それでも好きな人

それでも好きな人

last updateLast Updated : 2026-11-03
By:  小湊なめめUpdated just now
Language: Japanese
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新卒一年目の春。 大学最後の卒業間近に結婚まで考えるほど好きだった恋人に浮気され、振られた栗山徹史の心は未だに癒えていなかった。彼女に別れ際に放たれた言葉は「徹史の愛は重すぎる」だった。 挙句の果てには友人でゲイの千坂にも同じように詰られて凹んでいると、 彼から出会い系バーを紹介される。 恋愛に飢えていた徹史は軽い気持ちでそこの店に足を踏み入れてみると、店の入り口前で恋人らしき人と口論しどこか現な表情で煙草を燻らせている櫂理人の姿があった。 そんな寂しそうな彼の姿に栗山はその男に一目ぼれしたがどうやら一筋縄ではいかず…。 好きだけど言えない気持ち。好きなのに本気になりたくない。そんなセフレの苦い恋のお話。

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Chapter 1

栗山徹史:プロローグ

繋がる身体。ベッドを軋ませながら自分の腰の動きに合わせて淫らに上半身を揺らす彼。

「理人まさとさん……。理人さん」

 手に入れたい程、愛おしい人の火照った顔を見つめながら名前を呼ぶ。

「くりやまっ……」

 今にも限界を迎えそうなのか、快感に溺れて苦しそうに自分の名前を呼ぶ彼の姿が愛おしい。

 この人に愛していると告げられる日は来るのだろうか。彼に愛が伝わる日は来るのだろうか。

 決して口にしてはいけない言葉だと分かっていても、理性を飛ばした頭でうっかり零してしまいそうになる。その言葉を零してしまえば、この人との関係が終わってしまうと分かっていても想いを告げてしまいたい。愛していると……。

 言葉を堪えて、奥を突きながら絶頂を迎えそうな愛おしい人のモノを掌で握りしめて先端を親指で塞ぎ止める。

「あっ、あっ……。くりやまっ、苦しい……。出したいっ、て、手放してっ……」

「理人さん、まだダメです」

 欲を満たすために抱かれている貴方と愛したい為に抱いている俺とじゃ温度差が違うことは痛感している。こんな甚振るようにじゃなくて、貴方の身体を慈しむように優しく抱きたい。けれど、少しでも気持ち乗せて抱いてしまえば悟られそうで自分を戒めるようにわざと貴方を苛める。

  それでも止められない……。

 好きでいることも、貴方を抱かせてもらえていることも……。

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栗山徹史:プロローグ
繋がる身体。ベッドを軋ませながら自分の腰の動きに合わせて淫らに上半身を揺らす彼。「理人さん……。理人さん」 手に入れたい程、愛おしい人の火照った顔を見つめながら名前を呼ぶ。「くりやまっ……」 今にも限界を迎えそうなのか、快感に溺れて苦しそうに自分の名前を呼ぶ彼の姿が愛おしい。 この人に愛していると告げられる日は来るのだろうか。彼に愛が伝わる日は来るのだろうか。 決して口にしてはいけない言葉だと分かっていても、理性を飛ばした頭でうっかり零してしまいそうになる。その言葉を零してしまえば、この人との関係が終わってしまうと分かっていても想いを告げてしまいたい。愛していると……。 言葉を堪えて、奥を突きながら絶頂を迎えそうな愛おしい人のモノを掌で握りしめて先端を親指で塞ぎ止める。「あっ、あっ……。くりやまっ、苦しい……。出したいっ、て、手放してっ……」「理人さん、まだダメです」 欲を満たすために抱かれている貴方と愛したい為に抱いている俺とじゃ温度差が違うことは痛感している。こんな甚振るようにじゃなくて、貴方の身体を慈しむように優しく抱きたい。けれど、少しでも気持ち乗せて抱いてしまえば悟られそうで自分を戒めるようにわざと貴方を苛める。 それでも止められない……。 好きでいることも、貴方を抱かせてもらえていることも……。 
last updateLast Updated : 2026-10-28
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栗山徹史:重いとか軽いとか
人を好きになるのに軽いとか重いとかで、簡単に気持ちを推し量っていいものなのだろうか。誠心誠意、自分なりにその人のことを心から愛しているだけ。重さで量るようなものじゃない。なのに、自分が出会う人達は『若いうちは遊びたい』と言って本気の恋をしたがらない。よって自分のような人間は敬遠される。 大学最後の年に結婚を考えるほど好きだった人がいた。彼女との将来の為に就職活動も死に物狂いでして、それなりの名の知れた企業から内定をもらうことが出来た。そんな矢先に、彼女が他の男とホテル街へ消えていったのを見てしまった時は絶望した。  就活でお互いになかなか会えなくとも、毎日連絡はとっていたし、電話もしていた。この会えない時間は彼女との将来の為だと信じてきたのに呆気なく裏切られ、未来設計は崩壊していった。  それでも何処が悪かったのと問うてみれば『徹史の愛は重すぎる。もっと気楽に付き合いたかった。結婚だなんて、まだ考えていない』と返ってきた。今回だけじゃない皆、口を揃えて言ってくる。『顔に似合わず重い』『徹史の愛は私じゃ受け止めきれない……』自分は唯、真剣に恋愛をしたいだけなのに……。「でさ、年下の彼氏がピュアで可愛くてさ」  春を迎え、学生から社会人になって早一ヶ月が過ぎた。栗山徹史は大型連休に入り、未だに癒えない失恋の傷を抱えながら大学時代の友人である千坂(せんざか)昭(あき)良(ら)と繁華街の居酒屋で愚痴大会を繰り広げていた。とはいうものの、会社への愚痴は八割がた千坂のもので、気づけば愚痴が彼自身の恋人との惚気話にすり替わっていた。 「千坂の恋人って大学生だっけ?」 「そうそう、大学一年生。まだ高校から上がりたてのピチピチよ。俺の方が年上だろ?だから相手はうーんっと甘えてくんだよ」  頬を緩めて幸せそうにスマホの待ち受け画面の恋人とのツーショット写真を見せつけてくる。確かに、見た目からして実家のポメラニアンを彷彿とさせるようなふわふわとした青年だ。元ラグビー部で体格の良い千坂とは美女と野獣ならぬ美男と野獣のような組み合わせではあるが、終始ラブラブであることは写真からも伝わってくる。 「幸せそうでいいなー……。俺も好きな人ほしいかも……」  人の幸せ話を聞いて羨ましく思うのは、徹史の心のぽっかりと空いた穴が未だに埋められていない
last updateLast Updated : 2026-10-28
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栗山徹史:儚くて素敵な人
札幌の中心部。夜の街と言われている繁華街。路面電車の通る大きい道路から中道へと入ったところで眩しい電飾の看板が立ち並ぶ、商業ビルの三階に千坂に紹介された店はあった。階段を上っている途中で誰かの怒鳴り声が聞こえてきて、思わず階下で足を止める。『お前もいい加減、年なんだから将来を考えた付き合いをした方がいいっつってんの。三十間近になっての売れ残りネコなんてセフレでも抱きたいとは思わねぇよ』『はぁ?若い男にしか興味ないやつに言われたくねーよ。大きなお世話、お前なんかこっちから願い下げだわ。とっととうせろ』 やはり此処は徹史のような平凡な男が来てはいけない場所なのではないだろうか。分不相応な気がする。 今ならまだ引き返せる。そう思ったが、少しの好奇心から階段を一歩ずつ進めていくと、勢いよく駆け降りていく男とすれ違った。今の一瞬で男の口元が少しだけ切れていたのが見えて、ギョッとする。このまま上って行ったら確実に喧嘩の相手はいるだろうし、引き返すべきかと考えたが、それを凌駕する好奇心が勝って徹史は更に足を進めた。 三階へと辿り着くと、目的のお店の扉横で煙草を燻らせながら物思いにふけた様子の男がいた。煙草を吸う男性など職場の給湯室で嫌と言うほど見ているはずなのに、徹史は不覚にもドキッとした。煙草の吸い口から離された唇がやけに艶っぽい……。右の目頭の下にある黒子が魅力的で冷めたような眼差しで煙を追う虚ろな切れ長な瞳はどこか守りたくなるほどの儚さを感じた。「何見てんの?」 徹史が思わず見とれていると、男と視線がかち合い、眉を寄せて怪訝そうな表情で問われる。「いいえ……」 声質からきっと、『うせろ』と怒鳴っていた方で間違いない。徹史は明らかに喧嘩腰の相手に怖気づいて咄嗟に俯くと、逃げるように店の中へと入った。    店内に入ると、全体的に薄い桃色の蛍光灯がバーの雰囲気を醸し出していた。カウンター席の後ろには四人ほど座れるボックス席が三つ。数名ほどではあるが客もいて、一番奥のボックス席では目を伏せたくなる程、男性同士がキスなんかをしてイチャついている光景があった。 徹史は店内を見渡した後で、出入り口に近いカンター席に座ると、バーカウンターに立っている胸板の厚い女性的な立ち姿のオーナーからお酒を頼んだ。 御酒を呑んだところで自ら誰かに話し掛けるような勇気はな
last updateLast Updated : 2026-10-28
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栗山徹史:念願のお近づき
それ以降、徹史はお店に毎日通っていた。一番の理由は自分を助けてくれた男に会うため。御礼を言いたかったのは勿論だが、できることなら彼とお近づきになりたかった。男はほぼ毎日来ていて、世間では連休だというのにスーツで来店してくるときもあった。 どうやら彼は徹史のような土日、祝日休みの営業マンではないらしい。身に付けているものも上質な時計だし、整髪料をつけ、身なりも常に整っているところから人前に出る仕事のような気がした。店に来るなり一人でゆっくり御酒を嗜んだかと思えば、オーナーと仲がいいのか終始お喋りをして帰っていく。 話し掛けるチャンスがなかったわけではないが、勇気とタイミングが合わず、なかなか声を掛けられずにいた。最初から露骨に好意を寄せているアピールは、それでこそ重いと言われかねない。第一印象が肝心であることが分かっているからこそ、失敗は出来なかった。   徹史が勇気を振り絞って話し掛ける気になれたのは、助けて貰った日から五日後のことだった。 週末の金曜日。休みだった会社も始まり、仕事の帰りに何時もの店へと足を運ぶ。オーナーに「今日はスーツなのね」と少しだけ持てはやされた後で、店内の扉側のカウンター席に座る。店の奥には、あの男がぼんやりと一点を眺めながら退屈そうにグラスに口をつけていた。 その姿に艶めかしさを感じてゾクっとしながらも、徹史は自分の御酒を持って男の元へと向かう。「あ、あのっ。ご一緒してもいいですか?」「ええ、どうぞ」 声を上擦らせながら男の横顔に話し掛けると、此方を一瞥してきた。自らの右隣の座席に置いていた鞄を左隣の椅子へと移動させると、空いた席を目差ししてくる。同席の許可を得たことに安堵するが具体的な策があるわけではない。「あの……。この間はありがとうございました」 座席につくなり、男に向かって頭を下げる。しかし、男は身に覚えがないのか首を傾げたので慌てて「その……。薬の入った御酒を飲まされそうになったのを止めてくださって……」と補足すると「ああ……。そんなことあったっけ……」と忘れていたのを思い出したかのように呟いた。赤の他人を助けるなんて簡単にできることではない。  あくまで徹史の勘ではあるが、この人は悪い人ではない気がした。外見だけじゃなくて内面も魅力的な人だと分かると益々、恋心が燃えてくる。 何としてでもこの人を手
last updateLast Updated : 2026-10-28
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栗山徹史:触れる身体①
お勘定は理人さんが持つというので、彼のお言葉に甘えてお店を後にした。大きい通りの繁華街から徒歩十分ほどの場所にあるホテル街へと向かうのかと思ったが、少しだけ外れた場所まで歩かされる。徹史は首を傾げつつも緊張と理人さんに触れられる歓びで頭がいっぱいだった。 同性を相手にするのは初めてだから上手くいくだろうか……。 僅かな不安を抱きながら理人さんについて行くと、ブルーライトの看板が目に留まる建物の前で立ち止まった。 一見ラブホテルだということを感じさせない程、一般的なホテルの外観と変わりない。そもそも徹史自身、異性の恋人がいたことがあっても施設を利用する機会はなかった。致すにしても大半は独り暮らしの部屋で、ホテルと言えば、如何にもソレを指すような外観を想像していただけに呆気にとられる。   一方で理人さんは、先陣を切って中へと入って行くと、建物内に入ってすぐのパネルを眺めて颯爽と部屋を選び、エレベーターに乗り込んでしまった。見慣れない黒い床にピンクの蛍光灯の内装。右往左往としている間にも早々と先を行く彼に戸惑いながらも後に続く。 理人さんが選んだ部屋は、落ち着いて寝泊まりが出来そうなほど一般的なホテルと大差のない部屋だった。強いていうのであれば、ダブルベッドのヘッドボードに何のスイッチか分からないような数種類のボタンと避妊具が常備されているところだろうか。「勝手に決めちゃったけど良かった?」 彼は部屋に入るなり、我がもの顔でソファに革製の手提げ鞄を投げ置くとネクタイの紐を解き始めた。ネクタイと釦が解かれた襟元から彼の首筋が見えて、思わずゴクリと唾を飲み込む。「あ、はい。俺、ホテルとか初めてで道理とか分からないので理人さんの好きにしてもらえると助かります……」 経験豊富そうな理人さんの前で正直に話す恥ずかしさはあったが、素直にそう伝えると彼は口をあんぐりと開けて驚いていた。「まじ?大学生のときとか大勢で遊んだりしなかったの?」 物珍しそうに目を丸くして驚く。男女大勢でホテルに行って遊ぶなど話では聞いたことがあったが、徹史自身は健全なお付き合いしかしてきたことがない。もしかしてこういうのも『重たい』という印象を与えてしまうのだろうか。ここで敬遠されてしまえば全て終わってしまうような気がして、徹史は慌てて「えっと、家が多かったから……」と曖昧に誤魔化し
last updateLast Updated : 2026-11-01
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栗山徹史:触れる身体②
 同性同士は異性相手と手順が同じなのだろうか。 千坂曰く、お尻の穴がどうのとか言っていたけど具体的なところまでは分からない。でも、理人さんは全て知っていて慣れているのだろう。だからと言って相手に任せきりのままではいかないだろうし、漸く彼に近づくことができたのに下手だからと幻滅されたくなかった。 浴室を出てからのことを考えながらシャワーを浴びては、ホテルの備え付けのバスローブを羽織る。深呼吸をしてから扉を開けて、部屋に戻ると入れ違いで理人さんが浴室へと入って行った。 理人さんがシャワーを浴びている間、徹史は落ち着いていられるはずもなく、ソファとベッドを行き来する。ソファに居て出迎えるべきか、直ぐに始められるようにベッドで待機しているべきか。後者だと明らかにやる気満々のような気がして彼に引かれてしまわないか心配だった。悩んだ末に、露骨にベッドの上に乗って待つのではなく、ベッドの縁に腰を掛けて待っていることにした。 暫くして理人さんがバスローブ姿で出てくると、此方へ近づいてきたかと思えば、躊躇なく徹史の膝の上に跨ってきたので狼狽える。「まっ……。理人さん⁉」「回りくどいのとか嫌いだから、さっさとヤろうぜ」 咄嗟に彼が落ちないように腰を支えた右手が震える。上から見下ろして悪戯に笑みを浮かべてくる彼に胸を弾ませながら、これから誘われるのであろう快感に興奮が止まらない。「んっ……」 徹史の性的スイッチを目覚めさせるような彼からのキス。初めての彼の唇の感触。何度か触れるようなキスを繰り返したことによって、緊張が欲望へと変わるまで時間がかからなかった。 もっとこの人の奥に触れたい……。「んっっ……」 徹史は無我夢中で理人さんの唇を割ると、中で舌先が触れ合った。お互いの舌先をすり合わせるようなキスは心地よかったが、やはり理人さんはキス一つにおいても自分よりも何枚も上手で、次第に彼のペースにのまれていく。 リードすると言うより、彼に追いつくのに必死で、どうにか主導を得ようと舌先で葛藤を繰り広げていると、唇が離された。「君さ、もしかして初めて?」 眉間に皺を寄せた表情に自分は理人さんの嫌なやり方をしていたのではないかと不安になる。「えっと……。同性は初めてです……」 理人さんと出会ったお店は同性が恋愛対象である人が集う場所。そんな場所に、異性愛の自分が行
last updateLast Updated : 2026-11-01
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栗山徹史:触れられない心
初めての理人さんとの行為は今まで以上に幸せな気分だった。男の人でイける自分に驚いたが、何より、理人さんが自分のモノで感じている姿が芸術品のように綺麗で脳が震えるほど、徹史を虜にさせていた。 暫く余韻に浸る徹史の一方で理人さんは終わった瞬間にベッドから降りると裸のままソファに足を広げて座り、一服を始める。 事後は身を寄せ合ってイチャイチャするものだと信じて疑わなかった徹史にとって彼の行動は少し寂しく感じた。しかし、世の中には事後は淡泊になる人だっていると耳にするし、致し方ないのかもしれない。まだ正式に交際を申し込んだわけではないけれど、身体から関係が始まることもある話だし、期待をしていいんだろうか。 徹史は理人さんの姿を目で追いながらベッドから起き上がる。煙草の煙を燻らせて物思いにふける彼の姿にドキッとさせられながらも、徹史の頭の中は今後のことでいっぱいだった。「あの……。理人さん、俺達って……。その……」「あーそうだ。連絡先教えてよ?」「はいっ」 徹史が本題を切り出そうとしたのと同時に、理人さんがスマホを手にして左右に振ってきたので、大きく頷いた。彼の気が変わらぬうちに急いで鞄からスマホを取り出すと理人さんの座るソファの隣に正座をした。お互いのQRコードを読み取って連絡先を登録する。「連絡してダメな時とかある?」「いいえ、特にないです。できれば毎日……。いや、理人さんはありますか?」 できれば毎日したいと提案しようとして言葉を呑み込んだ。それはきっと世間で言う『重たい男』の典型的な行動のような気がしたからだ。理人さんは恋愛関係においてかなり淡泊そうだし、ここは自分も大人になって相手のペースに合わせることが必要な気がした。「ないけど、あまり私情に踏み込んでほしくないから誘いのメッセージ以外送ってこないで」「はい……」 誘いの連絡以外してくるなということは、恋人特有のイチャイチャメッセージも禁止ということだろうか。せめて週一くらいはやり取りを通して、彼の好きなものとか彼のことをもっと知りたかったがそれも禁止なのだろうか。「あと、仕事の繁忙期は俺からするとき以外は時間作れないときがあるけど」 想像以上に淡々としている彼を見て、本当に付き合っている方向で合っているのだろうかと不安になる。今までの恋愛遍歴が当てにならないほど、この人との距離感が
last updateLast Updated : 2026-11-01
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栗山徹史:クリスマスの後の約束
理人さんとの肉体だけの関係が続いて半年が経った師走。毎週末の仕事終わりに落ち合ってはそのままホテルへ直行するのが当たり前になっていた。 そこで恋人のように食事をして、たまに休みの日は出かけて……なんてことはなく、ただ単純に欲を満たすだけの時間。 最中も最初こそはたどたどしかった徹史も回数を重ねる度に、彼が悦ぶポイントを見つけて責めてあげるのが得意になっていた。理人さんは激しく甚振られるのが好きなのか「もっと………」と強請ってくるのが、どこか彼の中の心の錆を取り払ってほしいと切願しているように感じて、この人を救いたいと思うのに彼の望むままに応えることくらいしかできない自分にもどかしさを感じていた。  今日だって、背中にしっかりとしがみ付いて、達していたのに事後は最中の甘えが嘘だったかのように余韻もなく早々にシャワーを浴びに行ってしまう。 一度だけ事後に理人さんの後を追ってシャワー室まで一緒に入ったことがあったが、彼の綺麗な背中を見ていると堪らず触れたくなってしまい、そのままの流れでシてしまった。それが彼には凄く不快だったのか、それ以来一緒にシャワーに入るのは禁止になった。 徹史はベッドで行為の余韻に浸りながらも、シャワーの音が止むのを枕に顔を埋めて待つ。 暫くして水音が止み、シャワー室から理人さんが出てきた。前髪を梳きあげて、下はスーツのズボンに気持ち程度にワイシャツを羽織った姿でソファに座る。 この一週間、待ちに待っていた数時間のひとときが終わりを告げることに寂しさが増した。「お前もシャワー浴びてこい。浴びたら出るぞ」 徹史が執拗以上に求め、合意を得た時以外は泊まりなんてしないし、理人さんは長時間だらだらいるのは割り切った関係である以上必要ないと嫌がる。 徹史は、のそりと上体を起こすと彼の横顔をじっと眺めていた。今日は理人さんと会う前から決意していたことがあった。それは彼を食事に誘うことだった。 決行日は十二月二十六日の金曜。理人さんの為に三カ月待ちだという三ツ星レストランを予約した。すべては理人さんとゆっくり時間を過ごしたいという徹史の切なる願いのために……。 デパートの催事の責任者だと聞いていた彼がクリスマスという一大イベントの日が空いている訳が無い。 それに、あからさまにクリスマスにしたら変に勘ぐられてしまいそうなので敢えて外
last updateLast Updated : 2026-11-01
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栗山徹史:愛しているのに①
理人さんとのデート当日。いつもはホテル街で待ち合わせをするが、今日はお互いの会社から近い駅方面で落ち合った。 徹史はこの日の為に初めて新調した三つ揃いの紺色のスーツに、朱色の水玉ネクタイを合わせて、少しでも理人さんと並んで恥ずかしくないように、さりげなくいつもと違うことをアピールしたくて、身なりから気合が入っていた。 ホテルの上階にある夜景が映えるレストランに到着してコートを脱ぐと、早々にスーツがいつもと違うことを突っ込まれたが適当にはぐらかしてやり過ごした。理人さんは自分の身体以外には興味がないと思っていただけに、徹史の身なりなど逐一気にしてなどいないと思っていた。思わぬところで彼に気づいて貰えて嬉しくなり、心の中でガッツポーズをする。我ながらかなり奮発して新調した甲斐があった。 しかし、身なりで背伸びをしていても、実際に畏まった食事が初めての徹史は終始緊張していた。予習はしてきたものの所作の自信はない。 一方でテーブルの向かいに座る理人さんは、運ばれたコース料理をナイフとフォークを使って慣れた手つきで口へと運んでいたので経験の差を見せつけられる。「お前を見ていると、背伸びしている感出ていて面白いよな」「背伸びしてる感って……。去年まで大学生だったんですから仕方がないじゃないですか……」 明らかに揶揄われていると分かる言動に躍起になるが、不思議と嫌な感じがしないのは初めて彼とベッドの上以外で真面に会話ができている高揚感からだった。     窓際の席で街を一望できる夜景と高価なディナー、それに目の前には好きな人。理人さんと関係を結んでからこんな日が来るとは半年前の自分は思わなかっただろう。「ムキになるなって。俺からしたら初々しくて新鮮だなって思っただけだよ」 徹史が普段見ている彼とは違う、表情の柔らかさを感じた。いつもは一文字に引かれている口元が綻んでいる姿は徹史の胸を燻る。「それって、俺のこと可愛いってことですか?」 単なる戯れだと分かっていても、レストランの雰囲気がそうさせるのか、理人さんの一つ一つの仕草に浮かれてしまう。「たかがセフレにそんなこと思う訳ないだろ。調子に乗るな」 浮かれた徹史を冷たく突き放してくる彼は通常通りであるが、黙っているだけじゃいられない。「調子に乗ってなんかいないですよ。そんな理人さんだって、お澄まし顔で
last updateLast Updated : 2026-11-01
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栗山徹史:愛しているのに②
「じゃあ、理人さんは今まで人を好きになったことはないんですか?」 彼にとってこの質問が地雷だと分かっていても聞きたい。その凍てついた心を溶かせる手段を少しでも見つけられるのであれば……。「……ないわけじゃない」 僅かに彼の口元が歪む。「あるんですか?どんな人ですか?」 純粋な興味もあったが淡泊な理人さんが好きになった人くらいなのだからどれほど魅力的な人だったのだろうか。徹史が身を乗り出して問うたせいか、理人さんは「なんでお前に話さなきゃなんねぇの」と怪訝そうな表情を見せてきた。「いつも淡泊な理人さんが好きになる人。純粋に気になるんです。それに、俺の今後の参考にしたいので教えてください」 一見冷たく突き放してくる彼でも、根は面倒見のいい優しさがあるのか、徹史が折れずに押し続けていれば理人さんの方から折れてくれたりする。敬意を込めて、逸らすことなく理人さんをじっと見つめ続けていると、向かいから大きな溜息が聞こえてきた。 無意識なのかスーツの胸ポケットから煙草を半分出したところで、場所が禁煙ということを思い出し、舌打ちをしていた。 どうやら徹史の執念が効いているようで、理人さんは手元にあったワインを飲み干し、ウェーターにおかわりを頼むと「分かったよ」と半ば投げやり口調ではあったが話してくれる気になったみたいだった。「よくも悪くも一途な奴だった。他に好きな人がいてさ、そいつしか見えていなくて、最初は遊び程度で関係持っていたんだけど、だんだん情が湧いてきたんだよ。丁度、クリスマスだったかな……。そいつの誕生日に奴の好きな人の代わりになって抱かれてやったんだよ。好きな奴に俺じゃない名前呼ばれながら抱かれてやんの。うけるだろ?まぁ、最初から割り切った関係だったし、今じゃいい思い出だよ」 自虐的に苦笑を浮かべながら、もう一度ワインに口をつける理人さんの表情がどこか苦しそうだった。本人はいい思い出だと言っているが、好きな人に他の誰かの身代わりとして抱かれるのは想像しただけでも、胸が張り裂けそうになる。 理人さんは真面に誰かと愛し合うような恋愛をして来なかったのではないだろうか。だから恋人を作ることを拒絶している。恋心を持ったとしても叶わない、想い合うだけ無駄だと思ってしまっている。  誰かと想い合えることの喜びだとか幸せを知らないのだろう。 俺がこの人を
last updateLast Updated : 2026-11-02
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