update publish date: 2026-10-28 16:07:30

人を好きになるのに軽いとか重いとかで、簡単に気持ちを推し量っていいものなのだろうか。誠心誠意、自分なりにその人のことを心から愛しているだけ。重さで量るようなものじゃない。なのに、自分が出会う人達は『若いうちは遊びたい』と言って本気の恋をしたがらない。よって自分のような人間は敬遠される。

 大学最後の年に結婚を考えるほど好きだった人がいた。彼女との将来の為に就職活動も死に物狂いでして、それなりの名の知れた企業から内定をもらうことが出来た。そんな矢先に、彼女が他の男とホテル街へ消えていったのを見てしまった時は絶望した。

 就活でお互いになかなか会えなくとも、毎日連絡はとっていたし、電話もしていた。この会えない時間は彼女との将来の為だと信じてきたのに呆気なく裏切られ、未来設計は崩壊していった。

 それでも何処が悪かったのと問うてみれば『徹史てつしの愛は重すぎる。もっと気楽に付き合いたかった。結婚だなんて、まだ考えていない』と返ってきた。今回だけじゃない皆、口を揃えて言ってくる。『顔に似合わず重い』『徹史の愛は私じゃ受け止めきれない……』自分は唯、真剣に恋愛をしたいだけなのに……。

「でさ、年下の彼氏がピュアで可愛くてさ」

 春を迎え、学生から社会人になって早一ヶ月が過ぎた。栗山徹史くりやまてつしは大型連休に入り、未だに癒えない失恋の傷を抱えながら大学時代の友人である千坂(せんざか)昭(あき)良(ら)と繁華街の居酒屋で愚痴大会を繰り広げていた。とはいうものの、会社への愚痴は八割がた千坂のもので、気づけば愚痴が彼自身の恋人との惚気話にすり替わっていた。

「千坂の恋人って大学生だっけ?」

「そうそう、大学一年生。まだ高校から上がりたてのピチピチよ。俺の方が年上だろ?だから相手はうーんっと甘えてくんだよ」

 頬を緩めて幸せそうにスマホの待ち受け画面の恋人とのツーショット写真を見せつけてくる。確かに、見た目からして実家のポメラニアンを彷彿とさせるようなふわふわとした青年だ。元ラグビー部で体格の良い千坂とは美女と野獣ならぬ美男と野獣のような組み合わせではあるが、終始ラブラブであることは写真からも伝わってくる。

「幸せそうでいいなー……。俺も好きな人ほしいかも……」

 人の幸せ話を聞いて羨ましく思うのは、徹史の心のぽっかりと空いた穴が未だに埋められていないからだった。

 しかし、出会いなんて学生の頃に比べたら愕然と減ってしまう会社勤めの徹史に新しい春が訪れるのは遠い未来のような気がした。

職場恋愛という線もあるが、周りの目もあってかハードルが高い。それに、自分は公私を分けて仕事ができるほど器用ではなかった。好きな人が職場にいたらその人しか見えなくなってしまうほど、恋愛に溺れやすい性質だと自覚はある。

 それでも、気になる人くらい居たら毎日が楽しいんだろうな……。

「お前はまず、その凝り固まった恋愛観をどうにかしろ。大学生の分際で指輪を渡すとか馬鹿すぎるだろ」

「だって、好きになる人にはいつだって本気だから……。それにあの時は社会人になってお互いに会える時間が減ると思ったから結婚してしまった方がもっと一緒にいれるかなー……って思ったんだよ」

 容赦のない千坂の詰りに徹史はそっぽを向いて唇を尖らせる。

「お前って顔面は軽そうに見えてホント考えることは重いよな。連絡とかマメにするタイプだろ?」

「うん、毎日おはようとおやすみは絶対する」

 徹史の中では恋人同士なら当たり前のことを言っただけであったが、千坂はあからさまにどん引いたように苦笑を浮かべてきた。

「うわー。そりゃあ、彼女も離れてくだろ。二十代前半なんて遊びたい盛りなんだからさぁ、もっと気楽に恋愛しろよ」

「そんなこと言われても……。俺はいつだって本気で恋愛がしたい」

 向かいから呆れたような溜息が聞こえてくる。千坂の言う通り、他者への執着心があることは自覚しているが、直せと言われてそう簡単に直せるものじゃない。 

 好きな人ができるとその人しか見えなくなる。それの何がいけないのだろう……。

 そう思う反面で、今回の失敗は自分にも非があると改めなければならないことも頭では理解していた。せめて次に誰かを好きになった時は必要以上に詮索したり、指輪を贈ったりの世間で言う『重たい』と言われる行動は避けようと思っていた。

「千坂は、その子とどこで出会ったの?」

「繁華街の路地にあるところのバーだよ。お前は行ったことないだろ?」

 千坂は大学生の頃から恋愛対象が同性であることは知っている。在学中も全くその手のことには抵抗がなかった徹史に、何度惚気話を聞かされたことか……。 

 そんな千坂が行きつけるバーなのだから同じ恋愛志向が集まる場所に違いないのだろう。

「うん……。やっぱりその、千坂みたいな人が集まる店なんだよね?」

「まぁ……。両方いけるって奴も中にはいるけどな。お前が抵抗なければ行ってみるか?新境地開けるかもしれないぞ?」

 ニヤニヤと頬を緩ませる千坂と自分の手元を交互に見遣る。同性を恋愛対象として考えたことがないから分からない。行ったところで結局自分は異性愛者だと分かれば冷やかしになるような気がして素直に頷けなかった。

「そんなところに俺が行って大丈夫なの?俺、同性を好きになったことないから確信がないし、単なる冷やかしにならない?」

「ならねぇよ。強いていうなら、獣の餌食になるかもな」

 千坂が両手をガオっと顔の横に出して、徹史に向かって食らいつくすような動作をする。

 「獣⁉俺、ライオンかなんかの餌になんの?まだ死にたくないんだけど……」

 俺は肉食獣と戦いをさせられるのだろうか……。

 そんなことを考えていた徹史の発言に「そっちの意味じゃねーよ。お前のケツの穴だよ」と補足されたことで、全てを理解した。いわゆる処女を奪われるという意味なのだろう。徹史は同性のモノが自分の肛門に入る想像しては身震いして、自然と穴を窄めようと臀部に力を入れた。

「まぁ、でも。お前みたいな堅物は一回くらい遊んでもらった方が、その凝り固まった脳みそもほぐれるかもな。踏み込んでみるのもありだと思うぜ?」

 千坂は鼻で笑いながら柄シャツの胸ポケットからお店の名刺を渡してくる。『ZUMI,S  Barズミーズバー』と書かれた名刺には住所と簡易的な地図が示されていた。

「千坂は一緒に来てくれないの?」

「行くわけないだろ。あんな可愛い彼氏いんのに行く必要ねーもん」

 確かに恋人持ちが出会いの場でもあるバーに行くなんて禁忌ではあるが、世の中には二方向でつまみ食いをしている奴がいることも事実である。けれど、千坂は『もっと遊べ』なんて人に言っているものの、あっちこっちに手を出しているような話は聞いたことはないので一途なのだろう。そんな千坂に焚きつけられ、恋人が家で待っているからと早々にお開きになった彼と別れて、例のお店に向かってみることにした。

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