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第4話

Author: ラクオン
桃子の表情が一瞬で凍りついた。

外に停まっている見慣れた車を目にした途端、心の奥で何かがざわついた。桃子の瞳が怒りに震え、梨花を鋭く睨みつけた。

「わざとよね?わざとやったんでしょ!」

「お姉さん、何をおっしゃってるの?私、さっきまで二階で一真へのプレゼントを用意してたのに......そんなことまで私のせいにするなんて......」

梨花の瞳は涙を浮かび、まるで深い悲しみに沈んだようだった。

その瞬間、鈴木家から来た執事の高木大輝(たかき だいき)が玄関から入ってきた。

混乱した屋内を見渡して、思わず眉をひそめた。

彼は桃子に向き直ると、静かに言った。

「桃子さん、おばあさまからのお言葉です。子どもの教育が行き届いていないとのことで、まずはあなた自身を教育し直さなければならない、と」

桃子の唇が小さく震えた。

「え?」

大輝は穏やかな笑みを浮かべたまま、手で「どうぞ」と示した。

「では、お庭で三時間、跪いてもらいます」

「大輝さん......」

梨花が口を開こうとしたが、大輝はそれを察したように制し、にこやかに言った。

「梨花さん、お願いですから、取り成しなどしないでください。数日前の拓海さんの葬式でも、あなたは本当に頑張ってくださいました。どうかお体を大切に」

「......」

違う。

彼女が本当に聞きたかったのは、おばあさんの体調が少しは回復しているかということだった。

その隙に、離婚の件を切り出すタイミングを探していた。

鈴木グループは確かに一真が経営しているが、鈴木家の問題となると、常に本家が口を出してくるのが通例だった。

桃子がどれだけ不服でも、跪くしかない。当然の報いだ。

梨花は一瞥もくれず、階段を上がろうとした。

恵が困ったように声をかけた。

「奥さん、あの絵はどうなさいますか?」

「放っておいていいわ。あとで誰かが取りに来るから。修復が終わったら戻してもらうわ」

梨花は淡々と答えた。

もちろん誰にも言うつもりはない。リビングに掛けてあった墨絵は偽物だ。

本物は友人が経営するギャラリーで展示されている。

無傷のまま。

だって、おじいさんの生前の願いは、自分の作品をもっと多くの人に見てもらうことだったから。

家の中で眠らせておくなんて、あまりにももったいない。

「悪い女!」

階段を上がろうとしたその背中に、啓介が声を荒げて叫んだ。

「おじさんに電話したからな!帰ってきたら、絶対にお前なんか......終わりだ!」

「そう。じゃあ、待ってるわ」

「お前なんかと離婚するって!お前はもう誰にもいらないボロ雑巾だ!」

梨花はふっと笑いながら言った。

「でもね、一真は君の言う通りにはしないわ」

彼と桃子には、まだ隠れ蓑としての彼女が必要だから。

彼女と離婚したら、おじさんとお姉さんが同じ屋根の下に暮らしているということになる。

そうすれば、桃子の名声は地に落ちる。

一真はそんなことを許さないだろう。

一真が帰宅したのは約二十分後のことだった。

桃子が庭に跪き始めてから、まださほど時間は経っていなかった。

黒のカシミヤコートを着た一真は、すらりとした体型に凛とした気配を漂わせ、車を降りるやいなや、まっすぐに桃子のところへ駆け寄り、彼女を抱き上げた。

彼は屋内へ入り、リビングのソファへ彼女を下ろし、凍えた膝に薬を塗りながら、眉を寄せた。

「馬鹿か、君。跪けって言われたからって、本当に跪くなよ」

「だって、おばあさまに言われたのよ?仕方ないじゃない......」

桃子は彼の袖をそっと握りしめ、目を赤くしながら震える声で訴えた。

「一真......お願い、彼女と離婚して。梨花、あの人、本当に怖いの......」

一真は微かに眉をひそめた。

「梨花のこと?」

「そうよ!」

桃子は唇を噛み締めた。

「啓介があの絵を壊したのも、彼女がわざと仕向けたのよ!」

「ママの言う通りだもん!」

啓介も泣き顔で口を挟んできた。

「おじさん、おばさんが言ってたの、あの絵の中に僕の腕を食べる怪物が隠れてるって......だから......」

「そんなこと、あるわけないだろ」

一真ははっきりと否定した。

その手で啓介の頭を優しく撫でながら言った。

「聞き間違いじゃないか?おばさんは鈴木家で一番穏やかで優しい人だよ。昨夜だって、君のこと怒ってないって言ってくれただろ?それに、おじいさんが一番可愛がっていたのは、彼女なんだ。彼女がおじいさんの遺作をそんなふざけて扱うわけがない」

その言葉は桃子に向けたものだった。

桃子の顔が引きつった。

「つまり、私と啓介が彼女を陥れようとしてるって言いたいの?一真!あなた変わったわ!」

その非難の言葉に、一真の中で怒りが湧き上がった。

けれど桃子の失望した瞳を見た瞬間、怒りをぐっと飲み込んだ。

「桃子、僕はずっと何も変わってない」

「じゃあ......聞くけど」

桃子は一真を真正面から見据える。

「梨花のこと、少しも好きになったことないって言い切れる?一度も、彼女に触れたことないって言い切れる?」

一真はずっと彼女の前ではやましいことは何もないと思ってきた。

だが、この問いには、なぜか答えが出てこなかった。

背筋が固まり、長い睫毛の影に表情を隠しながら、ぽつりと呟いた。

「一度も触れてない」

そう。彼が梨花に本当に申し訳ないと思っている証拠だった。

ちょうどそのとき、階段から梨花がゆっくりと降りてきた。

腰を軽く押さえながら、片手にプレゼントボックスを持って。そして、耳に入ったのが、今のその一言だった。

迷いもなく、濁りもない、はっきりとした言葉だった。

梨花は苦笑し、軽く唇を歪め、まっすぐ彼らに歩み寄った。

「一真、明日の晩、黒川家の宴会があるの。お祖母様があなたに出席できるか聞いてって」

黒川家のお祖母様は、梨花の両親と長い付き合いがあった。

両親が事故で亡くなったあと、梨花は黒川家に引き取られた。

世間からは黒川家の人間と見なされていた。

そして彼女が鈴木家に嫁いだあとも、黒川家と鈴木家のビジネスは続いていた。

一真はちょうど罪悪感が込み上げていたのだろう。すぐに返事をした。

「分かった。明日の夜、迎えに行く。いっしょに帰ろう」

「うん」

梨花は手に持ったギフトボックスを見つめ、彼の隣に座る親子を見た。

空気を読んで、それ以上何も言わず、くるりと背を向けて玄関へ向かった。

今日は綾香と食事の約束があった。

彼女の裁判が無事勝訴となり、お祝いのため街に出る予定だった。

梨花が足を痛めたことを知って、レストランでの食事だけに変更された。

「梨花!」

一真がなぜか思わず呼び止めた。

「その箱、何?」

梨花は振り返り、手にした箱を軽く揺らす。

「プレゼント」

「プレゼント?今日、誰かの誕生日だったっけ?」

「結婚三周年の記念日。あなたに渡すつもりだったの」

「梨花、ごめん......」

「気にしないで。お仕事忙しいもんね。忘れちゃうことだってあるよ」

梨花はいつものように、澄んだ瞳で彼を見つめ、手にした箱を差し出した。

「ちょうど半月後、あなたの誕生日でしょ?だからこれを。一真、お誕生日おめでとう」

それともう一つ、私からの祝いを。

離婚おめでとう。

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Comments (1)
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ring-riem -ring
ボロ雑巾て…ガキの語彙力で出てこないよな、普通。 母親がそう呼んでたの聞いてたんか…
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